愛用の武器
康太が背後に回り込んでいることに気付いたのか、魔術師はとっさに障壁の魔術を展開した。
だが反射的に作り出した障壁は康太からすれば非常に脆く、弱点も多かった。
突き立てた槍は容易に障壁を貫通し、魔術師に迫る。
このまま追撃を、と康太が前に進もうとした瞬間、寒気が全身を襲う。
とっさに身をひるがえすと、先ほどまで康太の体が有った場所を光の筋が高速で通過していく。
康太の攻撃が障壁一枚で止まることはないだろうと最初から予想していたのだろう。防御をしたのは康太の動きを一瞬でも止めるため。その一瞬で撃ち抜けばよいと考えていたのだ。
危うく撃ち抜かれるところだったと、康太は右手に持っていた竹箒改を見ると、先の攻撃によって刃の部分が大きく破損してしまっていた。
まだ完全に壊れたわけではなく、大蜂針の部分は無事だが、刃が破損してしまっているために槍としてのこれ以上の運用は難しそうだった。
康太は噴出の魔術を砕いた障壁越しに放ち、一度離れると同時に魔術師の体を焼いていく。
笹船の片方、そして竹箒改の矛先を破損、装備はまだ残っているとはいえ、主力武器の二つを大きく損傷してしまっていた。
物理的な破壊に関しての対策はしてこなかったのが失敗だった。とはいえ相手の攻撃力を考えると無属性のエンチャントでも問題なく防御できたかは怪しいところである。
文や幸彦の防御さえも突破するような攻撃だ、慣れていない康太の防御ではないのと同じようなものかもしれない。
思えば双剣笹船の方はまだ壊したことがあったが、竹箒改の方は壊したことはほとんどなかった。
組み立て式であったために歪みなどができて修理はしていたのだが、完全に壊すまでは至らなかった。
それだけに、愛用の槍を壊された康太は怒りを燃やす。
だが怒りを燃やしていても勝ちやすくなるというものでもない。
康太はウィルに預けたままにしていた双剣笹船の片割れを受け取り、刃の壊れた槍を手にして剣と槍の二刀流の状態に変化させる。
今までこのような使い方をしたことはない。別に同時に二つの武器を使うつもりなどはなかった。
だがこの竹箒改にはまだ使い道がある。まだまだ役に立ってもらうぞと康太は槍を構えて魔術師を見据える。
康太の炎で焼かれたとはいえ、とっさに防御が間に合ったのか、それとも治癒したのか、全身火傷だらけということはなかった。
衣服の一部が焼け、露出した肌には火傷のような跡があるものの、まだまだ倒すには至らないという様子だった。
とはいえ、あれだけ近づいてなお的確に反撃してくるあたり相手は戦い慣れているのだろう。
高い攻撃力をもってして、今まで多くの魔術師たちを葬ってきたのだろうが、康太からすれば相手がそれだけの反応をしてくるということが分かったのだ。次は別の方法で攻めればいいだけの話である。
康太は破損した槍の矛先をウィルによって補強し、一時的にでも構わないから槍を使えるようにさせていた。
相手の防御能力は把握した。相手の反応速度も把握した。攻撃性能は予想していたよりも少し強く、範囲も拡張されている。
だがそれだけだ。それだけの変更であれば想定以上のものではなかった。
これだけの相手なら、一対一の状態であれば幸彦が負けるだけの理由が見当たらない。幸彦ならばうまく相手の攻撃を躱して対応できただろうと康太は確信する。
同時に、幸彦がそれだけの数の相手を同時にしていたのだということを知る。
大勢に囲まれ、牽制され、攻撃され、相手の攻撃を引きつけ続けた。
それだけのことを幸彦はしたのだ。それだけのことが幸彦にはできたのだ。
康太は不意に小百合の言葉を思い出していた。
本当に大事なものから取りこぼす。
その通りかもしれないと康太は考えていた。同時に、そんなことはないと否定もしたかった。
この魔術師がどのような意思をもって幸彦に敵対したのかはわからない。だがそれでも幸彦を殺したのであればそれ相応の報いを受けさせるべきだと、そうしたいと康太は強く思っていた。
「行くぞウィル・・・次で仕留める・・・!」
相手の実力を大まかに察した康太は自らの体から強い電撃を放ち、電撃と同化していく。
光り輝く康太の姿は周囲の魔術師たちにもよく見えただろう。康太が戦う姿が鮮明に周囲の人間に知らしめられていく中、康太は剣と槍を持って魔術師に襲い掛かる。
当然魔術師も康太を二度と近づけさせまいと攻撃を行ってきた。
拡散型の光を放つことで康太の突撃を止めようとするが、康太は相手の攻撃範囲から容易に逃れていく。
噴出の魔術の最大出力を使用し続けているため、康太は今まで以上の速度での行動が可能になっていた。
そして康太は次々放たれる拡散型の光の魔術を回避すると同時に、右手に持っていた竹箒改を投擲する。
魔術師めがけて襲い掛かった竹箒改は、魔術師が再び放った拡散型の光の魔術によってその形を崩していく。
削り取られていく槍が、原形を失いつつある中、康太はそれを分解した。
瞬間、竹箒の中に内包されていた鉄球が空中にばらまかれていく。
 




