双子の成長のために
「とはいえ二人は素質そのものは高いため、ある程度の相手であれば素質を前面に押し出したごり押しができるのも事実です。ですがこちらで・・・この四法都連盟の中での活動において将来的に中心になるためにはまだまだ鍛錬不足と言わざるを得ません」
「・・・将来的にそれが可能だと?」
「可能だと思っています。まだこの二人は高校生、現段階で去年の俺よりは戦闘能力があります。持ち前の素質や才能に加え二人はよく努力しています。俺を追い抜くのも時間の問題かと」
康太の評価に土御門の面々だけではなく文も驚いていた。康太の戦闘能力は並のそれではない。
少なくとも同じような努力をしてもたどり着けるかどうかわからない程度には強いのだ。
確かに土御門の二人は素質面では文にも劣らない。それだけの才能を秘めていることも認めるところではあるが、文としてはそれは過大評価ではないかと思えて仕方がなかった。
「それは言いすぎじゃない?あんたを超えるってことは少なくとも現段階でも日本支部の中で指折りになるってことよ?」
「そのくらいはできるようになるだろ。高い素質、土御門として生まれたから予知もできる。近接戦に関しては今後鍛えていけばいい。攻撃に関してもまだまだ伸びしろがある。全部できるようになればそれこそ俺なんか目じゃないだろ」
総合的に見れば土御門の双子の性能はかなり高い。康太はそのあたりを踏まえて長期的目線で評価していた。
間違いなく将来を担うに値する魔術師であると。
「当然ですが、それ相応の努力をしなければいけないですし、この二人が成長する分、俺も努力して二人に負けないようにするつもりです。ですが決して遠い日のことではないと思っています」
「・・・この二人を高く評価してくれているということはうれしく思う。だがもっと素直に言いたいことを言ってもいいと思うが?」
当主としては康太がまだ言いたいことを言っていないと感じたのだろう。そしてそれが事実だったからか、康太は一度、では失礼してと告げてから姿勢を正した。
「こいつらをもっと実戦に出してやるべきだと思っています。俺と一緒にするのはあまり良くはありませんが、実戦に出ることで学ぶことがあるのも事実です。あまりに過保護に育てすぎれば何かあったときに対応できなくなるでしょう」
土御門の双子を協会に出向させるにあたってどのようなやり取りが土御門と協会の間であったのかは康太の知るところではない。
だが土御門の当主からもっと実戦に出すようにと後押しすれば、支部長としてもそういった機会を作らざるを得なくなる。
支部長の困った時特有の唸るような声が聞こえてくるようではあるが、そういったことをこの二人が望んでいる以上それを叶えてやりたいというのが康太の考えだった。
「もっと実戦に・・・というのはつまり、もっと同行させてほしいということでいいのか?」
「いいえ。主体的にこの二人が動くことが必要です。誰かについていって指示を待っているだけではなく、自分で状況を判断して行動することこそ必要だと思います。この二人の力は強力です。その力の扱い方を間違えないように今から指導していかなければ後々不利益となって返ってくるでしょう」
康太の発言は至極もっともなものだった。だが同時に大きな危険もはらんでいる。
自主的に動くということはつまり、この二人が主体となって依頼を受けるということ。周りに頼れるものはいなく、自らの意思によって行動するということ。
補助者も何もつけずに、二人一組のコンビとなって行動する。
それがどれほど危険であるか、実戦に出たことがある人間ならば理解できるだろう。
どのような行動を行っても、どのような戦いに身を投じても、最終的に自己責任になるのが魔術師の世界だ。
片腕がもげようと、目がつぶれようと、魔術師としての戦いによって負った傷であれば誰かのせいになどできない。
今までは誰かの依頼についていく形であったために、行動範囲を限定することでそういうことが起きないようにすることもできた。
だが主体的に動けばそんなことはできなくなる。全てが自己責任。いきなりそれほど危険な状況に身を投じさせるのはどうかと土御門の当主は思っているようだった。
「さすがにそれは・・・まだ早いのではないだろうか?」
「ならばいつならばいいのですか?一年後ですか?二年後ですか?それとも俺に勝てるようになってからですか?どのような強さを持っていようと、どのような力を持っていようと怪我をするときはするし、死ぬときは死ぬ。まだ早いなんて言っていると、こいつらはあっという間に大人になりますよ」
大人からすれば子供が危険なことに首を突っ込むのは避けてほしいというのが正直なところだ。
だが同時に子供に成長してほしいというのも事実。その二つの感情の間で揺れるのが大人というものだ。
「危険な依頼であれば避けるのも、また魔術師として生きていくうえで必要なものです。戦う前から考えて、自分の行動一つ一つを考察するようにならないといつまで経っても危機管理能力が身につきません」
「・・・すごく説得力があるわね」
康太は魔術師になって少ししてからすぐに実戦に駆り出された。何が危険で何が安全なのか、自分がどのような行動をとるべきなのかを常に取捨選択してきた。
土御門の双子に自分と同じような苦難を味わえとは言わない。だがせめて自分が後悔しないように行動するくらいの考えは持ってほしかった。
誰かに何かを望むだけではなく、自ら勝ち取れるくらいの力と考えを抱いてほしかった。
「・・・ということだが・・・晴、明、お前たちの考えを聞きたい。この子は・・・いや、この魔術師はこれだけお前たちを認めてくれている。お前たちとしては、どうしたい?」
康太のことをただの子供としてみるのではなく、一人の魔術師として見た当主は晴と明に視線を向ける。
当事者のことならば当人に聞くのが一番良い。
子供の意見だからとバカにするつもりは毛頭ないようだった。
「俺は・・・自分たちで動くのは少し不安はあるけど、実戦には出たい。何度か先輩たちにくっついて行動して、自分たちができることが少なくて、いつもおんぶにだっこの状態だった。そんなのは嫌だ」
守られている状態を意識しながら連れていかれるというのは晴にとっては苦痛だった。いつまでも自分が足手まといであることを意識させられてしまう。
自分はもっとできる、頑張れる。確かにまだまだ弱く、足を引っ張ることもあるかもしれない。だが守られるだけの状態よりはずっと良いと、そう考えていた。
「私も、いつまでも守られてばっかりなのは嫌。先輩たちが前に出て、私たちが後ろで見てるだけ、そんなの実戦でも何でもない、見学してるのと同じ。私たちも前に出たい。いろいろ考えて行動したい」
考えて行動する。それがどれだけ難しい事か、この二人はまだ正しく理解はできていないだろう。
だがそれでも、この二人は前に出ると言った。後ろで守られているだけは嫌だと言った。自分の口から言ったことが重要だった。
当主はそんな二人の言葉を聞いて困ったような表情を浮かべてしまっていた。
「ん・・・お前たちがそう考えていることは・・・まぁ、嬉しく思う。次代の土御門は安泰だと、素直に思える。だがなぁ・・・向こうの支部長がいい顔はしないだろう」
「その時は俺が無理やりに言うことを聞かせたっていえばいいですよ。俺は協会内じゃあんまりいい評判は聞かないですから」
「そんなことはできん。組織同士の付き合いというのは個人でどうこうできるようなものでもないのだからな」
いくら康太に面倒を押し付けようとしたところで、組織としての禊は受けなければならなくなるだろう。
どんなに個人が悪くとも、その約束事が組織と組織の間で成り立っているものであればそれを遂行するのが義務だ。逆にそれを遂行できなければそれ相応の対価を求めなければならない。
また支部長が唸りだしそうだなと康太が苦笑している中、当主は康太の方に視線を向けて目を細めた。
「今は、そちらの師に・・・藤堂のところに世話になっているのだったな」
藤堂、それが小百合の苗字であるのは康太も知っている。ほとんど苗字など呼ばれないために忘れがちだが、藤堂小百合、それが小百合の本名だ。
「二人がどれくらい強くなったのか、具体的に知らないから許可もしにくい。どんな訓練をしているのかも不明だからな」
「んと・・・そうですね・・・・じゃあ具体的な強さでお伝えすると、二人とも師匠と一対一の状態であれば状況によっては十分くらいは耐えられますよ」
十分。小百合と戦闘して十分持ちこたえることができるというのはそれ相応の意味を持つ。
通常戦闘において小百合の戦法は先手必勝かつ一撃必殺。大抵が数秒で片が付くことが多い。
相手の防御も回避も関係なくとにかく攻撃し続ける彼女の猛攻を防ぐというのは並大抵のことではない。
晴と明は持ち前の素質に加え、予知の魔術を併用することで半ば強引に回避したり防いでいるのだ。
もちろん状況によっては瞬殺されることもある。平均して十分耐えることができるわけではないために安定した戦力とはいいがたいが、それでも小百合に対して十分耐えることがあるというのはかなりの評価基準になるのではないかと康太は考えていた。
「・・・君はどれほど耐えられる?」
「俺はもう慣れてますんで、最長で・・・三十分くらいですかね?お互い集中力が切れてって感じでした。あれ以上は気力がもたないです」
「・・・ふむ・・・」
二人が一定以上の戦闘能力を持っているということを理解しても未だ納得できていないのか、当主は口元に手を当てて難しそうな顔をする。
「康太、こういうのは口で言ってもわかりにくいんじゃない?せっかくここに本人がいるんだから誰かと戦わせたら?」
「それもそうだな。晴、明、準備しろ。お前たちの実力を見せてやれ」
康太の言葉に、ここは自分たちの実力を見せる良い機会だと考えたのか、晴と明は意気揚々と立ち上がる。
だが近くに居る土御門の面々はあまり良い顔をしていない。
「とはいうが、いったい誰と戦わせるつもりだ?この場にいる人間ではないだろう?」
「俺が相手をしてもいいですけど・・・俺だと結構戦い慣れてるからなぁ・・・誰か適当な人がいれば・・・」
とはいっても今回急にやってきたこともあって、手すきの人物などほとんどいないだろう。
そんな中、晴と明の後ろの襖があき、一組の男女が現れる。
「ではその役、私たちが担いましょうか」
ずっと話を聞いていたのだろう。待ってましたとでもいうかのようなその素振りに康太と文は目を丸くし、晴と明はそれ以上の驚愕の表情を浮かべていた。
「父さん!母さんも!」
「え?ご両親?」
そういえばこの二人の両親は一度大勢集まった時にしか会ったことがなかったなと康太は姿勢を正して挨拶する。
日曜日なので二回分投稿
これからもお楽しみいただければ幸いです




