本部の考え
康太が魔術協会の本部に呼び出しを受けるまで、そう時間はかからなかった。
最初に康太を呼び出したのは副本部長だった。康太とある程度交流を持っていた彼が初めに康太を呼び出したのにはいくつかわけがある。
一つは噂の真偽を直接本人に確かめること。一つは今回本部抜きにして支部だけで敵拠点の攻略を行ったことに対する真意の確認。そしてもう一つは本部長からの命令であるからである。
君、彼と交流があったよね?ちょっと聞き取りしてくれない?的な気軽な提案によって副本部長は康太を呼び出さざるを得なくなったのである。
「私の眉間から皺がとれない理由について、君ならば少しは察してくれると思いたいが、そのあたりはどうかね?」
「俺にそれを言われても困るんですけど。愚痴を言いたいだけなら帰っていいですか?」
康太の言葉を常に翻訳し続けるアリス。この場に二人を呼ぶことがどれほど副本部長にとってストレスになるかほとんどの者は理解していないだろう。
戦闘能力が無駄に高く、しかもいろいろ面倒な提案をしてくるが有能な康太。
存在そのものが危険で何をするかわからず、何ができるかもわからない。危険そのもののようなアリス。
この二人が同じ部屋に同時に存在すると思うと副本部長はため息しか出てこなかった。
「本題に入ろう。まずは昨今支部を始め本部でも流れ始めている噂についてだ。君が人ならざる者になったという、半ば妄言のような噂だが、その件について君から聞きたい。実際のところはどうなのか」
本来であれば、もっと回りくどい言い方や聞き方をするのだろうが、副本部長も康太の性格を大まかながら把握しているために、完全に腹を割って話すつもりのようだった。
無駄な議論や表現を使わなくていい分楽なのだが、その分返ってくる答えが端的になるため、少々恐ろしくもある。
「事実ですよ」
「・・・すまない、もう一度頼めるか?君は人ならざる者になったのか?」
「そうです。正確には半分人間半分神様的なものになったらしいです」
そういいながら康太は自らの体を電撃と同化させる。
副本部長は光り輝く康太の姿を見て目を丸くし、索敵してそれが魔術によるものではないかと調べ始める。だが調べれば調べるほどに魔術ではないという確証を得てしまったのか、椅子に深く座り込むと妙な声をだしながら額に手を当ててため息をついてしまっている。
小さく『おぉ神よ』などと聞こえてきているが、康太からすれば祈ったところで何も変わらないのだから現実を見てほしいといいたいところだ。
だが副本部長は全く別のところを嘆いているらしい。
「確認だが、君のそれは・・・例の組織を追っていた時になったのか?それとも自発的な実験の結果か?」
「前者です。組織を追ってるときにしくじりました」
「・・・ということは・・・情報で上がってきた星を変質させるというものは本気だったのか・・・何とバカバカしく恐ろしいことをやろうとしているんだ・・・!」
副本部長は康太の噂と一緒に上がってきた情報に記されていた星の変質という敵組織の目的が事実としてあり得るのかどうかも一緒に確認したかったらしい。
康太が人ならざる者に変質していることから、星でもそういったことがあり得るのではないかと考えているようだった。
「アリシア・メリノス、あなたの見解を聞こう。星規模で彼のように存在を変質させることは可能だと思うか?」
「事実目の前にそうなっている人間が一人いるんだ。規模が大きくなる程度であれば同じことが起きないとは言い切れんな」
「・・・全く面倒な・・・だが・・・いや、ここでは相手の思惑を正確に認識できたことを喜ぶべきだろう」
副本部長も支部長並みに面倒ごとに慣れているのか、即座に今回の面倒ごとのメリットを探し出して精神を安定させようとしていた。
どこの組織のトップもこれくらい精神が強くないと成り立たないのだろうなと康太は副本部長を見ながらそう思う。
支部長と副本部長は結構仲良くやれるのではないかと思えてしまうが、そのあたりは置いておくことにする。
「この体についてはまだ調べている最中ですが、下手すれば封印指定に登録されるのではないかと思っています」
「・・・それは・・・そうだろうな。あり得ない話ではない」
「そこでなんですけど、副本部長の方で何とか他の幹部連中に圧力をかけてくれませんか?俺を封印指定にしない方向に進めるために」
「・・・なぜ私がそのようなことを。私はむしろ君を積極的に封印指定にするべきだと考えているんだが」
アリスほどではないにせよ康太もかなり危険な存在だ。戦闘能力という意味でもそうだし、何より性格という意味でもアリスよりも危険性は高い。
康太も何も利点なしにこのような話を持ち掛けたのではない。自分のためというのもあるがもう一つの話につなげられる話である。
「一つは俺自身のため。封印指定になって狙われるのはいやっていうのと、もう一つは、本部のためになることですよ」
「・・・具体的には?」
「そちらでも大まかながら把握していると思いますけど、本部の中の裏切り者をあぶりだすのが目的です」
康太の言葉に副本部長は仮面の奥の目を細め、康太の真意を探ろうとしていた。だが同時に康太が回りくどい言い回しなどをするような性格ではないのを思い出して小さくため息をつく。
「本部の中に裏切者がいるというのは・・・一応は把握していたが・・・そちらはどの程度把握している?」
「一応どこの誰なのか、数人は確認できています」
「それを我々に伝えていないのは・・・敵がまだいる可能性を考えているからか。私にそれを伝えたのは問題はないのか?」
「大丈夫だと思いますよ」
「・・・疑われていないということなのか?」
「いいえ、そういうわけじゃないんです。ただの俺の勘です」
康太が副本部長を大丈夫だと思ったことに関して、確固たる証拠があるわけではない。本当に何となくでしかないが、この人は大丈夫だろうと康太が感じたのだ。
先ほど話をしていた時もそうだが、副本部長は協会側の視点で物事を考えている。反応一つ一つが協会のことを考えている、支部長に似た雰囲気を感じたのだ。
これでこの人物が裏切者だったのなら、康太は自分の人を見る目がなかったと思うしかない。
勘とは言え、とりあえず疑われていないという事実に副本部長は複雑な表情をしながらまぁいいと話を先に進めるようだった。
「だが、何故、君を封印指定にさせないことが裏切者をあぶりだすことに通じる?」
「理由は二つ、俺がやつらにとっての実験の成功体であること。もしこれが封印指定になり、封印された場合干渉するのが難しくなるでしょう。あと一つは、あくまで圧力をかけてほしいのであって、別に封印指定になるのを絶対に阻止しなくてもいいんです」
「・・・封印指定になるというのはある意味魔術師にとっての死に近いのだが・・・?」
「アリスも封印指定ですからあんまり気にしないですよ。俺がやってほしいのは、あくまで副本部長が俺を封印指定にするべきではないとアピールすることです。副本部長的に俺を何度か使ったことがありますから、そういうのを理由にしてくれればいいですよ」
「・・・その発言をした後の本部の魔術師の動きを観察して裏切者をあぶりだす・・・そういうことか?」
「話が早くて助かります。そういうことです」
康太という敵組織にとっての成功体である康太が封印指定になるかどうか、これは敵組織にとってもかなり大きな問題であると思われる。
であれば康太の封印指定の事柄に関しては向こうも多少なりとも反応すると考えたのである。
康太が人ならざる者になったというのは、本部に上がる程度には支部内でも噂になっている。
ならばそれを逆手にとって康太が敵組織の実験を阻止しようとして人ならざる者になってしまったと公表し、封印指定にするかどうかを議論してもらい、その場で副本部長が意図的にそういった発言をすることでまだ名前が判明していない他のスパイをあぶりだせないかと考えたのだ。
「確かに、不可能ではないだろう。だが容易でもない。何より相手の思惑もはっきりしていないのだぞ?君を封印指定にすることが相手の本意だった場合は?どのような反応をするかもわからないというのに」
「本部の人間がどういう人間なのかは俺もわかりませんが、そのあたりは副本部長や本部の人間の方が詳しいでしょう?ならそこら辺の判断はそちらでしてください。俺はあくまであぶりだせればいいな程度にしか考えていませんから。どっちにしろ封印指定になるかどうかの議論がされるのは確定でしょうし」
人ではなくなってしまった以上、康太が封印指定になるかどうかはいずれ議論しなければいけないことだ。
それならば副本部長が封印指定にならないようにと意見させるように誘導して、ついでにスパイもあぶりだせればいいなと、一石二鳥の手を取ることにしたのだ。
演技かどうかはさておいて、副本部長にそういった発言をさせられるのは大きい。康太の今後にも大きくかかわってくるため、やっておいて損はないのだ。
「・・・理由はわかった。だが・・・重ねて言うが、私は君のことを封印指定にするべきだと思っている」
「そのあたりは好きにしてください。俺は今まで通りに行動するだけです。何か依頼があれば受けるくらいはしますよ?本部に足を運ぶ回数はすごく少なくなるでしょうけど」
「・・・君自身が殺されるという不安はないのか?君が死ねばそれで話は済む」
「俺自身に戦いを挑むならばどうぞご自由に。ただし一つだけ忠告しておきます」
康太は先ほどまでの温和な雰囲気を一変させ、突き刺すような殺気を副本部長に向けて放つ。
「俺の身内に手を出したら、その時は覚悟しておいてください。その時は本部が滅びる時です」
「・・・本部を敵に回すか?」
「俺自身は敵を作るつもりはありませんよ。敵が勝手にこっちに手を出すだけです。俺から先に手を出すことはありません」
殺気を消して康太はゆっくりとため息をつく。
話をしに来たのにこんな殺気を出す必要もない。身内に手を出されるようであればその時はもう仕方がない。
アリスと一緒に本部を敵に回すだけの話だ。
そうすることも厭わない、康太にはそれだけの覚悟があった。
誤字報告を五件分受けたので二回分投稿
これからもお楽しみいただければ幸いです




