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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
三十話「神の怒りは、人の恨みは」

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癒し

支部長からの説明を終え、康太と文は一度自分たちの拠点に戻っていた。


装備の最終確認を含めて、少しは休息したほうがいいと思ったのである。

康太は着々と装備の点検を終えていく。


一つ一つの武器に殺意が込められており、今回は今までのそれ以上に攻撃性を秘めた装備となりそうだった。


文もまた同じように武器の点検を行っている。康太ほどではないが、文もいくつか武器の類を用意していくつもりだった。


康太ほどの殺傷能力を得られるかは微妙なところだが、ないよりはまし程度の認識でいくつか道具をもっていく。


多少重量が重くなる程度では文の戦闘能力は下がらない。ただ懸念することとして、今回の敵の中に高速の高い貫通能力を持った射撃系攻撃を使うものがいるということだ。


回避能力が康太ほど高くはない文からすれば、この回避は容易ではない。それこそ康太の足を引っ張る可能性を考えると、装備関係は序盤から中盤、康太の露払いをしている段階で使いつくすべきだとも考えていた。


「康太、どう?」


「準備は終わったよ。これだけあれば十分だろ」


部屋に並べられた装備の数々。装甲とその中に設置された鉄球。僅かに棘の返しがついた鉄の杭、ワイヤーやナイフ、巨大な杭など、今まで康太が使ってきた武器や道具の類が所狭しとそこにあった。


当然その中には康太の愛用する武器、組み立て式の槍『竹箒改』と、双剣『笹船』もあった。


防具らしい防具が鉄球を入れるための装甲しかないのは康太らしいというべきか。しかもこの装甲も、中身である鉄球を射出してしまえば切り捨てるのだから恐ろしいところである。


防御を考えない。回避しか考えていないのは恐ろしい。それは味方としての意見でもあり、敵としての意見でもある。


防御してくれるのならまだ相手のリソースを削ることができる。だがそれすらもしてくれないのは本当につらいのだ。


さらに高速で移動し続けるため見失いやすい。康太の戦い方は本当に対魔術師に特化したそれになりつつある。


もっとも、一般人相手に康太が本気で戦えば同じような結果を得られるわけだが。


「とりあえず少し休憩にしましょ。コーヒーでいい?」


「あぁ。砂糖とミルクありで」


「はいはい。砂糖は二つね」


いつもの康太の好みを告げながら、文は台所に向かってコーヒーを淹れ始める。自分といる時は康太の声が少し柔らかくなるも、今康太は装備の方に鋭い眼光を向けている。


あまり良い傾向ではないなと思いながらも、これ以上どうすればいいのかと考えて倉敷の言葉を思い出す。


癒せればいいのだろうか、自分で癒すことができるのだろうかと。


そもそも癒すとは何なのか。文は自問自答し始める。


他人に癒しを与えたことなどない。意図的に誰かを癒してやりたいなどと考えたこともなかった。


癒される。どんな時に自分なら癒されるだろうかと考えた時、文は康太のにおいの付いたタオルを嗅いだ時のことを思い出す。


まだ康太と結ばれる前、康太に思いを寄せていた時のこと。アリスに押し付けられたタオルから感じた康太のにおい。


あの時、何か満たされるものがあったのを覚えている。


あれが癒しなのだろうかと考えて、文は自らそれを否定する。


康太がどんなことをすれば癒されるのか。荒んだ康太の心をどのようにすれば癒してやれるのか。

文は考えて、考えて、ふと思いつく。


ここはアリスに助言を乞うべきではないかと。


十七年程度しか生きていない小娘では思いつかなくとも、アリスという何百年も生きた魔女に聞けばよい意見が聞けるのではないかと。


とはいえこれは危険でもある。アリスは面白がって物事を進める節がある。


だが真面目な相談であればしっかりと悩みの解決に向かっていいアイディアをくれるのもまた事実だ。

文は康太にコーヒーをもっていったあと、アリスへと電話をかけることにした。


「はい、少し休憩しましょ。あとは決行日を待つだけなんだし」


「そうだな。たまにはのんびりするか」


普段において修業や依頼など、日常生活以外にもやることが目白押しの康太たちだが、こうして依頼に備えるわずかな時間は体と心を休めるいい機会である。


特に今回のように重要なことがわかっている状態ではなおさらだ。


「ちょっと待ってて、アリスに電話してくる」


「ん、なんか用事か?」


「えぇ、翻訳とかに関してちょっとお願いがあってね。一緒に動いてもらうと思うけど・・・」


今回も例によってアリスに翻訳をお願いしている。それ以外の頼みはないのかとアリスに嫌味を言われたが、それ以上の頼みをするのは少し申し訳ないように思ったのが原因だ。


アリスも幸彦に世話になったために、作戦に参加することはやぶさかではなかったのだが、そういうわけにもいかないというのが康太たちの考えだった。


とはいえこれから電話するその理由は今回の作戦とは全く関係ないわけなのだが。


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