協力するなら
「さて・・・では次の話に移ろうか」
晴と明の実力がはっきりした。これは土御門としてもかなり重要なことだ。育成計画そのものに影響を及ぼすほど多大な変化を産むだろうことは容易に想像できる。
だが康太は土御門の双子のことだけのためにここにやってきたのではない。あらかじめ話を通していただけに、土御門の当主もそのあたりを察して話を振ってきてくれていた。
「では、二人の話はこのくらいにして・・・次は俺たちの話をしたいと思います」
「・・・話を聞く限り、少し遠い未来を見てほしいと聞いたが」
具体的にどれくらい先の未来であるのかは康太たちとしてもあいまいなところだ。だからこそ当主はあえてぼかした言い方をしたのかもしれない。
康太たちにとっての遠い未来と、土御門にとっての遠い未来がどの程度の違いがあるのかは不明だが、話を先に進める方が先だった。
「はい。今度ちょっと攻略作戦を行うんですが、場所が四つに分かれていまして。その場所にいる敵の中で、俺が目的としてる敵がいる場所を探したいんです」
「なるほど、攻略の日にどの場所に行けばその敵に会うことができるのか・・・それを知りたいということか」
「その通りです。具体的な決行日を決めていないのですが、とりあえず一週間後を考えています。その前後で俺たちが動く日があったらそこを集中的に見ていただきたいです」
協会が動く動かないにかかわらず、一週間という時間を見れば支部長たちも重い腰を上げることができるだろう。
同時攻略、しかも康太たちだけではなく小百合まで参戦することが決まっているのだ。
とはいえ小百合は康太たちとは違う場所に行くといっているが、どうなるかはわかったものではない。
気分屋の小百合の言をいちいち真に受けていたら身がもたないのだ。
「永住、どうだ?」
「・・・引き受ける分には構わないが・・・報酬はどれほどを想定している?」
現状康太たちが用意できるのは金銭くらいのものだ。あとは土御門の双子を指導していることそのものを対価としてもいい。
もとより土御門の双子を指導しているのはちょっとした縁があったからというだけだ。わざわざ指導してやるだけの義理はこちらにはない。
小百合にはその義理があるのかもしれないが。
相手もそのことをわかっているからこそ、あえて報酬を口にしたのだろう。少なくとも康太たちは双子を指導するにあたって何の報酬ももらっていないのだ。
それを差し引いて報酬を要求するかどうかは本人の度量による。
「今のところ俺が用意できるのは金銭くらいのものです。残念ながら俺は特別な物品の類は所持していませんから」
嘘は何一つ言っていない。康太個人で所有している物品といえば大抵は金を払えば手に入るようなものだ。
もっとも康太の身の回りにはすでに普通ではない、金では買えないものが多々存在する。康太自身もまたその一つだ。
人ではなくなったということを土御門がどの程度知っているのかは不明だが、晴と明に伝えたこと以上は知らないだろう。
「未来の情報、そして俺が望む情報、これらの価値を測りかねているのが現状です。俺は情報に対する報酬というものの相場を知らないので」
これも正直なところだった。
康太は今まで情報によって金銭を払ったという経験が少ない。支部長や協会を経由してどの程度であるというのは聞いたことはあるが、それも数えられる程度だ。
しかも今回の場合は未来の情報。通常のそれとはまるで異なるために具体的にどの程度の金額が相場なのか全くわからないのが現状である。
あえてそれを口にしたのは、相手に優位性を与えると同時に、相手がどの程度の考えでいるのかを知りたかったからである。
康太と土御門の関係は悪いわけではない。康太たちが双子を預かっている時点でそれは明らかだ。
問題なのは相手が康太の今の立ち位置と、康太が依頼したこの内容に対してどのように反応するかということだ。
今後康太との関係を考え、恩を売っておいたほうが良いと考え多少憂慮するか、あるいはそれとこれとは別問題だとしてはっきりと正しい相場で要求するか、あるいは康太が付け入りやすい相手だと判断して吹っ掛けるか。
康太からすればどのような反応をしてもそうなのかなとしか思えない。だが康太の近くには土御門の双子がいる。
仮に吹っ掛けたとしたら康太の土御門に対する不信感は高まるだろう。
当主がわざわざ本人を呼び、本人に話をさせているというのも重要だ。仮に吹っ掛けたとしても永住だけがそのような不遜な考えを抱いているということもできる。逆に康太に恩を売りたいということを考えた場合、土御門の総意であるかのように振る舞える。
伊達に家を支えている大黒柱というわけではなさそうだ。万が一の時の対策はしっかりととっている。
さて返答は如何にと康太が永住からの返答を待っていると、当の永住は目を細めてから小さくため息をつく。
「仮に、その敵の居場所がわかったら、君はどうするんだい?」
「もちろん、叩き潰しに行きます。今回の相手を俺は許すことができない」
それは決定事項だ。仮に誰かが土下座して謝ったとしても、もはや謝って済むレベルを大きく超えてしまっているのだ。
子供がそのようなことを考えるという現状に、永住としては思うところがあるのだろう。だが晴と明の方を一瞬見て再び小さくため息をつくと、ゆっくりとうなずいた。
「君に協力しよう。ただ、報酬はしっかりともらう。今回の件は土御門とは関係なく、私個人が君に協力すると思ってもらいたい」
 




