守れるうちに
「どうですか先輩!やりました!」
「大したもんだな。素質差で圧倒とはいえ、ちゃんと勝ち目を作ってから勝ってたように見えた。文先生はどうです?」
「しっかり考えて術を発動できてたわね。あれだけできればたいていの魔術師には負けないわよ」
素質の優位を確実に利用して相手の処理能力や使用魔術を判断したうえで、それらを圧倒するための手順を考えて戦っていた。
行き当たりばったりの勝利ではなく、勝つべくして勝ったという勝利内容だったために文は大満足のようだった。
「嬉しいけど明に先を越されたっていうのはちょっと悔しいっすね・・・次こそは勝って見せますよ」
「近接戦をやろうとすると、どうしても戦果にむらが出るからな。近づけずに終わることもあるし、逆に瞬殺することもあるし・・・そのあたりは鍛錬と運の要素が強いな」
康太だって相手に近づくこともできずに負けたこともある。近づこうとする敵に対して魔術師がとる行動はシンプルだ。
近づけさせないために射撃、念動力といった魔術を使用し、相手を遠ざけようとするのが基本だ。
逆に言えば相手の牽制が対処できてしまえば問題なく相手へと近づくことができるということになる。
晴はその技術がまだ足りなかったからこそ今回引き分け、明は近づくことを早々にあきらめ、得意な射撃戦で勝つことを選択した。
もし晴が近づくことをあきらめ、近づくことそのものをブラフないしフェイントとして使っていたら結果はまた違っていたかもしれない。
もっとも予知の魔術に対してフェイントなどが通じるかどうかは別の話だが。
二人の判断の違いが今回違う結果をもたらしたといえるだろう。
だがどちらが良くてどちらかが悪いという話でもない。あくまで今回のこれは結果だけの話だ。
場合によっては逆の結果をもたらしたかもわからない。
康太の言うように逆に瞬殺することだってあり得るのだ。
「どうでしょうか?二人はそれなりに成長していると思います。これから二人が依頼を積極的に受けることができるようにしていただくことは可能でしょうか?」
「・・・確かに、力はつけているように感じた。ただ予知だけに頼っているわけでもなく、戦い方に自信のようなものも感じられた」
当主の反応からして、そこまで悪い印象は抱いていないようだった。だがそれでも渋っているように感じられる。
何となく康太と文はその理由を理解していた。
「ダメですか?」
「・・・ダメ・・・とは言わない。けれど・・・依頼を自主的に受けるということはつまり、何らかの面倒に巻き込まれる可能性もあるということだろう?」
「その通りです。魔術師として主体的に活動する以上、他の魔術師としてのいさかいなどは生まれます。ですがそれは同時に協会の魔術師たちとのかかわりを持つことも意味しています」
「利益も不利益もあるということか。だが同時に、土御門に対して不利益をもたらす形で接触をするものも出てくるはずだ」
「出てくるでしょう。土御門は西を統括している家の一つ。さらに言えば二人はその中で重要な存在です。何かしら嫌なアプローチをかけてくる連中はいると思います」
「・・・であればまだ主体的な活動は」
「いいえ、今だからこそやらせるべきです。出向に行っているという立場であれば、協会側からしても、その長である支部長からしても、不利益をもたらすような存在を容認はしません。ですが初期における接触はどうしても防げない。どのような存在が危険な存在か、二人は知っておく必要があります」
協会と土御門の間での軋轢を生まないためにも、支部長は土御門に不利益をもたらそうとする存在を排除しようとするだろう。
だが支部長だって人間だ。そういった悪意を未然にすべて防ぐことなど不可能。土御門の双子は今後活動していくうえでそういった悪意に晒されることもあるだろう。
だがそれは最初期だけで、その悪意が連鎖する前に止められる可能性は高い。
「つまり、どのような悪意が潜んでいるのか、そして依頼を受けるうえでどのような依頼が悪意と関わり合いがあるのか。それを学ぶべき、ということか?」
「そういうことです。魔術師として身を守るために戦う力をつけるというのは間違いではないですが、依頼に対する嗅覚も身に着けてほしいんです。なるべく周りが守れる体制を作っていられるうちに」
晴と明は今土御門と協会、そして康太たちと三つの団体から保護されている状態のようなものだ。
その状態であれば多少の面倒ごとに巻き込まれても組織ぐるみで守ることができる。
だがこれから出向を終え、土御門の魔術師として独り立ちしてしまったら土御門の家として守ることしかできない。
いや、もしかしたら土御門の家でも守れないような状況になるかもしれない。魔術師として活動する以上、自分がどのような活動をするのか、そのあたりの背景をしっかり鑑みて、どの依頼を受けるのか、どの依頼を拒否するのか、そういった判断基準を設けてほしかったのである。




