お呼び出し
「どうだった?さっきのドーム」
電撃の膜を解除した康太は立ち上がって先ほどの成果を確認する。自分ではそれを確認できないほどに深く集中していないと維持できないために、康太はアリスにそれを確認するしかなかった。
「なかなかのものだ。あれを通常状態でも発動できるようになれば、電撃に対してはほぼ無敵だな。問題はどの程度の出力の電撃までを取り込めるかだが、そのあたりも今後鍛えていけばいい」
康太の唯一の弱点となり得る電撃、それを防ぐ手段を見つけたのは大きかった。まだそれを発動するまでに必要な集中力が高いという欠点はあるが、それは今後の鍛錬で解消していくだろう。
「あとは・・・あの状態での訓練をかかさないようにすることだ」
「これだな?」
そういって康太は自らの体を変化させる。神化状態。その姿さえも変え、人ではなくなったことを強調する。
「そうだ。それがお前の、今の本当の姿だとすれば、その状態で戦うことこそがお前の本領になるだろう」
「これが本当の姿とか・・・なんか微妙なんだけど」
「仕方がないだろう。普段のお前の姿は人間の部分しか見せていなかった。電撃との同化状態は、神としての力の上澄みが出ていただけ・・・その姿こそがお前の本質なのだ。ミカが見抜いていた通りにな」
アリスの言う通り、神加は康太のこの姿をかなり初期から見抜いていた。康太が半神半人になってすぐにこの姿を見ていたのだ。
こんな姿をいきなり見せられては警戒してしまうのも無理もないかもしれない。慕っていた人物がこのような姿をいきなりしていたら何かあるのではないかと思って然るべきだ。
精霊たちから事情を聴いて、康太の気配が今までと違うとわかって、ようやく理解できたのだ。
「その姿でい続けろとは言わん。だが戦闘で本気になるときにその姿をするように心がけろ。慣れるまで時間がかかるかもしれんが、おそらくその姿こそお前の本気を出せる姿になる」
「そうなのか?なんかイメージできないんだけど・・・」
「いずれわかる。これは私の勘だが・・・人間の姿でいるよりも、その姿である方が楽になってくるはずだ。まだお前の人間としての感覚が追い付いていないだけで、いずれお前の感覚も、お前の力も、その姿に引っ張られていくだろう」
「そういうもんかなぁ・・・」
言葉だけの説明では康太は納得できていないようだった。いくらこの姿が康太の今の本当の姿だといわれても、康太自身は変わった自覚がないのだ。
そういう意味でもまだ人間のそれに引っ張られているといえなくもないのかもしれないが、今後慣れていくにつれて、変化するものもあるのかもしれない。だがそれがそこまで急激なものであるとは康太には思えなかった。
「まぁいきなりすべてを理解してすべてを把握できるようになるわけでもない。自覚症状は少しずつ出てくるだろう。時間はかかるかもしれんがの」
自覚症状、その言葉に康太は自分の姿をもう一度見る。
人ではなくなった姿。康太の視点からでは自分の体と足しか見ることはできないが、それでも十分すぎるほどに人ではなくなってしまっている。
これが自分の本当の姿と言われても実感はわかない。だがアリスの言うように、今までの同化状態がこの姿になるまでの上澄み、欠片の部分だったのであれば確かにこれが一番安定しているように見えなくもない。
問題なのは、人をやめたことによる弊害を康太自身が理解できていない点だ。
「なぁアリス、俺って人をやめたじゃん?」
「そうだな」
「普通に生活できてるじゃん?」
「そうだな」
「なんか問題あるのかな?」
「特には思いつかんな。コータ自身が問題を抱えていないのであればそれで問題はないと思うぞ?問題を発見できないというのは少々問題かもしれんが、そのあたりは見つかってから判断すればいいだけの話だ」
自分の体の問題を自分で気づくことができないというのはよくあることではある。通常の人間でも自分の体の不調にはなかなか気づけないものだ。
康太が普通の人間であれば別に気にするようなことでもないのかもしれないが、康太は人をやめ半分人ではなくなってしまった。
自覚症状のない不調が、存在そのものが危険になってしまうために早々に問題点を挙げていきたいのだが、そういったものが見つからないのが現状である。
「自覚症状も含め、まだまだ時間がかかるか・・・」
「コータが人をやめてからまだそんなに日が経っていないからな。そのあたりは仕方がないだろう。今後生活していくうえでわかるのではないか?そういうことは少しずつ分かっていけばいいだけのことだ」
アリスは意図的に今後があるという言い回しをしていた。康太に目的を持たせるという意味もあるが、康太が先を意識できるようにさせているのである。
康太がこの世界に未練をなくした時にどのようになるのかアリスも予想することができなかったからである。
この世から消えるのか、あるいは人間として生き続けられるのか。存在の維持というのは非常にあいまいだ。
それを維持させなければ、アリスは康太や文に顔向けができなくなってしまうと考えているのである。
「来たよ、ついに、本部の呼び出しだ」
康太は支部長に呼び出されていた。
本部の呼び出し。それが何を意味するところであるのか、康太はよく理解していた。
支部長の前にいるのは康太、文、倉敷、アリスの四人だ。
「ついに君の名前が封印指定に登録されるか否かの瀬戸際だよ。こっちもできる限りのことはしたけど・・・あんまりあてにしないでほしいかな」
「仕方ありませんよ。自分の行動の結果ですから」
こればかりは運の要素も強かったとはいえ、康太の行いが巡り巡ってこのようなことになっているのだから、支部長に対して文句を言うのはお門違いだ。
康太もそのあたりは理解しているために、支部長に無理を言うつもりは毛頭なかった。
「本部へは俺とアリスで行きます。万が一のことを考えてベルとトゥトゥには控えていてもらいます。何かあったら連絡しますよ」
「あれ?クラリスは?」
「師匠が来ると思ってるんですか?」
「ごめん、そうだった、そうだったよ・・・ごめんね本当に」
本来であれば弟子の進退にもかかわる内容であるために師匠である小百合が同席するべき案件なのだろうが、小百合はそういったことに関しては完全に無関心を決め込んでいる。
というよりただ単に面倒くさいというのが本音なのだろう。本部に行くのが面倒なのか、弟子のそういったことにかかわるのが面倒なのかは不明だが。
「じゃあ・・・その・・・とりあえずクラリスには事後報告って形になるのかな?」
「そうなりますね。というか師匠の場合報告してもあんまり気にしないでしょうけど」
「うん・・・そうだろうね・・・ところで・・・君の言う万が一の時っていうのは」
「本部がその場で俺を殺そうとしたときの話です」
康太の想定に支部長は息をのむ。封印指定になるというのはそういうことだ。封印指定に登録されたものは存在を抹消される。
存在そのものが魔術の露見や世界の存続を脅かすもの、それが封印指定に登録される条件の一つだ。
それらを満たしている可能性がある以上、康太の存在を消そうと本部が動く可能性がある。
「一応、本部に行くということもあって俺は装備はほとんどもっていきません。もっていくとしても常用の分解済みの槍と、ウィルくらいです」
そういって康太は外套に擬態させているウィルで鎧を形成する。いつもの戦闘状態の康太の姿を見て、支部長はどうしたものかと悩む。
「さすがにいきなりその姿ではいかないんだろう?」
「えぇ、まずは外套の状態で行きますが・・・万が一相手が攻撃してきたら対応します。そのあたりはご理解いただけたらと」
康太は本気だ。仮に本部が攻撃を仕掛けてきたらそれに対処する。本部を壊滅させるのかどうかはさておいて、少なくとも抵抗はするつもりだった。
「・・・君たちはそれでいいのかい?何も君たちまで本部を敵に回す必要はないんだよ?アリシア・メリノスと違って君たち二人は本部に目をつけられていないんだし」
アリスと違い、文と倉敷は支部長の言うように本部に目をつけられているわけではないため、本部を敵に回すだけの理由はない。
だが、文の意志は固かった。
「こいつを敵に回すのであれば私も同時に敵に回すと思ってください。私はこいつを守ります」
「さすがに本部を敵に回すのはきついっすけど、まぁ逃がすくらいはしてやりますよ」
康太との行動は常に一緒といっても過言ではない文に加え、倉敷も康太の味方をするつもりのようだった。
本部相手に逃がす程度のことはと言ってのける倉敷に頼もしさを感じながら、康太は薄く笑みを浮かべる。
「まぁ、派手に暴れて逃げるくらいはして見せますよ。その時は支部長に迷惑をかけるかもしれませんが」
「安心せよ。私がいる限りこやつらには指一本触れさせん。支部長はドンと構えていればよい。我々の上に立つのだからこの程度の修羅場は超えてもらわんとな。いや、すでにもうこの程度の修羅場は超えておるだろう?」
「否定したいところだけど、うん、確かにいろいろあったからね。アリシア・メリノス、僕が言えたことじゃないけど彼らを頼むよ。君たちも、無事に帰ってきてほしい」
「了解しました」
「善処はしよう」
支部長の申し訳なさそうな声に康太とアリスは笑いながら答える。最悪本部を敵に回す可能性もあるというのにその態度は堂々としたものだ。
その度胸は素晴らしいなと思いながらも、支部長はため息をついてしまっていた。
「ライリーベル、トゥトゥエルも気を付けてくれ。君たちが人質になるっていう可能性もあるからね?」
「気をつけます。最悪全力出して逃げますよ」
「右に同じく。本部を水没させる勢いで逃げ出しますよ」
「・・・あんまり被害は出さないようにね」
心配するのがこの二人のことではなく被害のことになるかもしれないなと支部長は目を細める。
康太には劣るものの、この二人の戦闘能力も並ではない。本部の人間に対してどれほど対応できるのかは不明だが、逃げるくらいのことはできるだろう。
「とりあえずうちの師匠やサリーさんとかにメール送っておくわよ。一応ね」
「おう、もし万が一本部を敵に回したらごめんなさいって書いておいてくれ。その時は巻き込んじゃうかもしれないからな」
「恐ろしいことをサラッと言わないでくれるかな?頼むから無事に戻ってきてね!」
支部長の悲痛な叫びを聞きながら、康太たちは本部に向かうべく歩みを進めていた。
土曜日なので二回分投稿
これからもお楽しみいただければ幸いです




