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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
三十一話「その有様」

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真正面からの

そんな中、ローラローを追っていた魔術師の一人が裁判室の中に戻ってくる。


そして本部長に何かを言伝ると、小さく会釈をして再び出て行った。


本部長は何やら悩むようなそぶりをしてから康太の方を向く。


「ブライトビー、君に一つ依頼を出そう。ローラロー、並びにその一派と思われる魔術師を捕獲してきてほしい」


「・・・先ほど本部が排除するといっておきながら、支部の俺にそれを頼むのですか」


「これは君を封印指定にするか否かの判断も兼ねている。協会にとって有益であればよし、不利益をもたらすのであれば・・・ということだ」


「逃げられておいて偉そうに・・・」


「ビー、話は最後まで聞いてあげなさい」


「はい、すいません」


康太の悪態をたしなめると、康太は即座に頭を下げ黙る。康太を完璧にコントロールしているように見えるこのやり取りはさすが智代というほかない。


康太自身、小百合以外にここまで完璧に言い伏せられるとは思っていなかった。何と言えばいいのだろうか、逆らう気が起きないのである。


この人に逆らってはいけない。そういう本能的な何かが康太に警鐘を鳴らすのだ。


それは小百合に鍛えられたからこその直感かもしれない。小百合を通じて、智代の恐ろしさを心身に刻み込まれた康太からすれば、智代に逆らうという選択肢は最初から存在しなかった。


「ハール、ビーの言うことももっともでもあるわ。話の続きを」


「・・・ローラローは何者かの手引きによって協会から脱出。現在逃走中となっている。追跡を得意とするチームがすでに行動を開始している、潜伏場所を特定するのは時間の問題だろう」


何者か、つまり協会の本部の中にいた敵、ないしローラローを支援する人物が協力し、協会から逃げられるようにしたということだ。


ローラローはもともと人事を担当していた人物だ。そういった協力者を自分の周りに置くことは別段難しいことではない。


常に人員を適切に配置し、情報を得やすく、行動をとりやすくしていた可能性がある。


そういう意味では適任というべき位置にいた人物だ。


「ブライトビーは今回のローラロー、並びに敵対勢力の拿捕に協力してもらう。先ほども言ったが、これは君が封印指定になるか否かを決める依頼だ」


「協会にとって利益をもたらすか否か・・・というより協会にとって御しやすいか否か、ということかしら?」


「否定はしません。ですが今後魔術協会に所属し続けるのであれば、せめてこの程度のことはできる人間・・・いえ、存在であることを証明してほしい」


「ビーの今までの実績は知らないのかしら?いろいろとやって・・・やらかしているようだけれども」


「良くも悪くも彼の実績は強さを前に出したものが多い。無論彼の戦闘能力は知っている。だが問題解決能力に関しては疑問視するところ・・・そこでこの依頼だ」


ローラロー、並びにその仲間を捕まえてくる。簡単に言えばそういった依頼内容だが、康太が今までやってきた依頼の中にも似たようなものはあった。


それを本部長が知らないだけか、智代の言うようにただ御しやすいか否かを判断したいというだけの話か。


康太からすればいいように使われるのはあまり好ましくはない。そして智代も康太がそのようにこき使われるのは嫌なのだろう。目を細めて威圧感を強めながら口を開いた。


「確認しますけど、今回の依頼でビーが戦果を挙げれば、封印指定にはしないと約束するのね?」


「・・・彼に寿命がある限りは、約束しよう」


「あとからやはり封印指定にするかもう一度再確認するとか言って、こき使うようなことがあれば・・・」


「そのような真似はしない。そこまで落ちたつもりはない」


本部長の堂々とした声に、智代はゆっくりと目を閉じてから小さくため息をつく。

そして康太の背中に手を当ててゆっくりと力を込めた。


「ビー、今回だけでいいわ。ハールの言うことを聞いてあげなさい」


「・・・わかりました。ローラロー、並びにその一派を捕縛します。方法は、俺に任せてもらえるんですよね?」


「・・・任せよう。ただし必ず生かして捕らえるのが条件だ」


「それ以外の条件はない、と考えていいですね?」


康太の言葉が重くなる。生きてさえいればあとはどうでもいい。魔術師らしい言葉と考え方に何人かは背筋が寒くなる。


特に康太がやったことを詳しく知っている者からすれば、この言葉がどのような意味を持っているのかはよくわかる。


「ローラローの逃げた先まではそちらに頼みます。俺は、相手を倒して捕まえる準備をしますので」


「わかった。場所の選定は行おう・・・それまで派手な行動は慎むように」


「もともと俺はそこまで活動的な魔術師じゃないですよ。せいぜい引きこもって修業しています」


康太は確かに能動的に何かを行うようなタイプの魔術師ではない。これといって目的に近いものがないために大抵修業して日々を過ごしている。


本部には康太の実績程度しか知らされていないのか、康太の普段の生活態度までは本部長は知らないようである。















「随分と話が進みましたね」


康太は裁判所のような部屋を出た後、副本部長の部屋を訪れていた。


その場にはアリスの姿もある。智代や文、倉敷などは先に日本支部に戻ってもらっている。先にこの人物にだけは話しておかなければならなかった。


「進んだが・・・あれはそちらが望んだ通りの展開か?」


「いいえ、あの人が来るのは想定外でした。でもそのおかげで何人か余計に釣れたのは幸運でしたね」


「・・・ローラロー・・・彼女が裏切者だと、知っていたのだな?」


「・・・俺もそこまでしっかり覚えてませんけど、記録ではそうなっていますね」


康太が行った尋問によって得られた情報の中に、ローラローの情報はあった。康太は尋問、というか八つ当たりに夢中であったためにほとんど内容を覚えていなかったが、しっかりと協会の人間が記録を残していたためにその情報を目にできたのである。


「彼女が敵であるとわかった時点で、すぐに行動を起こすべきだったのではないか?そうすればこんな風に逃がすことも・・・」


「いいえ、少なくともこの情報は支部同士の情報網の中ではしっかりと共有されてます。支部の人間ですでに包囲網を作成しているでしょう」


各支部の支部長に話が通っていれば、すでに逃げた際の包囲網の準備はできているだろう。もちろん信頼できる人間だけを集めた状態であるために完璧とは言えないが、どこに逃げたのか、どれほどの勢力がいるのかという情報はすぐに上がってくると康太は考えていた。


本部が考えるほど支部は無能ではない。少なくとも、康太が従っている日本支部の支部長は有能だ。

面倒ごとに晒され続けたその実績は伊達ではない。


「結局他人任せか・・・そんなことで今回の依頼を解決できると?」


「別に俺一人でやれとは言われていませんしね。何より、俺にできないことを俺がやる必要もないです。俺ができないことは他の人が、他の人にできないことは別の人が、俺は俺ができることを、やりたいようにやるだけですよ」


やりたいようにやる。小百合の教えにして康太の中に深く刻み込まれた言葉と方針でもある。


自分にできることをやる。やりやすいように、やりたいように。単純なことだがこれは重要なことだ。

こと魔術師としての活動においてはこれほどの基本方針はないだろう。


「それで今まで何とかなっていたのだから、皮肉なものだな」


「俺の周りには優秀な人が多いですから。こちらとしてはありがたい限りですよ」


そう言いながら康太は笑う。傍らにいるアリスこそが最も優秀な魔術師だ。だが康太は彼女の力を頼ろうとはしない。


それならそれで構わないと、アリス自身も思っている。康太自身もそれでいいと考えている。

この二人の関係が今まで続いているのはそういうところが原因でもあるのかもしれないと副本部長は考えていた。


「それで、副本部長の狙いはどこですか?まだ俺を封印指定にしたいと思っているなら、もう一手か二手打つ必要があるでしょう?」


本部長が康太の封印指定への登録を取り下げる条件を出してきた以上、副本部長としてはそれに従わなければならない。


だが副本部長の考えとしては、康太は封印指定にするべきと思っているのだ。


康太が問題を解決すれば、康太は封印指定にならない可能性が高い。副本部長としてはそれは避けたいところなのだ。


「・・・こちらとしてできることは、君が解決するよりも早く私の手勢でローラローを捕まえるか・・・あるいは殺害することくらいだろうな・・・」


「でも殺すのは協会としても不利益がある。俺との競争をするしかないってことですね」


「そうなる。なんとも分の悪い賭けだ」


本部長と違い、副本部長は康太の実力をかなり正確に把握している。


今まで行ってきた依頼や人脈、そして行動能力に問題解決能力、そして戦闘能力。


これらを総合的に判断して、副本部長の手勢の魔術師たちが康太との競争に挑んだ時、勝てる見込みは限りなく低いであろうということは容易に想像できることだった。


副本部長に勝ち目があるとすれば、人脈をフル活用した人海戦術なのだが、裏切者がまだいる可能性を加味すると多くの人間に声をかけるのは逆効果となりかねない。


そうなると副本部長も自分の信頼できる魔術師に頼むしかなくなってくる。


少人数対少人数であるならば、間違いなく康太たちに軍配が上がると副本部長は考えていた。


事実そうなる可能性はかなり高い。特に相手が戦闘をする可能性を考えると、高い戦闘能力を有する康太たちがいる方が圧倒的に有利だ。


もちろん康太たちを囮にして本命を捕らえることも不可能ではないだろう。ただ、康太だって本気で挑むとなれば、途中で目標を横取りしようとする存在を排除してでも目標の確保に望む可能性もある。


結局のところ、康太を敵に回さずに立ち回るには康太たちが現場に到着するよりも早く活動を開始し、目標を確保するしかない。


そうなると人手が必要になるがその人手が足りない。


なんとももどかしい状況ではあるが、副本部長も手をこまねいているつもりはないようだった。


「私は私で、君を封印指定にするべく全力を尽くそう。君は君で頑張るといい」


「了解です。負けませんよ」


正々堂々と敵対宣言をしているというのに、康太はこの副本部長が嫌いになれなかった。


すがすがしい敵意に康太は笑みを浮かべながら支部へと戻る。忙しくなるぞと意気込みながら。


土曜日なので二回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

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