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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
三十話「神の怒りは、人の恨みは」

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覚悟か作業か

「殺気を消すって・・・具体的にはどうやるんですか?」


「具体的に・・・?お前は普段から殺気を垂れ流して生活しているのか?」


「いえ、そういうわけじゃないですけど」


何かにイラついているわけでもないのに怒気や殺気を振りまくような真似を康太はしない。少なくとも康太は平時の、一般人として生活しているときには殺気の類は全く出していなかった。


「それならそういうことだ。普段通りにしていればいいだけのことだ。わざわざ殺気を出すのは相手を威圧して萎縮させるため。相手に気付かれないようにするのならばそんなものは出さなければいいだけの話だ」


「・・・でも、何というか・・・攻撃してるときとか、攻撃しようとする時ってこう・・・つい出ちゃうというか」


それは一種の覚悟のようなものだ。


康太は普段相手を攻撃するときに、殺すつもり、最悪死んでも仕方がないという感覚で攻撃している。

そんな覚悟も決まっていないような状態で攻撃をするということを康太はしてこなかった。


木刀などの非殺傷武器を使っているのであれば、ある程度のコントロールはできるかもしれないが、基本的に刃を使い、最悪人が死ぬような攻撃をしている康太はそういった覚悟が必要不可欠なのである。


「つい出ちゃうでは話にならんのだ。出ないようにしろ。攻撃というのは相手に知らしめるというのも重要な意味を持つが、相手に気付かれないというのも重要なんだ。お前のような強い殺気では鈍いものでも何かが来ると気付くぞ」


そんなもんでしょうかと康太は首をかしげながら少し離れたところで真理相手に訓練をしている土御門の双子に視線を向けて、今出せる全力の殺気を放つ。


晴と明は殺気を感じ取るようなことはできない。そのような訓練をしてこなかったのが原因だろうし、予知の魔術によって視覚的に未来を見ることができるために、目以外の感覚が若干鈍いきらいがある。


だがそんな二人でも、康太の殺気に反応したのか一瞬身を強張らせて周囲を見渡してしまっていた。


そして真理は一瞬とはいえ動きを止めた二人を叱咤している。そして真理は康太から放たれたものであるということを理解しているようで、康太の方を一瞬見て小さくため息をついていた。


「ほらな、経験値の少ないあいつらでさえ気づくのだ。ある程度実戦を潜り抜けた魔術師であれば殺気を放たれれば存在に気付く」


「んー・・・失敗しましたね・・・今まで攻撃をちょくちょく防がれたり避けられたりしてたのはこれが原因か・・・」


康太の攻撃は奇襲や急襲、多角的かつ密度の高い攻撃が多い。そのためただの防御では守り切れないのだが、今まで戦った魔術師の多くがとっさの防御を行っていた。


単純に索敵で防御していたということもあり得るのだろうが、それにしても回避率、防御率が高かったのはこういった背景があるのかと康太は考えさせられていた。


「でも日常生活と同じように攻撃するってのは難しいですよ。相手だって人間なんですよ?攻撃するからにはそれなりに覚悟が・・・」


「・・・?なぜ覚悟が必要なんだ?」


「なぜって・・・その人の人生を台無しにするかもしれないんですよ?ある程度覚悟決めておかないと攻撃なんて・・・」


康太の言葉に小百合は本気で何を言っているのかわからないといった様子だった。いや、何を言っているのかはわかるのだが、康太がなぜそんなことを気にしているのかがわからないといった様子である。


そして小百合は遠隔動作の魔術で真理と訓練をし続けている晴の頭を軽く殴る。


唐突に頭に降り注いだ打撃に、晴は驚いて周囲を見渡すが、当然ながら近くに誰かがいるわけではないために、何が起きたのか理解できていないようだった。


そして再び真理に動きを止めてはいけないと指摘されている。


康太はそんな晴を気の毒そうに見ながら苦笑してしまう。


「お前は今痛みを覚えたか?」


「え?・・・いいえ」


「そうだろうな。私が殴ったのは晴だ、お前ではない。それで、晴が傷ついてお前に何か不利益があったか?」


「・・・いいえ」


「では、表の通路で交通事故があって、知らないものがひき殺された。お前は何か被害を受けたか?」


「・・・いいえ」


「そういうことだ。自分と関わりのない人間など、自分にとっては何の意味も持たない。それが敵ならばなおさらだ。敵など排除する対象でしかないのだ。そんな奴らの事情をなぜ考えてやらねばならん」


小百合が言っていることはわかる。どんな人間が傷つこうと、どんな人間が死のうと、康太に直接かかわりのある者でない限り康太は何の不利益もない。


もっと言えば、この世界で何百人という人間が今も直、死に続けているとしても康太はまったく気にしていない。


それを与える側になったとしても、康太と関わりがないのであれば、康太は何も感じないだろう。


それでも覚悟を必要としているのは康太が攻撃しているのが同じ人間だからなのだろう。


だが小百合はそれを理解しているからか、あるいはその疑問をすでに誰かが持っていたからなのか、康太の前に指を突き出して目を細める。


「間違えるなよ康太。お前が守るべきはお前の周りの人間だけだ。お前を攻撃する連中やお前が攻撃する連中は思慮にも値しないただの有象無象、人の形をした肉袋だ。そんなものを攻撃することに覚悟など必要ない。ただの作業なのだから」


小百合の言葉を康太は正しく理解している。確かにその通りだと。その考えは正しいのだと。


でも、それでも、康太は人を倒すという行為を、人を傷つけるという行為を、ただ単純に作業のように行える気がしなかった。


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