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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
三十話「神の怒りは、人の恨みは」

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それが終わるには

協会の、いつものこの部屋の外で、多くの魔術師たちがその悲鳴を聞いていた。


以前にもあったこの行動、だがあの時よりもずっと、ずっと長かった。


何十分経っても、何時間経っても、一日が過ぎてもその絶叫が止むことはなかった。


また誰かがブライトビーの身内に手を出したのだと理解したものが半分、そして今拷問を受けている者こそルィバズを、幸彦を殺した魔術師なのだと理解したものが半分。それぞれが祈るように目を伏せた。


自分はあのような目に遭いませんようにと、そう強く願う。そして一部の者はその絶叫の原因を与えている魔術師に対して、少しだけ同情の気持ちを向けていた。


あのような若さで、これだけのことができてしまうブライトビーという魔術師が、哀れに思えてしまったのだ。


その部屋からは何人か人が出ては入れ替わるようにまた入っていく。


その時興味を持った魔術師がその中を覗こうとする。誰もそれを止めることはなかった。だがその先にあるものを見て、その魔術師はその場で嘔吐してしまった。


すぐさま周りにいた魔術師が介抱するが、魔術師はその中で見た光景を口にすることはできなかった。


あまりにも、あまりにも凄惨な光景にそれらを表現する方法がなかったというほうが正しいかもしれない。


だがそれ以上に、あの状況をまた思い出すのを脳が拒否していたのである。


その悲鳴と、いつものあの部屋で行われる行動は日をまたいで続いた。三日目にもなるともはや悲鳴も力をなくしていたが、途中で運び込まれた医療用具の内容からするとおそらく死んではいないだろう。


索敵で調べてもその中に誰かがいて生きていることは確認できていた。


部屋の中で、康太は金槌を振り下ろす。上腕に残ってる骨に当てたノミに金槌が命中し、ほんのわずかに骨を削る。


激痛に魔術師の悲鳴が上げる。


もはや悲鳴というよりは苦悶といったほうがいいかもしれない。


すでにこの魔術師の体は大きく削り取られていた。


腕は肘のあたりまで、脚はもうすぐ膝に届きそうな程度まで削られている。


目はすでに両方潰され、耳はそがれ、鼻を落とされ、男としての象徴ともいうべき性器も二度と使用ができないようにミンチへと姿を変えてしまっている。


体中にこの魔術師が死なないように点滴やバイタルサインを表すための医療用具が取り付けられ、この魔術師が健康であることを示していた。


健康とはいいがたい状態ではありながらもこのようなバイタルサインであることができるのはアリスと倉敷、そして協会の医療系魔術師の技量の高さによるところが大きい。


だが協会の魔術師の中には、医療をしながら相手を傷つけ続けるという行為が許せず、またこれだけの凄惨な状態に拒否反応を示したりもした。


かろうじてこの状況を許容できた魔術師たちも、日をまたいでの治療行為には限界があり、交代するような形で治療を続けている。


これだけ傷つけても、この男はまだ死んでいなかった。生きるために必要な器官には傷一つつけていないため当然といえば当然かもしれない。


だがこれだけの傷と痛みを与えられても、血液はほとんど一滴も流していない。涙を流すことも、汗を流すこともできず、脱水症状になることすらできずにいる。


「違う、俺の聞きたい言葉じゃない」


魔術師が望まない言葉を放つたびに、康太はその返答としてその言葉を放つとともに相手の体を削り取った。


「たのむ・・・たのむ・・・もう・・・やめて・・・もう・・・!」


「違う、俺の聞きたい言葉じゃない」


間違いを正すかのように、壊れた音楽再生機のように、康太は同じ言葉を放ち続ける。


そして針を使って肉を少しずつ千切り、金槌とノミによって骨を少しずつ削っていく。


これだけ痛めつけられても、康太は喉を潰すことも鼓膜を潰すこともしなかった。この魔術師からは聞かなければいけない言葉があるのだと、そして言わなければいけないことがあるのだと示し続けた。


「助けて・・・死にたくない・・・死にたくない・・・!」


「違う、俺の聞きたい言葉じゃない」


同じようなことを繰り返す康太の姿に、倉敷はまずいのではないかと文の方に視線を向ける。


明らかに精神に異常をきたしているように見えた。それはこの男の話ではない、康太の話だ。


これ以上この行動を続けさせるのはまずいように思えたのだ。


倉敷は喋ることはせずに、文の肩を軽く叩き、康太の方に視線を向けてまずいんじゃないかとアイコンタクトをする。


だが文は首を横に振る。


このままでも問題ないというより、これを止めてはいけないと思っているのだ。


このままでいいとは思わない。だがこの行動こそ康太には必要だとも思っていた。


「違う、俺の聞きたい言葉じゃない」


文と倉敷の気持ちなど知らないというかのように、康太は引き続き魔術師を拷問し続ける。


いつまで続くのかもわからない、いつまで続けるのかもわからない、何が終わりになるのかもわからないそんな中で、康太の声と魔術師の悲鳴だけが部屋の中の唯一の音となっていた。


悲鳴を一つ二つと続けるたびに、魔術師の命乞いを一つ二つと受けるたびに、康太はその体を少しずつ削り取っていく。


その体がなくなるか、康太が望む答えを告げるまで、おそらくこれは続くのだろうとその場の全員が理解していた。


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