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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
三十話「神の怒りは、人の恨みは」

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吠える

一人には槍を振るい足を斬り落とし、一人にはウィルの操る双剣笹船がその両肩に突き刺さり、一人には康太の蹴りが拡大動作によって威力を増して叩きつけられた。


それだけでは戦闘不能にはならなかっただろうが、即座に文の追撃が電撃となって降り注ぐ。


相変わらずいい援護だと、康太は三人の魔術師を横目に即座に加速を再開する。


どこかにいるその魔術師を探すため、自らがもつ探知能力を最大にまで引き上げているが未だそれらしい影は見つからない。


遮蔽物が続く中では探すのは難しいだろうかと思っていると、その遮蔽物から康太を取り囲むような形で大量の射撃系魔術が一斉に襲い掛かる。


康太は瞬時に上空へと退避し索敵を発動するも、近くに魔術師の姿はなかった。


長距離の操作を可能にする射撃系魔術。高い処理能力を持った魔術師が相手の中にもいるのだと判断し、康太はさらに上空へと逃げる。


定点発動型ではなく射撃系の魔術であるならば必ず弾道をたどれば魔術師のもとへとたどり着くはず。


上空から弾道の向きを確認しようとした瞬間、康太の姿が多くの魔術師に見つけられたのだろう、四方八方から射撃系の魔術が襲い掛かる。


複数の射撃系魔術が襲い掛かる中、康太の目は確実に変化する弾道を見極めていた。


弾幕をかいくぐりながら変化する弾道をたどり、魔術師のもとへとたどり着こうとするも、相手も弾道をたどられることを予想していたのだろう、複数の弾道を作り出すことで康太を翻弄しようとしているようだった。


この攻撃の厄介なところは『殺気』が感じられないことである。


射撃系の攻撃は距離が長くなればなるほど威力が減衰するものが多い。しかも途中で弾道を変えることができる術式であればなおのこと威力は減衰しやすい。


この魔術を放っている魔術師は康太の足止め、あるいは牽制のつもりで攻撃をしているのだ。


周囲に敵が多すぎるために特定も難しい。どうしたものかと考えていると周囲にいる味方が自分だけになっていることに気付く。


ふと見れば文と倉敷が味方の移動方向を誘導しているように見える。どうやら康太の戦いの邪魔にならないように味方をうまく別の場所に流しているようだった。


ありがたい。


康太はそう思いながら装備の一つを解放する。


見つけにくいのであれば、この周囲を更地にしてしまえばいいだけの話だ。


装甲のうちの一つ、その中に込められているのは無数の小型の鉄球だった。噴出の魔術によって射出された鉄球は弧を描きながら康太の下にある地面に降り注ぐ。


まんべんなく、雨のように降り注いだその鉄球が攻撃であると判断してほとんどの魔術師が防いだり避けたりしていた。鉄球そのものの攻撃で何人か倒せていればそれはそれで楽だったのだろうが、康太の目的は鉄球による相手の無差別攻撃ではない。


「まだ近くに居るやつ!離れてろよ!」


康太の叫びは味方に聞こえただろうか、聞こえていなかったとしても康太はあまり気にしない。


次の瞬間、熱蓄積と熱量転化のほぼ同時発動によって、落下した鉄球を中心に衝撃が周囲にまき散らされる。


雨のように降り注いだ鉄球が周辺を破壊していくさまは、絨毯爆撃のそれに近い。


アリスが作り出した地形すらも破壊しつくしていくその様は、康太の師匠である小百合のそれを彷彿とさせた。


ただの瓦礫となりはてた地形の中で、何人かの敵魔術師がうめく中、多くの魔術師が地形破壊への対処ができていたようで再び康太めがけて射撃攻撃が襲い掛かってくる。


やはりまんべんなく鉄球を配置したために倒す力そのものはあまりなくなってしまったようである。


だがこの辺りは康太も想定内だ。問題は周りを囲っていた障害物の一切がなくなったということである。


まだ微妙に丘のような地形が形成されているが、それも残骸によって作り出されたものだ。人の視界を大きく遮るようなものではない。特に上空にいる康太にとってはないに等しかった。


そして康太は衝撃によって破壊された地形の余波を受けて一瞬とはいえ途切れた射撃攻撃のおかげで、地上部分を観察し敵の位置を把握することができていた。


遮蔽物がなくなったおかげで敵の位置はほとんど見えている状態だ。敵を殲滅するにしても、探すにしてもこれくらいの方がわかりやすくていい。


小百合がむやみやたらに破壊を推奨するのもわかる気がするなと、康太は内心苦笑しながら空中で敵の位置を確認していると、それを見つけた。


その仮面を康太は知っていた。実物は見ていなかったが、文の記したそれによって知っていた。


肉眼ではほとんど見えないであろう距離にもかかわらず、康太はそれを見ていた。


その仮面を忘れるはずがなかった、忘れられるはずがなかった、その仮面を目に焼き付け、心にも刻み込んだのだから。


瞬間、康太の姿が変わる。


そして獣のような咆哮が空中に響き渡った。


空中に強い光源が発生し、多くの魔術師がそれを見た。空中に突如現れた光源がいったいなんであるのか理解できたものは数人しかいなかった。


「見つけたんだ」


文のつぶやきを聞いていたものは誰もいなかったが、その光源の発生の意味をほぼ完璧に理解していたのは文と、空中で隠れて様子をうかがっていたアリスだけだっただろう。


怒りによって康太はその体から強い電撃を発生させていた。人間だった頃の訓練が、人ならざる者になった今でも体と心に染みついてしまっていたのである。


怒りによって電撃の最大限を引き出せるようにしたが、自分の意思によって電撃を操れるようになってからは極限までの怒りを放つことはなかった。


だが今、復讐を果たすべき相手を見つけた康太は、その怒りと殺意を放ち吠える。


我を忘れるほどの怒りと殺意と、強力な光を放つ雷と同化した康太の姿は、今までのそれとも異なっていた。


側頭部から後方へ延びるような羽、そして襟足の部分から生えた尻尾のように長くなった髪、そして足は人間のそれとは違う、つま先とかかと部分にかぎ爪のようなものが作り出されていた。


もはや人間の姿とは言えず、電撃と同化したというよりは神として顕現したという表現が最も適切であろうとさえ思えるほどだった。


多くのものが康太の姿を見ている中、康太はもうすでにその仮面しか見えなくなっていた。すでに敵として認識し、もはや止まる理由などなく、攻撃する以外の選択肢が見えなくなっていた。


噴出の魔術によって加速し、康太は一直線にその魔術師にめがけて突進する。


相手も康太が近づいているということを察知したのだろう、即座に反応し攻撃魔術を放ってくる。


それは光の筋のような魔術だった。康太はその魔術を文から聞いて知っていた。だが今の康太は我を忘れた状態にある。この魔術を回避できるかどうかは正直微妙なところだった。


瞬間、康太の体に雷が落ちる。


その雷は康太の体を貫くと同時に、そのまま地面へと至る。


先ほどまで康太がいたその場所を光の筋が通りすぎるが、康太はすでにその場所にはいなかった。


康太は地上にいた。文の雷によって道を作られ、強制的に地面に降り立っていたのである。


その姿は先ほどまでの電撃同化、いや神化状態とでもいえばいいだろうか。それではなくなり、ただの魔術師の姿になっている。


電撃を用いた瞬間移動をした時、同化状態は解除される。その法則を利用して文は康太を正常な状態に戻そうとしたのだ。


結果、文の思い通りになったといえる。


冷静な判断ができない状態で勝てる相手ではない。文は一度戦ったことでそれを理解していた。


そして、自分が我を忘れていたという事実を思い知り、康太は苦笑しながらゆっくりと立ち上がる。


「サンキューベル。おかげで頭が冷えた」


僅かに電撃を体から放ちながら、康太は視線の先にいる魔術師を睨んで身をかがめる。


上空にいたはずの康太を相手は完全に見失っているようだった。


まだ相手との距離があるために索敵でも康太の姿を見つけられずにいるらしい。あるいは先ほどの光り輝く、形さえも変わるあの状態ではないからこそ見つけられないでいるのかもしれない。


どちらにせよ康太にとっては好都合だった。


もう温存する必要はない。


「いくぞ、デビット」


もうすでにいないかつての居候の名を呼び、康太は体の中から黒い瘴気を大量に噴出させる。


自分の周りには敵しかいない。この状態であればもはやⅮの慟哭を温存しておく必要もなかった。


周囲を瘴気が覆いつくしていく中、文と倉敷はその瘴気の中に身を投じていた。


康太が本気で戦おうとしているのであれば、それをフォローするのが自分たちの役目であるといわんばかりに、瘴気の中にいる敵の魔術師たちへと攻撃を仕掛けていく。


視界が急にふさがれるという状態に慣れていない魔術師たちは、数瞬遅れて索敵を発動するが、瘴気に慣れている文や倉敷は即座に行動を開始できていた。


康太が瘴気の発生源であることを把握している敵魔術師たちは、康太めがけて攻撃を仕掛けてくるが、その攻撃を文や倉敷が止める。


「ビー!行きなさい!」


「さっさと片づけて来い!こっちは蹴散らしておく!」


文と倉敷の言葉に、康太は笑う。頼もしい二人だと、心の底から思いながら康太はゆっくりと立ち上がり深呼吸する。


「ウィル、いけるな?」


康太の鎧になっているウィルは自分の腕を作り出すと親指を立てて問題ないという仕草をして見せる。


康太は周囲の魔術師から適度に魔力を吸い取っている。自前の貧弱な魔力供給に比べると膨大な量の魔力が康太の中に流れ込んできていた。


魔術を使わないとおそらく一分も経たずに康太の体内の貯蔵庫の許容量を超えて魔力超過による肉体損傷が始まってしまうだろう。


これがデビットの作り出した魔術の本領。これがあればかなり長い間本気で戦うことができる。


今までのように残存魔力を気にして加減をした状態で魔術を行使する必要はないと康太は体内の魔力を活性化させる。


自らの体から電撃を発生させ、もう一度、ゆっくりと深呼吸する。


絶対に逃がさない。絶対に許さない。


自らの中に存在する怒りと殺意を研ぎ澄ませ、視線の先にいる魔術師だけに向ける。


「いくぞ・・・!」


その言葉は誰に向けられたものであるのか、康太自身か、それとも敵か、あるいはウィルか。はたまた、もうすでにいない、デビットか。


その言葉に呼応するかのように、康太の体から放たれる電撃がより一層強くなり、康太の体を電撃と同化させていく。


噴出の魔術を発動し、空中へと躍り出ると、康太は一直線に敵の魔術師めがけて襲い掛かる。


相手も康太の姿を索敵によって発見したのか、再び光の筋の魔術を放ってきていた。

一直線に進むその攻撃を確認して、康太は目を細める。


確かに速い。文では避けることは難しいだろう。


だが康太ならば避けられるレベルだ。康太は噴出の魔術や再現の魔術を駆使して空中を自由自在に飛び回り、光の筋の魔術をいともたやすく回避していた。


強い攻撃も当たらなければ意味がない。小百合の教えが今まさに康太を後押ししていた。


日曜日なので二回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

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