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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
三十話「神の怒りは、人の恨みは」

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双子の通信簿

晴の案内で久しぶりに土御門の本家にやってきた康太と文。大きな門をくぐると康太は先ほどよりも眉間のしわを深くしていた。


感じ取れる視線の量が増えたからである。おそらくほかの家などが土御門の本家を監視しているのだろう。


前に本家に来た時にはこれほどの視線は感じなかったのだがと、康太は眉をひそめながら近くに居る晴の方を見る。


「なぁ、めっちゃみられてるんだけど。これって監視か?」


「見られてるってことは・・・他の家の人間か、あるいはうちの人間かもしれないですね。先輩が来るってことを知って気になってる人って結構いると思いますよ?」


康太はこの西の方でも一度活動したことがある。その時の戦闘能力に加え、本家にも招かれたことのある人員としてある種マークされているのかもしれない。


そんな人間がまた土御門の本家にやってきたということで動向を確認しようとしている勢力がいても不思議はないのだとか。


見られるのはあまり好きではないのだがと康太は眉間にしわを作ったまま土御門本家の玄関前までやってきていた。


「ほら康太、招いてくれてるのにそんな顔しないの。いやなのはわかるけど少しは我慢しなさい。ほらシャツも曲がってる」


まるで母親のように甲斐甲斐しく世話を焼く文に康太は苦笑しながら眉間のしわを少しだけ薄くする。


「そうは言うけど母さん、誰かにじっと見られ続けるって結構ストレスになるんだよ。気にすんなって言われても難しい」


「誰が母さんか。もっとしゃんとしなさい。堂々としてればいいのよ。別に悪いことをしに来たってわけじゃないんだから」


「そりゃそうだけど・・・んー・・・!」


康太としてはこの状態を続けられるのはあまり好ましくはないが、見るなといったところで見ている連中が止めるはずもないのだ。


殺気でもぶつけてやろうかと考えたが、ここはすでに土御門本家の中、勝手な行動をとれば迷惑をかけてしまうだろうと康太は自重していた。


晴が代表してインターフォンを鳴らすと、ほぼノータイムで扉が開き康太たちを招き入れようと女性が出てくる。


以前にも見たことがある土御門の女性だ。どこの誰なのかまでは康太たちは覚えていなかったが土御門の人間で魔術師であるということは即座に理解できた。


「お待ちしていました、ブライトビー様、ライリーベル様。奥で当主が御待ちです。晴君もご苦労様」


「おばさん、明は?」


「奥にいるわ。正装に着替えて待ってるから晴君も着替えてらっしゃい」


「あぁ、お気遣いなく。今回俺たちはそんなにたいしたことは」


「とりあえず案内していただけますか?待つ必要があるのであればいくらでも待ちますので」


康太の言葉を遮るように文が話を先に進めるように促す。


せっかく向こうが正式な対応をしてくれているというのにそれを無碍にするのは相手の面子にかかわる。


その辺りを自分たちがあれこれ口を出すべきではないと文は理解しているようだった。そして理解できていない康太はまずいことを言っただろうかと少し困ったような表情をしていた。


「じゃあ先輩、あとで会いましょう」


「あぁ、ありがとな。助かったよ」


「またね」


康太は先に家の中に入っていく晴を見送ってから出迎えてくれた女性に続いてまずは客間へと通される。

せっかく正式な対応をしてくれるというのであればその準備が整うまで待つことにしたのである。


「にしても大々的な歓迎だな・・・いや、歓迎っていうよりは警戒なのかな?」


「どうかしらね、土御門の中での私たちの・・・というかあんたのポジションがいったいどの程度のものなのかわからないけど。少なくともあの二人を預けている時点でそこまで敵視はされていない、と思いたいけどね」


晴と明は土御門の次世代を担う重要なポジションにいる。そんな二人を小百合の店に預け、康太と一緒に訓練させているのだ。それなりに友好的な関係を築けていると思いたい。


この厳格な対応が警戒からくるのではなく、敬意からくるものであると思いたいが、康太からすればあまり好ましいものではなかった。


正式な歓迎をしてくれるのはうれしいのだが、やはり肩が凝ってしまう。


康太たちはまだ学生であるため、学生服がある意味正装ではあるのだが、魔術師として訪れる以上、最低限の魔術師装束を持ってくるべきだっただろうかと今更ながら後悔してしまっていた。


もっとも康太を魔術師足らしめているのは魔術師装束の有無ではなく康太自身の実力であるため、そのあたりは気にする必要はないのかもしれないが。


「まぁ敵対するって感じではないわな。視線にも敵視してる感じはないし。どっちかっていうと探ってるって感じ」


「そういうのまでわかるの?」


「殺意と敵意がないからたぶんそうだと思うぞ。こっちがどう出るかを確かめようとしてるのか、ただ好奇心で見てるのか、そこまではわからないけどな」


見られている視線の方角にわずかに顔を向けながら、康太は笑う。見られていることに気付いているぞというアピールだったが、その顔を向けた瞬間に康太に向けられた視線の位置が動く。反応しているのが面白い限りだがはっきり言って無駄もいいところだ。康太は視線を感じ取りながら出された茶をゆっくりと飲んでいく。まだ暑い九月にはありがたい冷たい麦茶だった。


康太たちが通されたのは以前通された大広間とは違う、小さな部屋だった。


小さいといっても一般的な家庭と家屋から考えれば十分すぎるほどに広い。畳の敷かれたその場所に五人の人物が座って待っていた。


上座には土御門の当主が、そしてそのわきを固めるように二名、そして部屋の隅には土御門の双子の姿が見える。


以前のように親戚一同勢揃いのような状態になっていなくてよかったと康太はとりあえず内心安堵の息をついた。


あのような息の詰まる状態ではさすがに満足に会話もできない。相変わらず視線は途切れないが、今はそのあたりは置いておくことにする。


「失礼します。本日はお招きいただきありがとうございます」


「こちらこそ、普段この二人が世話になっている。こちらから出向いて礼を言うところだが、今日は足を運んでくれて感謝する」


頭こそ下げなかったが、堂々とした態度でありながら感謝の意は十分に伝わってくる。


一族の長として、そう易々と頭を下げるわけにもいかないのだろう。誰も見ていないところならばともかく、誰が見ているかもわからない場所では、そして身内がいるような場所ではなおさら簡単に頭は下げられない。


組織の長らしい対応だと、康太は用意された席に座り、正面から当主を見据えた。


「本日のお話の内容は伺っていますでしょうか?」


「晴と明から聞いている。まずは二人の修業の進捗と、もう一つは魔術師として永住に頼みがあると」


そういいながら視線を隣にいた魔術師の方に向ける。その先にいたのは髪の毛に白髪が多く混じった初老の男性だった。


黒いスーツを着込み、正座をしているためかその姿勢の良さが目立つ。顔にはしわが目立ち、厳格そうな顔立ちである。


「はい、今回魔術師として活動するうえでお力を貸していただければと思いお忙しい中お時間を作っていただきました。ですが、せっかくの機会なのでまずはこの二人の近況からお話しできればと思います。いかがでしょうか?」


康太は永住と思われる人物に視線を移す。本命はあくまで永住への仕事の依頼だ。永住の時間が限られているということであれば、先に本題を話すこともやぶさかではない。


康太の意図を察したのか、当主は初老の男性に視線を向けて話を振る。


「どうだ永住、時間の都合はつくのか?」


「私は明日の昼までは非番となっています。なので時間に余裕はあります」


見た目通りの渋く落ち着いた声音に、康太はゆっくりと深呼吸していた。話の順序はしっかりしておいたほうがよさそうだなと思いながら、文とアイコンタクトをして互いに感じたことを共有しあう。


「それではまず二人の訓練の内容と結果から。師匠、デブリス・クラリスが直接指導をつけている状態です。二人の素質面的に、師匠が教えられることは限られますが、ほぼ実戦に近い形で訓練を進めています」


「実戦的というと・・・具体的には?」


「普通に戦うのと同じようなことをやらせています。魔術あり体術あり、何でもありの状態での戦闘です」


「・・・魔術の技術的なことは」


「師匠が教えられるのはあくまで破壊のみ、なるべく実戦に近い形に近づけた訓練を行っておかなければ実戦では役に立ちません。その訓練の甲斐あってか、最近依頼に同行させた際は後方支援をしっかりとやりきることができていました」


すでに依頼に同行し、支援行動ができるようになっている。どの程度の内容なのかはさておき、康太の依頼に一緒についていっているという事実に当主を含め脇にいた両名は驚いているようだった。


さすがに顔には出していなかったがその雰囲気から嘘を言っているのではないかという疑いにも似た感情が浮かんでいるのがわかる。


依頼を通しやすくするために、多少色を付けて話しているのではないかという雰囲気だ。

確かにそうすることも考えたが、康太はここでは素直に話すことが良いと判断して双子の方に視線を向ける。


「晴の方は近接戦の素質があります。予知の処理自体はそこまであるわけではありませんが、瞬間における判断に長けています。訓練していけば近接戦を主体とした戦闘を行えるようになるでしょう」


素直に褒められた晴はうれしいのか、それとも恥ずかしいのか、苦笑しながらうつむいてしまう。


「明の方は予知の処理に優れているのでしょう、近い未来からやや遠い未来まで十分見通しての行動ができるようです。並行処理能力も高く、射撃戦において彼女に勝てる魔術師はなかなかいないのではないかと思われます」


明も同じように素直に褒められて嬉しいのか恥ずかしいのか、わずかに顔を赤くしてうつむいてしまう。

親類の前で褒められているというのは予想しなかったのか、小さくガッツポーズをしているのを康太と文は見逃さなかった。


「・・・話を聞いていると、もうすでに十分な実力を有しているように聞こえるが、そういうわけではないのだろう?」


「もちろんです。訓練によって自分の身を守ることはできても、まだ問題の解決能力、単純な行動力には欠けます。何より攻撃がお粗末。負けることはなくとも勝つことはまだ難しいでしょう」


上げて落とすというわけではないが、しっかりと欠点の部分も伝えなければ素直に評価したとは言えない。康太は隠すことなく二人の欠点についても話していく。


二人とも防御に対しては予知の魔術もあるために一端以上、だが攻撃に対してはまだまだ未熟であると。


土曜日なので二回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

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