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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
二十九話「その手を伸ばす、奥底へと」

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人間をやめたぞ

「つまり、康太はとうとう人間ですらなくなっちゃったわけね」


「ですらとはなんだですらとは!その言い草は傷つくぞ!」


「いやだってあんたもともと魔術師らしくなかったじゃない?一般人でもなくなって、普通の魔術師でもなくなって、今度は人間ですらなくなっちゃったのね」


「やめろよ!聞いてて泣きたくなってくるだろ!俺だって好きでこんな体になったんじゃないわ!」


康太は未だにアリスに浮かされながら嘆き喚き散らす。体の一部が現在進行形で電撃と同化している状態でそのように喚けるあたり、どうやら体が電撃と同化しても特に支障はないように見える。


文としては安心なのだが、康太との子供が作れないかもしれないという事実は、少しだけ文にとっても不安だった。


康太が喚くのも納得である。当事者からすれば確かにある種の死活問題だ。


だが同時に、康太が自分の子供を文に産んでほしいと思っているという事実を知って、文は少しだけ頬を緩ませてしまっていた。


だが康太が危険な状態でありながらにやつくのは不謹慎だと感じたのか、自分の顔を叩いて気を引き締める。


「で、康太はどうなるの?普通に考えて・・・その、神?みたいになったにしてはあんまり変化がないし・・・いや、ちょっと体がおかしくなってるけど」


電撃と体が一体化している時点でだいぶおかしいのだが、康太が普通に接することができているためにそこまでおかしくなっているという印象が抱けなかった。


客観的に見れば明らかにおかしくなっているのだが、康太が普通に反応できているということから、そこまで深刻な状況ではないように見えるのである。


「とりあえず康太、あんたそのビリビリ状態何とかしなさいよ」


「何とかって言われてもどうすればいいのかわからないんだけど。どうすりゃいいんだ」


「・・・しょうがないわね。私が電撃を地面に流してあげるから、少し待ってなさい」


文が魔術を発動して康太の体と同化している電撃を地面に流して康太を正常に戻そうとする。


だがその寸前で、アリスがその危険性に気付く。


「待てフミ!」


「え?」


すでに遅かった。文は電撃の通り道を作り出し、康太の体の一部に宿る電撃を誘導してしまっていた。


そして康太の体の電撃がその動きを掴んだのか、康太自身がその流れに逆らわなかったせいか、その効果は発揮される。


「うごはぁ!」


次の瞬間、宙に浮いていたはずの康太の体は地面に叩きつけられていた。


「え?あれ?康太!?」


先ほどまでアリスの念動力によって身動き一つ満足にとれなかった康太の体は、瞬間移動したかのように地面に存在していた。


自分で引き起こした結果だが、文はいったいなぜこのような状態になったのか理解できなかった。


「・・・なるほど、そうなったか」


「ちょっとアリス、自分だけ納得してないで説明してくれない?何がどういうことなわけ?」


「ふむ・・・先ほどの状態、康太は文の放った電撃と一体化していた。体の一部とはいえ、電撃と同じ性質を有していたと考えられる」


そこまでは文も同意していた。文はその状態の康太から、電撃だけを抜き取れないかと考えて電撃を誘導するべく魔術を使ったのだ。結果は想像していたものとは違ったわけだが。


「私は先の行動で、康太ごと地面に流れて行ってしまうのではないかと考えた。電撃と同じ性質であるなら、接地・・・アースによって地面に流れて行ってしまうのではないかと」


「・・・あ・・・」


文はその可能性を完全に失念していた。康太の体が電撃と一体化していても、康太は康太、電撃は電撃とはっきりと区別されているものだと思っていた。


何せ普通の人間は電撃そのものになることなどできないのだから。


だが先ほどのアリスの説明を聞く限り。康太はすでに普通の人間ではない。普通ではできないようなことができてしまっても不思議はないのだ。


文は自分の軽率な行動が康太を危険にさらしたことを強く後悔してた。


「だが結果的に康太の体はここにある。これはおそらく康太の肉体があるからこその現象だろう。同化している電撃は流れて行ってしまったが、康太の体そのものが物理的にストップをかけたのだ」


「・・・ってことは、つまり康太はゴール地点があれば電撃と同じ速度で移動できるってこと?」


「そういうことになる。電撃に乗って移動するというべきか・・・これは面白い。同化しているため電撃の性質に引っ張られているというべきか?・・・いや、どちらかというなら電撃そのものにその身をゆだねているというべきか・・・いや面白い結果だ、これはもう一度康太の体を良く調べておく必要があるかもしれんな」


「・・・何でもいいけどさ・・・少しは俺を労わってくれないか・・・?」


強く地面に叩きつけられた康太は顔面と全身に強い痛みを覚えていたが、それ以外には特に負傷はしていないように見える。


唐突な事で受け身は取れなかったために鼻血を出してしまっているが、ゆっくりと立ち上がる康太は特に問題ないように見えた。


「康太、あんたもしかしたら瞬間移動できるようになるかもしれないわよ?」


「いや、瞬間移動って言っても・・・滅茶苦茶痛かったんだけど」


「先のあれは着地も何もできない状態だったからな・・・ならば方向と体勢を変えれば問題なく移動ができるのでは・・・?早速やってみるか!」


「いやあの・・・お願いだから俺から流れている血を見て。傷つくのが俺だってことに気付いて」


康太は鼻血を拭き取りながら、顔面と全身に広がる痛みに耐え、確認するように軽く体を動かしている。


変なところを痛めているのではないかと考え、軽くストレッチを行っているのだ。体が資本ということもあってこんなことで怪我などしていられない。


「そういえばコータ、その血を少し見せてもらってよいか?」


「え?鼻血?」


「そうだ。もう少し量を出してくれると助かるんだが」


「止めたいんですがダメですかね?」


「ダメだ。ちょっともらうぞ」


そういってアリスは康太の鼻から出てくる鼻血を操って宙に浮かせる。そして血液に魔術によって生み出された電撃を流し始める。


だが血液は何の反応も示さない。先ほどまでの康太と体の構造などが同じであれば電撃と同化するのだろうが、康太の体から離れた血液はただの物体になってしまっているようだった。


「ふむ・・・血に関しては何も変化はないか・・・面白いが面白くないな・・・んー・・・」


アリスが腕を組んで悩み始める中、康太はティッシュを鼻に詰めて鼻血を止めようとしていた。


同時に身体能力強化の魔術をかけて治癒能力を高める。そんな中、少し気になることがあった。


「なぁアリス、俺って人間じゃなくなった、んだよな?」


「そうだ。何か気になることでもあるのか?」


「うん、身体能力強化ってさ、基本的に人間にかけるものだろ?人間の限界は超えられないじゃん?俺の場合どうなの?」


「ん・・・そうか、そういうところにも違いが出るか・・・まず間違いなく今までと同じような効果は望めないだろう。とはいえお前の体は、一応半分は人間だ。どの程度の効果が得られるかというのは・・・試してみないとわからんな」


身体能力強化の魔術は先に康太の言ったように人間の、もっと言えば種族の限界を超えることはできない。


もしそれを超えようとするならばそれはもはや強化とは言えない。体に負担のかかりすぎる超過といえるだろう。


ただ、康太の体そのものが純粋な人間のものとは変化してしまっている。先の血液に関してはただの人間のそれと同じになってしまっていたが、実際に康太が強化魔術を使った時どのような結果が得られるのかは不明な点が多い。


人間に対して発動する魔術が、人間以外に対してどのような効果を発現するのか、やってみないとわからないのだ。


どうなるんだろうななどと他人事のように考えながら康太は鼻に詰めていたティッシュを引き抜く。


少なくとも自己治癒能力の強化には成功しているらしい。ほんのわずかな時間しか突っ込んでいなかったティッシュ程度ですでに鼻血は止まっている。


あとは筋力や耐久力がどの程度強化されるのかというのを試したいところだが、アリスと文は今康太が瞬間移動できるということに意識を向けてしまっている。


瞬間移動に比べれば康太の身体能力強化など些細な問題なのだろう。


自分の手を強く握って、少し力を緩め、それを何度か繰り返す。


少なくとも康太は変わったという自覚はない。だがほんの少し意識するだけで、その体から電撃が放たれ始める。


精霊が宿っていた時は強い殺意を抱かなければ放てなかった電撃は、今や康太の思うが儘に放てるようになっている。


それが良いことなのかどうかはさておいて、康太の存在そのものが変わったというのはあながち嘘というわけでもないようだった。


電撃が放たれる。ただそれだけのことなのだが、康太にとってはこの電撃が放たれる瞬間にこそ自分の存在が変わったのだという強い実感を抱いてしまう。


今までは電撃を放つとき、自分とは違う誰かの存在を自分の中に感じていた。今はそれがない。


康太は少し意識して黒い瘴気を展開する。


デビットが核として康太に宿っていた封印指定百七十二号。これを使っていても、そして康太の中にあった違和感もすでに完全になくなってしまっていた。


どこを探ってもデビットの存在は感じ取れない。アリスが近くに居る時の奇妙なざわめきも今は感じない。


喪失感といえばいいのだろうか。何かを失ったわけではないと康太は理解している。康太の中の何かが、失ったわけではないのだと叫んでいる。


康太の一部となっただけ。アリスの先ほどの言葉に康太はすとんと腹の中に落ちるものがあった。


今まで別々だったものが一つのものになった。言葉にすればそれだけのことだが、康太にとってはそれだけのことだったのだ。


その辺かを喜ぶべきなのか否か、少しだけ考えた。少なくとも奇妙な居候達がいなくなったことに、康太は少しだけ寂しさを覚えていた。


「なぁ、俺の瞬間移動はいいからさ、そろそろ協会に行きたいんだけど?」


「ん?何をしに行くのだ?」


「何しにって・・・神加を攫った連中の尋問だよ。あいつらには俺が直接聞かなきゃ気が済まん」


「あぁ・・・そういうことね」


文は康太が神加を攫った連中を許すつもりがないのだと理解して、気の毒そうな表情をしてしまう。


少なくとも康太が本気になった時どのような尋問が行われるのかは想像に難くない。


間違いなく血が流れるだろうなと考え、文は倉敷に協力を要請していた。


「倉敷には協会にくるようにお願いしておいたわ。たぶん暇してるでしょうから」


「ナイス手際。んじゃアリス、俺は協会行ってくるから」


「待て待て、お前の体がまだ万全かどうかもわからんのだぞ?私がいないと万が一の時に困るだろう」


「・・・ついてきたいのか?」


康太の言葉にアリスは胸を張りながら、ふん!と力強い鼻息で応える。


相変わらず面倒な性格をしているなと思いながら康太は魔術師装束を身に纏い、協会に足を運ぶことにした。


「っと・・・神加をどうするか・・・さすがに気絶した状態じゃ放っておけないし・・・」


「小百合さんもいるんだし、小百合さんにお願いしたら?」


「・・・んー・・・んー・・・・!仕方がないか。神加が寝ているうちにっと」


康太は未だ気絶したままの神加を抱えてゆっくりと動き出す。


階段を上っている最中、その揺れのせいで刺激が強くなってしまったか、神加がわずかに身じろぎし、ゆっくりと目を開ける。


「・・・あ・・・起こしちゃったか」


「・・・お兄ちゃん・・・?あれ?お兄ちゃん?」


「そうだぞ?どこか痛いところあるか?」


神加は康太の顔を見ながら目を丸くしていた。そして康太から聞こえる声から、自分を抱きかかえているのが康太であると理解したのか、自分の目をこすり自分が見ているものが間違いではないということを確認すると首を傾げた。


「どうした?なんかついてるか?」


「・・・ついてるっていうか・・・生えてる」


「え?鼻毛でてる?」


「違うの。お兄ちゃんから羽みたいのが出てるの。髪の毛も変な感じになってるよ?」


神加の言葉にアリスがけげんな表情をする。だが康太はきっとまだ寝ぼけているのだろうと苦笑しながら神加を運び続ける。


「髪は別に切ってないんだけどな・・・?どんな風に変になってる?」


「えっとね、髪の毛がね、犬の尻尾みたいになってふわふわしてるの。あと頭の上からも羽が生えてるの」


「そりゃすごいな。イメチェンどころじゃないな。びっくりだ」


康太は笑いながら神加の頭をやさしくなでる。


「神加、疲れてるだろうからもう少し寝てていいぞ?俺はちょっと出かけてくるからな」


康太がそういうとアリスがさりげなく神加に睡眠の魔術を使って神加を強制的に眠らせる。


康太の腕に包まれて神加は安心したのか、アリスの魔術に抵抗することもなくゆっくりと瞼を閉じていく。


「イメチェンか・・・存在ごと変えているのだからイメージが変わるどころの話ではないのだがな」


「そういうなって。てか俺ってそんな変な風になってるのか?それとも神加が寝ぼけてただけか?」


「いや、外見上はお前は普通だぞ?だが・・・そうだな・・・こやつの目が特別だということを覚えているか?」


「・・・あぁ、そういうことか」


「そうだ。こやつの目は私たちが見ているそれとは違うものを見ている。もしかしたら存在の変質したお前の、本当の姿を見ているのかもしれんぞ?」


本当の姿。そういわれて康太は少し興味が湧いていた。康太の本当の姿がどのような姿なのか、康太は自分ではわからない。


というか文もアリスもおそらく見ていないのだろう。神加が見たような姿をしているわけでもないために、神加が妙なものを見たというのもただ寝ぼけているように思ったが、神加の目が本来見えない精霊の姿すら見ることが可能な特別な目であることを加味すると、ただ寝ぼけたという考えはやめたほうがいいのかもしれない。


「私たちの目はあくまで物理的な光しか見えていない。多少魔術師としての視覚を有したことで普通の人間には見えないものも見えたかもしれんが・・・神加の目はそれ以上だ。お前をどのように見ていても不思議はない」


「頭から羽とか尻尾とか言ってたよな・・・?どういうことだそれ」


「わからん。子供の説明だから要領を得ん・・・以前のように障壁を使って造形してもらうのが一番手っ取り早いだろうな」


「帰ってきたらやってもらうか。もし俺の体が全く違うものに見えてたらさすがに傷つくな・・・人間をやめた証明になりそうだ」


「安心しろ、私が保証する。お前はすでに人間ではない」


「保証してくれてありがとうよ。全くうれしくないけどな」


康太は神加を抱えたまま苦笑する。


人間ではなくなったといっても康太は康太なのだ。その点が変わらなければ変化などない。そう思いたかった。


誤字報告を十件分受けたので三回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

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