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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
三十話「神の怒りは、人の恨みは」

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次の一手

康太が修業に明け暮れる中、文は倉敷とともに世界中を移動し続けていた。


世界中を移動するといっても、各支部の各教会部分を経由して現在位置を確認しながら探知の術を発動しその方向を確認する。


問題なのは各地点の地図を使用して方角を割り出すというものであるために、ありとあらゆる場所からそれらを探索してその方角を正確なものにしなければならなかった。


まだ改良したばかりということもあって精度もそこまで高くなく、多少のずれが出てくるわけなのだが、数百メートル規模での多少のずれと、数百キロレベルでの多少のずれは多大な違いを及ぼす。


何よりの欠点は文自身がこの魔術の探知可能範囲を認識していなかった点である。


索敵の魔術のように明確に索敵範囲がわかるのならばよいのだが、この探知魔術は目標がいると思われる地点を血の針が指し示すというものだ。


何度かの実験の末、数十キロレベルであれば誤差はあれど探知は可能であるということは判明している。

だが数百キロ、数千キロレベルでそれが可能かは不明である。


さらに言えばこの探知は地球上ではどのように反応するのかもわからなかったのだ。


地球が完全な平面の上で成り立っているのであれば話は簡単だっただろう。だが地球は丸いのだ。


地図上で表示できないような地面の中にいるなどと表示されてしまった場合、地図上における表示が不可能になる。


その辺りの欠点を踏まえ、文はとにかくありとあらゆる地点での探査を余儀なくされていた。まずはいくつかの大陸に行き、大陸上における表示位置を確認、そして表示された方向を地図上にて認識した後、その大陸の中にいるのかを確認してから各地点へと移動しその場所を確認するというものなのだが、これがなかなかに難航した。


目標が動かず、一か所に留まり続けるのであればもっと話は簡単だっただろう。


だが相手は魔術師、しかも相手も協会の門を利用して移動することもある。そのために探知していた場所が一気に変化するということもあったのだ。


その場で動くなと強く言いたいところではあるが、そんなことができれば苦労などない。文はコツコツと、相手が動く場所をとにかく把握し続けていた。


幸いといっていいのかはわからないが、多少の誤差があるおかげで日常的な、魔術師としてではない移動の時があればそれで所在地を確認することはできる。


魔術師としての活動の時だって常に方々へ移動しているわけではないため、そういった時を狙って探知し続けるということも不可能ではないのだ。


とはいえ相手の状況がわかるわけではないのでそれだって難航する。


日中は文だって学校などがあるために確認できる時間はごくわずかになってしまうし、夜間は魔術師の時間であるために相手だって動く。


数をこなすことでしか確認ができないという事実に文は辟易するが、何十枚の地図を使用することで徹底的に数でカバーするという方針をとっていた。


結果的に、文は数カ所、件の魔術師が駐留しているであろう場所を確認することができた。


中国中心やや北寄り、ロシア西部やや南寄り、アフリカ大陸中部やや東寄り、南アメリカ大陸北寄り、どこも広大な大地を有する国であり、都市部ではない場所に集中していた。


これを調べるのはなかなか手間がかかる。都市部であれば比較的容易に調査も可能だったのだろうが、街も何もない場所では協会の門もなく、近くに魔術師がいる可能性も少なくなるために相手に発見される可能性も高くなる。


比較的在中している頻度が高いのはロシア西部の南寄りの場所だが、それ以外の場所が拠点とも限らなかった。


とはいえこれ以上の調査は文では不可能だった。場所が大まかに割り出せただけでもよしとするべきだろうかと、文は地図を確認しながらため息をつく。


「これ以上は難しいわね」


「でもどうするんだ?こんだけ拠点があるんじゃ襲撃するにしたってどこに当たるか分かったもんじゃないぞ?」


「・・・直前に確認して移動っていうのが一番確実だと思うけど・・・手間が増えるわね・・・とはいえ四カ所・・・これが相手の拠点だっていうのは間違いないんでしょうけど・・・」


相手の拠点が四カ所に絞れたというのは結果的には良い情報ではある。だがこの四カ所のどこが重要拠点であり、目的の魔術師が足を運ぶ場所なのか、そして何よりあの魔術師、あの四分の一の仮面の魔術師が組織内においてどの程度の人間なのかもわからない。


現場に出るだけの人間だった場合、現場の詰め所だけに足を運ぶということだってあり得るのだ。


相手の戦闘能力的に幹部的なポジションにあると思いたいが、それは文の勝手な願いだ。


戦闘能力が高い=幹部になれるという方程式は成り立たない。戦闘能力はあくまで戦闘能力。現場を動かす力ではあるが大局を動かすことはできない。


「・・・ここから先は協会の大々的な協力が必要になるけど・・・相手にばれる可能性もあるわね」


「スパイがいるかもしれないんじゃなぁ・・・どうするよ?」


倉敷の言うように協会内に敵がいる可能性が高い。協会全体に協力を求めたとして、どこから情報が洩れるかもわからないのだ。


打ち明ける人間はかなり限定されなければならない。とはいえこのままの調査ではこれ以上先に進めないのも事実だ。


「仕方がない・・・別の人の力を借りるか・・・」


文にはいくつか考えがあった。


その中で一番取りやすい手段、一番手っ取り早く行える手段をとることにした。とはいえこれをやるにはまず支部長に許可を取らなければいけないのだが。












「・・・土御門に?」


「えぇ、土御門の家に正式に調査依頼を出したいです。正確には予知の依頼ですね」


文は敵魔術師たちの拠点と思わしき場所の四カ所を記した地図を支部長に見せながら自分の考えを話していた。


「私たちが突入するという想定の場所四カ所、そこへ移動する際の光景を予知してもらえればいいんです。私が探知する前後で。そうすれば上空からの航空写真で大まかな場所がわかります。もっと言えば戦闘している光景を見てもらえれば最高ですね」


幸いにして今回の場所はそれぞれが全く違う地形となっている。


中国は岩肌が多く、ロシアは荒野、アフリカは湿地、南アメリカは密林とそれぞれ地形そのものが違うためにその光景を見るだけでどこに行っているのか、誰と戦っているのかを知りたかった。


四分の一の仮面をつけた魔術師を直接見ることができればよいのだが、予知の魔術もそこまで万能ではないだろう。確認するためには本人を見るか、あるいは予知の使用者が相手のことをよく知っている必要がある。


康太や文たちの光景を見てもらえば、そこで戦闘している者の情景も一緒に映るだろう。

それこそが文の目的だった。


「協会と関わりはあっても、協会とは別組織の土御門であれば情報がばれる可能性も低いと考えました。支部長にはそのつなぎ役になっていただければと」


「・・・んー・・・確かに悪い手ではないけれど・・・この地図の情報は誰かに伝えたのかい?」


「いいえ。情報漏洩の観点から今はまだ私とトゥトゥしか知りません。支部内のどこにスパイがいるのかわかりませんから」


「そこが問題だね・・・四カ所・・・他の支部と協力して四か所同時攻略したいところだけれど・・・」


「私たちとしては件の四分の一の仮面をつけた魔術師さえ討伐できればそれでいいので、あとは支部長にお任せします。どのようにするのが一番いいのか、一番わかっているのが支部長でしょうから」


「・・・要するに丸投げってことなんだね・・・うぅん・・・まぁありがたい情報だけど・・・よくこの短時間でこれだけの調べがついたね」


「最近ずっとこうやって調べてましたからね。多少成果が出ないと・・・四分の一にまで絞れたので、まだ可能性としては上がったほうでしょうか」


何もわからなかったところから場所を四つにまで絞り込めたのは文の地道な努力が実を結んだ結果といえるだろう。


支部長もそのあたりは高く評価していた。


だがまだ四カ所のうちの一か所という側面を持っているのも事実だ。まだ康太たちが目的を達成するには足りない。


支部長からすれば四つの拠点を攻略するだけでよいので、あとは攻略の人員を把握できればいいのだが、康太たちはそれではだめなのだ。


どうにかして件の魔術師を倒さなければならない。そのためにはやはり確実な位置の把握が必要なのだ。


「わかった。土御門への協力要請は僕の方から出しておこう。けど、表向きは今預かっている土御門の双子への話し合いということで本家にお邪魔するってことにしておくね」


「万が一を考えれば当然の措置かと思われます。支部長が信頼できると思った方にのみ本当のことを伝えておけばそれでよいかと」


「うん、了解したよ。それにしても・・・本気なんだね」


「本気ですよ。私も、ビーも」


本気で魔術師を殺そうとしている。その事実に支部長はため息をついてしまっていた。


まだ若い、本来であればまだ師匠の下で研鑽を積んでいるような年代の魔術師が、すでに相手を殺すことを選択肢に入れているという事実に、支部長は少しだけ情けなくなっていた。


そんなことを考えさせてしまっているということもそうだが、こんな子供に頼らなければいけないということに情けなさを感じずにはいられなかった。


「・・・もう僕から何を言っても無駄だろうから、いうことはしないよ。最後までよく考えてね」


「わかっています。それでは土御門への打診はお願いしますね。こちらからも双子からを介してお願いするつもりではありますが」


「わかっているよ。この情報は僕が預かっておいてもいいかな?」


「えぇ、こちらは清書したものですから構いません。他の支部への相談の材料にしてください。特に各国の、この拠点がある国は気が気ではないでしょうから」


「そうだね・・・場所が場所だから調査も難航するかもしれないけれど、そのあたりは現場を信じるしかないなぁ・・・」


後の問題はその場所に康太を送り込むだけの大義名分だ。


とはいえ、康太がその気になれば勝手に行動することもできなくはない。だが組織である以上勝手な行動をとれば非難されるのが常だ。


なるべく康太を守るためにも、こちらからの戦力として、また日本支部から補助という形で出立してもらうのが一番いいだろう。


戦闘経験を持っている魔術師を送り出すこと自体は不自然なことではないため、説得は難しくはないだろうなと支部長は考えていた。


一番の問題は、康太がどのように戦うかだ。目的の魔術師を見つけた時にどのような反応を示すのか、どのような戦い方をするのか。


支部長は康太の戦いを見たことは少ない。前回の一件でさらにその戦い方に変化が加わることは想像に難くなかった。


先日康太が要請した周辺への警戒要員として赴いた魔術師たちからの証言でもそれは明らかだ。


「どうしたものかな」


支部長は誰にも聞こえないような声で呟き、小さくため息をつく。とりあえず今やるべきことは土御門への打診だろうなと、文書の作成を始めていた。


たぶん誤字報告を五件分受けるので二回分投稿


仕事の関係で反応が遅れてしまいます。申し訳ありません


これからもお楽しみいただければ幸いです

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