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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
三十話「神の怒りは、人の恨みは」

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対価の模索

土御門として協力するのではなく、ただの永住として依頼を受ける。土御門と切り離すことで個人的なつながりを作ることが目的か、多少無茶な条件を提示しても土御門は関係ないと言い張るのが目的か。


どちらにせよ依頼を受けてくれるというのであれば康太からすればありがたいことだ。


問題があるとすればどのような条件を向こう側が提示するのかということだ。


康太は目を細めてからゆっくりとうなずく。


「ありがとうございます。それでは、依頼の内容と報酬を決めたいと思います。永住さんは今回の依頼内容に対してどれほどの報酬をお求めですか?」


こちらはそちらの要望を聞く準備があると伝え、同時に相手がどのような腹があるのかを確認したかった。


土御門と敵対は避けたい康太からすれば、なるべく永住とも仲良くしていきたい。だが未来の情報という貴重なものを扱うのだ。


相手からしてもなめられないよう、また体よく利用されないようにしようと考えるのは当然といえるだろう。


「逆に聞きたいが、君は今回の依頼に関してどの程度の報酬を用意できるのか確認したい。金銭程度などといったが、その程度や、あるいは行動そのものも報酬に含まれるのかも聞きたいところだ」


行動そのものを報酬とする。それがどういう意味を持つのか康太だって理解できている。労働などを提供するということだ。


康太の場合は戦闘能力の活用が真っ先に思い浮かぶ。


さてここはどう答えるべきだろうかと考えながら、康太は一瞬だけ眉をひそめてから永住の方をまっすぐに見つめる。


「金額に関しては、私の所有する金銭、具体的には百万程度の額ならば用意できます。行為に関してですが、どこかの誰かを殺せ、などという内容は受け付けるつもりはありません」


俺が殺すべき相手は俺が決めるといわんばかりの言葉に、永住を含め土御門の面々が一瞬目を細めた。


「君の戦闘能力は非常に高いと聞いている。土御門が窮地に立たされた時、手を貸してくれるというのはどうだろうか?」


「・・・それならば俺に直接言うよりもそこの双子を使ったほうが効果的ですよ?こいつらが頼めば俺らは手を貸すくらいはするでしょう」


「今回は依頼の話をしている、この子たちは関係ない」


その言葉に康太は何となく永住という人物を理解しつつあった。


永住という人物は、子供を大人の都合に巻き込みたくないのだろう。仮にどのような理由があったにせよ、康太と双子の間にある交友関係を利用するようなことはしたくないようだった。


康太もまだ大人とはいいがたいために、そのあたりは永住としても迷うところなのだろうが、一人の魔術師として依頼しに来ている以上、永住は康太を一人の大人として判断しているようだった。


大人としては立派だが、魔術師としては少し甘い。


康太からすればありがたいと同時に、面倒なことでもあった。


魔術師として甘くとも、この人物はしっかりとした大人だ、口約束程度だろうと、その制約は重い。


どの程度の窮地を想定しているのかは不明だが、少なくとも将来的に土御門が何らかの窮地に立たされることを想定しているようにしか思えなかった。


未来を見ることのできる魔術師たちが巣食うこの西の土地で、彼らが何を見て何を考えるのかは定かではない。


その渦中に康太も身を投じるのかと聞かれると、正直微妙なところだった。


「その窮地とは、具体的にはどのような状況であるかわかりますか?」


「・・・具体的には話すことはできない」


「ならばこちらとしても返答は控えさせていただきます。何をするかも、されるかもわからないのに助けろと言われても無理としか言いようがない」


康太の言葉は正論だ。だが正論だけで相手が納得しないのも理解している。


ここで康太の存在を味方として得るか、敵として得るかの瀬戸際なのだ。土御門としてもくらいついてくるだろう。


「では、君の名を使わせてもらうことは可能かな?」


「・・・俺の名前を?」


八篠康太としてではなく、魔術師ブライトビーとしてのことを指しているということは康太も理解していた。


要するに康太の存在を牽制の材料に使いたいのだろう。


「私の家、土御門と君自身との同盟を締結したい。今まで君の師匠とは取引関係にあったが、今後のことを考え同盟を組みたい」


康太が同盟を組んでいる相手は多くない。個人間でのものがほとんどで、少なくとも団体などと同盟を結んだことはない。


とはいえその同盟相手がなかなか並々ならぬ面々なのは今更だろう。


土御門が康太との同盟を望んでいるのは、土御門のバックにはブライトビーがいるぞという脅し文句のためである可能性が高い。


もっとも協会内と違い西のこの地で康太の名前を出してそれほど多大な効果があるとも思えなかった。


「それも俺一人では返答しかねます。俺は何人かと同盟を結んでいるので彼らの意見を聞かないことには返事ができないです」


「あくまで個人で同盟を結ぶということだが?」


「対等な関係を築いている奴らと、同じ関係になるかもしれないんです。簡単に返事はできません」


これがこの場にいる文だけの問題ならばよかったが、康太はアリスや倉敷とも同盟を組んでいる。簡単に返答してこの二人の不興を買うことはしたくなかった。


「では・・・同盟の話は置いておいて・・・君は土御門に何を差し出せるかという話に移ろうか。金銭は先に言った通り・・・協力関係は・・・あの子たちにすでに多大な貢献をしてもらっている。あとは・・・君は恋人はいるのかな?」


「そこにいる文が俺の恋人です。正確には婚約者ですか」


唐突なのろけと報告に文はその場で吹き出しそうになるのを必死にこらえていた。


対して晴と明は『そうだったの!?』と目を見開いて康太と文を見比べている。


付き合いだしたという話は前に聞いていたが、いつの間に話がそこまで進んでいたのかという顔だった。


無論文も婚約した覚えなどはない。だが康太がいつの間にか文とそこまでのことを考えていたという事実に顔が綻ぶのを止められなかった。


無表情を装っていてもどうしても口角が上がるのを止められない。顔は赤くなっているだろう。


だが交渉の場においてそれを表に出すわけにはいかないと、文は必死にこらえようとしていた。


もっとも隠しきれていなかったが。


康太を土御門の誰かと婚約でもさせて身内にさせようとしたのかもしれないが、こうもはっきりと宣言されてしまっては永住としても引き下がるしかなかった。


「そうか、それは残念、もとい失礼なことを聞いた。今の質問は忘れてほしい。あとはそうだね・・・君の戦力としては期待したいところだが・・・君自身敵は選ぶという認識でいいのかな?」


「はい、俺の敵は俺が決めます。依頼ということであれば受けますが、あくまで依頼という形で対処します。敵ではなく排除すべき対象というだけです」


康太の言葉に永住は悩みだす。


おそらく土御門の家に対する貢献においてどのような行動が最もありがたいのかを考えているのだろう。


土御門の家そのものが康太と同盟を組むことができれば大きな利益になるだろう。無論それは土御門だけが得をするというわけでもない。


康太だって同盟者と友好的な関係の象徴として、土御門の未来予知の恩恵を多少なりとも得られるかもしれない。


そして土御門が康太を戦力として見ているのをあえて口にする。それは康太にとっては好ましい反応だった。


腹の探り合いは趣味ではない。面倒なことよりもさっさと話しを終わらせたいというのが康太の本音だ。


「それでは・・・そうだな・・・君は将来的に師匠の跡を継ぐのかな?」


「跡を継ぐ・・・というのはあの店のことでしょうか?」


「そう、どうなのかな?」


あの店を、小百合の店を継ぐのがいったい誰になるのか、正直康太には分らなかった。


だが少なくとも自分ではないのは間違いない。継ぐとすれば真理か神加のどちらかだろう。


「少なくとも俺ではないと思います。継ぐとしたら俺の兄弟子か、弟弟子のどちらかでしょう」


「それは残念・・・ではそうだな・・・」


さすがにいくつもいくつも案を提案しては却下されてを繰り返し、永住としても案が出なくなってきたのか困ったような表情を浮かべてしまう。


本来であればこちらが依頼する立場なのに相手が困るというのも妙な話だ。

そしてそれを感じていたのだろうか、文は口を挟む。


「康太、同盟程度であれば私は構わないと思うわよ?倉敷もアリスも、悪くは言わないと思うけど?」


「・・・そうは言うけどな・・・」


「何なら今聞いておきましょうか?倉敷はどうでもいいっていうでしょうし、アリスは気にするかもしれないけど文句は言わないと思うわよ?」


そういって携帯を取り出す文に康太は小さくうなずく。


少なくともこの条件の中でもっとも康太にも利益があるのは同盟だ。今後の土御門の関係から言っても破棄するようなことはなく、互いに良い関係が築けるだろうということは予想できた。


土御門としては将来的に康太に身内から弟子の一人でも取ってもらいたいと考えているのだが、そのあたりは康太の知るところではない。


「あくまで君との同盟は、君個人との同盟ということでかまわない。君が同盟を組んでいる人物にまで迷惑をかけるつもりはないよ」


「俺と同盟を組んでいるって時点で迷惑をこうむる可能性があるということも考えておいてくださいね?師匠ほどではないですが、俺も一種の劇薬のようなものです」


強い薬は同時に強い副作用を与える。


康太の言葉の通り、康太は小百合ほどではないが強い効果をもたらす。その効果は決して良いものばかりではないのだ。


無論良い結果をもたらすこともあるが、その逆も然り。


身内に引き入れれば問答無用で面倒ごとに巻き込まれるということも多々ある。


倉敷がいい例なのだが、今回は筆頭被害者倉敷はこの場にいないためにその被害と苦労を話すことはできなかった。


「倉敷とアリスはオッケーだってさ。一度こっちに遊びに来たいともいってたわよ?」


「そうかい・・・それって倉敷か?」


「そう、晴と明に観光名所の案内をしてほしいんだって」


どうせ面倒に巻き込まれるのはわかっているのだから楽しもうという魂胆が見え見えである。


倉敷も図太くなったなと康太は苦笑していた。


土曜日なので二回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

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