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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
五話「修業と連休のさなかに」
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魔術師の闇

「なるほどねぇ・・・確かに面倒そうな内容だわ。直接見てないけどすごくむかつく状況ね」


「まぁそれはいいんだけどな・・・悪いな、多分師匠は止められないから」


「もういいわよ、そのあたりは諦めてるから問題なしだわ」


文としてもこの場にいる以上巻き込まれることは避けられないことを理解しているのだろう。それに何より今回の事件、いやまだ事件にすらなっていないのだが、小百合に対して少々過ぎたアプローチをしている魔術師に対して僅かに怒りを覚えているらしく、笑みを保とうとしているがその眉は僅かに痙攣している。


無関係な人間を巻き込むという事がどういう意味をあらわしているのか彼女は理解しているのだ。


そして人間を捕えて何をしようとしているのか、何をするのか、彼女は本当の意味で理解している。


だからこそ聞きたくなったのだ。車に関して怒りを燃やしている小百合より文の方が正確に情報を教えてくれると思ったからである。


「なぁ、魔術師って人間捕まえて人体実験する場合があるって本当か?」


「・・・何それ、小百合さんに聞いたわけ?」


「・・・あぁ、なんか魔術師の限界を超えるためとか言ってたけど」


魔術師の限界を超える。言っている意味がよくわからなかったのだ。あまりにも抽象的過ぎる表現のせいでうまくイメージできないのである。


「ちなみに、あんたはどういうものだと思ってるの?その魔術師の限界について」


「・・・魔術師なら誰でも持ってる素質を強化する・・・みたいなものだと思ってる」


魔術師としての限界を超えるという事はつまり、個々人の持っている素質の限界を超えるということに他ならない。


術式を扱うにしても魔力がなければ扱えない。つまりは魔力の許容量やら何やらを強引に強化するような事であると康太は考えていた。

そしてその考えはおおよそ正しい。


「まぁほぼ正解に近いわ。もっともそれをするのは容易じゃないけどね」


「それをするための人体実験・・・ってことか?」


人体実験と言われても具体的に何をするのか全く分かっていない。というかそもそも人体実験などする必要があるのかと思ってしまう。


マウスなどの動物実験ではだめなのだろうか、そんな風に考えてしまうのだ。


「人による魔力の限界っていうのは明確にあるわ。供給、貯蔵、放出。一つでもバランスを崩せば体にはダメージが入る。それだけ繊細なものを無理やりあげようとしてるのよ?実験段階なら何人も死ぬわ」


「死ぬって・・・でもギリギリでやめれば」


「・・・ゲヘルの釜に入ったあんたならわかるんじゃない?もし魔力の扱いを間違えたらどうなるか・・・強引に素質をいじろうとした結果何が起こるか」


康太は魔術師としての素質を調べるためにゲヘルの釜というマジックアイテムを使用した。そしてその結果がどうなったかを直に体験している。


魔力を放出しすぎた時、康太の体はほとんどいう事を聞かなくなった。倦怠感が体に纏いつき、かなりの間動くことができなくなったほどだ。


魔力を徹底的に放出するとそうなってしまうのだ。小百合曰くまだ運がいい方らしい。もし運悪く、供給口の方が強いタイプの人間だったらどうなるか。


康太の場合はほんのわずかに許容限界を超えた魔力を入れただけで強い圧迫感と吐き気を催す。もしこれで限界を超えてなお魔力を入れようとすれば。

間違いなく臓器や身体機能に強いダメージを残すだろう。


「さっきあんたは素質の強化って言ったけどね、言うのは簡単だけど今まで魔術師の中でそれを成したものはいないのよ。薬でほんのわずかにそれらを助長することはできてもあくまで補助的な効果しか持たない。時間にも限りがあるし性能強化とは程遠いわ」


「・・・でもそう言う薬があるならいつかできるんじゃないのか?それこそ風邪薬とかのそれじゃないけど特効薬的な」


「大企業が大々的に大人数で薬の研究をしているならそれもありえるけどね。魔術に関する情報は隠匿されてるのよ?誰がそんな研究をするのよ」


できたとしてもたかが知れてるわねと文は吐き捨てる。


薬学の技術が生まれてから数百年、否、薬という概念が生まれてから数千年レベルの時間が経過している。


その中には間違ったものも正しいものも、見当違いなものさえ存在していた。それらはある特定の効果を及ぼし肉体に多少なりとも影響を与えてきた。


そう言った薬の研究もある意味人体実験を経てきている。今日常的に使っている風邪薬でさえ、一度は人間に試して実験している。


所謂臨床実験というものだ。健康な人間を募集してまだ未認可の薬剤の効果を正確に把握するためのバイトなどは多く存在する。


だがそう言ったものは多くの研究機関や資金、そして膨大な知識があって初めて成り立つのだ。個人レベルでそれを行おうとしても必ず限界がある。


長い年月をかけて生まれた薬学の技術、それらを一人の人間がすべて把握し、なおかつそれらを魔術的に応用できるようになるのに一体何百年かかるだろうか。


現在存在する魔術的な効果を持つ薬学はその何百年の間に生まれた、ある意味魔術師たちの努力の結晶なのだ。


逆に言えば数百年かけても僅かに素質の助長をする程度の効果しか持たない薬物を作ることしかできなかったという事である。


現代と過去に知識の収集力に違いはあれどその環境は大きく変わっている。今後に期待したいところではあるがそれも難しいだろう。なにせ今は知識を得ることはできても薬物の取り扱いそのものが難しくなっているのだ。昔は無かった法によって今は縛られているのもまた事実である。


「でもさ、一応素質の能力を高める薬はできてるんだろ?それなら・・・」


「今作られてる薬はね、素質の段階を一つ上げることもできないような・・・それこそ本当にあればほんの少しだけましになる程度の効果しかないのよ。しかも時間制限付き、おまけに不味い。濃縮したものでそれよ?魔術師たちが求めるのは一時的なものじゃなく永続的な強化なのよ」


永続的な素質の強化。それは何も薬に関するアプローチでなくてもいいのだ。一番簡単なのが、というより既にそれに近い効果が得られているのが薬というだけであって他にも方法はいくつかある。


魔術師たちは長い間あれやこれやの手を使って素質の強化を模索してきた。それができるようになるまで一体どれくらい時間がかかるだろうか。


何百何千、もしかしたらそれ以上の歳月が必要になるかもしれないが、それでも魔術師たちはそれを目指す。


もしそんなことが可能になったら、生まれ持った素質だけではなく誰もが一流になりえる可能性を秘めていることになるからである。


「もう聞いたかもしれないけど、本気でそう言う事に挑んでる魔術師なら人間をいくらでも捕獲したいかもしれないわね。それこそ人間の素材であればどんな人間でもいいもの。ホームレス、犯罪者、人間であればどんな奴でも」


「・・・人間以外じゃダメなのか?マウスとか他の動物とか」


「んん・・・私はそっち専門じゃないからはっきりとは言えないけど、たぶんできないことはないと思うわ。魔力に関する三つの素質は何も人間だけにあるものじゃないから・・・」


どうやら魔術師として必要な三つの素質は人間だけにあるものではないらしい。それこそ動物、例えば犬猫などの愛玩動物でも魔術師になる可能性があるという事でもある。


問題は魔術を扱うためには術式を理解して扱わなければいけないという事だ。それだけの意識が動物にあるとは思えなかった。


「でも実験するなら人間の方が確実でしょうね。何より動物での魔術的実験って今まで聞いたことないもの」


「なんかおかしくないか?普通人間で試す前に動物で試すだろ?」


「普通の人ならね。忘れたの?私達は魔術師なのよ?」


何かの実験をする場合、必ず記録や記憶に残るものだ。


例えば風邪薬の試験実験の被験者になった時、被験者は当然その時の記憶を持ち続ける。


もしそこで不手際や問題があれば周囲に広まり、それを行った人間は間違いなく罪に問われることになるだろう。


だが康太たちは魔術師だ。もし都合の悪いことがあれば当事者から記憶を消してしまえばいい。


当事者は何も覚えておらず、魔術師的な証拠は何も知らず、ただどこかに行っていていつの間にか記憶を失っていてどこかに放り出されたという事しか認識できない。


それこそミステリーやSFな話だが、軽くどこかでキャトルミューティレーションでもされてきたのではないかという考えに至る方が早いだろう。


人間が薬を作る上で人体ではなく動物実験を先にやるのは、最低限の安全性を確保するためなのだ。


もし投薬しても死なないようにするまでは動物で実験し、死なないことが確認でき人体への危険も最小限に抑えられたとき、ようやく人間での実験に移る。


そうしなければいけないという法律ができてしまっているからだ。


だが魔術師は違う。わざわざ不確実な動物での魔術実験を行うより先に人間での魔術実験を行える。


何故なら証拠を残さないからだ。そもそも認識されなければ罪には問われない。もちろん大々的に行えば騒ぎになるだろうし面倒なことになるだろう。だがそれでも攫う人間や確保する人間は最低限選別している。


万が一にも問題にならないように、万が一にも魔術の存在が露呈しないように。

それこそ魔術師同士が互いに監視し、互いにその行動を警戒しているからこそ大事には至らない。それが今の魔術師の常識であり考え方なのだ。


康太には理解できない、本当の魔術師の考え方だった。


適当なネズミをたくさん捕まえてたくさん実験すればいい結果がやってくるのではないかと思えてならないのだ。


質を取るか量をとるかの二択だ。もちろん魔術とは基本人間が扱うものなのだから人間で試すのが一番手っ取り早いというのは理解できる。だが少々乱暴すぎるような気がしたのだ。


そして納得できないといった表情の康太を見て文は小さくため息をつく。


「安心しなさい。今は一般人に対しての非人道的行為は協会そのものが原則禁止してるわ。もちろん人体実験とかもね」


「そうなのか?」


「そうよ、時代の変化っていうのはいろいろと変わってくものでしょ?そう言うところが協会にも影響を及ぼしてるのよ」


てっきり協会そのものがそう言った薬の研究をしているのだと思っていたが、実際はその逆であるらしい。


人間を使った魔術に関する実験は禁止。確かにそうしないと現代においては魔術の存在が露呈する可能性は激増する。ほんの少し安心した康太を前に、それを聞いていた小百合は二人を鼻で笑っていた。


「原則禁止・・・ね・・・つまりそれを破る奴は星の数ほどいるという事だ」


「え?そうなんですか?」


「当たり前だ。決まりや約束事、法律は破るためにあると言ってもいいくらいだ。協会が禁止したというだけで止まるほど魔術師は素直じゃない」


あまりにも暴論な気がしたが、その程度で魔術師は止まらない。その言葉が康太に重くのしかかっていた。


今日で夏休みが終わってしまう・・・なので二回分投稿


もはやルール以外では自分が気が向いた時に追加投稿してる気がしなくもないけどまぁいいか


これからもお楽しみいただければ幸いです

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