鬱陶しい視線
「にしても久しぶりに来たな関西」
「そうね、いつぶりかしら?」
康太と文は協会の門を使って土御門の本家から近くにある協会の門を経由して関西にある四法都連盟の管轄内にやってきていた。
協会の門を使っての移動であるために何の感動もなく、移動時間もほとんどなく到着することができていた。
「とりあえずお土産に八つ橋でも買って帰るか?神加も喜ぶだろうし」
「それは後にしなさいよ。せっかく時間を作ってくれてるんだから早いところ用事を済ませた方がいいわ。二人は・・・もう少しかかるかしら?」
文は教会の前で周囲を見渡すが、晴と明の姿はまだない。
すでに携帯で連絡を取り合ってこの時間にこの場所に到着することは告げてあるため、あとは二人を待つだけなのだが、どうやら少し遅れているようだった。
教会前で時間を潰していると、康太がわずかに反応する。
「やっぱみられてるな」
「ふぅん・・・索敵網がしっかりしてる証拠ね。到着してまだ数分?もうこっちを見つけて監視体制作ったんだ」
文は索敵の魔術を発動していないために感知できていないが、康太は持ち前の察知能力によって今現在どこかからか見られているということに気付いていた。
物理的な視認なのか、それとも遠視などの魔術を用いた視認なのかは方向からは判別できないが、こちらを観察しているのは間違いない。
「ビルの方か・・・?それとも遠視か・・・?方角設定がうまいな。少し動けばそのあたりわかりやすいんだけど」
「別に敵意がないなら無理に判別させる必要もないでしょ。放っておきなさい。話をややこしくすることもないわ」
変に敵対行動をとって自分たちの立場を悪くするのも本意ではない。今回はあくまで土御門に頼みがあって来ただけなのだ。
ここで康太が暴れれば土御門にもその影響が出かねない。変な行動は避けるべきだなと理解はしていても、ずっと見られているという感覚が康太にとってあまり良いものではないのは文も理解している。
康太がわずかに落ち着かないような素振りをしている。無視してしまえといえばそこまでだが、やはりみられているとわかると落ち着かないものだ。
「あ、いたいた!先輩!お待たせしました!」
康太がそわそわしていると、そんな康太と文を見つけて晴が小走りでやってくる。明の姿がないところを見るとどうやらひとりでやってきたようだった。
「すいません、ちょっとごたついてまして。お待たせしましたか?」
「そんなに待ってないわ、ほんの数分よ。それよりも晴、悪いんだけど監視体制を何とかしてくれないかしら?ずっと見られてるみたいで気持ち悪いらしくて」
「え?そうなんですか?」
晴が康太の方に目をやると、ずっとそわそわしていた康太が一点に視線を向けて顔をしかめる。
「あの方角からじっと見られてるんだよ・・・直接見てるのか魔術で見てるのかはわからないけどな・・・前にも似たようなことあったけど・・・」
「あぁ、わかりました。とりあえず俺が来たんでそういうのは解除されると思いますよ。っていうかすごいですね、見てる方向までわかるんですか」
「視点がわかるってだけだ。誰が見てるのかとかそういうのはわからないから役に立つかは微妙だぞ?」
康太はそういったが、誰が見ているのかを察することができる能力というのは地味に役に立つ。
魔術などとは違う感覚であるため汎用性こそ低いものの、任意の発動が必要な魔術とは違って自動発動のようなものなのだ。
その分いつでも視線を感じ取ってしまうというデメリットもあるが、魔術と切り離された日常においても気づくことができるという利点もある。
「そういうのって覚えておいたほうがいいんですかね?」
「別に必要ないんじゃないのか?お前みたいな素質のある奴なら間違いなく必要ないだろ。特にお前には予知があるし」
未来を知ることができるというのは大きなメリットだ。知ることによって未来を変えてしまう可能性があるというデメリットもあるが、圧倒的にメリットの方が大きい。
現在の視線を感じ取るよりもずっと便利だし汎用性が高い。
「何よりこういうのは覚えないほうがいいだろ。結構いろんなところで見られてるなって感じるぞ?自分が思ってる以上に。結構気持ち悪いもんだよ」
「そういうもんですか?見られてるっていうのは気分がいいものだと思ってましたけど」
「尊敬の念とかがこもってるならな。敵意とか悪意とか向けられるのはいい気はしない。協会に行くといつもそんな感じだよ」
康太が露骨に敵意を向けられるようなことは少ないが、あからさまに危険視されているような視線は康太にとってあまり好ましいものとは言えなかった。
少なくとも好意的な視線を向けられるのと比べると雲泥の差がある。
「はいはいそこまで。晴、時間がもったいないから案内してくれるかしら?明は今は本家にいるの?」
「えぇ、先輩らのお出迎えの準備です。今回俺らのことについても話すっていう風に支部長の方から話が通ってるみたいで、うちの親とか叔父さん・・・えっと、当主も話に参加するとか」
「あぁ、そういう話になってるのね。まぁいいわ。話すことには変わりないもの」
土御門の当主が来るというのにこの堂々たる態度。さすがは文だなと晴は感心してしまっていた。
伊達に康太と一緒にいろいろと面倒ごとを解決したわけではないのだ。




