魔術の講義
地下から元の店の裏にある居住スペースに戻ってきた康太は何とか体を起こしちゃぶ台の前に座っていた。
これから魔術の講義があるらしいのだが一体どのようなものなのか、ほんの少しだけ興奮している。
今までのが単なる薬物的な作用ではないと信じたい。そうでなければ今までやった行動すべてが無駄になってしまう。
「さて・・・まずはどこから話したものか・・・とりあえず基礎の部分から教えていくか。しっかりと覚えておけ」
康太はどうにかして姿勢を正すと小百合の方を注視する。一体魔術というものがどういうものであるのか、それをしっかりと聞いておかなければならないと思ったのだ。
「魔術とは、まぁお前が前にも言ったが可能不可能がはっきりと分かれた一種の技術だ。魔力をエネルギーとし発動しそれぞれ得手不得手が存在する。その中に含まれるのが属性と呼ばれる要素だ」
「・・・光とか闇とか炎とかそう言うのですか?」
「そう、ゲームなんかでもよくあるだろう?あぁいうのをイメージすればそれに近い。だが大抵の人間はその属性も得手不得手がある。例えば炎属性が得意だったらその属性以外の術は苦手だったりという感じだな」
属性、いかにも魔術らしい話に康太はうんうんとうなずいてしまう。
炎をはじめとする四大元素、日本の陰陽道などでよく登場する五行など属性は数多く存在する。実際の魔術にそれらが当てはまるかどうかはまだわからないが。
「複数の得意属性があったりする奴もいるが、まぁそのあたりは置いておいていい。術において存在する属性はいくつかあるが、さらに大きな分類が存在する。まずはそれらを紹介しておこう」
小百合は近くにあったメモ用紙に三つの言葉を書いていく。
そこには魔術、精霊術、方陣術と記されていた。
いきなり出てきた三つのワードに康太は眉をひそめた。魔術は今自分が覚えようとしているものなのだが、精霊術や方陣術などは一体どういうものなのだろうか。
「あの・・・この世界に精霊っているんですか?」
「あぁいるぞ。今度見せてやる・・・っと話が逸れた・・・とりあえずこの三つについてだが、基本的には術であることは変わりない。やっていることも基本的には同じだ」
精霊の有無はさておきやっていることが同じであるなら分ける必要がないのではないかと思えてしまう。
わざわざこんな名前まで作って大別するのには何か意味があるのだろうか。
「まず魔術は私やお前のように、魔術師になることのできる素質を持った者が扱う術だ。そして精霊術はその素質のいずれかが欠けているものなどが多用する術の事を指す」
「・・・えっと・・・供給口と貯蔵庫と放出口の三つ、でしたっけ?」
その通りだと言って小百合はメモ用紙に人間の体を描いてそこに三つの要素を書き込んでいく。それぞれ供給口、貯蔵庫、放出口と記されていた。
「人間の中にはこの三つの機能が存在しない者もいる。その機能のいずれかを精霊に代替してもらって術を発動するのが精霊術だ」
もし素質がなかったらどうするのか。少し前にした質問に対して小百合は特に問題はないようなことを言っていた。恐らくはこの精霊術のことを指していたのだろう。
実際素質がなくても扱えるのであれば問題はない。
「ただ、この精霊術には欠点がある。それは精霊を宿した場合さっき話した属性が限定されるという事だ」
「・・・えっとつまり、どういうことですか?」
美味しい話には裏があるとはよく言ったものだ。必ず利点には欠点がつきものという事である。
素質がなくても使える代わりに必ず欠点があるのが当たり前という事だろう。
「術と同じく精霊にもそれぞれ属性がある。ウンディーネとかサラマンダーとか、それくらいなら聞いたことがあるだろう?」
「あー・・・水の精霊と炎の精霊ですか・・・あぁそう言う事か。その才能代わりになってくれてる精霊の属性の術しか使えなくなるってことですか?」
そう言う事だと小百合は薄く笑って見せる。話が早くて助かっているのだろう、早々に次の話題に入っていった。
「精霊が扱うマナや魔力は特殊なものになってしまってな、まぁこの話はまた詳しくするがそれぞれの属性に見合ったものに変化してしまうんだ。そのせいで特定の属性しか使えなくなってしまう」
「なるほど・・・それはそれで不便そうですね・・・」
ゲームなどでもバランスよく属性を使えた方が汎用性が高い。一点突破の属性というのもそれはそれでいいものがあるが、多くの属性を使えるに越したことはないのだ。
「あれ?でも人には得手不得手があるんですよね?それなら結局自分の得意な属性だけ使うんじゃないんですか?」
「確かに魔術師は得意な属性を好んで使う傾向にあるが、苦手であることと使えないという事は大きな違いがある。魔術師は苦手でも一応いろんな属性を使えたりするんだ。その差は大きい」
苦手であるか、できないか。確かにその違いはかなり大きい。苦手ではあるができないことはないというのはかなり役に立ったりするのだ。
状況にもよりけりだが一つの属性しか使えないというよりは多少は汎用性が高くなるだろう。
そう考えると、精霊術師というのは魔術師の下位互換のような感じがするのである。できないことが魔術師よりもさらに明確になってしまっている。そんな気がするのだ。