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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
三十話「神の怒りは、人の恨みは」

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殺意の行方

勝利を確信した魔術師は仮面の下で笑みを浮かべる。体を貫いたのだから死なない道理はない。


あの時戦った大男は体に穴を開けながら襲い掛かってきたが、この男は違うだろうと考えていた。


だがその期待は裏切られる。


その体が動き、魔術師の体を掴むと強い力をかけ始めたのである。


まだ死なないのかと、魔術師は連続してその体めがけて光の筋の魔術を放つ。


だが止まらない。その体にさらに強く力がかけられていく中、何かがおかしいと魔術師が不審に思った瞬間、その答えはやってきた。


背後から放たれる強烈な殺気。それを魔術師は寒気として感じ取っていた。


確証があるわけではなかった。だが反射的に、魔術師は背後に障壁を展開した。


展開した障壁は一秒と経たずに破壊され、貫通した何かが魔術師の背中に突き刺さっていた。


背中に突き刺さったのはウィル用に購入した刺突武器、そしてそれを突き刺していたのは先ほどまで戦っていた康太だった。だが目の前にはいまだ動き続ける鎧がある。


そしてこの鎧が操られているのだということに気付いた魔術師は舌打ちしながら背中に走る痛みを分析していく。


康太は貫かれる瞬間、短距離瞬間移動によって自分の体だけを魔術師の背後に移動させ、ウィルを分身として利用していた。


案の定、相手は康太を見失った。だが防御されたのは完全に予想外だった。完全に相手は康太を見失っていたはずなのに気付かれた。


小百合も言っていたが、もっと殺気を消す練習をしておけばよかったなと思いながら、康太は追撃を加えようとナイフを構える。


だがいつまでも張り付かれたままでいるほど魔術師も甘くはなかった。


体を起点として衝撃波の魔術を発動し、康太とウィルを同時に弾き飛ばそうとする。


だがウィルは完全に魔術師の体を固定し、離れることはなかった。


康太だけが弾き飛ばされるが、康太は空中で即座に態勢を整え再び魔術師めがけて襲い掛かる。


ウィルが魔術師の体を捕縛しようとまとわりつく中、こここそが好機であると康太は電撃と同化し、魔術師めがけて電撃を放ちながら火の弾丸を放っていく。


ウィルがまとわりつくせいで、うまく行動することもできずにいる中、康太の攻撃がやってきているということを理解していてもうまく防ぐことができず魔術師はその攻撃をまともに受けてしまう。


ウィルの体が邪魔になってしまい、炎の弾丸に関しては上手く効力を発揮しなかったものの、電撃は魔術師の動きを阻害することに成功していた。


体の動きを一瞬止める程度の効力しかないものの、それでも魔術師は一瞬体を硬直させる。


その瞬間に康太は魔術師の直上へと躍り出ると拡大動作の魔術によって拳を巨大化させ魔術師を叩きつける。


一直線に地面に叩きつけられた魔術師めがけて、康太も一直線に落下し襲い掛かる。


地面に叩きつけられながらも、まだ意識を失わないのか、魔術師は空中から一直線に襲い掛かる康太めがけて拡散型の光の魔術を放つ。


避けられない。確実に当たる。


魔術師がそう考えた瞬間、上空で発生した雷が康太に直撃し、そのまま地面へと落ちる。


康太の体が再び地面へと瞬間移動し、先ほどまで康太がいた場所を拡散型の光がとおりすぎる。


雷を放ったのは文だった。康太の戦いを観察しながら、相手がどのタイミングで康太の動きを捉えることができるのかを読んでいたのである。


的確過ぎる文の援護に感謝しながら、康太はこちらを見失っている魔術師めがけて一直線に突撃し、再び拡大動作によって自らの拳を叩きつける。


地面にめり込むように康太の拳を二度にわたって叩きつけられた魔術師は意識を喪失したのか、力なく地面に横たわったままになった。


倒す事ができたと、康太は小さく息をついてから握りしめていた拳を手刀の形に変えるとエンチャントの魔術を施す。


白い光が康太の腕に纏わりつき、手刀の部分がより鋭く形を変えていた。


幸彦に教わった技術だった。武器をほとんど使い、もはや武器の代わりとなるのは康太自身の体以外にない。


こいつを殺せば幸彦の敵を討つことができる。


康太の考えはそれだけだった。


幸彦を殺した罪を、幸彦を殺したこの魔術師を、康太は許すことはできなかった。

完全に意識を失っている今であれば殺せる。


康太は自らの体が電撃と同化するのを何とか防ぎながら、自らの体だけでゆっくりと近づく。


魔術師の足を踏み砕いて折っておき、逃げられないようにすると康太はゆっくりとその手を振り上げる。

ウィルが完全に体を固定しているために、これ以上回避することはできないだろう。ウィルがわずかに震え何かを訴えようとしているが、康太の目には倒れたままの魔術師しか目に入らなかった。


この日のために、この時のために自分は強くなったのだと、そう思えるほどに康太は振り上げた腕に力を込めていた。


康太の殺意に呼応するかのようにエンチャントの魔術に電撃がまとわりついていく。そしてさらに鋭く、相手への殺意を具現化したかのようなその手刀を、康太は大きく振り上げ、そして魔術師の心臓めがけて突き立てようと力を込め、振り下ろした。













康太が自らの手刀を相手に突き立てる、そして数秒してから康太は歯を食いしばってさらに力を込めようとする。


「なんでだ・・・!」


再び力を込める。その心臓を抉り出そうと、その心臓を引きちぎろうとする康太の腕はそれでも動かない。その体に突き刺さらない。


「なんで止めた!ウィル!」


康太の腕を止めていたのはウィルだった。あと数センチ、あと数センチ康太の腕が前に進めばその体を貫くことができたというのに、ウィルはそれを止めた。


今まで康太に力を貸していたというのに、今まで一緒に戦ってきたというのに、ウィルは今康太に逆らっている。


康太にこの魔術師を殺させまいとしているかのように。


「こいつは!こいつが!こいつがあの人を殺したんだぞ!こいつのせいで!こいつがいたから!幸彦さんは!」


あふれ出す怒りと殺意に、康太の姿が再び電撃と同化し、周囲に光と電撃をまき散らしていく。


康太の叫びは、悲鳴のように聞こえた。怒りを込め、殺意を込め、憎しみを込めたその声は、どこか泣いているようにも聞こえた。


その叫びを聞いても、ウィルは康太の腕を離さない。


康太がウィルを引きはがそうと、止められている腕の方を見る。その瞬間、康太は目を疑った。


康太の腕をつかんでいるその形に、見覚えがあったからだ。


何度となく自分を倒してきた腕だ。何度となく自分の腕を取り、立ち上がらせてきた手だ。


見間違えるはずがない。見間違えようがない。


それは幸彦の腕だった。


目の前にあるその腕に、康太は一瞬何が起きているのか理解が追い付かずに思考が停止してしまっていた。


ウィルがかたどっている幸彦の腕、火葬され、既に存在しないその腕を、ウィルがなぜ再現したのか、康太には理解できなかった。


もしかしたら、ウィルの中に幸彦がいるのではないか、そんなことすら考えたほどだ。だがそんなことはありえない。


ウィルの中にいる数多の意志とでもいうべき存在を加えられる魔術師はすでに死亡している。


たとえ幸彦でも、そのようなことができるはずがない。


ならばなぜ、何故ウィルがこのようなことをしているのか。


康太は、一つだけ思い当たることがあった。


あの時、雨の音ですべて聞き取れなかった幸彦の声を、幸彦の最期の言葉を聞いていたのは康太だけではない。


あの時、幸彦が最後に語った言葉を聞いたのは、おそらくウィルだけだ。


ウィルはあの時幸彦に何かを託されたのではないか。あの時、ウィルは幸彦に何かを頼まれたのではないか。


ウィルは自分で考え、自分で決めたのだ。


幸彦を殺したこの魔術師を、康太には殺させないと。


幸彦の願いなのか、ウィル自身の願いなのかそれはわからない。


だが、幸彦の腕をかたどって止めたこの行為は、康太を止めるためには最適といえる方法だった。


「・・・ぅぅ・・・!」


康太の体から電撃がほとばしる。行き場のない怒りが、殺意が、恨みが、電撃となって周囲を満たしていく。

康太の体は先ほど、怒りで我を忘れた時のように人ではない、神のそれへと変化していく。


頭部からは翼が生え、後頭部からは尾が生え、耳は尖り、足は鳥類のそれへと変化していた。


殺したい、この男を殺さなければならない。幸彦の敵を、幸彦を殺したものをこの手で殺さなければならない。


だがそれをウィルが止めた。おそらく幸彦から何かを託されたであろうウィルが。


幸彦のために殺したい。幸彦のために殺してはならない。その二つの考えが康太の中にせめぎあい、大きな矛盾とともに康太の感情は爆発した。


「ぁぁぁぁぁぁぁあぁあああああああああああああああああぁぁぁああああぁぁああ!!」


強力な雷光に、その場にいたすべての魔術師たちが康太の方に視線を向けていた。


神が放つ怒りを具現したかのようなその光景に、すべての魔術師が戦うことを一時的にやめ、その怒りの矛先がどこに向かうのかを注視していた。


康太の絶叫が、人としての恨みが辺りに轟いていく。自らが抱える、抱えきれない者たちのすべてを背負ってきた康太が抱いた、どうしようもない怒りと恨み。それらを止めようとするウィルを振り払い康太は思い切り腕を振り下ろした。


周囲に轟音が響く。


大地に亀裂が走り、空に強い光が放たれ周囲に電撃が放出されていく。


目を開けていられないほどの光を前に、ほとんどの魔術師が目を瞑ってしまう。


そんな中、文だけがその光をじっと見ていた。


文にはその光が、眩しいとは感じられなかった。文の目には神として怒り狂い、それでも人として悲しむ康太の姿だけが見えていた。


「・・・康太・・・!」


文のつぶやきを聞いたのか、それとも何か別のきっかけがあったのか、電撃が勢いをなくし弱まっていく。


光が弱まっていく中には、人としての姿を取り戻した康太の姿があった。


大地の亀裂の中心には、康太の全力の拳を受けたのか、仮面を砕かれた魔術師の姿があった。


「・・・わかったよ・・・ウィル・・・こいつは殺さない・・・それでいいんだろう?」


康太のつぶやきに、ウィルは康太の鎧になることで応える。


康太は大きく息を吐いてから空を仰ぐ。これでよかったのか。これで本当に正しかったのか。康太はわからない。自分の中にある怒りと殺意を燃やしながら歯を食いしばる。


土曜日なので二回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

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