進化、神化?
「お兄ちゃん・・・あの・・・」
「ん?どうした?」
修業がひと段落したのか、神加は康太の方を見ながら物陰に隠れたままである。
今までならば康太のもとに駆け寄ってきていたのだが、今日はなぜか康太から距離を取ったままだ。
「どうした?こっちおいで?」
康太が手を広げて誘うが、神加は一瞬飛び出そうとして再び物陰に隠れてしまう。
一体どうしたのだろうかと考えた瞬間に、その可能性が頭に浮かぶ。
「・・・ひょっとして嫌われましたかね・・・?」
「さぁな。子供の考えはわからん。あるいは思春期になったのかもしれんぞ?」
「え?女の子の思春期ってこんなに早くからなるんですか?」
「知らん。私に聞くな」
「・・・師匠も一応女の子だった時期があるはずですよね?」
「私を普通の女子と一緒に考えるな。あれも普通とはいいがたいが」
小百合の言うように、小百合を普通の女子と同じように考えるのは少々不適切だろうと康太は納得してしまった。
そして神加が同じように普通ではないことも納得してしまう。だがだからこそ神加の変化が気がかりだった。
もしかしたら先ほど殺気を全力で放ったから怯えているのだろうかと考えたが、康太は普段訓練するとき普通に殺気を放っている。
今更怯えるような理由が見当たらなかった。
康太と小百合は顔を見合わせて首をかしげる。神加が何かがあったというよりは、康太に何かがあったから近寄りたくないのかと考え、康太は自分から神加の方に歩み寄ることにした。
康太が近づいても一応逃げようとはしない。どうやら康太に近づけない、近づきたくないというわけではないようだった。
どちらかというと物陰に隠れていたいというべきか。
「どうした神加?何かあったのか?」
「・・・」
神加は康太に言おうか言うまいか迷っているのか口を開いては閉じて、閉じては開いてを繰り返していた。
そして意を決して康太の顔をまっすぐに見つめる。
「あのね・・・みんなに聞いたの・・・この間、学校の帰りに・・・お兄ちゃんが助けてくれたって」
「みんな?あぁ、精霊たちか」
神加の体内にいる精霊たちがどれくらいの数、そしてどれほどの質なのか康太は把握していない。
だが少なくとも神加と意思疎通できるレベルの精霊たちがいることは確定のようだった。
そして神加が気絶していた間のことを、おそらく神加の体内にいる精霊たちに聞いたのだろう。
「それで・・・お兄ちゃんがそんな風になっちゃったって・・・」
「そんな風・・・って・・・神加には俺が前とは違うように見えてるんだな?」
康太の問いに神加は何度もうなずく。
どうやら神加の目には康太が以前とは全く違う外見のように見えているようだった。
この間はただ寝ぼけているだけかと思ったのだが、どうやら神加の目は康太の存在が変質したことを見抜いているらしい。
「前にも似たようなこと言ってたよな?頭に羽が生えてるんだっけ?」
神加は康太の言葉に小さくうなずく。どのように説明すればよいのか、神加自身うまく説明できないようだったが、少なくとも外見的特徴が以前の康太とは違っているのは間違いないらしい。
存在そのものが変わり、おそらく物理的な外見ではなく存在的な外見が特殊な力となって漏れだしているのかもしれない。
そして神加がそれを見抜いた。それが良いことなのかはさておき、少なくともそれが神加の負い目のような形になっているようだった。
「神加、ひょっとして、自分のせいで俺がこうなったって思ってるか?」
先ほどと同じように、神加は小さくうなずく。幼いながらも、自分のせいで康太がこのような姿になってしまったことに負い目を感じているのだろう。
そんなことを神加が気にすることはないのにと思いながらも、こういうのは理屈ではないんだよなぁと康太は悩む。
自責の念というのは他人がどうこう言ったところで早々考えを変えられるというわけではない。
何より神加ではまだ康太が伝える言葉を正しく理解することも難しいだろう。
子供に何かを説明するというのは難しいなと思いながら康太は立ち上がり、ゆっくりと意識を集中する。
「神加、よく見てろ」
そして康太は今できる最大の電撃を纏い、電撃と同化する。
肉体が電撃と混じり合い、光り輝くその姿は康太が人間をやめたという証明に他ならない。神加はその姿から目を背けることができなかった。
「いいか神加、この姿は一種の進化だ。俺はお前を助けたことによって進化したのだ!」
「・・・進化?」
「そうだ。パワーアップしたんだ。お前のおかげだ」
神加のせいでこのような姿になってしまったのではなく、神加のおかげでこのような姿になれたのだと康太は教えたかった。
神加が進化という言葉を正しく理解しているかはさておき、ゲームなどでは進化というのはプラスの表現を使われることが多いためにとりあえずこのように言っておくのが適切だと考えていた。




