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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
三十話「神の怒りは、人の恨みは」

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土御門の考え

「では、今回の依頼の報酬は土御門の家と君個人との同盟・・・ということでかまわないかな?」


「構いません。何か証明書のようなものを作成しますか?」


「いいや、同盟などというものはそのような堅苦しいものではない。互いに協力し、尊重しあうような仲だ」


同盟というものがどのようなものであるべきなのか、未だ仲間内でしかその関係を結んだことのない康太からすればどのような形こそが正しい姿なのかはっきりとはしていなかったが、少なくとも向こうとしても書面に残しておくことはしたくないようだった。


それが何かしらの意味があるのか、ただ単に趣味の問題なのかまでは確認できないが。


「それでは土御門家と魔術師ブライトビーとの同盟をここに締結する。今後ともよろしく頼むよ」


「こちらこそ。よろしくお願いします」


康太は微笑みながら小さくうなずいた。頭を下げることをしなかったのはあくまで対等であるということをアピールしたかったが故だ。


康太は土御門の傘下に入るわけではない。あくまで対等の同盟として扱うだけだ。


個人が一つの家と同盟を結ぶというのがどれほど稀有なことなのかは不明だが、康太からすれば一人と結ぶそれと組織と結ぶそれ、大した違いはなかった。


「では同盟締結の対価として、君が求める未来の情報を調べよう。少し時間が必要だから客間などで待っていてくれるかな?晴、明、彼らの案内とお相手をしてあげなさい」


永住の言葉に逆らうつもりはなく、康太は小さく礼をしてからその場から退室しようとする。


晴と明が襖をあけ、康太たちを客間へと誘導しようと先を歩き始めた。


それに続いて晴と明の両親も二人が失礼をしないように監督するつもりなのか後を追うように続く。


康太たちがいなくなったことで、その場には一瞬の静寂が流れる。そんな静寂を破ったのは土御門の当主だった。


「よかったのか永住。お前個人の報酬を土御門家との同盟などに使って」


当主が疑問に思っていたのはそこだった。個人の依頼としてほしいという内容から、個人的な報酬を受け取るかと思っていたのだが、その結果は土御門にとってメリットのある康太との同盟。


個人に依頼を持ち掛けている以上、個人が報酬を受けることに何の異論もなかった当主としてはこの対応が疑問だった。


もちろんありがたいことに変わりはないのだが。


「彼の噂は協会にいる人間から何度か聞いています。恐ろしく強く、敵に対しては恐ろしく残虐な魔術師であると」


「・・・うむ・・・話に聞く限りはそのようだが・・・実物を目にしているとそのようには見えなかったが・・・前回来た時からそう変わっているようにも見えん」


康太が土御門の面々に敵意や殺意を向けていなかったのが大きな理由ではあるが、当主は康太が危険な人物であるとは思えなかった。


もちろん状況判断能力や戦闘能力が高いのは先の双子との試合を見て居ての感想で理解はできる。


攻撃のすべてを把握しているかのような反応をしていた。予知への対策も問題ないような口ぶりであったために、そのあたりも少し気になったところだが、永住にとってはそれこそが危険であると判断する理由にもなっていた。


「敵意や殺意を隠す、そういったことができるタイプなのかもしれません。彼の師匠はあのデブリス・クラリス。当家ともかかわりのある魔術師ではありますが、彼女も協会内では危険人物として扱われています」


「藤堂か・・・昔は小生意気な小娘程度にしか思わなかったが・・・それで?それがお前が報酬として同盟を組む理由になるのか?」


「えぇ、今回の同盟はあくまで私の個人的な意思によって結ばれたもの。土御門家の総意に則って締結したものではありません。もし今後、彼との同盟が本家にとって害悪となるようであれば、私の個人的な意見だったということを理由に同盟を破棄すればいいと考えました」


永住は土御門と康太との同盟が有効かつ利益になると感じたからこそそれを推し進めたが、実際に締結された後、もし康太が土御門の家にとって単なる危険や害をもたらす存在でしかなかった場合、同盟関係をどのようにするのかという不安があった。


永住の提案は、ある意味土御門に逃げ道を作ったのだ。


組織と個人の考えは違う。後々になって組織の総意として、康太との同盟を結び続けることが難しいと判断すれば、組織としてその旨を伝えればいい。


もちろん個人的に友好的にしていたい、ないし同盟関係を続けていたいという人物を何人か残しておき、康太個人との交流を続けていくことが肝要だ。


こうすることで、同盟関係を崩した後でも、康太と敵対することなく、また康太との関係を最低限悪くすることなく良いところだけをとることが可能である。


「子供相手に、それだけ警戒する必要があると」


「そうは言いますが、彼はただの子供ではありません。魔術師として未熟なように見えて、彼の目も言葉も、一端以上の魔術師であるように感じました。いや、むしろ子供であるからこそ恐ろしい」


永住は康太の危険性をほぼ正確に理解できていた。それは魔術師としての危険性だけではなく、一人の人間としての危険性だ。


あまりにも危うい、アンバランスとでもいえばいいだろうか。不安定な足場を傾きながら走り続けているかのような、そんな危うさを感じ取っていた。


一緒にい続けると、有益なことは多いかもしれないがその分一緒に奈落に引きずり込まれるような、そんな恐ろしさを永住は感じ取ったのだ。


「・・・お前がそういうからにはその何かがあの少年にはあるんだろう。それで、同盟を結んだことになるが・・・今後どうするつもりだ?」


同盟を結んだからには何かしらの協力、あるいは要請をすることが可能になる。


四法都連盟の中の一つの家としては解決してほしい案件はいくつかある。特に戦闘能力が求められるような状況も多々あるため、康太の戦力は期待したいところでもあった。

だが永住は首を横に振る。


「ひとまずは何も要求しないほうが良いかと。彼は今目的をもって行動しています。外部である土御門の力を頼るほどに。その目的があるうちは、彼に干渉しないほうが良いでしょう」


「ふむ・・・急いては事を仕損じるということか」


「それもあります。何より暴れ狂う獣に近づいて怪我をすることもないでしょう」


「・・・暴れ狂う・・・か」


康太の中に巣くう怒りと殺意、それに近づけば自らも傷つきかねない。ならばそれらが落ち着いてから交渉するのが最も利口であると判断した。


「少なくとも晴と明が彼のもとにいる以上、連絡を取ることは難しくありません。まずは落ち着いて情報を集めるなどしたほうが良いかと」


情報。康太の情報であり、協会の情報であり、今まで何が起きたのかということを調べるための情報。


ブライトビーという魔術師に対する情報があまりにも少なすぎた。小百合という魔術師と個人的なかかわりを持っている者が土御門の中にもいるし、晴と明が直接康太とのかかわりを持っているために情報が得やすいかとも思えるが、実際はそうではない。


康太個人に対する情報はそれで集まってくるかもしれないが、土御門として知りたいのはブライトビーとしての康太なのだ。


魔術師というのは強い二面性を持つ。普段温厚なものが魔術師として活動するや否や豹変するというのはよくあることだ。


康太がそのような二面性を持つ可能性は十分にある。特に協会内で漏れ聞こえる康太の噂と、先ほど会話した今時の若者といった感じの少年が同一人物であると最初から考え認識するのは難しいだろう。


あらかじめ情報を聞いていたからこそ、その危険性に気付き、なおかつ警戒することもできたが、協会内での康太の噂などを仕入れていなければ何も気にせずに康太を好青年としてとらえていたかもしれない。


「魔術師として危険であると判断したら、同盟を破棄すると?」


「いいえ、危険であると判断したら、逆に同盟関係を強めることも視野に入れるべきです。敵に回るよりは良いでしょう」


そういいながら永住は小さくため息をつく。


「何より、彼自身が言っていた通りです。彼の師匠ほどではないにせよ、自分も劇薬としての性質を持つと。劇薬とは場合によっては特効薬にもなりえます。そういった人材は敵にしないほうが良いでしょう」


「・・・だが味方にするのは危うすぎる、つかず離れずを維持するということか」


「はい、そのためにも私個人の意思での同盟を持ちかけました。勝手なことをして申し訳ないと思いますが、これが現時点での最良であると確信しています」


永住の言葉には自信が満ちていた。間違いを犯しているという考えはないらしい。とはいえ当主としても、その場にいたもう一人の土御門の人間としても、康太という存在を完全に把握する前に組織として同盟を組むというのは早いと考えるのも理解できる。


もし康太が土御門に害をなすような人間だった時に、その同盟を解除できるように逃げ道を残したことも、康太の魔術師としての情報を集めることもそこまでおかしなことを言っているとは思えなかった。


一つ気になることがあるとすれば、永住がどうしてそこまで康太を警戒するのかというところだろうか。


「永住、晴と明が世話になっている少年だ、素顔を知り、性格を知り、彼が安全だと判断した場合は土御門の総意として同盟を結び直す。それでよいか?」


「・・・逃げ道は残しておくべきだと思いますが」


「確かにそうかもしれん。だが薬も毒も飲み干せるようでなければ組織というものは成り立たん。清廉潔白でい続けることなどできんのだ。時には毒となりかねないものも内に入れんでどうするか。ただの組織ならまだしも、我々は魔術師だぞ」


清濁併せ吞むとはこのことを言うのだろう。


正しいばかりでは組織は成り立たない。正しいことばかりを続けることができるほど魔術師という存在は優しくはないのだ。


悪を生し、周りから見れば犯罪者として見られるようなことを平気でやるような存在こそ魔術師だ。


そんな組織が、そんな家が今更危険だからという理由で借りすらある一人の少年におびえ続けるというのはあまりにも情けなかった。


当主としての考えを理解した永住はそれ以上何かを言うことはなかった。


組織の長としての言い分は正しい。だが永住の考えもまた正しいのだ。


組織を任されている者としての判断と、組織のことを考える者としての判断、どちらが正しいということはなく、どちらも正しいからこそ判断に迷うところでもあった。


何より、同盟は結ばれたばかり。まずは様子見をするということに異論はなかった。


「まずはあの少年の願いをかなえてやれ。情報を与えればその目的に向かって動くだろう。そうすればあれが危険かどうかの判断もしやすくなるかもしれんぞ?」


「・・・わかりました。早速やってみようと思います」


康太の求める未来の情報。どの程度正確に読めるかは永住の技量次第となる。


同盟を組んだ以上真剣に取り組むべきだなと、永住は意気込みながら集中を始めていた。


日曜日なので二回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

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