表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
五話「修業と連休のさなかに」
131/1515

大人の飲み

「ふぇっくし!・・・くそ・・・あいつら噂しているな・・・」


「あはは、お師匠様がいなければ羽も伸ばせるだろうから仕方がないさ」


場所は変わって朝比奈が連れてきた店の中。車で一時間程移動した場所にその店はあった。和風テイストの内装の居酒屋でゴールデンウィークという事もあってか中々ににぎわっている。


家族連れもいれば仕事仲間や友人同士で集まって飲んでいるものまでさまざまだが、どのテーブルにも料理と酒が運ばれていることだけは共通だった。


「うちのバカどもは弟子同士で妙に結託していますからね・・・一体どんな悪口を言ってるかわかったものではありません」


「ははは、それだけ仲がいいってことじゃないか。しっかり言いたいことが言えるっていうのは大事なことだよ。それに師匠にそれだけ物を言えるっていうのはいいことじゃないか」


中々二人とも肝が据わっているねと朝比奈は笑いながらビールの入ったジョッキを傾けているが、実際にその文句を言われる小百合としては複雑な気分である。


もちろん康太や真理が言いたいことを我慢しているよりはずっといいと思うのだが、自分に聞こえるように悪口というか文句を言っているというのもなかなか精神的によろしくない。


もっとも陰口を延々と言われるよりは目の前で言われた方がまだましかもしれない。自分だけその事実を知らないよりは自分も相手もそれを言っているという事と言われているという事を認識したほうが後々の関係としてはスッキリできる。


むしろ康太と真理は小百合に聞こえるように話をしている節がある。あまり堂々と文句を言う事は憚られるために二人の話という体で小百合に文句を言っているのだ。


間接的ではあるが距離や音量的に直接言っているのとそう違いはない。


「それにしても小百合ちゃんが二人目の弟子をとっていたとはね・・・少し驚いたよ。真理ちゃんが最初で最後だと思っていたからね」


「まぁそのあたりはちょっと事情がありまして・・・まぁあいつもそれなりに筋がいいのでこれからじっくり育てていこうとは思っていますが」


康太が魔術師になった経緯までは話さなかったが、とりあえず小百合は康太を一人前の魔術師まで育てるつもりでいた。


自分がまきこんだ人間だ、しっかりと最後まで責任を持つのが道理というものである。もっとも一人前になった後は知ったことではない。そのあたりは康太が自分で選ぶことだ。小百合に決定権はないのだ。


「でもあぁしていると思い出すね。昔の小百合ちゃんもあんな反応してたっけ」


「昔の話はあまりしないでいただけるとありがたいです。若気の至りというものもあるので・・・」


「ハハハ、あの小百合ちゃんが今となっては酒まで飲める歳になったわけだからね、なかなか感慨深くもなるさ、僕が歳を取るわけだよ」


「ご謙遜を、まだまだお若いでしょう」


「いやいや、昔と違ってなかなか体が動かなくなってきていてね。やっぱり年には勝てないなって実感したよ」


今となっては老眼鏡だよ?と朝比奈は苦笑しながら近くを通り過ぎる店員にビールのお代りを注文していた。


「君があの人の下を離れてもう何年だろうね・・・今さらだけど随分と立派になったもんだよ」


「ありがとうございます・・・まだまだ師匠の足元にも及びませんがね・・・」


朝比奈のいうあの人というのは小百合の師匠の事だ。


小百合の師匠は良くも悪くも奇想天外な人種だった。それこそ小百合なんか目ではないほどに傍若無人と言えるだけの魔術師だった。


そんな人物に育てられ鍛えられ、小百合は今のような魔術師になったのだ。今までの研鑽の結果が今の小百合を作っているという意味では彼女の師匠こそがいろいろな面倒事の元凶と言ってもいいのかもしれない。


「今あの人は店に来ることはないのかい?もともとあの人の持ち物だっただろうに」


「今はすでに隠居していると連絡が来ています。年に数回はあっているのですが昔よりだいぶ丸くなっていましたよ」


「はは、あの人も歳には勝てないってことなのかな?そう言う意味じゃちょっと残念でもあるけどね」


昔はよくあの人に叱られたもんだよと言いながら朝比奈は懐かしそうに目を細めた。


朝比奈はもともと小百合の師匠の関係で知り合った人物だ。当然朝比奈は小百合の師匠について知っているのだ。


むしろ小百合よりも長く彼女の師匠のことを知っているかもしれない。


昔からの付き合いといえばいいだろうか、それだけ長く世話になっていたのである。


「昔からそうだけど小百合ちゃんちょっと無茶しすぎなんじゃないかな?たまに協会に行くとよく名前を耳にするけど」


「そこまで暴れてはいませんよ。特に弟子を持ってからは大人しくしていますからね」


「そうかなぁ、前より活動的になってる気がするよ。僕が知らない間にも結構いろいろやってるんじゃないのかい?」


「まぁあまりこういう場では言うべきではないかもしれませんね。少なくともある程度の加減はしていますよ」


弟子の教育でも面倒事でもと付け足しながら小百合は薄く笑う。


真理を今の実力になるまで育てたのは小百合だ。いろいろやらかしているというのは否定しないようだがある程度は加減しているつもりらしい。


この会話を弟子たちが聞いたらどの口が言うのだろうかと呆れるだろう。少なくとも小百合はそんなことを思いながら日本酒を口に含んでいた。


「あー・・・それにしてもいいなぁ、やっぱここの揚げだし豆腐は最高だぁ。茄子の揚げ浸しも最高!」


「あまり揚げ物ばかり食べると太りますよ?」


「それこそ今さらってもんだよ。僕の歳になったらもう何食べたって変わらないさ。まぁ医者から止められてはいるけどね」


それならなおのこと止めるべきなのではと思うのだが、朝比奈は特に食生活に関して改めるつもりはないようだった。


いざとなったら薬でも何でも飲むさと言いながらビールから冷酒へと切り替えて着々と飲み続け、酒とつまみを消費し続けている。


もう注文した数はそれなり以上のものになっている。食事も酒もかなり彼の胃の中に入っていることだろう。


小百合は朝比奈の前という事もあって比較的抑えめに飲んでいる。自分が酔うと絡み酒になるのは重々承知済みだ。朝比奈に失礼のないように料理八酒二の割合で主に食事のつもりで食べ続けていた。


正直あまり酔えるような量ではないが、世話になった人に迷惑をかけるくらいなら今日はほろ酔い程度で我慢しようと決めていた。


何より帰りは電車で別荘まで戻らなければならないのだ。あまり前後不覚レベルまで酔うのは承服しかねる。


「おっと・・・そろそろ妻が到着する頃かな?早めに揚げ物は片づけておいた方がよさそうだ」


「あの人には内緒で食べてるんですか?なんだか後ろめたそうですね」


「あっはっは、あれで結構健康には気を使うからね。野菜メインの煮物とかが多いかな。僕がメタボりだしてからカロリー計算とかもしてるみたいだよ?」


「・・・それなのにその腹ですか」


「ふふふ、妻の目のないところで結構パクパク食べてるからね」


せっかく奥さんがしっかりと体調管理をして健康を維持できるようにしてくれているというのにこの人はその努力を完全に水泡に帰してしまっている。ここで食べるものは基本的にレシートに残るため隠し通せるとは思えないが、それでも朝比奈は妻に揚げ物などカロリーの高いものを食べているところを見られたくないらしい。


隠せないのにかくして何の意味があるんだかと思いながらも小百合は朝比奈の妻のことを思い出していた。


朝比奈の妻は彼の幼馴染でもあり魔術師だ。昔から一緒にいたらしくそのままゴールインし、今は子供も成人してのんびり過ごしているらしい。


まだ小百合が修業時代の頃、朝比奈に会う時はいろいろと世話になっていたものだ。もちろん彼らの子供とも面識がある。


子供と言ってもすでに成人しとっくに独り立ちしている。自分より若干下だったかと長いことあっていないその人物のことを思い出しながら小百合は店の外に目を向けていた。


するとこちらにやってくる女性の姿が確認できた。その女性の顔を小百合は見たことがあった


「あぁ・・・どうやら来たようですよ」


「おっと・・・まだ揚げ物片付けられてないんだけどなぁ・・・」


まだ隠そうとしていたのかと思いながら、店の中に入ってきた女性を確認すると小百合は軽く会釈し朝比奈は小さく手をあげる。


二人に気が付いてこちらにやってきたのは五十代半ばほどの初老の女性だった。化粧をしほんの少しであるがおめかししてきているということがわかる。顔のしわがあるのは仕方がないとしても活発な印象を受ける、そんな女性だった。


「もういきなり呼び出したから何かと思ったわよ・・・小百合ちゃんも久しぶりね、また綺麗になったんじゃない?」


「お久しぶりです京子さん。すいませんわざわざ」


「いいのよこの人に無理矢理付き合わされたんでしょ?にしても美人さんになったわねぇ・・・」


まるで親戚のおばさんだなという感想を覚えながらこの二人はお似合いだなと心底思ってしまっていた。


なんというかこの二人は似ているのだ。


性格や考え方ではなく雰囲気というべきか、口では説明できないどこかしらが似通っている。恐らくそう言うところが二人をここまでいっしょに居させた理由なのだろう。


「悪いね来てもらっちゃって。実は小百合ちゃんにもう一人弟子ができててさ、その話をしてたんだよ」


「あら、真理ちゃんだけじゃなくて?いつの間に二人目?」


「今年の二月からです。まだまだ未熟者ですが・・・」


「へぇ・・・どんな子?見てみたかったわ」


写真でよければと言って小百合は携帯で撮っていた康太の写真を見せる。思っていたよりずっと年齢が上だったのか、朝比奈の妻、京子は若干驚いているようだった。


「あら、随分とかっこいいじゃない?細めだけどしっかりした体格ね・・・高校生かしら?」


「陸上をやっていたそうで・・・今年から高校生に」


今年から高校生で今年の二月から弟子にとったという点から何かしらの事情があるという事は半ば理解しているのか、京子はそれ以上聞こうとはしなかった。


というよりそれとは別に気にするべき点を見つけたから聞くことができなかったという方が正しいかもしれない。


「あ・・・ていうかまた揚げ物!お医者さんにもやめなさいって言われてるでしょ!?」


「ご、ごめんよ、でもここの揚げもの系統美味しくってさ・・・」


「でもじゃないの!今日からまたダイエットね。覚悟しておきなさいよ?」


「えぇ・・・勘弁してよ・・・」


この人は本格的に尻に敷かれているのかと小百合は苦笑しながらやってきた京子と互いの近況についての話に花を咲かせていた。


誤字報告を五件分受けたので二回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ