土御門一家
「先輩、ちょっといいですか?」
「ん?どうした?」
小百合との会話の途中、休憩をしていた晴と明が康太のもとに駆け寄ってくる。その手には携帯が握られており、何の用なのか何となく推察できた。
「おじさんと話がつきました。明日の夕方にでも本家に来てほしいとのことです」
「明日って平日だぞ?大丈夫なのか?」
一般的な社会人であれば平日に会うというのは考えにくい。仮に魔術師であることを考慮しても夕方に会うというのは少々申し訳なく思えてしまった。
「おじさんの仕事の休みのタイミングを合わせてくれたみたいです。ここから変えるほうが面倒っぽいですね」
どうやら晴も康太たちが抱いたものと同様の疑問を持ったのだろう。すでにそのあたりのやり取りは終わっているようだった。
たとえ康太たちの都合を優先してくれたのだとしても、せめて休日にずらすくらいのことはするつもりだったのだが、どうやらそういう気遣いは無用であるらしい。
「それならありがたいけど・・・土御門の本家か・・・」
康太は一度土御門の本家に足を運んだことがあるが、あまり良い印象は持っていなかった。
やはり大きな家ともなればその分しがらみが存在する。
風通しが悪いといえばいいだろうか、何というか閉塞的な雰囲気が漂っているのである。
無論晴と明の話もするつもりであるため、ただこちらからお願いをするというだけにはならないが、それでも気が重い。
「晴、明と一緒についてきてくれるか?向こうの反応がどんなもんなのかよくわかってないし」
「もちろんです。ご一緒しますよ」
「私たちで良ければついていきますよ」
「あと、その依頼するおじさんってどんな人なんだ?大まかでいいから教えてほしいな」
「えっと・・・どんな関係だったっけ?」
「えっと・・・確かうちの親の・・・いとこ?はとこ?」
どうやら二人も具体的に土御門のどのポジションにいる人物なのかはわかっていないようだった。
無理もないかもしれない。ただでさえ大きな家なのだ。どのような血筋でどのような位置にいる人物なのかわかっていなくても仕方がない。
二人が大人であればそういった立場を理解するべきであるといえるのだが、二人はまだ学生だ。そういった立場関係を理解するには少し早すぎる。
「名前は?そのくらいはわかるだろ?」
「はい。土御門永住さんです」
「・・・あぁ、永住さんか。なるほどあの人か」
思わぬところから声が飛ぶ。その声の主は小百合だった。
「師匠、ご存じなんですか?」
「あぁ。永住さんは先代土御門当主の弟の息子だ。先代当主の甥っ子といえばわかりやすいか?」
「へぇ・・・なんでそんなこと知ってるんです?」
「一応取引先だからな。お前もそういうことは頭に入れておけ。特に土御門の家系はいろいろと手を貸してもらうこともあるだろう。お前たちがこういう関係になっている以上、切っても切れない関係になる」
もともと康太と晴たちが出会ったきっかけも小百合の店の商品の仕入れだった。
そう考えると確かにおかしな話ではないのだが、小百合がまともに仕事の話をしていると強い違和感を覚えてしまう。
そしてその違和感を覚えていたのは康太だけではないようだ。その場にいる全員がどこか妙な表情をしている。
「土御門に会いに行くならちょうどいい。師匠からの預かりものがあったんだ。二人に預けようと思っていたが・・・お前が行くならちょうどいい」
毎回土御門の双子がこうして小百合の店にやってきているために、小百合は割と頻繁に土御門に対しての届け物を晴と明に預けている。
今回は康太が直接足を運ぶということもあって、ついでに仕事をさせようとしているのだろう。こういうところは小百合らしかった。
「智代さんからですか・・・いったい何ですか?」
「大したものではない。お中元のようなものだそうだ。残暑見舞いとでもいえばいいか?」
「へぇ・・・俺から渡したら誤解されませんかね?郵送とかすればよかったのに」
「私に言うな。誰かから直接受け取るというのが大事なんだろうよ」
小百合自身も郵送で直接送ればよかったものをと思っているのだろうか、師匠である智代の考えなどわからないのか、眉をひそめながらため息をつく。
小百合からしても師匠である智代の考えは読めないらしい。長い付き合いであってもわからないことも多いのだろうなと康太は小百合がもってきた箱を手に取ると、明日もっていく用の荷物の中にそれをしまっていく。
「明日は門を使っていくから、行く頃になったら連絡するよ。向こうの方は今どんな感じなんだ?落ち着いてるのか?」
「今のところ大規模な争いはないですね。下の一族でちょっとした小競り合いはあるみたいですけど、そのくらいは日常茶飯事ですから」
「西も結構ごたごたしてるんだな。一緒の組織なんだから仲良くすればいいのに」
そんなことを言いながらも、今回の康太たちの戦いだって見方を変えれば内乱となんら変わらない。
どこもやっていることは同じなのだなと納得し、康太は明日の準備を進めることにした。




