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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
三十話「神の怒りは、人の恨みは」

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アイアム半分神様

「おらぁ!」


地下の暗闇を照らす眩い輝き、明滅するその光が周囲に放たれていき、わずかに焦げたにおいを周囲に振りまく。


「遅い」


振り切った康太の槍を簡単によけ、小百合は康太の体に蹴りを叩きつける。


完全に見切り、ほんの皮一枚を斬るか斬らないかといったところで回避した槍からはわずかに電撃が放たれ、小百合の肌を焼いていた。


相変わらず威力的には大したことのない出力だ。だが今までのそれよりは間違いなく強力になっている。

康太が人ならざる者になったと聞いたものの、小百合は正直言ってあまり信じていなかった。


康太が妙なものを連れてくるのは今まで通りだったし、康太が妙なことになるのも今までと同じだった。


だからちょっと体が電撃と一体化したからといって何が変わったのかと逆に問いかけたほどである。


その時のアリスの複雑な表情は康太は忘れることができなかった。


康太が人ではなくなってから、すでに一週間の時間が経過していた。


康太はインフルエンザになったと嘘をついて学校を休み、日がな一日こうして訓練に明け暮れていた。


アリスとの訓練によって、ある程度電撃を操れるようになった康太は戦闘訓練でもその力をいかんなく発揮していた。


「ならこれならどうだ!」


痛みに呻きながらも康太は即座に態勢を立て直し、小百合めがけて突進しながら叫ぶ。


康太の体から放たれる電撃が小百合の逃げ道をふさぐように放射される。未だ歪ではあるものの、電撃をコントロールできるようになってきている。


単純に電撃を放出するだけだった頃に比べれば大きな変化だ。


自分の動きを封じようとしている電撃の動きに、小百合は目を細めながら目の前から突進してくる康太を見て舌打ちする。


動きを封じようと真正面からくるのであれば迎撃すればいいだけ、小百合がそう考え攻撃の構えを取り、康太めがけて刀を振り切った瞬間康太の姿が一瞬電撃と同化し、消えた。


電撃と同化した康太は、自らが放った電撃に乗り、短距離瞬間移動を行使し小百合の背後に回り込んでいた。


そしてその槍を構えて小百合めがけて斬りかかる。


あと少しで小百合に斬撃が当たる。勝利を確信した瞬間、小百合の体が一瞬ぶれ康太の顔面に蹴りが叩きつけられていた。


小百合は完全に康太の姿を見失っていた。それは間違いない。康太が使えるようになった電撃を用いた瞬間移動は肉眼でとらえられる速度を超えている。だというのに小百合は康太がそこにいるということを確信しているかのように強力な蹴りを放ってきた。


「勝利を確信したな?甘い。お前程度に一撃をもらうほど私は間抜けではないぞ」


「っつー・・・なんで・・・今完全に俺のこと見えてなかったでしょ・・・!」


「お前ほどの殺気を放つ相手なら見えなくても場所くらいわかる。奇妙な技を身に着けたようだが、電撃で通る道が見えるし、お前の殺気は強すぎる。存在感を出しすぎだ。背後をとるならもう少し忍べ」


殺気を出したつもりはなかった。だがどうやら康太は攻撃の時に相手を殺すという意識が勝ちすぎているのかもしれない。


小百合ほどの相手ならば安心して攻撃してもよいという信頼があったとも言えるが、自分の師匠相手に本気で殺す気で斬りかかる弟子も弟子だ。


良くも悪くも康太は小百合の弟子だといえるだろう。


「なかなかいいタイミングで使えるようになってきたな。電撃テレポートとでもいうべきか?」


「もうちょっとネーミング何とかならなかったのか?すっげぇダサいんだけど」


康太が身に着けた技術、というか技は康太が身につけようとして身に着けたわけではない。


康太の体が電撃に同化するという性質と、放たれた電撃の流れに身を任せることによって体を強制的に電撃の先へと移動させる、一種の移動技。康太は自ら放てる電撃を用いることで数メートル程度ならば瞬間移動ができるようになったのだ。


といってもまだ電撃を十全に操ることができるようになったわけではないために限界はあるが。


文の補助があればおそらく長距離の移動も可能になるだろう。まだ連続して瞬間移動できないのと、瞬間移動した後にわずかに隙ができるのが欠点ではあるが、それでも康太の戦闘能力と機動力を著しく向上させるのは間違いない。


「電撃を纏うのはいいが目立ちすぎだな。黒いのは出せなくなったのか?」


「いえ出せますよ。ほいっと」


康太はそういって体の中から黒い瘴気を発生させていく。今まで使っていた瘴気よりも黒く、重く、分厚く、そして深い。


それを見た瞬間に小百合はそれがかつて自分が対峙した封印指定百七十二号のそれと全く同じであることに気付く。


またこいつは妙なことになったものだなと小百合はため息をついていた。


「でもだいぶ慣れてきた。一週間ぶっ通しで訓練した甲斐はあったな」


「さすがに私もつかれた。ずっとお前の体調を監視し続けていたからの・・・」


康太が修業をしている間、アリスはずっと康太の状態を監視してくれていた。万が一また存在が不安定になったときに対処できるようにと。


とはいえ、この一週間の間、康太の存在が不安定になることはなかったのだが。


「ありがとうな。その分収穫はあったよ」


康太はそういって自らの体に電撃を纏わせる。人間だった頃には強い怒りを抱かなければできなかったことが、今は当たり前のように行うことができた。


人ではなくなったから、半分神になったから。小百合は目の前にいる康太を見て少しだけあきれてしまっていた。


人ではなくなったことを嘆くよりも、強くなったことを喜んでいる弟子に対して、どんな反応をするべきなのかと思いながら。


「それで、お前が人間ではなくなったのはいいんだが、なんで衣服も一緒に移動しているんだ?」


「え?」


「お前の体と電撃が同化しているのはまだいい。お前の体が電撃に乗って瞬間移動するのもまだいい。だがなんで衣服まで一緒に移動する?」


小百合の言葉に康太は首をかしげてしまっていた。言われてみれば確かにその通りだと思ったからである。


この一週間生活していて分かったことだが、人外化してしまったのは康太の体だけだ。だというのに電撃による瞬間移動の時は衣服も一緒に瞬間移動している。


これはいったいどういうことだろうかと康太は助け舟を求めてアリスの方を向く。


「サユリよ、コータの体は確かに人ならざる者になったが、人としての部分もまだ残っておるのだ。体を一時的に電撃と同化させていても、物質としての性質もまだ持ち合わせておるのだよ」


「・・・つまり、その物質としての部分が衣服も一緒に引っ張っていると?」


「可能性はある・・・だが・・・気になることもあってな。最初私が触れようとしたとき衣服ごと手がすけてな・・・康太は電撃と同化させるときに衣服も一緒に同化させている可能性もある」


「ふむ・・・そのあたりは妙に意識しないほうがいいか。変に意識するとこいつの体は変なことになりそうだ」


「そうだな。そういうわけだコータ、お前は特に気にする必要はないぞ」


「結構気にするんだけど。移動した瞬間全裸になってるとか嫌だぞ?」


「その時は堂々としているとよいぞ。あるいは全身電撃化させていれば股間などが見えることもあるまいて。最悪光り輝く股間になるかもしれんがな」


「いやすぎるな。そんなの見せたくないぞ」


康太としても自分の体がどの程度変化し、どのようになってしまったのかを正確に把握しているわけではない。


そのため無意識下での制御が多く、それを意識的に行うとかえって危険になる可能性が大きい。


全力で戦っているときはそこまで意識を向けることがないために気にせずいられているが、余裕ができているときにそれを行うと危ないことになりかねないのは間違いない。


とはいえ今のところ重要なのは戦闘時の訓練だ。それ以外の時の制御に関してはゆっくりと行っていけばいいだけの話である。


「電撃を多少操れるようになって、瞬間移動ができるようになって・・・それだけか?人をやめた割にはメリットがほとんどないな」


「いや、実はもう一つあるんですよ。アリス」


康太に呼ばれたアリスは自ら電撃の魔術を発動して康太に向けて放つ。康太は電撃を吸収し、自らの体と電撃を同化させていった。


「電撃の吸収か。電撃を受けるだけ体の電気が多くなると・・・それで?」


「この同化状態って、瞬間移動すると解除されちゃうんですけど、この状態でさらに電撃をため込むと・・・!」


康太は自ら電撃を放ち、全身を電撃と同化させていく。強烈な光とともに、康太の体から同化しきれなかった電撃が周囲に無造作に放たれ続けていた。


「で、この状態で他の魔術を使うと・・・!」


康太はその状態で火の弾丸の魔術を放つ。


康太の持つ魔術の中で唯一単純な射撃系魔術だ。放たれた火の弾丸はまっすぐに進み、やがて射程限界を迎えて霧散する。


だがその火の弾丸は通常のものとはやや異なっていた。


火そのものが電撃を纏っていたのである。


火が電撃を纏うという現象的にはありえない光景に、小百合は眉をひそめていた。


「なんだ、使用する魔術に電撃が付与されるのか」


「そういうことです。一応いろんな魔術を試したんですけど、全部の魔術に電撃が付与されてる感じなんですよね」


そういって康太は旋風の魔術を発動する。


作り出された旋風は小さな竜巻のようになって風を生み出し巻き込み続けている。普段と違うところは、その風がわずかではあるが電撃を放っているところだろうか。


小百合がその風に触れるが、わずかに手が痙攣し小さな火傷を負う程度の威力しかない。威力的には非常に弱いが、相手を一瞬ひるませる程度のことはできるだろう。


「弱いな・・・これが利点か・・・だがお前のその状態、それ以上電撃をため込むのは危険か」


「よくわかりましたね・・・ちょっと離れててください」


康太はそういって小百合とアリスを離れさせると、自分の体内にため込んでいた電撃を一気に放出する。


康太の周りに大量の電撃が放射状に展開し、一種の結界のようになっていた。


体に残っていたすべての電撃を放ち終えたのか、電撃の同化状態が解除され、通常状態になった康太は大きくため息をつく。


そんな康太を見かねてアリスが説明しだした。


「同化状態は、コータの神と人のバランスを崩す行為でな。電撃を多く取り込みすぎれば当然神の状態に近づいてしまう。そのためある一定レベルでないと制御できんし、一定以上を超えるとどうなるか分かったものではないのだ」


「危険だな。メリットのわりにデメリットが悲惨過ぎて使う理由が見当たらない。死ぬかもしれないということだろう?」


「死ぬどころか消滅しかねんな。自分で自発的にやる分には、おそらくリミッターのようなものが無意識下でかけられているのだろう、問題ないが、他者から電撃を与えられた場合危険だの」


「ようするに電撃を受け続けるとパンクして爆散か・・・お前、電撃に関しては弱体化しているじゃないか」


「お恥ずかしい限りで」


今まで康太は電撃を受けても普通に動ける程度には耐性を持っていた。いや正確には電撃を受けても無理やり体を動かしていただけだが。


電撃を一定以下なら吸収し無効化、一定以上だと即死というなんともピーキーな状態になってしまったわけである。


「とにかく、そんな体になった以上は、その体で戦うしかないわけだ・・・電撃を自分で放ってどのレベルまで出力を上げられる?」


「自分だけだと魔術に電撃を付与するレベルにまでは至らないですね。他の誰かに電撃をもらわないと」


康太の電撃の同化レベルとしてはいくつかの段階に分けられる。


電撃と同化していない通常状態。


電撃を放つだけの第一段階。


電撃と同化し瞬間移動ができるレベルにまで引き上げる第二段階。


電撃と全身を同化させ、魔術にも電撃が付与できるようになる第三段階。


そしてこれはまだ想定でしかないが、電撃と同化しすぎて暴発、消滅しかねない第四段階。


康太が自力で引き出せるのは第二段階までで、それ以上の段階に至るには他者から電撃の供給を受けなければならないということである。


第三段階に至るメリットはあるが、その次の第四段階のデメリットが多すぎてはっきり言ってその状態になるだけの意義を見いだせないのも事実である。


「というかなんで魔術にも電撃が乗るようになるんだろうな?魔力も特に変えてないのに」


「この場合、自分で制御しきれない電撃をどうにか放出しようとしているのかもしれんな。余剰分を魔力と一緒に魔術に流して放出しているというべきだろう」


「溢れ出る電撃か・・・なんかやってることは電撃付与とかで格好いいんだけど、実情を聞くとなんか垂れ流されてるみたいでやな感じだな」


「そういうな、多少のメリットがあるだけよいと思え」


メリットよりもその先に待っているデメリットが圧倒的すぎて少し怖いところではあるが、康太としては使えるものはすべて使うというのが基本方針であるために訓練を怠るつもりはなかった。


「ところで康太、さっきの電撃が魔術に付与される状態で強化など自分にかける魔術を使うとどうなるんだ?」


「あぁ、そういえば、試してなかったな。アリス頼む」


康太に向けてアリスが電撃を流し、再び同化第三段階へと移行し、その体の状態を確かめてから康太は自らの体に身体能力強化の魔術を使用する。


身体能力強化は文字通り自らの身体能力を強化する魔術だ。だがその効果は人間の限界を超えることはない。


だが人間ではなくなった康太がどのような効果が得られるのかは、正直検証してもよくわからなかったのである。


特に変化がなかったというのが正直なところだったが、この同化第三段階における実験はしていなかった。


康太が身体能力強化を発動すると、今まで放出されそうになっていた電撃がわずかに収まっていく。


そして同化第二段階と同じような状態に戻ってしまっていた。


「あれ?アリス、充電足りなくなった?」


「・・・いや、入れた電撃の量は一定だが・・・ふむ・・・」


アリスは思案しながら康太の状態を確認していく。アリス特製の解析魔術によって康太の状態を把握していき、なるほどなるほどと小さくつぶやきながらこの状態を正確に把握していた。


「喜んでいいものかどうか・・・身体能力強化の魔術もまた神と人とのバランスを崩すようなものであるらしいな」


「というと?」


「同化が神に近づくのに対し、強化は人間に近づくような形で効果を発揮しているらしい。そのおかげか電撃の許容量が多少増したらしいな」


「なるほど、要するにバランスがとれてればいいってことか・・・これで肉体超過使えばどうなるんだろ」


「体が壊れても知らんぞ?」


「そうなんだよなぁ・・・俺、肉体超過は自分の体に使ったことがほとんどないから加減がわからん・・・」


肉体超過は確かに人間の限界を超えて強化する魔術だが、この魔術はもともと人体の破壊が目的の魔術であるために強化魔術としての使用はしてこなかった。使用できないかと模索はしていたが。


肉体超過を使ってもどの程度の効果が得られるかわからない以上、これよりさらにバランスを崩す行為はしないほうが良いのではないかと康太もアリスも考えていた。


「とはいえだ、少なくとも多少の効果はあったのだ、良しとするべきだろう。嗅覚強化などを使っても同じなのかの?」


「よしやってみるか。物は試しだ」


強化系の魔術を康太はいくつか覚えている。まだ練習中のものも多いため何度も試さなければ正しい効果は得られなかったが、それでも十分すぎるほどの効果は得られた。


とはいえ単純な無属性の肉体強化と違って、こちらは単純に嗅覚などの五感が強化されただけだったが。


「うむ、人間としての存在強化ができたのは無属性強化だけか・・・まぁよい、十分効果は得られた。ならば・・・そうだな、うん、そうするか。コータよ、私はしばらく席を外す。お前は小百合と訓練をしていろ。私はやることができた」


「いいけど・・・俺の体調管理は頼むぞ?」


「私はお前のお母さんか何かか。とりあえず索敵だけはしておくから危なくなったら呼べ」


アリスはそういって自分のスペースに戻っていってしまった。いったい何をするつもりなのだろうかと康太と小百合は視線を合わせた後首をかしげる。


アリスが何をしようとするのかをいちいち考えていては身がもたないということは康太も小百合も知っているため、とりあえず訓練を進めることにしていた。























「へぇ、最近先輩妙に輝いてると思ったらそういうことになってたんですね」


いつものように小百合に訓練をしてもらいに来た土御門が康太の姿を見て簡単に説明を受けた時の第一声がこれだった。


何も間違っていない発言なのだが、どこか誤解を受けそうな内容であるために康太としては苦笑するしかなかった。


「そうなんだよ、人間やめちゃってさ。っていってもほとんど変化ないんだけど」


「でもすっごい輝いてますよね。近くに居ると直視できないくらいですよ」


「輝くっていうのが活躍的な意味だったらいいんだけど物理的な意味だからなぁ・・・正直あんまり嬉しくない」


物理的に輝いているのだから、別に活躍しているわけでもなく誉め言葉でもないために康太としては複雑な心境だった。


というかまさか物理的に輝いてるといわれる日が来ようとは、康太自身思ってもみなかったのが正直なところである。


魔術師になってから本当に妙なことの連続だなと康太は内心ため息をついてしまっていた。


「でも先輩、人やめたってわりには普通ですよね。なんかもっとテンション上げたりしないんですか?」


「どうやって上げろっていうんだよ。ぶっちゃけ本当に何も変わってないんだぞ?ちょっと体が電気ウナギになっただけで」


「体が電気ウナギってもうあからさまにおかしくなってますよね。何もかもが変わってるレベルですよね」


「アリスに言わせると、細胞レベルで変わってるらしいから何もかもが変わってるっていうのもあながち間違ってはいないんだよなぁ。でも感覚的には何も変わってないんだよ」


今まで使えていた技術が使えなくなったわけではないために、康太としては少しできることが増えて、なおかつ多少死ぬ危険が増して、さらに言えば戦闘中目立ちやすくなったくらいの変化でしかなかった。


もともと康太の行動は目立つものが多かったために、最後のものに関してははっきり言ってないようなものだ。


むしろ意識的に敵に存在アピールすることも多いために、ある程度目立つのは好都合と言えなくもない。


「でも半分神様?みたいなものになったんですよね?食事とかどうしてるんですか?」


「普通に食べてるぞ。普通に食べられるし普通に出せる。半分人間らしいからそのあたりは特別変化はないな」


「なんかあるんじゃないですか?信仰を受けて力が増すとかそういうの。神様だとありがちですよね」


「んー・・・俺を信仰する人なんていないだろ。怖がられることはあるかもだけどさ」


そんな話をしていると、飲み物をとってきたアリスが康太たちの話を聞いていたのか空中に浮きながら割って入ってくる。


「何やら面白そうな話をしているの。神と信仰か」


「おぉアリス。俺の食生活ってどうなんだ?別のものとか食べなくていいのか?」


康太の体について現状一番詳しいのがアリスだ。もしアリスが人間としての食べ物以外を必要だというのであれば、康太としてはそれに従うこともやぶさかではなかった。


「具体的に何を食えというのはない。実際お前の食生活もある意味バランスがとれているといえるだろうからな」


「そうなのか?野菜重視生活にしなくていいのか?」


「そういう話だけではない。先ほど信仰がどうのといっていただろう?おそらくだがお前は一定数の信仰は得ているぞ」


信仰を得ている。その言葉に康太だけではなく土御門の双子も目を丸くしていた。


そもそも康太が半分神になったのはごく最近だ。神の信仰というのがいったいどういうものなのか康太はわからなかったが、昨日今日で信仰を得られるほど容易いものなのだろうかと少し疑問だった。


「信仰って・・・お供え物とか貢物とかはもらってないんだけど」


「神に対する信仰とは何も感謝だけではない。恐怖、畏怖といった感情もまた一種の信仰よ。コータは多くのものからかなり恐れられているだろう?」


「あー・・・そういう。祟り神的な感じ?」


「全然違うが・・・まぁそんなものだ」


「じゃああれか、俺がどんどん恐れられるとその分神様としての力が増すって感じ?」


「うー・・・あー・・・間違ってはいないが・・・んー・・・この場合どうなるのだろうな・・・私も神という存在にはそこまで詳しくないのだ。文献程度の知識でしかない」


そういいながらアリスは空中に映像を作りだす。


「よいか、神はそもそも信仰対象とでもいえる、所謂象徴のようなものが必要だ。それは何でもいいが、より多くの人に知られていることが重要だの」


「ふむふむ・・・俺の場合は・・・俺自身?」


「そうなるだろうな。それらしい象徴も見当たらんし・・・そうなってくると問題がいくつかある。具体的には魔術師として活動している状態でしか信仰を得られないのか、あるいは平時でも得られるのか・・・そもそもその信仰がプラスなのか否か」


「信仰にプラスも何もあるのか?」


「よい信仰と悪い信仰というものは総じてあるものだ。あの神は何々より優れている、あの神は何々より劣っているといった信仰があると考えればいい。他者の信仰が直接神の力にかかわってくる場合、良い効果ならば強い助長効果を持つが、悪い効果の場合は強い弱体効果になりかねん」


「なるほど・・・俺の場合は・・・噂が根源になってるなら『無茶苦茶やる魔術師』『拷問狂』『戦闘狂』『破壊専門家』ってところか?」


「そこからたどると、人体破壊と物体破壊にボーナスが付与されそうだな。逆に説得や対話にはマイナス補正がかかる」


「なんかゲームみたいになってきてない?そのうち神性特攻とかはいらない?」


「まぁ冗談はさておき、そういうことも起こるかもしれないということだ。それだけは覚えておけ」


神様になるのもよいことだけではないのだなと康太は眉を顰める。


そもそも神になったこと自体が良いことではないのだが、そのあたりは置いておくことにする。


「そういえばアリス、なんかやるって言ってたけどどうなったんだ?」


「ん?あぁまぁまぁ順調だ。来週くらいにはお披露目できるだろう。その時を楽しみにしているがよいぞ」


アリスがいったい何をしているのかはさておき、康太からすればアリスが何やら企んでるというのは少しだけ不安要素が大きかった。


また妙なものでも買ったのかと思いながら、小百合が渋い顔をするのが目に浮かぶ。


「あの、その信仰と関係あるかどうかわからないですけど、そういうのって人以外からのものも影響されるんですか?」


「ん?どういうことだ?」


晴の質問にアリスと康太は同時に首をかしげる。


人間以外の信仰という言葉は強い違和感を二人にもたらした。信仰というものはそもそも人間のような知的生命体しかしないような行動や思想だ。


だというのに人以外の存在が信仰を与えるという発言に違和感を覚えたのである。


「信仰というのがどのようなものであるのか、私自身正確に把握しているわけではないから、明確なことは言えんが・・・そもそも人間以外が何者かを信仰するなどということがあるのか?」


「えっと・・・信仰っていうと仰々しく思えるかもですけど、なんていうか、先入観とか思い込みみたいなものってないですか?例えばカエルが蛇を見たらビビるみたいな、今まで会ったこともないはずなのに、姿を見ただけでビビるみたいな・・・なんか、あらかじめ決められてるっていうか、そういう意識が刷り込まれてるっていうか」


晴の言いたいことをアリスは何となく理解しつつあった。とはいえそれはどちらかというと信仰というのとは違う。


それは生命としての在り方とでもいえばいいだろうか。馬が生まれてすぐに四本足で立とうとするように、蜘蛛が教えられたわけでもないのに皆一様に綺麗な形の巣を作るのと同じように、生き物の本能とでもいう部分にそれぞれ刻み込まれているものだ。


知性がなくとも身についているそれらは継承し、少しずつ積み重なり、進化の過程で身についたものなのだ。


「えっと・・・ほら、カルガモが親のすぐ後ろをついていくみたいに、動物とかそういうのにも『こいつに逆らっちゃいけない』みたいな感情があるんじゃないかって・・・思ったんですけど」


晴自身、自分の考えをまだうまくまとめられていないのだろう。理路整然としていない、漠然とした説明だ。


だが何となく言いたいことは伝わる。


「つまりあれだ、俺が全人類だけじゃなくて、全生物に『危険』と思われたら、通常より多くの信仰が得られるんじゃないかってことか?」


「えっと・・・そういうこと?です」


自分で言っておきながら自信が持てないのか、晴は難しそうな顔をする。まだ自分の考えを正しく表現できていないのか、その表情はあまり良いものではない。


自分の考えを言語化するというのは非常に難しいのだ。ただ言葉にするだけならまだしも、他者にも自分と同程度の理解をさせようと思うと、その難易度は跳ね上がる。


晴はまだそのような言語化を行えるだけの語彙力も表現力も備わっていないために強いもどかしさを感じていた。


「ふむ・・・生き物が有している知識・・・いや本能というべきか。それらが信仰としてささげられた時、どのような効果を及ぼすのか・・・なかなか興味深い内容ではあるが・・・それを検証する対象がこれではなぁ・・・」


「これとはなんだこれとは。アイアムデミゴッド、崇め奉れ」


「あいにくと邪神をあがめる趣味はない。だがなかなかに面白い意見だ。信仰といっていいのかはわからんが、先ほどの恐怖、畏怖につながるものがある。他者に恐れられて得られるものもある。こやつの場合ならばそれは人間だけには収まらんかもしれんな」


「ひょっとしてあれか?いずれは殺気を出すだけで信仰を得て強化できたりするのか?」


「バランスが重要だといっただろう。人間としてのお前が一定量しかない以上、過剰に神としての力を強くしすぎれば身を亡ぼすぞ」


康太の体のバランスは簡単に崩すべきではないものだ。過剰な強化は身を亡ぼす、康太自身それは身をもって体験しているために重々承知だった。


「ちなみにアリス先生、気になるんだけど信仰って死んだやつからも得られるのか?」


「・・・いや、無理だと思うが・・・なぜだ?」


「・・・ん・・・何となく」


あの時の光景を康太は覚えていた。幾百幾千の地平まで続く墓の群れ。そしてそこに立つ人々を。


あの時、あの人々は何かを信仰していたのではないだろうか、あの時、自分はあの人たちから何かを捧げられたのではないだろうか。


自分の体がこんな風になって、そのきっかけになったあの時、そんな光景が見えたことに、康太は何らかの関係性があるのではないかと思えて仕方がなかった。


「死者はすでに死んだものだ。考えることなどできず、何かを想うことなどできん。信仰とは、生きている者こそ発せられるものだと私は思う。その願いが感謝からくるものか、恐怖からくるものかはわからんがな」


アリスは信仰を願いと表現した。願う。自分にできないことを何かに願う。だからこそ願われた側はその願いをかなえるべく行動する。あるいはその願いを打ち砕くために行動する。


「願い・・・か」


あの時自分は何を願われたのか。何を託されたのか、康太はわからなかった。


自分の一部となった力が、それを教えてくれるかとも期待したが、そんなに都合の良いこともなく、今もよくわからない状態が続いている。


それが果たして良いことなのかどうか、正直康太には判断しかねる問題だった。


誤字報告を20件分受けたので五回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

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