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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
三十話「神の怒りは、人の恨みは」

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劇薬、動く

「康太、ちょっといい?」


「ん?文か。双子との話は終わったのか?」


小百合と訓練をしていた康太は一度手を止めて文の方に駆け寄る。小百合の攻撃範囲から逃れるために短距離の瞬間移動を駆使する姿に、文は少しだけ安堵していた。


力を使いこなすことができつつある。康太の体が変質してからというもの、康太は日々訓練を重ね続けている。


無意識に近い形でとは言わないが、ある程度自分の動きをコントロールできるようになっているようだった。


「今度土御門の人に未来を予知してもらおうと思ってるのよ。その時あんたも一緒に来てくれないかしら」


「あぁいいけど、何を見てもらうんだ?」


「相手の拠点の位置ね、絞れたことは絞れたんだけど、四か所くらいあるのよ。私たちが攻略する時、どこに例の魔術師がいるのかを見てもらおうと思って」


「・・・あぁなるほどそういうことか。オッケー。じゃあもう突入する日は決まったのか?」


「まだ支部長への相談段階だから確定とは言えないわ。同時攻略になるから、支部長の方でもいろいろ準備しないといけないだろうし・・・そんなにすぐには決められないわよ?」


「まぁ・・・そりゃそうか・・・身内に敵がいるかもしれないんだもんな」


四カ所の拠点を一斉に攻略するにはそれなりの人数を集めなければならないが、問題はその人数をどうやって集めるかという話である。


協会内に敵に通じている存在がいる限り、大々的な行動をとれば相手にそれを悟らせる結果になりかねない。


信用できる人間のみを集めるにしても時間がかかってしまう。


さらに言えば、今回は日本支部だけの話ではない。各国の支部ともかかわりのある話なのだ。支部長が各支部の長にどのように話をするのかはさておいて、人員の調達や事前の調査を合わせて難しい話になるのは間違いない。


少なくともとんとん拍子で話が進まないのは確実だ。


「だからこっちとしては、どこに攻め込むのかだけでも把握しておきたいのよ。それならこっちの準備もしやすいでしょ?場合によっては協会にその未来の情報を出すこともやぶさかではないし」


「なるほど。人員を要求するにしても相手の戦力がわからなきゃ仕方がないか・・・こっちの方でも強い人を出せればいいんだけど・・・」


そう考えて康太と文の視線が先ほどまで康太と訓練していた小百合に向く。さすがの小百合も話をしているときに斬りかかったりしないあたり最低限の良識は持ち合わせているということだろうか。


「師匠、今度敵の基地に攻め込みに行きますけど、行きます?」


「・・・私が行くと思うか?」


「ですよね。聞いてみただけです」


「・・・とはいえ、最近体がなまっているのも事実だ・・・お前たちが行かない場所に私が行こう」


どうやら先ほどの話を聞いていたのだろう。四カ所のうちの一か所に小百合が行く気になっているという事実に康太と文は目を丸くする。


「どうする?軽い気持ちで聞いちゃったんだけど、どうする?やる気になっちゃったみたいだぞ?」


「どうするのよ、支部長になんて言うつもり?小百合さんが出ていくなんて支部の中じゃ最悪の最後の手段なんでしょ?うちの師匠を呼んでおく?」


「春奈さんなら最悪ストッパーになってくれるかな・・・?アマネさんにも声かけておくかな・・・?」


「聞こえてるぞ馬鹿ども。人がたまにやる気になったらこれか」


康太の頭に拳骨を落とす小百合に苦笑しながら、とりあえず文は支部長にメールで連絡を取った。


小百合が今回の攻略戦に参加しそうですという文面だ。


内容的に支部長がどのような反応をするのかはさておき、戦力面ではかなり期待できるのは間違いない。


その分何かを大きく破壊する可能性もかなり高まったわけだが、そのあたりの面倒ごとはすべて支部長が何とかしてくれるだろうと康太たちは高をくくっていた。


「でも師匠、なんで今回に限って?」


「・・・体が鈍っているだけだ。お前たちでは満足に運動もできん。最近ちょっと太ってきていてな」


そういいながら小百合は自分の脇腹をなでる。そこまで肉がついているようには見えなかったが、文はそういうことにしておこうと考えていた。


康太がおかしくなっているように、小百合も少しおかしくなっているのだ。


無理もない。何年も一緒に育ち、一緒に研鑽を重ねた兄弟子を殺されたのだから、何も思わないほうがおかしいのだ。


いくら小百合が康太の獲物を横取りするつもりはないといっても、何もしないよりはいいと考えているのだろう。


あの時、康太が何気なく言った、吐き捨てたあの時の言葉が小百合の中には強く残ってしまっている。


もうあの場にいなかったから何もできないなどとは言わせない。単純な理屈だ。もう二度とあのような生意気なことは言わせない。


どのような理由で行くと決心しようと、結局小百合の理由など大したことではないのだ。大義名分などあったものではない。


当然のように文には支部長からのメールが雪崩のように届くことになる。


その内容がすべて小百合に関することなだけに、文は笑ってしまっていた。


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