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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
三十一話「その有様」

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勧誘相手は

「というわけだ船越君。俺の部隊に入れ」


「・・・えー・・・いきなり何なんすか・・・」


後日、特にやることもなくなってしまった康太は文や倉敷と一緒に一年生魔術師である船越と佐々木両名を呼び出していた。


この二人は今協会でいろんな依頼をこなしながら実力をつけつつある。かつて康太と戦ったこともあるためなかなか胆力があるのは確認済みだ。


鍛えればそれなりのものにはなるだろうと考えたため声をかけたのである。


「あの、先輩。もうちょっと説明してほしいんですけど」


いつも通りいきなり呼び出して「というわけで」と話し始めた康太のというわけで論法に慣れていない佐々木は助け舟を文に求める。


この中で一番話が通じそうな相手であるために文に助けを求めるのは判断としては間違っていない。


「今度支部長の直轄部隊として康太を部隊長にした部隊を作るつもりなのよ。そこにあなたたちも入ってほしくて」


「支部長の直轄部隊!マジっすか!」


「マジだ。その初期メンバーの一人に君たちを選びたい」


思わぬ出世の糸口に船越はガッツポーズをしてしまう。だがその隣にいる佐々木は非常に微妙な表情をしていた。


おそらく嫌な予感を覚えているのだろう。その感性は非常に正しいといわざるを得ない。


「入ります入ります!支部長とダイレクトに話ができるなんてなかなかないっすよ!」


「待ちなさいって、話がうますぎるって。あの先輩・・・それ入るにあたって、何か条件とかがあるんですよね?」


さすがに何度も協会の依頼を受けてきているだけあって多少危険に対する嗅覚が身についてきたのだろう。


船越はまだそこまで至っていないようだが、佐々木は情報などを積極的に集める程度には慎重派の魔術師だ。この申し出があまりにも美味しいものであるために警戒してしまっているようである。


「条件・・・といっていいのかわからないけど、基本的にこの部隊は支部長が持てあましたり、専属魔術師じゃ解決できなかったり、表に出すのが面倒だったりする内容を引き受けるから、ものすごく面倒くさい案件とかかわることが多くなるわ。警察で言うと公安的な秘密部隊になるかもね」


「秘密部隊!ますますいいですね・・・!」


「じゃあ、それだけレベルが高い人が入るってことですよね?私たちが入れるとは思えないんですけど・・・」


船越と佐々木はまだまだ魔術師としては駆け出しの部類だ。師匠の下で修業をしながら簡単な依頼をこなす程度しかできていないために一人前というには程遠い。


だが主体的に魔術師として活動している時点で同世代の他の魔術師と比べると経験値の部分では頭一つ抜きん出ている。


「そのあたりは私たちが鍛えるわ。倉敷だって最初はただの精霊術師だったけど、私たちと一緒に行動して今や協会内の精霊術師のトップよ?」


「トップって言い方が正しいかどうかはわからないけどな。やってることは中間管理職だし」


実際に倉敷の戦闘能力を目にしていない船越と佐々木からすれば、それがどれくらいすごいことなのかはイメージできないだろう。


だが実際に戦ったことがある人間からすれば、康太たちと行動することの影響力について知ることができる。


とりあえず船越的には協会の中で支部長とのつながりを深められるということと、かつてのただの精霊術師が協会内でも高い位についていることが素直にすごいと思える内容であるらしい。


対して佐々木はそのようなうまいことがあるはずがないと疑いの視線を向けている。おそらく彼女がチームの中で頭脳担当をしているのだろう。とにかく警戒し、何か裏があるのではないかと考えているようだった。


「ぶっちゃけだ、お前たちを選んだのはただ単に俺らの後輩だったってだけ。あとはすでに上下関係ができてるから俺に逆らおうとは思わないだろ?」


「それは・・・まぁ・・・」


船越は康太の言葉に不満そうだったが、佐々木は首がとれるのではないかと思えるほどの勢いで首を縦に振っている。


少なくともこの二人は逆らうつもりはないだろう。


「支部長の案件を直接解決するってこともあって、信用できる人間しか集められない。その点お前らはまだひよっこだし、俺に逆らえないし、これから鍛えれば戦力にもなりそうだ。まずは下っ端として俺らについていって強くなっていけばいいんじゃね的な意味合いで誘ったんだよ」


「なんかものすごく雑な理由ですね」


「雑でも的確よ?実際二人が頑張ってるのはいろいろ調べさせてもらったもの。康太に負けてから少しずつ、それに小さな依頼ではあるけれど結構な数の依頼をこなしているように見えるし」


そう言いながら文はあらかじめ調べておいた船越達の依頼履歴を確認する。本来であればこのようなことは知ることができないのだが『勧誘予定の魔術師ですから』という大義名分を元に支部長に頼み込んで情報をもらったのである。


「これなんてそれなりにしっかりした依頼よ?魔術的な道具の運搬と引き渡し。しかも他の魔術師がそれを阻止しようとしてきたみたいじゃない?ちゃんと戦って依頼達成。大したものよ?」


「ちょ!なんでそんなこと知ってるんですか?」


「支部長と繋がりがあればこの程度調べられるわよ。私はあなたたち二人を評価してる。康太はたぶん楽だから引き入れようとしてる。倉敷は特になし。それが今のところあなたたちを誘った理由よ。別に断っても問題ないし、断ったからって何をすることもないわ。それは約束する」


文の言葉に船越と佐々木は顔を見合わせてどうするか考えだしていた。


作戦タイムと小さく手を挙げた佐々木に、康太たちはどうぞどうぞと相談することを促した。


「なぁ文、あの二人そんな依頼こなしてたのか?」


「えぇ、魔術師同士の小競り合いに巻き込まれた形ね。依頼主と協力してだけど、しっかりと相手を倒して道具の運搬を完遂してるわ」


「相手のレベルは?」


「そうね・・・どの程度っていえばいいのかしら・・・?土御門の二人よりは弱いと思うわ。ただ書面上だからどの程度かって言われても・・・」


文も調べたことによって船越達の相手がどの程度の強さを持った魔術師なのかを大まかには把握できている。


今までこなしてきた依頼の内容やどのような活動をしているかによって大雑把にではあるが相手の実力を測るくらいのことはできるが、あくまで大雑把でしかないのだ。


どの程度の実力を持っている程度の認識であるためにそれが正しいともいえなければ間違っているともいえない。


実際に会ってみればこの程度だといえるかもしれないがそこまで深堀して調べてはいなかったのだ。


「二人の協会からの評価はどの程度だ?」


「まだまだ下っ端レベルと言えなくもないけど、少しずつ依頼をこなして評価点は確実に上げてきてるわ。失敗らしい失敗もしていない、将来的にはいい魔術師になるんじゃないかしら?あくまで現状を見ての判断だけど」


「ん・・・仲間にしようとした考えは間違っていないということだな」


「そうね。あとは私たちの指導次第って感じかしら。ただあの子たちの師匠がどう反応するかじゃない?まだ独り立ちもしていない状態で部隊に入るってなると・・・」


「この学校で言うところの派閥みたいなもんだろ?特に気にしなくてもいいんじゃないのか?」


「支部長の直轄の部隊よ?いろいろと話をされても不思議じゃないと思うわ。あと、うちの先輩たちはどうするの?誘うの?」


三鳥高校の三年生魔術師。かつて康太が戦ってすでに倒しているが、彼らを部隊に誘うかどうかといわれると康太的には応えは否だ。


「あの人らは放っておいていいだろ」


「どうして?少なくとも船越君たちよりは実力はあるわよ?」


「俺が信用できん」


「根拠は?」


「勘」


「そう、それなら仕方ないわね」


康太は何となくだが三年生魔術師にきな臭さを感じていた。もっとも確証があるわけでも、何かをされたというわけでもなく、別に敵対したからといって何かを言うつもりもない。


問題なのは康太自身があの三年生たちをあまり信用できないと思っている点だ。単純に先入観の問題なのかもしれないが、この先入観は一朝一夕ではぬぐえないものがあるのだ。


文もそれを理解しているのか、康太の説明にもなっていない説明に何の反論もしなかった。


直接かかわったことのある倉敷からすればそれなりに思うところはあるだろう。そういうこともあって康太は彼らを部隊に引き入れたくなかったのだ。


「あの先輩、その部隊って、ひとまず何をするとか決まってるんですか?」


「何をする・・・支部長の依頼を受けるんだけど?」


「いえ、それってもうすぐにやるんですか?それこそ明日とか・・・」


「いやいや、まだ部隊を編成している段階だからそこまでいかない。というか今は協会そのものが結構ごたごたしてるからな。それが全部片付いて、ちゃんと部隊の編成とか準備とかが終わって、それから本格的に始まるって感じだ。たぶん実際に動き出すのは一年とか二年後とかになるんじゃないか?」


拠点づくりや人員の確保、指揮命令系統の確立に必要物資の調達。やらなければいけないことは山積みになっているというのにそれを後回しにして依頼だけ受けるというのは難しい。


何より康太の言う通り、協会のごたごたがまだ何も片付いていないというのにそのような話をすることはできない。


康太が声をかけているのは将来的な人員確保の第一歩だ。これらが実を結ぶにはまだ時間をかけなければならないだろう。


「じゃあ、私たちを誘ったのは、あくまでスカウト目的ってことですか?今じゃなくて、将来的に役に立ちそうだから・・・と」


「そういうことだ。少なくとも今日明日何かしてもらうってことはない。というかお前らじゃ今日明日何かしろって言われてもできないだろうからな。そのあたりは気長に待つさ」


康太の言葉は何も間違っていないのだが、実際に言われると多少思うところはあるのか船越と佐々木は複雑そうな表情になる。


「じゃあ先輩、俺らが部隊に入った後、部隊を抜けたいっていったら、どうするんすか?」


「どうするか・・・まぁ支部長から受けた依頼の詳細に関しては生涯秘匿してもらうこともあると思う。それは覚悟しろ。あと部隊で購入した装備品なども回収、まぁお前たちの専用の道具ならもっていってもいいけど」


「それだけですか?制裁とかは・・・?」


「そんなのいちいちしていられるか。去るもの追わずの精神だ。とはいえ支部長の直轄の部隊に入るんだ。出る時にはそれなりに制約を誓わされると思ってくれ。それがどんなものなのかはぶっちゃけ何も考えてない」


「まだこれからこういうのを作ろうっていうイメージしかない段階なのよ。正直に言えば人だけは集めておいてこれから一緒に作ろうって感じなの。だから今の段階でこうだろうとかこうじゃないとかは話してもあまり意味がないわ」


現時点でこのように考えていてもあとから変わる可能性もある。だが今入れば変えることはできる可能性がある。


その事実は二人にとっては大きな利点だった。


誤字報告を五件分受けたので二回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

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