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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
三十話「神の怒りは、人の恨みは」

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未来予知の欠点

「永住さん、私たちが戦闘するまでの情報を詳細に教えてもらってもいいでしょうか?その未来から外れないようにしたいと思いますので」


「わかった、細かく記していこう・・・彼も知っておいたほうがいいのでは?」


文が永住に話しかけている今この時、すでに康太は周りの話が聞こえないほどの集中を高めていた。


自らの奥底に封じ込めた殺意を、その魔術師だけに注ぐことができるように。自分が抱く敵意を、すべてこの魔術師にぶつけることができるように。


「康太は戦うのが仕事です。私の仕事は康太をそこに、万全の状態で連れていくこと。余計なことは私が担当します」


「・・・そうか。わかった、情報についてはすべて君に任せよう。だが・・・結末を見なくてもいいのかい?」


「見る必要はない・・・と言いたいところですが・・・見ておきたいのが正直なところです。万が一康太が負けるような未来があった場合・・・私たちも戦闘に参加する必要が出てくるかもしれません」


文が求めているのは康太の勝利だ。その結果相手が死のうと生きようとどうでもいい事。康太が無事でいることが文にとっての勝利条件なのだ。


「康太が死ぬ未来が見えないのであれば、私としては安心できます・・・戦闘中の様子も見てほしいですけど・・・あまり細かく見すぎると、その行動に沿わなかった時に焦ると思うので」


「余計な情報は不必要に入れないほうがいい・・・ということかな。わかった。では一つだけ、二週間後か・・・いや、一カ月後にしようか。その時の君たちの様子を見ておくことにしよう。そうすれば彼が無事かどうかがわかるだろう」


「ありがたいですけど・・・そんな遠くの未来が見えるんですか?」


「一カ月後となれば、正直かなり不確定な未来となる。ぶれもあるが一種の判断材料にはなるだろう」


そういいながら永住が未来を読み取ると、そこには問題なく生活する康太の姿があった。

どうやら康太はこの戦いで死ぬようなことはないようだった。


「うん、彼は無事だ。だが・・・わかっているとは思うが」


「えぇ、この未来は確定したものではない。どうなるかもわからない。仮に今見た未来で康太が無事でも・・・次見る未来で康太が無事とは限らない」


「予知の欠点をよく理解しているな。その通り。あくまで参考程度にしておくことだ。この情報もまた、最低限知るべきことのみにしておくべきだろう」


文が知りたかった情報は、目的地までの移動手段。そして攻め込む時間とその方向。


攻め込むタイミングや場所がずれれば、それだけですれ違いになる可能性は大きくなる。


敵がいるタイミングを計って行動を開始しなければ厄介なことになるのは間違いなかった。


「永住さんの予知は、正確な時間までわかるんですか?」


「遠すぎるとだいぶ感覚的に怪しくなる・・・けれど十日程度なら正確な時間を割り出すことは可能だ」


遠い未来を読み取ることに関していえば、永住は間違いなく土御門の中でもトップクラスの実力を誇るのだろう。


康太たちが、そして文が何を求めているのかを正確に理解し、永住はその情報を紙に記し続けた。


「ただし、気を付ける点がある。未来予知の欠点、君も気づいている通りだと思うが」


「未来を知ることそのものが、未来を変える要因になるってことですよね?」


未来を知れば、当然未来に起きる物事を元に行動するようになる。


転ぶという未来を見れば当然それを回避しようとするように、未来に特定の事象があったとして、それに向かおうとするその行動そのものが未来を変える要因になってしまう。


何も知らない状態で進むのと、道しるべを持った状態で進むのとでは行動そのものが変わるのと同じだ。

偶然到達するか、必然的に到達するか、あるいは到達できないか。


ただの道ならばまだいい。だが未来とは時間的に先にあるものだ。目的地にただ盲目的に進めばたどり着くというものではない。


「その通りだ。一人二人程度ならば、大きな流れを変えるには至らない。だが大勢の人間が未来を知った時、流れは大きく覆ることもある。だからこの情報は」


「えぇ、私が記憶したら、あとはほかの人間には伝えません。そうしないと何が起きるかわからない未来になりますから」


未来の情報を知るものは少しでいるべき。無論文も本当であれば詳細は知るべきではないのかもしれない。


未来の情報は得られるだけで大きな価値があるが、同時にそれを知ることによって大きな危険も伴う。


文はそれを理解しているからこそ、永住が書き記すそれを読み終え、すべてを頭の中にしまい込んでいくと書き記された紙を魔術で燃やした。


これで未来の情報を知るものは、文と永住だけとなる。


あとは文がうまく未来へと誘導できるかどうかにかかっているということでもある。


「ありがとうございました永住さん。全部終わったら、また改めてお礼に伺います」


「その必要はない。これは依頼だ。報酬もすでにもらっている。礼を言う必要はない」


「それでもです。私たちにとって、これはとても重要な情報でした。ありがとうございます」


情報とは時に物資よりも重要な役割を持つ。


現在の情報でさえも、時として大きな金額が動く中、康太たちは未来の情報を手に入れた。


喉から手が出るほどに欲した、目的とする魔術師の居場所を。


十日後、ロシア。詳しい時間と場所を知った康太と文は動き出す。


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