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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
三十話「神の怒りは、人の恨みは」

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強くなったのだから

「いうなれば俺は康太マークツー。Bボタン連打でも止められない進化の結果よ!」


そういいながら康太は何かの変身ヒーローのようなポーズをとって見せる。神加にそのポーズの意味が伝わらなくとも、康太自身がこの体のことに関してまったく何も感じていないということを表したかった。


こういうのは理屈で説明してもダメなのだ。いくら正論を言ったところで、いくらわかりやすく言葉で伝えたところで結局理解できても納得できない。


康太はそれをわかっていた。あの時小百合に強引に連れていかれたからこそ、それを理解していた。


頭ではわかっていたのだ。理解していたのだ。だが納得できていなかった。心が動くことを拒んだ。


だが、小百合が強引に康太を叩きのめし、幸彦のもとに連れて行ったとき、康太はようやく納得できてしまったのだ。


頭で理解するよりも体で納得させたほうがいいこともある。心を動かすよりも先に体を無理やりに動かすほうがいいこともある。


今神加は不安がっている。恐れている。そして後悔している。だから康太がそれを教えてやらなければいけないのだ。


「だからな神加、そんな顔するな。お前のおかげで強くなれてるのに、お前がそんな顔してたら俺まで悲しくなるぞ」


康太は同化状態を解除し、神加の頭をなでる。


神加がどれくらい康太の気持ちを理解してくれたかはわからない。だが少なくとも自分を責めることをやめてほしかった。


神加が悪いのではないのだ。神加を攫った魔術師たちが悪いのであって神加は被害者なのだから。


神加がそこまでのことを理解できているかはわからない。というか何が起きてどのようなことになったのか、神加がどれくらい理解しているのかもわからない。


精霊たちがどのようなことを神加に話したのかは不明だが、少なくとも神加の目に映る康太の姿が変わっている時点で、神加に気にするなというのは難しいだろう。


だからこそ、康太が望んでこのようになったのだと思わせるほかなかった。難しいとはいえ、今はそうするしかない。


これから神加が成長して、本当のことを話さなければならなくなったとしても、康太は同じように告げるだろう。


神加のおかげで強くなれたのだと。


それ以外に康太に言えることはなかった。あとは康太が強くなり、この力を使いこなして初めて神加に胸を張って言えるだろう。


お前のおかげで強くなれたのだと。


それまでは康太が示し続けるしかない。たとえ神加がそれを嘘だといっても、康太だけはそれを主張しなければならない。


神加を傷つけないためにも。


「それにな、この体になってできることが増えたんだぞ?例えば・・・ほい!」


そういって康太は電撃同化状態になって短距離瞬間移動し、神加の背後に回り込む。


だが神加は康太の姿を目で追っていた。さすがに神加の体が追い付かなかったようだが、神加は康太が後ろに回り込んだ瞬間に振り向いていたのだ。


「あれ?ひょっとして見えてる?」


「ううん、でもいる場所はわかるよ。みんなとおんなじ感じがするから」


みんなとおんなじ感じという非常にあいまいで抽象的な表現ではあるが、それが神加独特の感覚の延長線にあるものであると康太は理解していた。


要するに精霊を感じ取る能力だ。神加はこれまで精霊の存在を感じ取ってきた。おそらく存在が変わったことで、康太からも同じような気配が漂っているのだろう。


同じ気配と言わないあたり、やはり康太の気配は通常の精霊のそれとは少し異なっているのだろう。


少しそのあたりが気がかりだったが、これから神加から隠れることは難しくなったわけだと康太は苦笑する。


「ところで神加さんや、俺の姿ってどんな感じに見えてるの?ちょっと気になる」


「えっとね・・・ちょっと待っててね」


そういって神加は障壁の魔術を使って康太の姿を作り始める。


自分の中で最も外見的特徴を表現しやすい方法として障壁の造形をマスターしたようだった。


本来の使用用途とはだいぶ違うが、少なくとも取れる手段が増えるのは良いことだと康太は考えていた。


数分して、神加は康太の頭部を作りきる。


そこには確かに普通の康太とは違う外見の障壁が出来上がっていた。


康太の頭部の両側から、確かに羽のようなものが後ろに向けて飛び出ている。そして康太の後頭部やや後ろ、襟足の部分が確かに尻尾のような形になっていた。


さらには耳の形がやや変化しており、先端がわずかに尖っている。


そこまで長くないはずの康太の髪も一部妙に長くなっているように見える。


外見的な大きな変化はそのくらいだろうか。色がついていたらさらに変化がわかりやすかったのかもしれないが、今はアリスがいないので着色ができないためにそれ以上の大きな変化を見つけることは難しかった。


だが一応康太の顔と言えなくもない。やや変化しているとはいえ。主な外見は変わっていないようだった。


アクセサリーが少し増えた程度だなと思いながらも、康太はこれが顔の変化だけだという不安も残していた。


顔がこれだけ変化していたら体の方はどのように変化しているのだろうかと、少し不安ではあった。


とはいえ神加しかこの姿を見ていないのであれば問題ないかとも思ってしまう。


















「お前また妙な姿になったよなぁ・・・めっちゃ光ってんじゃん」


「まだ俺は変身を二回残しています。その意味が分かりますか?」


「どうでもいいわ。とりあえず光ってて見にくいから光るのやめろ」


せっかく光ってるのにと康太はしょんぼりしながら電撃の同化状態をやめる。


康太は今倉敷と一緒に訓練をするべく、少し開けた広場にやってきていた。


周辺は協会の魔術師の協力のもと、一般人が近寄らないようにしてもらっている。本当は小百合か春奈、どちらかの修業場でやってもよかったのだが、本気で動くとなると室内では少々手狭というのがあったのだ。


特に倉敷は空中を自由自在に動くため、広い空間での戦闘を得意としている。室内ではどうしても戦い方が限られてくるのである。


倉敷の扱う水の術は電撃との相性が顕著に表れる。電撃の防御、誘導などに水の術は多く使用されるのだ。


康太の新しい戦法を試す相手としては最適といってもいい相手である。


倉敷は倉敷で機動力の高い相手に苦労する。といっても今まで康太以上の機動力を持った相手と戦ったことはないのだが、康太との訓練は倉敷にとっても得るものは大きい。普通の魔術師と戦うより数倍は良い経験値となる。


康太に攻撃を当てられるということはつまり、たいていの魔術師相手には攻撃を当てられるのと同じことなのだから。


「で、どういう条件でやるんだ?まさかフル装備じゃないだろうな?」


「装備は使わない。純粋に魔術とこの体だけで戦う。今回のこの体の実験含め、実戦訓練だ・・・それはそうと、ベルの方はどうなんだ?今日は休みか?」


「あぁ、最近ずっと動きっぱなしだからな、俺がドクターストップをかけた。あいつずっと魔術発動しっぱなしだったんだぞ?」


文は今倉敷と組んで件の魔術師の居場所を調べるために奔走している。


ありとあらゆるデータをとるために、時間さえあれば調査を繰り返しているのだが、それの護衛をしている倉敷が休養を取らせたらしい。


ナイス判断だと康太は何度もうなずく。やはり倉敷に頼んだのは正解だった。倉敷は目的を達成するために暴走するようなタイプではない。


康太は間違いなく暴走し、文も康太につられて無理をするタイプだ。そんな康太や文を止められるのは今のところ倉敷くらいしかいない。


康太は今訓練に精を出している段階であるため、文を止めることが最大の問題だったといえるだろう。


康太は準備運動をしながら自分の体の調子を確かめている。倉敷も同じように体をほぐしながら覚悟を決め始めていた。


「こうしてお前と向き合うのは久しぶりだな・・・手加減しろよ?」


「いいや手加減はしない。お前相手に手加減したら普通に負ける」


「お前ふざけんなよ。お前が本気になったら俺なんて瞬殺されるわ」


「いやいや、お前ならできる。俺を倒すことくらいはできる。いい加減自信持てって」


そういいながら康太は姿勢を低くしながら殺気を放つ。


普通の魔術師であれば殺気を放たれただけで身がすくんでしまうだろう。それほどの強力な殺気を前にしても倉敷は動じない。


もはや慣れたものだとでもいうかのように自分の装備であるボードを取り出して大量に水を出す。

行くぞ、行くぞと康太は魔力を活性化させながら、自らの体から電撃を出して合図をしている。


いつでもどうぞと倉敷は構えている。康太がいつ動いても対応できるように警戒を最大限に引き上げていた。


康太の体が眩く発光した瞬間、噴出の魔術を発動し康太は倉敷めがけて一気に接近しようとする。

だが倉敷も反応し、康太との間に水の壁を展開すると同時にボードに乗ると勢いよく空中へと飛び上がっていた。


康太は水の壁を容易に回避すると空中へと逃げた倉敷を追う。ボードに乗って移動しているとはいえ倉敷は速い。落下による加速と、水による推進力、その両方が加われば倉敷の速度はかなりのものになる。


とはいえ康太だって負けていない。噴出の魔術に加え、再現の魔術によって疑似的に足場を作り出せばさらに方向転換や加速が可能だ。


流動的かつ滑るように空中を移動する倉敷に対し、急加速急減速、そして直線的な軌道で急な方向転換を可能にする康太。


近づこうとするものと逃げようとするもの。炎による加速と水による滑走。一つの対比となっているこの光景は、周囲に展開している魔術師たちの目をくぎ付けにするには十分すぎた。


康太がすれ違いざまに電撃を放てば倉敷は水の壁で防御し、倉敷が水の触手で康太を捕まえようとすれば康太はそれを避ける。


康太が火の弾丸を放てば倉敷は水の弾丸を放つ。一見すれば二人の実力は拮抗しているように見えた。


少なくとも、この周辺を警戒している魔術師たちにとって、倉敷、トゥトゥエル・バーツという精霊術師は康太と、ブライトビーと同等の戦闘能力を有しているように映っていた。


精霊術師のまとめ役となった少年。支部長から直接その任を任されたという事実に少なくない数の者たちが疑問視した。


ブライトビーと一緒にいるだけの精霊術師がなぜと思った者もいただろう。


一部のものは、倉敷が康太、ブライトビーと一緒に居られるだけの実力を持った精霊術師だということは知っていた。だがこれほどの実力を持っていると誰が想像できただろうか。


炎と水を使い、雷と水が空中を輝かせる。その光景を見た魔術師たちが倉敷の評価を大きく改めるのに時間は必要なかった。


土曜日なので二回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

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