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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
三十一話「その有様」

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本音は結構

「本部に?」


「はい、近々行くことになりそうですね。師匠も来ます?」


康太は小百合といつも通りに修業をしながら事の顛末を大まかにではあるが話していた。


小百合に詳しく話してもあまり意味がないのに加え、小百合自身あまり興味がないだろうと考えて本当に大雑把にしか話していない。


具体的には封印指定になるかもしれないということと、その協議を本部で行うということだ。


「なんで私が行かなければいけないんだ。子供じゃあるまいし一人で行けるだろう」


「ですよね、そういうと思ってました」


小百合のことだからこういう反応をするだろうなということはわかっていたが、やっぱりそうですよねと康太的には少し残念だった。


「ていうか師匠、弟子が魔術師として生きていけるかどうかの瀬戸際なのになんでそんなに無関心なんですか」


「馬鹿を言うな。封印指定になる程度で魔術師の活動ができなくなるほど軟弱に鍛えたつもりはない。お前なら封印指定になろうが問題なく活動するだろう?」


小百合の言葉に康太は全く反論ができなかった。確かに封印指定になろうとならなかろうと、康太は今まで通りの生活を送るつもりだった。


それこそ本部が敵に回っても気にしないつもりだったのだ。小百合の言っていることは非常に正しいのだが、素直にその通りですといいたくなかった。


「でも一応弟子の危機なんですよ?もうちょっとこう・・・師匠としてなんかするとかないんですか?」


「なんで私がそんなことを」


「一応師匠は俺の師匠ですよね?それくらいしてくれてもいいんじゃないんですかね?」


康太は何も間違ったことは言っていないはずなのに、なぜか康太の方が間違ったことを言っているかのような錯覚を受けてしまうから不思議である。


小百合が言っていることの方が正しく感じられるのは間違いなく小百合の元々の性格が原因なのだろうが、ここで折れたら小百合の師匠としての自覚をさらになくさせることにつながりかねないなと康太は徹底抗戦の構えをとっていた。


「そもそも、私が出たところで話がややこしくなるだけだぞ。少なくとも間違いなく面倒な方向に話が進む。そのくらいわかるだろう」


「そりゃそうですけど、それでも師匠として果たすべき役割とでも言いましょうか、そのあたりがあるんじゃないですかね」


康太はそういいながら小百合に拳を振るう。準備運動代わりに話しながらの組手も簡単にできるようになって来たのだが、やはりまだ小百合に一撃を入れることはできていない。一瞬で背後に回り込んでも攻撃を読まれるというのにどのように当てればいいのかと康太は疑問に思っていた。


康太の拳を軽く受け流しながら、小百合は目を細める。


「師匠としての役割は常に果たしている。お前たちを強くすること。それこそが私が師匠としてやるべきことだ」


「それ以外にもまだあると思うんですけど」


「何があるというんだ。私を超えることができない不出来な弟子たちを指導する以上にやらなければならないことなどあるものか」


「その弟子が魔術師として結構やばい状態になってるんですがそれはいいんですか?」


「それはそれだ。お前が自分でまきこまれたことに私が首を突っ込んでどうする。子供の喧嘩に親が出てくるようなものだ。自分の尻は自分で拭け」


「・・・師匠が正論言ってくると正論だとわかっててもすごくむかつく!」


康太の渾身の蹴りを軽くよけながら小百合は康太の体めがけてカウンターの要領で拳をめり込ませる。


康太の腹に痛みが走るが、康太は意に介さずにその腕をつかんで体ごと回転させて再び回転蹴りを放つ。


「私だってたまには正論を吐くことだってある。たまにはな」


「普段が無茶苦茶なことを言ってる自覚はあるんですね。なおのことたちが悪いですよ」


回転蹴りを受け流しながら小百合は康太の体を投げる。空中に投げ出された康太はすぐに態勢を整えて綺麗に、そして静かに着地して見せる。


「それにな、お前がやって、お前が達成して、お前が苦労して、そうやってお前は成長していくんだ。いちいち誰かの助けを借りていてはお前のためにならん」


「・・・本音は?」


「面倒くさい」


建前でいくら良いことを言ったところでそれを台無しにする本音の一言に康太は呆れてしまう。


ここで本音を隠さないのが小百合らしい、隠すという行為そのものも面倒くさいのだろう。


「お願いですから神加に対してはもう少し優しくしてあげてくださいね」


「今でも十分優しいだろうが。お前たちは私を勘違いしているぞ」


「どこに勘違いする要素があったのか教えてほしいところではありますけど・・・まぁいいです。本部に行ったら俺は帰ってこないかもしれないんで、そこだけは言っておきます」


「お前が帰ってこなかったら本部が消滅するだけのことだ」


「・・・敵討ちくらいはしてくれるんですね」


「当たり前だ。弟子のために立ち上がらない師匠はいない」


「・・・本音は?」


「お前を口実にして本部を潰せるから願ったりかなったりだ」


本当に聞きたくない本音だったなと康太は大きくため息をついてしまう。


この人は一体どこまで本気で言っているのかわからないから困ると、姿勢を低く、殺意を込めながら拳を振るう。


当然のように避けられる拳を振るいながら、康太は絶対一発ぶん殴ってやると心に決めていた。


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