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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
三十話「神の怒りは、人の恨みは」

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教えてアリス先生 癒し編

「というわけなんだけど、どうすればいいかしら」


文はさっそくアリスに電話して助言をもらおうと事情を話していた。

どうすれば康太を癒すことができるのか。どうすれば康太の精神を癒してやることができるのか、文は真面目に相談した。


まじめに話したからか、電話の向こう側で相槌を打つアリスの声も真剣だ。そして少し悩んでからアリスは小さくよしとつぶやいてから文に答える。


『ふむ。短時間でなおかつ簡単にできる方法としては答えは一つだ。やれ』


その答えに文は電話越しながらアリスを殴りたくなる衝動にかられた。何をやるのか、どうやるのか、そんなことがわからないほど文は子供ではなく、察しが悪くもなかった。


「アリス、あんたバカじゃないの?」


『古来より男というのは下半身でしかものを考えられんと言われてきた。どんな男もやってしまえば多少精神体な面で回復するのだよ』


「・・・本気で言ってる?」


『まぁ半分はな。とはいえ、今のコータの精神状態でお前を抱くほどの余裕があるとも思えん。だからこそ、私はお前に無理にそれをしろとは言わん。お前が猛烈にやりたいというのであれば止めんがな』


康太がただ落ち込んでいる状態だったとしても。康太が怒っている時だったとしても、女を抱いた程度で回復するような精神状態だったのならそもそもここまで情緒不安定になることもなかっただろう。


康太の精神状態を回復するためにはそのような程度のことではだめなのだ。


文としても康太に抱かれたいのは事実だが、こういった状況でそういうことをされたいのではない。


もっとムードが欲しいとか、康太に強引に求められたいとかそういう考えはあるが、それはいまではないのだ。


『だがフミよ、性交というのは単に子をなすというだけではない。肌と肌、誰かの体温を感じるというのは強い安心感を与える。たた抱き合っているだけでも、効果は多少なりともある』


「・・・多少だけ?」


『ドカンといきなり精神を改善したいというのであれば洗脳でもしたほうが早いの。先に言った性交とて、精神安定としては失敗する可能性だってあるのだ。そうすると完璧に逆効果だの』


「失敗?」


『男というのはな、やりたいと思っても臨戦態勢にならんことがあるのだ。安定した精神状態でないとき、極度の緊張状態にあるときなどがこれに該当する。今後のためにも覚えておくがよいぞ』


男でない文には理解できないことだが、文はそんなこともあるのかと頭の中に入れておくことにする。


アリスの言うことを真実だとするならば、今の康太にはそういったことをしようとしても失敗する可能性が非常に高いということだろう。


「じゃあどうするのがいいっての?」


『言っただろう?ただ抱き合っているだけでも相手に安心を与えることはできるということだ。コータは今、おそらく非常に不安定な状態になっておる。敵を殺すことに意識を集中し始めていることだろう。だが、それではいかんのだ』


アリスが何を言わんとしているのか、文には分らなかった。


『よいかフミ、何か一つを強く求めすぎるとな、人は人ではなくなってしまうのだ。あ奴の場合はすでに人をやめている。これからさらに人をやめてしまえば、あいつがどうなるのか私にもわからん』


「・・・存在できなくなるってこと?」


以前アリスは、康太が人と神との中間、所謂半神半人状態であるといっていた。そしてそのバランスが崩れれば存在ごと消滅する可能性もあり得ると。


文の問いに、アリスは否定しなかった。


『一つのものだけを見ていれば、それをこなすためにすべての力を注げるだろう。だがな、それを成した時、果たして同じ状態を維持できるかはわからん。今と同じ状態でいられる保証はない』


アリスは今回の依頼の後のことを考えているようだった。


仮に康太が幸彦の敵を討ったとして、その後、今と同じような康太がこの場所に存在しているかどうか。


『だからこそ、一つのこと以外にも目を向けさせなければいかんのだ。お前が繋ぎ止めろ。あの時、間違いなくコータは消えそうだった。だがお前の呼びかけが、コータをこちら側に繋ぎ止めた』


文は別に特別なことをしたつもりはない。アリスの言葉に従って康太の名を呼び続けただけだ。


だが、アリスからすればそれこそが、康太をこの世界に繋ぎ止める唯一の方策であると確信していた。


「他に何か、やることとか、やらなきゃいけないことを考えさせろってこと?」


『それもある。そういう方法があるのも事実だ。あとはそうだな・・・お前自身が、康太の中に強く残る何かを与えられればいいのだ』


「そんなの、どうやって」


『だから一番手っ取り早い方法がやれということなのだよ。失敗のリスクを鑑みても、それだけの行為は相手に強く印象を残す』


「・・・まじめに勧めてたことにびっくりだわ」


『何を言う、私はいつだって真面目だ』


アリスの発言は決して面白半分で言っていたわけではないらしい。


だとしてもやれというのはあまりにも短絡的すぎる。いい方法はないものだろうかと文は悩むが、そう簡単に思いつかないからこそ悩んでいるのだった。


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