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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
五話「修業と連休のさなかに」
138/1515

探しながらの

翌日、康太たちはそれぞれ割り振られた役割をこなすべく行動を開始していた。

文の作った朝食を平らげると早々に着替えてそれぞれの行動するべき場所へと移動を開始する。


まず車で最寄り駅まで移動し、真理はそこで降りてから近くにある支部に通じる教会へと向かうことにした。


今回関わっている魔術師を大まかながらに特定するために情報収集に向かったのである。これがあるかないかでこれから自分たちが楽になるかどうかが決定すると言ってもいい。それなり以上に重要な役回りだ。


そして康太たちはというと近くの駐車場に車を止めると街を特に目的もなくぶらぶらしていた。


いや特に目的もなくというのは正確ではない。実際には目的はあるのだ。


無防備に歩き回ることで相手に発見され、こちらに視線を向けさせるという目的がある。


現在康太は小百合と文と一緒に買い物をしながら町を歩いている。それこそはいる店や買うものに統一性などない。適当に入りたい店に入り、買いたい物を買っていくというまさにただのショッピング状態だ。そして康太は小百合と文の買い物に付き合って荷物持ちをしているだけの状態である。


パッと見この三人に何かしらの目的があるとは思えないだろう。いや買い物以上の目的があるとは見えないだろう。


だが実際は小百合も文も周囲に対して最大限の警戒を怠っていなかった。文は周囲に索敵用の魔術を発動し続け、小百合はその超人的な第六感を用いてどこかでこちらに視線を向けているものがいないかを確認し続けている。


もちろんゴールデンウィークという事もあって完全に視線をゼロにすることはできないらしいが、彼女曰く敵意の混じった視線は独特でわかりやすいのだという。


こういう人間離れしたところが小百合の強みだなと康太は荷物持ちをしながら重ね重ね感心してしまっていた。


実際今ほとんど何もしていないのは康太くらいのものである。索敵もできなければ超人的感覚も持ち合わせていない康太ができる事と言えば荷物持ちくらいのもの。文句を言うつもりはないがこの状況は非常に情けなくなってしまう。


自分にも他に何かできることがあるのではないかと思えてしまうのだ。もっとも次々と何かしらを購入していく二人の荷物をすべて自分がもっているために現時点で康太の荷物は両手にいっぱい抱え込まれているわけだが。


「あの・・・お二人さん・・・ちょっと買いすぎじゃないのか?」


「買いすぎって、私はちょっとした食べ物しか買ってないわよ?ほとんどは小百合さんのよ」


「なんだ?お前も何か買いたいのか?多少のものであれば奢ってやるぞ」


「いや・・・それは嬉しいですけどそうじゃないです・・・」


朝比奈との商談がうまくいって資金が潤沢にあるからと言ってこれは少々買いすぎなような気がするのだ。


服に小物に食べ物に家電に日用品等々、それこそ今買う必要ないものまで買っている感がある。


これ程物を買うことに何か意味があるのだろうか。もし仮に今この場で襲われたら康太は荷物を放り捨てて応戦しなければならない。


もっとも人目のある場所で魔術師が堂々と襲ってくる可能性はゼロに等しいのだがそのことは今は置いておこう。


「でも確かに随分買ったわね・・・小百合さん、そろそろ打ち止めにしてあげたほうがいいですよ?康太がつぶれそうです」


「なに?男だろうが、もっとしっかりしろ」


「いえその・・・重量的には問題ないんですけど乗せられるスペース的に限界です」


康太だって日々鍛えているのだ。多少の重量を支えられるだけの力は持ち合わせている。今問題なのはもう荷物を持ったり引っかけたりする場所が無くなりつつある点だ。これではいくら筋力的に問題がなくともこれ以上もつことができなくなってしまう。


ようやくその姿を見たのか、小百合は両手いっぱいに荷物を持った康太を見てあぁなるほどと小さくつぶやいて見せた。


康太のいうようにその両手にはたくさんの荷物が抱えられている。確かにこれ以上もたせるのは無理だろう。


「仕方がない一度車に戻るか。可能なら一度で済ませたかったんだがな・・・」


「あの師匠・・・こんなに買い物する必要ってありますか?探すだけなら・・・」


今の目的は買い物ではなくあくまで昨夜襲ってきた魔術師の活動圏を特定するためだ。


あの時襲われた場所など詳しく覚えていないうえ、あの魔術師の正確な活動範囲ではない可能性だってある。


こうしてターゲットにされていると思われる小百合が外に出ることであえて相手に見つかり行動を誘発させようとしているのだ。


つまり康太が入学時に行ったのと同じ行動である。所謂釣りに近い行動にここまでの買い物が必要なのか、それが康太にとっては疑問だった。


「ただ何もせず町にいてただぶらついているだけでは探してると公言しているようなものだ。相手に無駄に警戒されるくらいなら少しでも油断させた方がいいだろう?」


「・・・まぁ・・・それはそうですけど・・・」


ただ適当に何もせずに町を歩いているだけでは最悪不審者と間違われる可能性だってある。それなら家族連れあるいは友人同士という体で買い物でもしていた方が幾何か相手を油断させられるかもしれない。


意味のない行動かも知れないができることはとりあえずやっておく、それが小百合の行動原理だ。


それなりに理に適っている分康太は何も反論することができずにいた。


「でも案外反応してきませんね・・・何も引っかかりませんよ?」


ひとまず車の置いてある駐車場まで戻ってきた三人は康太が抱えていた荷物を車に積み込むことにしていた。


そんな中周囲の索敵を行っている文の言葉に小百合は小さく眉をひそめる。


「お前が今行っている索敵はどういうものだ?」


「私達の周囲一定距離にいる人間の魔力を知覚する魔術です。魔術師が入ってくれば一発でわかる代物なんですけど・・・」


大抵の魔術師は自分の中に貯蔵している魔力をマックスにしている状態で生活している。もし何かあってもすぐに魔術で対応できるようにしているのが魔術師だからでもある。


康太も小百合もそして文も同様に魔力は常に最大状態にして行動している。


今文が使っているような魔術は効果範囲もそこまで広いものではなく、数十メートル程度の範囲しか知覚できない代わりに魔力に関しては正確に感知できる。ある一定以上の魔力を持つものがこの範囲に入れば確実に察知できるというものだ。


もっとも展開している時間と範囲だけ魔力を消費するため文としては長時間多用したくない手の一つではあるが。


「そうか・・・それなら別の索敵方法に切り替えたほうがいいかもしれんぞ。すでにこちらは捕捉されている」


「え?」


「マジっすか?」


車に荷物を入れるために体を半分車内に突っ込んでいる康太が驚いた顔をしている。文も表情には出さないように努めているが多少驚いているようだった。


自分が今使っている魔術は比較的索敵範囲の狭い魔術だ。その為そこまで信用性があるとも思っていなかったが魔術でも索敵できないものを小百合がすでに知覚しているというのが驚きだった。


「何時頃から見られてるんですか?」


「気づいたのは服屋に行った時からだな・・・あのあたりから確認しようとしているんだが相手もうまく悟らせないようにしているな。方向まではまだわからん・・・」


全くままならないものだと言いながらも小百合はすでにある程度のあたりは付けているような感じだった。


意識がある特定の方向に向いているのを康太も文も感じ取っていた。もしかしたらただ買い物していただけではなくその視線の強弱を感じ取って入る店を決めていたのかもしれない。


ただ単に買い物をしていた訳ではないのだなと康太は感心してしまっていた。


「でもどうして索敵に引っかからないんでしょうか・・・?見える位置にいるはずなのに引っかからないなんて」


「その索敵は欠陥がある。体内の魔力を限りなく少なくすれば感知はできない。違うか?」


「それは・・・そうですけど・・・」


文が今使っているのは魔力を察知するための魔術だ。一定以上の魔力がなければ反応せずに索敵からは漏れることになる。


だが相手が魔術師である以上魔力を感知することに間違いはないと思っていた。魔力を常に最大に保つのが当然だからである。


だからこそ、今こうして魔術を使っての索敵をしているのだ。


「自分が喧嘩を売った奴が自分を探そうとしている。そんな中でわかりやすい看板を引っ提げて観察すると思うか?」


「・・・それは・・・」


文の考えは正しいものだ。魔術師である以上魔力を満タンにした状態にしておくのは半ば当然。そうでなければいざという時に対応できないのだから。


だがそれは平常時に限られる。今は状況が違うのだ。


先に手を出し、なおかつその相手が自分を探すような動きをしている中で自分が魔術師であるという事をわかりやすくしておく必要などない。


特に魔力を察知する魔術などは比較的索敵魔術の中では有名な方だ。相手に見つかりたくない状況では真っ先に警戒するべきものだというのは理解できる。


現実の状況は教科書通りにはいかないといういい見本だ。文は自分の経験の浅さを実感しながら僅かに眉をひそめていた。


「小百合さん、見られていると感じていてもその方向まではわからないんですね?」


「あぁ、ある一定の範囲に近づくと視線を感じるようになる。恐らく私たちの行動しているのが見えるような場所にいるんだろうな。少なくとも方角まではわからん」


「・・・わかりました、また視線を感じたら教えてください。そのあたりを索敵します」


先程までの魔力による索敵ではなく別の索敵方法に切り替えるつもりの様でその表情は先程以上に鋭いものになっていた。


やる気を出した、というよりこれ以上足を引っ張れないという気持ちの方が強いのだろう。


負けず嫌いの性格が幸いしていると思いたい。


変なところで暴走しなければよいのだが。


「やる気を出してくれるのはありがたいが、その顔は減点だ。ただの買い物に出ているものがする表情じゃないな」


「あ・・・すいません。こ・・・こうですか?」


「・・・まぁさっきよりはましだな」


可能な限り朗らかな笑みを浮かべようとしている文だが、先程までの真剣な表情がまだ完全に抜けきっていないのか複雑な表情になっている。


なんというかひきつった笑みだ。これでは妙な誤解を受けそうである。


「文、硬い硬い。顔怖いよ。もっとリラックスしたらどうだ?」


「・・・てか何であんたはそんなに堂々としてんのよ・・・近くに敵がいるかもしれないのに」


「だって俺荷物持ち以外にできることないもん」


康太の言いぐさは正しいものだった。どんなにあがいたところで荷物持ちをする以外にできることがないのだから緊張したところで意味がないのだ。


こういう時だけは康太が実は大物なのではないかと思える。それが正しいのかどうかは定かではないが。


誤字報告を五件分受けたので二回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

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