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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
三十話「神の怒りは、人の恨みは」

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この戦いは

康太が急接近してきたことによって、自らの攻撃がよけられたことを理解したのだろうか、魔術師はさらに連続して光の筋の魔術を放ってくる。


康太は襲い掛かる光の筋を回避しながら徐々に魔術師との距離を詰めていく。周りにいる魔術師たちが康太に牽制として攻撃魔術を放ってくるも、文や倉敷達が完璧にそれを阻み康太の道を切り開いていた。


康太は放たれる光の筋の魔術を正確に把握しようと常に集中力を高めていた。我を失った状態ではおそらく避けきることは難しかっただろう。


幸彦との戦闘のことは康太も文に聞いた以上のことは知らない。それゆえに相手がどのような魔術を持っているのか正確には把握していない。


光の筋の魔術を主力にしているのはわかっているが、それ以外にどのような魔術を持っているのか不明であるため、康太は近づくにつれて意図的に余裕を持って回避行動をとっていた。


近くになればなるほど回避行動は緊急を要されることとなる。相手が二手三手と次の攻撃方法を編んでいるとしたら、ぎりぎりでの回避は自分の首を絞めかねない。


接近する速度は若干遅くなるが、相手よりも康太の方が圧倒的に機動力があるため逃がすことはまずない。


雑に戦って負け、逃がすよりも、丁寧に確実に戦って仕留めたほうがいい。


これはそういう戦いだった。


光の筋が連続で襲い掛かる中、康太は指を魔術師の方に向けて火の弾丸の魔術を放つ。


収束の魔術によって誘導された火の弾丸は魔術師めがけて襲い掛かるも、威力がないことを察してか小さな障壁を作り出して簡単に防いで見せていた。


さすがにこの程度は見切ってくるかと康太は苦笑しながら装備の一つを解放する。


まずは相手の対応能力を見る。攻撃に対しての対処、そして同時に発動できる魔術の種類など、確認したいことは多い。


光の筋がどの程度の処理能力と魔力を要するのか不明であるため、相手の能力を確かめるためにもまずは攻撃するべきだ。


攻撃こそ最大の防御などというつもりはない。小百合の教えの一つだ。防御などする必要はないのだ。すべて避ければいいだけの話。全て斬ればいいだけの話。


康太は装甲の中から鉄球を噴出の魔術によって射出し、魔術師めがけて襲い掛からせる。


康太が瘴気を振りまいているおかげで、相手は小さなものに対しての反応が鈍い。


とはいえある程度近くに至れば索敵の魔術で確実に認識されてしまう。


一斉に降り注がせる鉄球と合わせる形で、康太は正面から火の弾丸の魔術を放つ。


単純な射撃系魔術、相手も途中まではそう思っているようだったが、上空から襲い掛かる鉄球の存在を感じ取ったからか、全身を包むような球体の障壁を展開する。


まずは通常の魔術が行う防御と同じ。その程度であれば突き破ることは容易だと思っていたのだが、魔術師はぎりぎりになって何かを感じ取ったのか、球体の障壁をもう一枚少し外側に展開した。


消費魔力が多くなるのだろうがそのあたりは無視しているようである。


これを貫くのは難しいなと、康太は鉄球に込められた蓄積の魔術を発動することはせず、ただの鉄球として障壁にぶつける。


結果、火の弾丸も鉄球も障壁に完全に防がれてしまう。


さすがは幸彦と戦っただけはあると、康太は内心舌打ちしていた。


どのように感知したのか、あるいは康太と同じような、似たような勘を持っているのだろうか。


康太が小百合に指導を受けた結果、人の視線と殺気などを感じ取れるようになったように、他の魔術師は何か別のものを感じ取る勘が備わっていても不思議はない。


面倒くさいなと思っていると康太めがけて再び光の筋の魔術が放たれる。


防御している間は光の筋は使えないのだろうか、それとも自分の障壁も貫通してしまうためにわざと使わなかったのか。


康太がⅮの慟哭で魔力を吸い続けても問題なく魔術が使えているということはそれなり以上に相手の素質は高いものであると考えられる。


それならそれでいい。康太が攻撃で相手を押さえ続ければいいだけの話なのだから。


康太は光の筋を回避しながら火の弾丸を大量に放つ。吸収できる魔力量が増えたおかげで、こういった牽制魔術を多く使えるのはありがたかった。消費魔力を気にしなくていいのは非常にありがたい。


いなくなってしまった居候が、本当の意味で自分に力を貸してくれているのだと、少し矛盾を感じる状況に、康太は苦笑していた。


射撃戦。


康太が今までほとんどやったことのない部門の行動だった。


火の弾丸をメインにするなんて、今までの康太であればあり得ない。


火の弾丸はあくまで牽制と囮として、所謂目くらましとして使う程度だった。中距離を保って攻撃し続けるなど、康太からすればあり得ない行動だ。


だがそれでいい。それでよかった。


相手を確実に倒すために、相手の情報を集める。確実に殺すために、まずは弱らせる。


康太は今、戦いを行っているというよりも、正確には狩りを行っているといったほうがいいかもしれない。


相手を確実に仕留めるために、相手の情報を集め、相手を弱らせ、一方的に倒す。


小百合のような強力な攻撃を行うことができれば、そのようなことをする必要はなかったのだろうが、康太はまだそこまで強力な攻撃を扱うことはできない。


熱量転化の魔術を使えば、障壁を無視して相手に大きなダメージを与えることはできるだろうが、まだそれを使う段階ではない。


一度見せた魔術を使わない。その意味について相手に考えさせる必要がある。


もう使えないと誤認させればそれで十分。相手は無駄に警戒して誤解して無駄に消耗してくれれば何よりだ。


弱った時が、お前の死ぬ時だと、康太は仮面の奥の瞳を鋭くさせていた。









康太の戦い方が普段と違うことを、露払いをしている文と倉敷も気づいていた。


周りの魔術師たちの攻撃を防ぎ、逆に反撃しながらも康太の動向に気を配ることができるあたり、この二人の戦闘能力の高さをうかがうことができる。


「随分と悠長な戦い方してるな・・・いつもみたいにすぐ終わらせると思ってたんだけど」


「警戒してるんでしょ。少なくとも相手は・・・バズさんに勝ってる魔術師よ?」


「大勢で囲んでようやく、だろ?」


「形はどうあれ、勝ってることに変わりはないわ。だからビーは、確実に仕留めるつもりなのよ」


大人数で囲んで、味方を人質代わりに使って、ようやく幸彦を倒す事ができた。相手からすればそういった評価なのだろうが、文たちからすれば、相手は幸彦を殺すほどの実力を持った魔術師であるというものになっている。


実際はどうあれ、結果がそうなっているのだから。


文は康太の戦闘方法がいつもと違う、その理由をほぼ正確に理解していた。


幸彦との戦闘をすべて見ているわけではないために、相手は幸彦を殺せるだけの戦闘能力を有していると考えて行動しているのだ。


文は倉敷と合図しながら、常にあの光の筋の射程外に居続けている。


仲間が近くに行けば、相手はそちらを狙いかねない。文はアリスに頼んで康太の戦いをだれも邪魔しないように呼びかけさせていた。


一対一であれば、おそらく幸彦は勝っていただろう。だが一対一になるほど状況は常に良いものではない。


だからこそ、今文と倉敷は周りの魔術師を康太に近づけまいと牽制し続けているのだ。


とはいえ、三百六十度すべての魔術師を排除できるわけではないため、そのあたりは協会の魔術師たちと協力しなければならない。


今もなお、何とかして援護をしようと魔術師たちがやってきているが、協会の魔術師たちに妨害されている。


「どれくらい時間がかかるかね?」


「さぁね。ただ、そうね・・・相手の実力を測るのはそこまで時間はかからないとは思うわ。あとはあいつがどう料理するかでしょ」


「勝つことは確実なんだな」


「確実よ。あそこまでビーが露骨に勝利を目的とした戦い方をしてるの、今まで見たことないもの」


康太は基本的に特定の目的を持って戦う。相手の戦力を削るためだったり、情報を収集するためだったり、特定の場所を守るためだったりいろいろ事情や理由はあるが、戦闘はあくまでその過程、目的達成のための手段の一つでしかない。


相手に勝つことを目的とした戦いは、今までの戦闘の中ではほとんどなかっただろう。それを康太は今しているのだ。


「フォローしたほうがいいかね?」


「私たちはあいつの露払いが目的よ。本当に必要になったら私がやるわ。トゥトゥは周りのやつらを一掃してて」


「了解。相手も魔力吸われてるからか、勢いが少ないから楽でいいな」


康太のⅮの慟哭によって周囲の魔術師たちは魔力を吸われ続けている。そこまで優れた素質を持たないものでは魔術を発動することも困難になるほどだ。


有象無象を相手にしている状態であれば、文たちにとってはこの程度の戦力であれば後れを取ることはない。


何より文も倉敷も範囲攻撃を得意としているのだ。雷、風、水といった広範囲に被害をまき散らせる攻撃を得意とする二人にとって、魔力を削られた魔術師たちへの対処は難しくはなかった。


ただ中には優れた素質を持って問題なく活動できる魔術師もいるため、そういった魔術師を集中して倒す必要がある。


ほぼ無条件で魔力を吸い上げるというのは、本当にえげつないほどの効果を発揮しているのだ。


「この吸った魔力を今ビーが全部受け取ってるんだよな?」


「そうね、そのはずよ」


どれほどの魔力を吸い上げているのか文は理解できていなかったが、少なくとも常に魔術を発動し続けなければ康太では抱えきれないほどの魔力が吸い上げられているのは間違いない。


だからこそ慣れない射撃戦を主軸に戦術を組み立てているのかもしれないが、少なくとも康太にとって多量の魔力に満ちた戦いというのは初めてのことだろう。


あふれ出す魔力をどのように消費すればいいのか、康太自身わかっていないのではないかと文は不安になっていた。


文のように大量消費と大量供給を繰り返すのと違って、康太は一度溜めたものを小出ししながら戦うというのが基本だった。


そのため魔力消費が少ない魔術が多く、事前に準備が必要なものばかりだ。


単純に魔力のみで発動できるような魔術そのものが少なく、大量な魔力供給に見合うだけの消費を得られるかどうかが微妙なところである。


だがそのあたりは何とかしてもらうしかない。


魔力の調整は本人が行う以外にないのだ。無駄に魔力を放出するようでは相手にそれだけの多量消費魔術がないといっているようなもの。


相手に情報を与えず、相手の情報を引き出して攻略するのが魔術師の正攻法である。


そういう意味では康太は初めて、まともな魔術師としての戦い方をしているといってもいいだろう。

少しだけ意味合いが違うのかもしれないが。


文の不安はほぼ的中していた。


康太が射撃系魔術を使い続けるのは自らの体内に入り続ける多量の魔力を消費させることも目的の一つだった。


今までこれほどまで多くの魔力が体の中に流れ込んできたことがなかったために、どのようにすればこの魔力を使いきれるかという半ば贅沢な悩みを抱いていたのである。


康太の貧弱な素質を考慮し、小百合が教えてきた魔術は一部を除きほとんどが消費魔力の少ないタイプのものだった。そのため康太は魔力を大量に消費する魔術をあまり覚えていない。


それでも魔力を無駄にしないために発動しなければいけないのだが、単純な射撃系魔術の中でそれができるのは火の弾丸と暴風くらいのものだった。それ以外では事前準備が必要なものばかり。射撃系でなくてもよいのであれば噴出の魔術なども当てはまるが、距離をとっている今の状態では効果的とは言えない。


いつも以上の速度で移動し、いつも以上に射撃系魔術を行使しているというのに康太の体内の魔力は一向に減少していなかった。むしろ徐々に康太の体内に魔力はたまりつつある。


Ⅾの慟哭の出力を落とすことも考えたが。相手から吸える魔力を少なくしたくなかった。自分の魔力を増やすだけならともかく、相手の魔力を減らすことができるというメリットを少なくしたくはなかったのである。


とはいえこのままではよくないと康太は自らの体に魔術をかける。


身体能力強化と無属性のエンチャント。正直に言えば、エンチャントの魔術は相手の攻撃力を考慮するとあまり意味のない魔術といえるだろう。


だがそれでもこのまま魔力の消費を増やさなければ康太の素質ではパンクする。


供給口と貯蔵庫、そして放出口、これら三つの素質が均一であることが好ましいのだが、今は供給口の方がやや上回ってしまっているようだった。


少しでも魔力を消費するべく、康太は使える魔術をいくつも発動していた。


相手の攻撃も激しくなってきている。光の筋を連射しながら康太から放たれる火の弾丸を徹底して障壁の魔術によって防御している。


光の筋が放たれる瞬間だけ、障壁に一瞬穴が開くがその瞬間を狙って攻撃するのは無理そうだった。


徹底した炎の射撃に相手もいら立っているのか、徐々に狙いが雑になっているように見える。


何せ康太は火の弾丸の出力を上げた状態、つまり普段の弾丸のそれよりも大分大きい状態で打ち込んでいる。


相手から見れば火の弾丸が目の前を覆いつくしているように見えるだろう。


といっても瘴気のせいで相手はまともに肉眼でものを見るということができていない。


収束の魔術によって誘導され、襲い掛かる火の弾丸は魔術師を取り囲むような形で着弾し続けている。


球体の障壁を展開した状態でもうどれくらい経過しただろうか。それほど威力のない火の弾丸でも、これほどまで打ち続けたことは訓練以外では康太の記憶になかった。


とはいえ、相手を倒す準備は徐々に整いつつある。問題はどのタイミングで切り込むかだ。


まだ相手は隠している手がある。康太は直感的にそう考えていた。


それが速射能力なのか、あるいはあの魔術の新しい一面なのかは不明だが、あの魔術師はまだ余裕があるように見えたのだ。


互いにまだ様子見段階。普段の康太ならばその様子見の段階で相手に接近して早々に終わらせる。

多少リスクがつきものだが、康太の技術ならばそれは決して不可能ではない。


だが今回の相手に関しては少しのリスクも抱いたままにしてはいけないのだ。相手の攻撃が一撃必殺に近い以上、多少の危険を冒してでも接近するというのはある種のイチかバチかになりかねない。


そういったリスクをこの場で負うつもりはなかった。


やるのであれば一方的に、そして瞬時に勝負を決める。少なくとも康太はその準備を着々と進めていた。


火の弾丸に加えて定期的に鉄球を空中へと放つ。当然相手も警戒しているためにそれを防ぐために二重三重に障壁を展開していく。


相手は基本動かないために、その足元には防ぎ終えた鉄球がいくつも転がっていた。


相手の防御能力を康太はかなり高く見積もっている。その見積もった防御能力を想定に入れて、なおかつ相手を確実に殺すために必要な手順はすでに整えた。


あとは相手がこの攻撃にどのような対処をするかという話になってくる。


「よし・・・いくか」


その言葉は相手には聞こえていなかったはずだが、康太から放たれた殺気に反応したのか、魔術師は身を強張らせる。


小百合に言われたが康太はまだ殺気を消せるほど高い技術力を有していない。


気配を消すのと一緒で殺気を消すなどということができるとは思えなかった。特にこの魔術師を相手にしては。


康太は四方八方から火の弾丸の魔術を放ち全方位から魔術師めがけて襲い掛からせる。そしてその魔術師を中心に、最大威力の旋風の魔術を作り出す。


魔力を大量に注ぎ込んで作り出した旋風は、本来であれば小さな竜巻程度しかできないようなものだが、大量に注がれた魔力によって通常の竜巻のように変化していた。


文が作り出す巨大なものではないが、人を吹き飛ばすには十分すぎる威力だ。


魔術師は念動力の魔術を使って何とか地面にへばりつき、襲い掛かる火の弾丸を防ごうと障壁を展開している。


火の弾丸は竜巻にあおられさらに威力を高めながら竜巻と同化していき、炎の竜巻へと姿を変える。そして次の瞬間、竜巻によって巻き上げられた鉄球が宙を舞い、一定の高さでとどまるのを確認してから康太は旋風の魔術を解除する。


鉄球が落下していき、障壁にぶつかっていくその拍子に、康太は鉄球に蓄積された魔術を解放していく。


さらに同時に康太は自分の腕にウィルを集めて巨大な拳へと変えると、落下しながら噴出の魔術を併用して思い切り地面を叩きつけた。


誤字報告を十件分受けたので三回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

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