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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
三十一話「その有様」

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大人の会話

「ほほう、康太と文がそんなことになっているとは」


「そうなのだ。なかなかどうしてあの二人も進展が早い。いや、ようやくというべきなのかな」


アリスはちょっとした用事を片づけに東京に寄ったついでに奏のもとを訪れていた。堂々と正面のロビーから社長室まで正規の手続きをとって入ってきたとき、受付の女性が金髪外人の幼女が社長室を訪れるという状況にさすがに違和感を持ったかもしれないが、かつて康太たちと一緒に何度か訪れたこともあって引き留められるようなことはなかった。


アリスは奏の仕事を軽く手伝ってやりながら康太たちの近況を話す。本人たちはそのようなことを言うことはないだろうと考え、アリスがこうやって定期的に奏に情報を流しているのだ。


「あの子たちの子供ができるのも遠い日のことではなさそうだな。その時は私がいろいろと世話をしてやるか」


「ふふ、悪いが彼奴等の第一子は、まぁ魔術の素質があったらの話だが、私の弟子にすることは確約済みだ。あの二人の子だ、きっと良い魔術師になる」


「手が早いじゃないか。随分とあの二人を気に入っていると見える」


「・・・まぁ、私としても、間接的にではあるがいろいろと迷惑をかけてしまっているからな。目をかけるなというほうが無理な話だ」


奏はその言葉に迷惑をかけられているの間違いではないだろうかと一瞬思ったが、アリスのことだから何かしらあるのだろうなとそれ以上突っ込むようなことはしなかった。


書類に目を通しながらわずかにほほ笑む。康太たちのことを気にかけてくれているというのは素直に嬉しく、またありがたいことだ。


「ところでアリス、康太と文の子ができるのは非常にうれしいことではあるのだが、二人の子に康太の性質が遺伝するということはあり得るのか?」


奏も一応康太が人間ではなくなったということは聞かされている。詳細を理解しているわけではないため、康太が人間とは別の存在、精霊に近くなったという認識を持っていた。


そのため康太と文の間にできる子が普通の人間でいられるのかどうかという疑問を抱いたのである。


「ふむ・・・一応康太の精子を調べた限りでは普通の子ができる可能性が高いと思うが・・・正直百パーセント人間の子が生まれるという保証はない」


「・・・精子と卵子が人間のものならば生まれる子も人間なのでは?」


「単なる受精という意味ではそうなるだろう。だが人間の性交という行為の中で、康太が無意識のうちに何らかの干渉を行わないとも限らん。本人の望む望まないにかかわらずな」


「なるほど・・・人ではなくなっているからこそ、物理的以外の干渉も可能かもしれない・・・そういうことか」


「そうだ。さすがにあの二人の情事を覗き見するのは気が引ける。こればかりは神に祈るほかないな」


「・・・神に祈るような性格でもないだろうに」


「まぁな。私は宗教的な神など信じてはいない。だが・・・こういう時ばかりは祈るほかないだろう。何なら仏でも悪魔でも構わんのだがな」


アリスは生まれた年代や国が宗教が根強く存在するところであったにもかかわらず、宗教的な神の存在を全くと言っていいほど信じていない。


魔術師は一種の科学者のようなものだ。魔術でできることできないこと、科学でできることできないことを正確に理解し、術を開発し実行に移す。


そういう側面を持つ魔術師として長く生きてきた彼女が、生まれや幼少時に培った常識を捨てる程度には多くの経験をしたというのも不思議な話ではない。


「まぁ、生まれる子供が人間であろうとなかろうと、魔術師の素質があろうとなかろうと、私はあれの子をある程度面倒見てやるつもりだ」


「幸彦が聞いたら喜ぶだろうよ。あいつももう少し、あとほんの数年長生きしてくれればそれを見れたものを」


「そればかりは仕方がない。ユキヒコは望んでそれをするような人間だったんだ。男が決めた覚悟を、後から否定したところで何も変わらん」


「わかっている・・・わかっているのだがな・・・やはり、もう少し生きていてほしかったよ」


葬式の時などには見せない、見せないように努めていた奏のほんのわずかな弱音と本音にアリスは目を細めていた。


あの場では気丈に振る舞っていた。周りには康太や小百合、他の魔術師もいた。もしこれであの場にいたのが師匠である智代だけならば、奏ももう少し弱音を吐けたのだろう。


今この場にいるのが全人類の年長者であるアリスだからこそ、奏はほんのわずかな本音を吐き出すことができているのだ。


アリスもそれを止めるつもりはなく、受けて止めてやるつもりだった。


「それも含めてあの男だったのだろうよ・・・そう思うのもわかるがな・・・あれが死んで、コータもずいぶんと落ち込んでいた」


「康太は幸彦になついていたからな・・・幸彦もいろいろと教えてやっていたようだし。あいつは弟子を持たなかったからな・・・そういう意味で、康太のことを弟子のように思っていたのだろう」


幸彦はなぜか弟子を取らなかった。奏や小百合がそれぞれ弟子をとっていたのに対し、幸彦は一切の弟子をとることをしなかった。


そういう出会いに恵まれなかったというだけの話かもしれないが、どこか第三者を遠ざけるようなきらいもあった。


とはいえ、その行動そのものが善意にあふれていたからこそ、多くの者に悼まれたのだ。そういう意味では幸彦らしいといえなくもないかもしれない。


「時にカナデ、コータが封印指定になりそうになっているという話があるのだが・・・そのあたりは知っているか?」


「聞いたことがないな。いやそうか・・・人ではなくなってしまったのであれば・・・そういうこともあるかもしれんか」


アリスの言葉に奏は悩むように口元に手を当てる。目の前にいるアリスも一応は封印指定なのだ。


人ならざる者になってしまったのであれば、同じように封印指定になってしまうのもうなずける話である。


とはいえ身内を簡単に封印指定にするわけにもいかない。何とかしてやれないかと奏は悩むが、今のところ良い案は浮かばなかった。


「それはもう確定的なのか?」


「一応コータはそうなってしまうだろうとあきらめてはいるようだが、打てる手は打っている。副本部長と掛け合ってそうならない話の流れ自体は作ってある」


「ほう、なかなか手際がいいな。なるほど・・・であれば・・・いや待て、そういう流れを作るのはいいが、副本部長がそれを了承したのか?」


「そのあたりは少し事情があってな、単なるお願いではないということだ」


そういってアリスは副本部長と康太との交渉の内容を大雑把にではあるが奏に伝える。奏は今の本部の状況や思惑を利用した康太の交渉術に舌を巻きながら何度もうなずき感心している様子だった。


「なるほど、あの子は本当に小百合の弟子かを疑うほどにそういった交渉や立ち回りがうまいな・・・真理もそうだったが・・・案外小百合は人を指導する才能があるのかもしれないな」


成熟しつつある弟子二人が二人ともそういった立ち回りがうまくなっているという事実に奏は小百合の評価を少し改めていた。


本人の素行や技術的にはまだまだ至らぬところがあると思っていたが、弟子の指導という一点に関しては自分以上のものがあるのかもしれないと奏は考え始める。


将来的に神加も同じように優秀な人材になってくれるのだろうかと奏は期待していた。もともと才能に恵まれた神加だ。これから小百合の指導を受ければもっともっと良い魔術師になるだろうと楽観視してしまっている。


良い面だけを見れば小百合は確かに良い指導者だろう。だが実際に指導を受けている人間からすれば悪い面が目立ちすぎていて良い面がわかりにくいという欠点を抱えている。


それを無視して良い師匠といえるのかどうかは正直微妙なところである。


「サユリもなかなかに問題行動が目立つが、お前からしてサユリの技量はどの程度のものなのだ?破壊に関しては確かに高い技術を持っているが」


「・・・あの子は破壊にのみ精通した技術を有している。師匠の方針でもあり、あの子の起源が原因でもあるが・・・あれは、師匠だけではなく、他の魔術師からも破壊の技術を継承している」


「そうなのか?てっきりトモヨの魔術だけを継いでいるものだと」


「私がそうだ。私は師匠の魔術や技術をすべて習得した。だが小百合や幸彦は師匠がその性質や才能に応じて、他の魔術師にも何度か指導を頼んでいたことがある。春奈の師匠などもその一人だ」


「なるほど、今のコータたちがお前たちにいろいろと教わっているようなものか」


康太も小百合だけではなく奏や幸彦、春奈たちから魔術の指導をされている。かつての小百合も同じように師匠以外の魔術師から指導を受けたのだろう。


それ故に、小百合の破壊の技術は卓越したものがある。ありとあらゆる破壊のそれを身に着けているのだから。


「小百合の技術は破壊に精通したものだ。破壊と一言に言っても戦闘ばかりに使われるものではないが・・・あの子は昔から面倒を引き寄せていたということもあって、高い戦闘能力を有している」


「まぁ、それを知らん者の方が少ないだろうな」


「まったく、もう少しうまくやれと、昔から言っているというのにあの子は言うことを聞かない。そして、戦闘能力で言えば・・・やり方によっては私よりも上だ」


「やり方・・・とは?」


「なりふり構わずということだ。周りの被害も魔術の露呈も、何もかもを無視して戦闘だけにその意識を費やした時、あの子に勝てる魔術師は・・・正直いるかどうかといったところか」


「お前でも・・・そしてトモヨでも無理か」


「全盛期の師匠や私ならば勝つことはできるかもしれない。だが、私たちは二人とも前線を退いて長い。もうあの子に勝つほどの実力はないだろう」


智代や奏と違い、小百合は今でもなお実戦に出続けている。その差は大きい。現役を引退したものでも魔術的な技量は健在であろうが、命を取り合う場では魔術の技量だけではなくほかの技量も求められる。


そういったものが欠如した状態では勝つものも勝てないだろう。


「今あの子に勝つことができるのは・・・そうだな・・・以前私が苦戦した本部の魔術師・・・今どうなっているのかは知らんが・・・そいつと、あの子の弟子二人だろうか」


「マリとコータか」


「二人がかりならば、おそらく小百合に勝てる。真理はすでに小百合に近い実力を持っている。康太も、未だ小百合には劣るが、二人で連携すれば小百合には勝てる可能性は高い」


「・・・あの二人で、二人がかりでようやくか・・・しかもまだ確実ではないと」


「そこに文が加われば確実なものにできるだろう。あの子は優秀だ。康太と組んでいるというだけだって、フォローがうまい。かつての春奈を彷彿とさせるな」


かつて小百合と行動を共にしていた春奈と、今の文は非常に似通っているのだという。無理、無茶な行動をする小百合や康太に合わせるというのは並大抵のものではない。


高い才能や技術は味方を動きやすくすることに特化しているといってもいい。もちろんその処理能力を自分の戦闘に使えばなおのこと高い効果を発揮する。


日曜日なので二回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

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