支部長の胃は犠牲になったのだ
神加を小百合に預けた康太たちは協会に足を運んでいた。
やることは非常にシンプルだった。神加を攫った魔術師たちの尋問。本来ならば協会の人間がやってもいいのだが、神加に直接危害を加えたということもあって康太は直々に拷問、もとい尋問しないと気が済まなかったのである。
そして倉敷が呼び出されているということと、事態を把握した支部長の動き出しは早かった。
「やっぱり来たね・・・君のことだから来るとは思っていたけど」
「俺が何で来たかわかってるみたいですね」
「そりゃトゥトゥエルが呼び出されて、君の弟弟子がさらわれかけたってことを聞けば、君がどう動くかなんてわかるさ・・・すでに待機させているけど・・・全員やるつもりなのかい?」
支部長室で待っていた支部長は、康太に問いかける。
支部長の反応からして、おそらく全員康太の尋問をかけてやれるだけの余裕はないように思えた。
今回捕まえた魔術師全員を尋問するとなると時間がかかる。康太は一人一人の尋問をしっかりやるが、その分得られる情報は重い。嘘の場合も多いかもしれないがすべての尋問を待っていられるほど時間をかけるのは難しいのだろう。
「一人か二人くらいくれればいいですよ。たぶん方陣術のところにいたやつが中核を担うやつだと思います。少なくともそれくらいですかね・・・他の連中はほとんど相手にならなかったんで」
それは君が強すぎるからだよという言葉を、支部長は何とか飲み込んだ。
あの場にいた魔術師の素質面で言えばそれなりに優秀なものばかりだった。それすらも相手にならないという康太の強さは、徐々に一線を画しつつある。魔術師の域から、すでに小百合たちのそれに近づいているのだ。
「そうだ支部長、ついでに報告がありまして」
「なんだい?また何か面倒ごとなのかい?」
「いえ、実は俺人間じゃなくなったらしくて」
「・・・は?」
支部長の間の抜けた声に、康太はアリスと文に頼んで自分の体に電撃を放ってもらう。
康太の体は電撃を取り込み、電撃と一体化してしまっていた。部分的にではあるが肉体は人間のそれとは全く違う。光り輝くものになってしまっている。
仮面越しでも開いた口がふさがっていないというのがよくわかるほどに支部長は驚愕をあらわにしていた。
「・・・・・・アリシア・メリノス、説明を頼めるかい・・・?」
康太では説明しきれないと判断したのだろう。康太が電撃を放出している間、アリスは今まで起きたことを大雑把にではあるが支部長に報告し始めた。
どんな事情があれ、報告はしておかなければいけない。
支部長に伝えることも必要なことの一つだ。今後相談するにしてもある程度話はしておくべきだ。
少なくともアリスは支部長に康太が人間ではなくなったことと、封印指定百七十二号が消滅したことを告げた。
もっとも、封印指定百七十二号の力をそのまま康太が引き継いだということは隠したが。
「・・・また・・・なんでこう君は面倒くさい案件をどんどん持ってくるのさ・・・!君自身が面倒ごとになるとかどういうことなの・・・!」
「それに関しては非常に申し訳なく思っていますが、こればっかりは仕方がないかなと思いますよ。こっちも非常事態だったもんで」
「わかるよ?君がそんな状態にならなきゃいけないくらい切羽詰まってたってことはわかるよ?でもさぁ!こっちの身にもなってくれないかなぁ!こんなん報告できないよ!」
「落ち着け支部長。私がもう一人増えたのだと思えばいいのだ」
「君がもう一人いるとか世界が滅ぶわ!あぁあぁぁあぁぁあ!なんで僕が支部長の代でこんなに面倒が押し寄せてくるのさ・・・!クラリスといい君といい・・・!」
支部長はどうやら処理能力の限界を超えそうなのか、もだえながら頭を抱えてしまっている。
だが数秒悩んだ後でようやく冷静さを取り戻したのか、大きな大きなため息をついた後で康太の方を見る。
「ブライトビー、このことはほかの魔術師には告げているのかい?」
「いいえ、今知ってるのはここにいるメンバーだけですね」
康太、文、アリス、そして支部長。まだ小百合にも告げていないような案件である。
「よかった、とりあえず最悪の事態は免れた可能性が高いね。いいかい?もしこのことが本部にばれようものなら、君は間違いなく封印指定に登録される」
「マジっすか。とうとう俺も封印指定の仲間入りか」
「やったなビー、私と肩を並べられるぞ?」
「封印指定は別に実力が認められたらなるってわけじゃないからね?そのあたり理解してくれるかな封印指定二十八号さん」
封印指定とは放っておくと魔術の存在の露見、あるいは一般社会などに多大な影響を及ぼしかねない本当に危険な存在という意味で登録される。
アリスの場合は長命ということもあってこの情報化社会では特に危険な存在になっているといってもいいだろう。
康太も人間をやめたという意味では封印指定になりかねない危険なものであることに変わりはない。
本部に知られれば間違いなく封印指定に登録されるという事実に、康太は少しずつ自分の状況を正確に把握しつつあった。




