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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
三十話「神の怒りは、人の恨みは」

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さすがのやり取り

「んー・・・どうしようかな。正直どっちでもいいかもしれない」


「そうなの?乗り気なように見えたけど」


感覚的な話だが、文からすれば康太は今回の提案を否定的には感じていないように見えた。少なくとも嫌がってはいない。そう感じられたのだ。


だからこそこの回答は少し意外だった。支部長の力になるということは康太に対してもメリットは大きいはず。少なくとも断るだけの理由を見出すのは難しかった。


「うん、ぶっちゃけいろいろメリットとか考えたらさ、その話は受けておいて損はないと思うんだわ。その分忙しくなるとは思うけど。けど今まで一気に活動しまくってたから少し休みが欲しいっていうのもあるんだよ」


「休み・・・まぁそうかもしれないわね。あんたって魔術師になってからずっと活動しっぱなしなんでしょ?修業に依頼に、休みなんてあったの?」


「師匠が気乗りしない日とかは割と休みになった気がする。けど本当に偶にだな。年末年始も一応は休めた・・・のか?」


康太としても自分が最後にいつ休んだのかを覚えていない程度には毎日忙しく過ごしていたらしい。


もう少し自分に甘く過ごせばいいものを、康太はそういったことができないのだ。


自分を鍛えることに関して、康太はかなり意欲的だ。もとより陸上部という自分を鍛えることに終始するスポーツをやっているのだから仕方のない話なのかもしれない。


「たまには一週間くらいドカッと休みを取ってもいいかなって思うんだよ。だからその休みが終わったら考えるかな」


「ドカッととる休みが一週間ってどうなのよ?一カ月とか・・・その気になったら半年くらいとってもいいんじゃないの?」


「いやさすがにそれだけ休むと体が鈍る。間違いなく弱くなる。それはちょっとな」


康太が今まで強さを維持できたのも、そして常に強くなり続けることができたのも、休みを全く与えずに訓練をし続けた結果といえるだろう。


肉体に必要な休養などは魔術によって癒すことで代用しているのだから、通常の人間よりもはるかに強くなるのが早くても不思議はない。


康太の場合は周囲の環境がよかったのも理由の一つであるが。


康太の魔術師としての目的を考えると、自身の戦闘能力が下がるのは許容できない。そのため長く休みを取るといっても一週間程度が限度だと康太は見積もっていた。


「ちなみに一週間の根拠は?」


「昔部活を一週間出れなかった時、週明けものすごく体が重くなったから。たぶん一週間ダラダラしてたせいで体の動かし方を一時的に忘れたんだと思う」


そんなことあるのだろうかと思いながらも、文も似たような経験はある。勉強などと同じかそれ以上に、体というのは動かさなくなればその分動き方を忘れる。些細なことかもしれないし、人によっては大したことではないかもしれないが、康太にとって継続こそ力なりという絶対的な確信があるためこればかりは譲れないようだった。


「まぁ一週間程度でいいっていうならそれでもいいわ。その時は思い切り遊ぶか、だらだらしてましょ」


「そうだな。何しようかな。また遊園地にでも行くか?」


「いいんじゃない?旅行に行くのだっていいし、遊びに行くのだっていいし、何でもできるわよ」


「学校がなければなぁ」


「それは言わないの。私たちはあくまで学生なんだから、仕方ないでしょ」


康太の言うように学校がなければ一週間あればどこにでも行けるし何でもできる。それこそ世界の反対側にだって行けるし、旅行も遊びも思うがままだ。


とはいえ、文の言うことも間違いではない。康太たちはあくまで学生だ。学校に行くことこそが主目的である。


「魔術師なんだからそのあたり誤魔化してもいいんじゃないのか?」


「誤魔化してもいいけどその分辛くなるのは自分よ?そのあたりの覚悟ができているならご自由に」


「将来のことなんて知らんよ・・・何すればいいんだよ。警察官にでもなれってか?それともいっそ自衛官にでもなるか?あるいは暗示の魔術を駆使して営業にでもなるか」


「あんたそこまで暗示得意じゃないでしょ?」


「練習的な意味も含めて。まぁあんまりやりすぎるとばれるか」


暗示に限らず、人の感性などを操る魔術は対人でしか訓練ができない。しかも同じ魔術師ではなく一般人を相手にしなければいけないのだから面倒くさい。


そういう意味では営業職というのは暗示の魔術を使い放題だ。無論それだけの技術を磨かなければあまり意味はないが。


「遠い将来のことよりも今とこれからのことを考えなさいよ」


そんなことを言いながら文は自分の体を強く康太に押し付ける。どうせなら別のことも考えてほしいとでもいうかのように、文は自らの体を強く強調していく。


「文さんや、思い切り押し付けられると・・・その」


「なに?何か文句でも?」


康太の上に乗っている時点で体を押し付ける体勢なのは変わらない。


擦りつけるように、押し付けるように体を動かす文に、康太はむず痒いのかそれとも恥ずかしいのか、わずかに顔を赤くしていた。


当然文はそれ以上に顔が赤いのだが。


「ふふん、私はあんたの婚約者なんでしょ?ならいいんじゃないの?」


「・・・お前の親にまた会う時に子供ができましたとか宣言するのはさすがにな・・・そういうのは順序を守ってだろ」


意外と康太は硬派なのだなと思いながら、文は笑みを浮かべる。自分のことを真剣に考えてくれているというのはうれしいものだと、再認識してしまう。















決戦前日、康太たちは支部長の部屋へと集められていた。集まっているのは康太、文、アリス、倉敷、そして小百合と春奈、アマネ、そして協会専属の魔術師の中でも選りすぐりの戦闘能力を持つ魔術師たちだった。


この場に集められた者たちが、高い戦闘能力を有していること、そして全員が今回の作戦においては戦闘班に所属していることが共通点となる。


小百合の関係者が圧倒的に多いのはある意味仕方がないといえるのだろう。小百合はこんな場所に呼ばれたことに苛立ちを覚えている。もっともその苛立ちの大半以上が同じ空間にアマネがいるということが原因なのだが。


「集まってくれてありがとう。特にクラリス、来てくれるとは思っていなかったよ」


「この馬鹿どもに引きずられなければこんなところになんて来ない。しかもなんでこいつまでいる・・・」


「邪険にしないでよクラリス。今回ばかりは協力し合わないと大変だってわかっているだろう?」


「死ね」


「はっはっは、辛辣!」


相変わらず小百合の物言いに全く動じないアマネに対して康太たちは少し眉を顰めるが、支部長はそんな二人を見て少し安心しているようだった。


そんな中、いつまでも茶番を見ているつもりはないのか、春奈が前に出て口を開いた。


「それで、私たちを・・・というより戦闘班を集めた理由はなんだ?いろいろと準備をしたい者だっていただろう。それをやめさせてまでこの場に呼んだんだ。意味がないとは言わせないぞ」


春奈としてもいろいろと準備、あるいは精神統一などをしたかったのだろう。このような緊張を強いられるような場所に集められて少し機嫌が悪そうである。


「うん・・・それじゃあ話をしようか・・・今回君たちには四カ所に散らばって攻略を行ってもらうわけなんだけれども・・・まず第一に、アリシア・メリノス」


「なんだ?」


「君の行動を確認しておきたいと思ってね。君は今回どのように動くつもりなんだい?」


「・・・私はビーとともに行く。それ以外の支援は期待してないでもらおう」


「それは戦力としても、特殊技能としても、と考えていいのかな?」


「そうだ。これはビーとも話し合ったことだが、私は今回ビーに同行する以外の行動をとるつもりはない。ビーたちの翻訳程度はしてやるが、それ以上のことはしない」


アリスの力を多少なりとも期待していた支部長からすればこの発言はあまり好ましいものではなかった。


アリスの力をもってすれば状況をひっくり返すことくらいは容易にできる。それだけの戦力が最初から期待できないというのは、はっきり言ってかなりの痛手だった。


とはいえ、すでに康太と話し合い、二人の間で決着がついているというのであればこれ以上支部長が何を言ったところで無駄だ。


長年面倒な人種とかかわり続けてきた支部長は何となくそのことを理解していた。


「わかった、そういうことであれば僕としては何も言うことはない。君は、ブライトビーが心配なのかな?」


「それもある。あともう一つは・・・私の個人的な理由だ」


これ以上いうつもりはないとアリスは視線を伏せながら支部長にそういい放つ。一介の魔術師でありながら支部長に対してこれほどの物言いができるのは数限られる。


最近アリスの存在が表に出てきた中で、アリスの実態を知らないものからすれば失礼な物言いをする子供だと思う者もいただろう。


だが、この場においてはそういった者は少ない。アリスの立ち振る舞い、そして体に内包された魔力やその気配から、アリスがただものではないと感じるものがほとんどだった。


「では次に・・・クラリス」


「なんだ」


「君が向かおうとしている中国なんだけどね・・・中国支部側からの伝達があったから伝えておく。当日、当該区域で大規模な地震を発生させる予定である。多少の大きな損害は覆い隠すことは可能である・・・とのことだよ」


大規模な地震を起こす。それがどのようなことを意味するのか康太にだってわかる。そしてその場にいた多くの魔術師たちが理解した。


小百合が暴れた時、隠蔽が難しくなる可能性があるために自然災害を装うことで魔術による戦闘痕を誤魔化そうとしているのだ。


どの程度の規模の地震になるかはわからない。だが魔術師たちが総出になって発動すれば、おそらくかなり大きな地震を引き起こすことができるだろう。


当然、その被害もかなりのものになると予想される。魔術の隠蔽こそが最大の目的とはいえ、自国の人々に被害を出してまでそんなことをする中国支部にその場にいた魔術師がわずかな違和感を覚えていた。


「・・・ほほう。それはいい。大いに八つ当たりができそうだな」


「ついに本音が出たね。そんなことだろうと思ったよ・・・」


「だが、よく中国支部からそれほどまでの譲歩を引き出したな。どうせお前の根回しだろう?」


「よくわかったね。前回中国支部内でいろいろあったからね。多少身を切ってでも潔白を証明したほうがいいんじゃないかと提案させてもらっただけの話だよ。君を投入する以上、あの場所の壊滅は決定だからね」


「なるほど、身を切ることを演出させたということか・・・相変わらずえげつない方法をとる」


中国支部は最近何かと面倒ごとを内に抱えることが多い。そのため魔術協会全体から不信感にも似た視線を向けられることが多いらしい。


そこで支部長は自分から壊滅に追いやるような方法をとることで、身の潔白を証明させようとしたのだろう。


小百合という劇薬を受け入れ、なおかつそれを補助するような動きをしたことで、魔術協会の中での立場を確立したかったというところだろうか。


そしてその結論を引き出した支部長もさすがというべきだろうか。小百合の言うようにえげつない方法だ。直接話術によってその結論へと導いたのか、あるいは多方向から圧力をかけることでそうせざるを得ない状況にさせたのか、あるいはそのどちらもか、またはそれ以外の何かか。


どちらにせよ、支部長もただ振り回されるだけではないということだろう。その声には自信に満ちたものが感じられる。


伊達に支部長をやっていないということだろう。


日曜日なので二回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

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