輝いてる
自らの体が変化したことによる修業は、当初想定していたよりも順調に進んでいた。
康太の体の変化、特に電撃による攻撃は、以前の状態に比べると格段に扱いやすくなっていたというのが大きな理由かもしれない。
使い勝手が悪かった状態から、いきなり使い勝手が良くなれば、一気に上達するというのもうなずける話である。
康太の電撃は魔術によって生み出されるそれらと同じように、完全に雷や電撃と同じというわけではない。
視認してから回避ができないレベルではなく、完全に雷と同じ性質というわけではなかった。
それは康太の攻撃の意思に呼応して、放たれ、その方向もある程度決めることができていた。
とはいえ完全に康太の思い通りに電撃が向かうわけではない。
やはり電撃、電気としての性質を持ち合わせているからか、著しく抵抗率の低い空間があるとそちらに流れて行ってしまう。
指向性はどうしても周囲の環境に左右されるため、実戦で狙った相手に当てるということは非常に困難を極める。
火の弾丸のように、電撃を固めることができないだろうかと考えたのだが、どうやら康太の体にそのような性質は存在しないらしい。
体に電撃を纏うことはでき、意識した方向に電撃を飛ばすことはできる。だが射程距離に関しては難点が残っていた。
威力そのものもそこまで強いものとは言えない。文が普段使うような強力な電撃に比べれば月と鼈である。
体をわずかに痺れさせ、硬直させることはできても、行動不能にできるレベルではないのだ。
自分で頑張って発電して威力を高めようとしてもそのあたりは変わりはなかった。晴や明で実験した結果であるために間違いはなさそうである。
そこで康太は考え方を変えることにした。電撃の威力を高めるのではなく、確実に相手に直撃させるにはどのようにすればいいのかを考え始めたのである。
直接殴ったときに感電させるのが最も確実だが、近づいた瞬間に当たるという状態を模索していた。
「・・・で、その座禅を行っているわけか」
「えぇ、どうです?俺輝いてますか?」
「あぁ、非常に目障りだな」
康太は座禅を組んだ状態で集中し、自分の体から一定空間を電撃で満たしていた。だがその電撃はただ体を包んでいるのではなく、周囲の空間を移動し続けているといえばいいだろうか。
康太を中心に、球体の電撃の膜が出来上がっているような形になっていた。何をどうすればこのような形になるのか、康太自身理解はしていなかった。
集中して、周囲の状況を探るような形をすることで、電撃は本来の動きとは違う奇妙な動きをするようになっていた。
小百合はそんな康太を見て目障りだと称したが、実際電撃が膜を作っているために非常に眩い。
直視するのがなかなかつらいほどである。とはいえ電撃と同化している状態の康太に比べればまだましなのだが。
小百合はおもむろにその電撃の膜に手を伸ばすと、康太の体から電撃が放たれ小百合の手を攻撃する。
小百合の手に僅かに火傷を負わせるが、小百合は全く意に介さず康太の頭を掴んだ。
「この程度の威力で相手を怯ませようなどと笑えるな。もっと別の努力をしたらどうだ?」
「痛いです師匠。でもちゃんと攻撃してくれたでしょう?何となくその場所がわかるようになったんですよ」
「・・・座禅を組んでいないとできないのでは役に立たんな」
康太の努力は小百合も認めるところではあるが、その努力が変な方向に行っているのは否めなかった。
というか、できることが一気に増えたせいもあって康太がいったい何をやればいいのか迷っているという節がある。
何かをやらなければいけないという意識は伝わってくるが、その考えが空回りしている感が否めなかった。
「威力を出せれば苦労はしないんですけどね・・・相手を牽制する程度には役に立つかなって思いまして」
「座禅を組まずにできるようになれば牽制にはなるだろうが、意味がないとばれれば意味がなくなるな」
「まぁ魔力を消費するわけでもないですからいいんじゃないですかね?俺の体質みたいな感じになったわけですし」
「そのうち自分で充電ができるようになりそうだな。便利な体になったものだ」
そんなことを言いながら小百合が康太の手を離すと、康太は小百合の目の前から電撃による瞬間移動をして小百合の背後に回り拳を叩きつけようとする。
だが小百合はそうすることがわかっていたかのように回し蹴りを康太の腹部に食らわせた。
「だ・・・からなんでこれが当てられるんですか・・・!」
「殺気がまるわかりだ。もう少し静かにできんのか・・・いや、殺気を消す訓練はしてこなかったか」
小百合は普段殺気を放ってはいない、その気になれば本気の殺気を放つことくらいは容易だ。
逆に康太は殺気を出さないようにする訓練はしたことがない。訓練や練習をしてこなかった状態でいきなりそれをできるようになることはないのだ。




