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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
三十話「神の怒りは、人の恨みは」

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未来の戦いを

「思い切り警戒されてたわね」


土御門の間にそんなやり取りがあったと知らずとも、文は土御門の面々、特に永住が康太に強い警戒心を持っていたことに気付いていた。


正確に言えば警戒というにはまだ至らないような段階かもしれないが、少なくとも康太のすべてを信用しているような段階ではないと考えていた。


「まぁ仕方ないんじゃないか?こいつらを預かってるとはいえ、俺って結構きな臭い人間だし。きな臭いっていうか血生臭いっていうべきか?」


自分でそんなことを言っていては世話ないなと文はため息をつく。


康太の協会内での噂や実績を考えれば相手が警戒心を抱くのも無理のない話だ。強い人間というのはそれだけ相手に対して力を振るうことができてしまう。


被害を受けないように最低限の予防線を張るのは決して無駄ではない。土御門にとっての予防線が、先の同盟の話であり、永住が個人的な報酬としてそれを持ち出したのもその一端なのだろうと文は考えていた。


「とにかく、土御門と同盟を組んだなら、この二人ともいろいろな意味で関係を考えていかなきゃいけないんじゃない?」


不意に話を振られた双子は自分たちとの関係がいったいどのように変化するのだろうかと不思議そうに首をかしげていた。


「そうだな・・・俺と同盟を組んだからには今のままの訓練じゃちょっと困るな。もうちょっと厳しめに」


「いやいやいや、俺らだけの問題じゃないじゃないですか。これは家全体の問題なんですから」


「そうですよ。私たちは今でも十分厳しい訓練をこなしていますよ」


康太が訓練について口に出した瞬間、双子は勢い良く否定にかかる。そこまで強く否定する必要があるかと思えるほどに突っかかってくる。


康太からすればまだまだ甘いほうなのだが、やはり温室育ちの二人にとってはなかなか厳しい訓練であるらしい。


「でもさ、今後お前らが土御門の中核になっていくだろ?その時にも俺と同盟を組んでたら・・・たぶんお前らにいろいろ手伝ってもらうぞ?もちろん俺もお前らの手伝いをするけど、そういう時いろいろ困るだろ?」


「先輩の強さは別格ですよ。そう易々と手伝ってもらえるものじゃないのは理解してます。うちの人間がそれをわかってるかどうかはさておいて」


「先輩が出た時点で私たちの出番はほぼなくなります。後詰とかそのレベルですよ?」


「そのままじゃ困るんだよ。俺と肩を並べるくらいになってくれないとさ」


康太の物言いに双子はあまり納得していないようだった。康太と同じくらいの強さになれるという明確なビジョンがないのだろう。


というか康太の強さに近づけるという確証とでもいえばいいだろうか、そういったものが欠如してしまっているのだ。


強くなれると誰かから言われても、それが何の確証もないただの妄言であれば信用することなどできるはずもない。


文と同じくらいの素質を持ち、なおかつ予知という強力な魔術を覚えているのだからそのくらいできるだろうと康太は考えているのだが、どうやら双子はそう考えていないようだった。


「現に少しずつだけど強くなってるじゃないか。このまま訓練を継続していけば間違いなく強くなれるって。俺なんて中学まではただのパンピーだったんだぞ?」


康太が中学の卒業間際で魔術師になったという話は土御門の二人も知っている。


血のにじむような、というか普通に血が流れ出るような努力をして強くなったということも知っているし、多くの実戦を重ねたことによってその強さを得たということも知っている。


康太はこの場にいる全員の中で最も貧弱な素質をしている。そういう意味では最も弱い部類にいる魔術師だ。


経験年数、素質、所有している魔術の数、使える属性など、おそらくどの分野でも康太より文や土御門の双子の方が勝っている。


だが、こと戦闘能力に関しては康太に軍配が上がる。これは康太がそのための努力しかしてこなかったのが大きな原因となっている。


同じ努力をすれば大抵の人間は康太と同じかそれ以上に強くなることができるのだと康太は身をもって知っている。


才能に恵まれなかった康太がここまで強くなれているのがその証明なのだから。


「でも先輩はいろいろ妙なのを連れてるじゃないですか?俺らそういうのいませんし」


「そうですよ。魔力吸ったり軟体の妙な生き物もいませんから」


「まぁそれはそうだけど・・・」


確かに康太は普通の魔術師がもっていない特殊な魔術や物体を所有している。封印指定百七十二号の力に加え、ウィルに協力してもらうことで鎧にも武器にも、場合によっては分身だってできるようになる。


そういったことを普通の魔術師は行えない。そういう意味では康太だけの特別ということにもなるだろうが、康太はそれらがなくとも普通に強い。もちろんそれらがあればさらに強いことは言うまでもない。


そのことを言い出されてしまうと康太としては反論しにくかった。康太の強さが努力の上に成り立つものといえど、運の要素や努力以外によって手に入れたものがあるのも事実だ。


倉敷とは別の意味で自信がない土御門の二人に対して、どのように自信をつけさせたらいいのだろうかと、康太と文は悩んでしまう。


やはり康太たちのもとから離れて普通の魔術師たちと行動させるのが一番いいのだろうかと考えていた。


「でも今回の話し合いのおかげで、あんたたちも主動で活動することができるようになると思うわ。最初は誰かと同伴って形になるでしょうけど、それでも十分に進歩はあるはずよ」


「今まで自分たちだけで行動したことって何気になかっただろ?そういう意味ではいい経験になると思うぞ。いろいろ考えて行動するって大事だし。最初は倉敷と一緒に行動させるのがいいんじゃないか?」


晴と明は倉敷の戦い方を知っている。後方支援に徹していた時、そして中国に行った時も倉敷とともに行動していたのだ。


精霊術師という存在の先入観を一変させるには、倉敷の存在は十分すぎた。


下手すれば自分たちが二人がかりでも勝つことが難しいのではないかと思えるほどの戦闘能力を見せつけられた二人からすれば、倉敷が同行してくれるというのは確かに心強い。


「最初ってことは、徐々に誰もついてこなくなるってことですよね」


「そりゃそうだ。せっかく自分たちだけで動けるようにお願いしたんだから。もちろんどっかの誰かと徒党を組みたいっていうならそれはそれでいいと思うぞ?魔術師として活動するうえでの処世術だ」


康太だって一人で魔術師として活動しているわけではない。文や倉敷、そしてほかにも何人かの魔術師と協力関係や契約関係にある。


身内だけではなく、他の魔術師とも交流を持つのも悪いことではない。


だが康太が言うとあまりに説得力がないのはなぜだろうかと双子は内心思っていた。


「まぁ、康太が言うと説得力ないけど、私たちについて回るだけじゃ協会の内部事情だって分からないだろうし、何よりもったいないわ。自分で考えて行動するっていうことだけは覚えておきなさい。必要なら支部長に依頼を斡旋してもらうことだってできるんだから」


きっと支部長は困るだろうけどと付け足しながら文は笑う。確かに支部長は困るだろう。いくら主動的に動ける依頼を用意しなければならないとはいえ、相変わらず土御門の家と魔術協会との組織的な関係は続いているのだ。


万が一があったら。


そう考えた時、慎重になってしまうのは仕方のない話だろう。


「ちなみに、今度の・・・その・・・先輩らの戦いには、俺たちはついていっていいんですか?」


今度の戦いというその言葉の意味を、康太と文はよく理解していた。


だからこそ、二人とも同時に首を横に振る。


「ついてきてほしいっていうのが正直なところではあるけどな。わからないことが多いし、予知を使えるお前らがいてくれるのは頼もしい。でもダメだ」


「それは俺らが足手まといだからですか?」


「それもある。けどあれだ、今回のこれに関しては、俺は魔術協会側からの依頼とかそういうのじゃなく勝手に動いてるようなものだからな・・・無関係なお前らを連れまわすわけにはいかない」


晴と明はあくまで協会に出向している立場だ。一時的にではあるが協会に所属している。所属としては支部長の直轄という立場になるだろう。


そんな人間を敵討ちという私情しかないような行動に付き合わせるわけにはいかない。


何より、康太は件の魔術師を殺すつもりだ。まだ魔術師としてまともに行動すらしていない双子にそのような場面を見せるわけにもいかなかった。


「先輩たちと・・・倉敷先輩も行くんですよね?」


「あぁ、あいつは俺たちに協力してくれる。頼もしい限りだよ」


倉敷は一緒に行けるが自分たちは連れて行ってもらえない。それが今の実力のせいなのだと、双子も理解はしていた。


自分の未熟さについて言い訳をするつもりはなかった。努力はしてきても、康太や倉敷がしている努力とは違う。


方向性もそうだし、その密度も濃度も違いすぎる。


今までの努力が間違っていたとは言わないが、それでもまだ努力が足りないのだとこういう時強く思い知らされていた。


「でもそうね・・・今回の戦闘ではだめだけど、その次は連れて行ってもいいかもしれないわね」


「次?」


「そう、今後今協会と敵対関係にある組織を殲滅する作戦が出てくると思うわ。そういう作戦はたぶん総力戦になる。その時はあんたたちの力を借りるかもしれない」


「私たち出られるんですか?」


「支部長は嫌な顔をするでしょうけど、出られると思うわ。それだけの力をあんたたちは持ってるもの」


総力戦ともなれば戦闘が行える魔術師のほとんどが出撃することになるだろう。


当然土御門の双子も戦力にカウントされる可能性が高い。とはいえ文も言ったように支部長は嫌な顔をするだろうが。


大勢での戦いを行う中で、予知の魔術の有用性は高い。それこそ戦局を左右するには十分すぎる性能を持っている。


組織間の安定を望むのも間違ってはいないが、組織そのものの人材を守るためにも、組織そのものに勝利をもたらすためにも、使える戦力を遊ばせておけるだけの余裕がないのも事実だった。


「その時は俺らか・・・あるいは師匠か、別の誰かと一緒に行動することになるだろうから、今の内に慣れておけよ?」


「うえぇ・・・小百合さんと一緒は・・・ちょっと」


「何されるかわからないですよね・・・?」


「大丈夫だよ、せいぜい露払いを頼まれるくらいだ。そのくらいならお前たちにでもできる」


露払いとはつまり小百合が戦う気にならない連中を倒していくということだ。


そんなことができるのだろうかと土御門の双子は顔を見合わせて不安そうな表情をしていた。


康太たちが客間でそんなことを話していると、ノックされた後に襖が開き、永住がやってきた。


襖をノックするというのはどうなんだろうかと思いながら、康太たちは客間の中に入ってくる永住の方に視線を向ける。


「すまない、待たせただろうか」


「いいえ、気にしないでください。何せ急な話でしたから」


永住は何枚ものコピー用紙のような何も書かれていない白紙の紙を持ってきていた。


それに何をするのかはさておき、どうやら準備らしい準備は終わっているのだろうと康太と文は判断した。


「それで、君たちの一週間後・・・というよりは君たちが攻略のために動き出すときの光景を予知すればいいんだったね」


「えぇ、その時にこの魔術師が出てきた場所が知りたいです」


そういって文は可能な限り精密に記載した四分の一だけ装飾が施された仮面を見せる。その魔術師が出てきたら、それが康太たちの攻めるべき場所だ。


大まかに場所はわかっているのだから、地形などでその場所を判断するほかない。


荒野、樹林、湿地帯、岩肌、どの場所になるかによって攻める場所は変わってくる。


「まずは君たちが攻略する時期だけれども、一応一週間後を想定しているんだったね。ならその近辺を軽く見てみよう」


軽くなどと言っているが、それがかなり難しいことくらい康太でも理解できる。晴や明が覚えているそれとは違い、永住はより高度な予知の魔術を使用でき、なおかつそれを自在に操ることができる実力者なのだと理解できた。


数分ほど待って、永住はコピー用紙に何やら次々に書き込んでいく。そこには日付と時間、そしてどこで何をしているかという情報だった。


それが康太たちの未来の情報を記しているのであろうということは想像に難くなかった。


そしてその紙に記された時系列の中で、十日後の日付をつけようとしたとき、永住の手が止まる。


「・・・十日後、君たちは戦闘しているようだね」


「十日後ですか。支部長もちょっと時間がかかったってことかな?」


「他の支部と合同になるでしょうから、それくらいは見積もっておいたほうがいいのかもしれないけどね。情報漏れの心配もあるし」


一週間というのはあくまで康太たちが想定した目安でしかない。支部長たちが十日後がベストであると判断したのであれば康太たちもそれに従うことはやぶさかではない。


それよりも重要なのは時間ではなく、その場所だ。


「今はどこで戦闘をしていますか?」


「・・・岩肌が目立つ。山のような場所?いや、岩山というべきなのかな?随分と広く大きい・・・日本じゃないのか・・・?」


岩山。岩が目立つ場所となれば中国である可能性が高い。


問題はその場所に件の魔術師が出てくるかという話だ。


「どうです?この魔術師は出てきましたか?」


「・・・いや、戦闘が終わるところまで見たが・・・出てこなかったな・・・君が周りの岩山を破壊して回っているが、それらしい影もいない」


どうやらはずれを引いた未来の康太は周りの岩山に隠れているのではないかと考えたのか、徹底的に岩山を破壊しているらしい。


恐ろしい光景だなと思いながらも康太たちは考えを改める。


「なら別の場所だな。あとはどこだったっけ?」


「中国が外れなら・・・ロシア、アフリカ、南アメリカね」


「よし、次はロシアに行こうか。ロシアの荒野だったっけ?」


「そうね。これがその航空写真」


文はあらかじめ持ってきていた該当地域の写真を康太に見せる。そしてそれを聞いた永住も未来の情報を読み始めていた。


「・・・すごいな、君たちが行先を口にしただけで未来が大きく変わった・・・」


「そりゃ俺たちが行こうとしてる場所を変えましたから。で、どうです?」


永住が驚いているのは、康太個人の意思を協会が主導する作戦の中で問題なく通すことができるということなのだが、そのあたりは康太からすればさして重要なことでもなかった。


問題なのは件の魔術師が出てくるかどうかの一点のみ。


康太と文は再び予知の結果を待ちながら待っていると、永住はコピー用紙に何かの魔術で自分が見た光景を描き始める。


それが念写と呼ばれる魔術であることを文は理解できた。自分の頭の中にある映像を紙などに描く魔術だ。


そこには砕かれた大地と、鎧姿の康太、そして康太に対峙している件の魔術師の姿がある。


「・・・これで間違いないかな?」


その姿を見て、文は小さくうなずく。


「間違いないわ。康太、こいつよ」


仮面の付け替えを行っていなければねと付け足しながら、文は永住の描いた絵を康太に渡す。

康太はそれを見ながら目を細めていた。


どのような戦いをするのか、それは文からあらかた聞いている。だがその姿を康太は目に焼き付けておく必要があった。


こいつが、この魔術師が、自分の敵だと、殺すべき敵なのだと言い聞かせるかのように、その紙を凝視し続けた。


誤字報告を10件分受けたので三回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

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