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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
二十九話「その手を伸ばす、奥底へと」

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焼けた肉はもう二度と

「・・・あのー・・・」


康太は店に強制的に連れて帰られ、パンツ一丁でベッドの上に完全に固定されてしまっていた。


手足をベルトで固定され、本当に身動きが取れない状態である。魔術を使ってベッドごと壊せば何とかなるだろうが、そんなことをしたら別の意味でアリスに怒られるだろう。


「あのー・・・?アリスさん・・・?」


康太は自身の周りを歩きながら康太の体を観察しているアリスに声をかけるが、アリスは考え事をしているのか、康太の体を調べるので忙しいのか全く反応を示してくれなかった。


「ウィルー、助けてくれぇぇ。マッドサイエンティストに改造されるぅぅ!」


ウィルは康太の悲鳴を受けてベッドの近くまでやってくるが、アリスが一睨みするとすごすごと去って行ってしまった。


いつの間にか防衛本能まで身に着けたのかと、ウィルの成長に驚きながらも康太はこの状況が続くのは少しだけいただけなかった。


店に戻ってきた段階でアリスに強引に引き連れられている姿を小百合に見られている。そしてその時のアリスと康太の表情を見て『またこいつは何かをやったのか』というあきれた表情になっていたのをきっと康太は忘れることができないだろう。


あんたにだけはそんな表情をされたくないよと康太は激昂するところだったのかもしれないが、康太を引き連れているアリスの形相を見てはそのような言葉は言えなくなってしまっていた。


実際康太はやらかしてしまったのだろう。それが康太のせいではなくとも、康太が明らかに妙な状態になったのは間違いない。


アリスがこれほどまでに唸りを上げて康太の体一つ一つを丹念に調べ上げているのがその証拠だ。


「あの、アリスさんや、そろそろ俺も不安になってきたからさ、俺がどういう状態になっちゃったのか教えてくれないか?いや、明らかに妙なことになっているのはわかってるんだけどさ」


「・・・確証は持てん、私もこれは初めて見た。だが似たようなものならば見たことがある」


「ほほう、それは一体?」


康太は興味津々といった表情をする。そんな康太にアリスは自らが作り出した電撃を康太に浴びせる。


康太の体に電撃が吸い込まれていき、康太が先ほどと同じように電撃を放ち始める。だが今回はまだ電撃と肉体が同化するまでには至っていなかった。


「・・・あのアリスさん、無言で電撃浴びせられると俺としてもびっくりするんですけど?」


「・・・だが痛みはなかっただろう?」


「そういわれれば・・・」


文によって電撃に対して強い耐性を手に入れた康太でも、電撃を体で受ける時は痛いものは痛い。


精霊の電撃を放てるようになってからはその痛みもかなり緩和されていたが、今は全くと言っていいほどに痛みを感じなかった。


「・・・やはりか・・・この状態、喜ぶべきか否か・・・いや、嘆くべきだな。だが幸運でもあるか」


「アリスさん、自分で勝手に納得してないで説明してくださいよ。いい加減不安になってきたんだけど?なに?俺不治の病になったの?」


いったいどのような状態になってしまったのかわからない康太は若干額に冷や汗を浮かべていた。


こんな体になっておきながら不治の病も何もないだろう。そもそも康太の体がいったいどのように変質してしまったのか、康太には全くわからない。


普通の体のように感じられるのだが、どうも普通のようには感じられないのだ。


今までの感覚から少しずれているといえばいいだろうか、妙な浮遊感というか、体の中身が空っぽになっているかのような違和感が残っているのである。


「そうだな・・・まずは患者本人に病状を伝えるのが一番だな」


「マジで病気になったの?大丈夫?あとどれくらい満足に動ける?」


「安心しろ、運動する分には何の問題もない。三年だろうと五年だろうと動くことはできるだろうよ」


アリスの言葉に康太は安堵の息を吐く。もし『お前はあと三カ月の命だ』などと余命宣告された日には目の前が真っ暗になったことだろう。


だが少なくともそういったことはないようだった。


「じゃああれか、せいぜい電撃モードがパワーアップしたくらいか?あるいは変化したくらいか?それならまだ何とかなりそうだな」


「・・・何とかなればよかったのだがな」


康太の言葉にアリスはため息をつきながら視線を逸らす。そして意を決したのか、アリスは康太を拘束していたベルトを外し、康太の体を強引に起こす。


「よいか、よく聞けコータよ。落ち着いてよく聞くのだ」


「お、おう」


面と向かってまじまじと康太の方を見るアリスに、康太は強く動揺していた。落ち着けといわれても、こうまで本気で睨まれては落ち着くこともできなかった。


「動揺するなよ?お前が動揺するとまた妙なことになりかねんからな」


「それはいいけど・・・わかった。なるべく落ち着くようにする」


康太はゆっくり深呼吸してアリスの答えを待つ。たとえ素っ頓狂な答えを言われても真面目に返答できる程度には落ち着いた精神状態になったはずだと言い聞かせながら待つと、アリスは意を決したように口を開いた。


「お前は、人間ではなくなった」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・はい?」


一瞬康太は何を言われているのかわからなかった。人間ではなくなったなどと言われて即座に理解できるほど康太の頭は異次元ではなかった。


自分の理解している日本語と、アリスの理解している日本語が異なっているのではないかと思えるほどの錯誤感に、康太は眉を顰め、どう反応したらいいのかわからないのか首を傾げ、自分を縛っていたベルトの跡を確かめながら頭を悩ませていた。


「えっと・・・つまりはあれか。伝説のスーパー日本人になったとかそういうことなのか?髪の毛金髪じゃないけど」


「残念ながらそういうことでもない。別に親友を殺されて怒り狂ったとかそういうこともない。単純に、お前の存在そのものが変質してしまったというだけの話だ」


存在そのものが変質したなどと言われても、やはり即座に納得できるはずもなかった。

康太の頭の中にはどういうことなの?という疑問の言葉で満ちていた。


「・・・仕方がない、もう少しかみ砕いて話そう。あの方陣術、どのようなものなのかしっかりと確認していないから何とも言えんが、あれはおそらく存在を変質させるための術式だ」


「・・・うん」


頷いたものの康太は理解していなかった。存在を変質と言われてもよくわからない。だがとりあえず説明を聞かないことには自分の体の状態を理解することもできないと判断して、康太はアリスの説明を聞き続けた。


「お前の方陣術の破壊によって、その術式がどのように変化したのかはわからん。だが運がいいことに、また運が悪いことにお前の体は変質してしまった。だがお前という存在を残すことには成功した。そういう意味ではお前の悪運はまだ尽きていない」


康太に言わせればなんのこっちゃという話なのだが、とりあえず康太の運がよかったおかげでこうしてまだ生きていられるのだろうという風に理解し、とりあえずは無事であることを喜んだ。


「そして本題だ。お前がどのように変質してしまったのかという点なのだが、お前の体は人間のそれとも精霊のそれとも違う」


「・・・というと?」


「うむ・・・私も数える程度しか見ていないうえに、隅から隅まで観測したというわけではないので確実なことは言えんが・・・お前の体のそれは神のそれに近いように思える」


「・・・神?」


「そうだ。神格とも呼ばれる、精霊のさらに上位の存在だな」


神。神様などと呼ばれるその存在を聞いたとき、康太は先ほどまで真面目に聞いていたその態度がばかばかしくなり始めていた。


だが同時に、目の前にいるアリスがふざけているようにも、茶化しているようにも見えない。先ほどまでの真剣な様子を見ればそれは明らかだ。


「アリスは神様ってのに会ったことがあるのか?」


「いや、私が神という風に定義しているにすぎん。正確にはあれは神ではないのかもしれんし、本当に神なのかもしれん。ただあれは精霊とは大きく異なっていた。あれは精霊ではないと、私は断言できる」


アリスの話が確かならば、この世界には精霊以外にも人ならざる、所謂人外と呼ばれるような存在がいるのだろう。


だが今はそういった存在がいること自体は問題ではない。問題なのは康太がそういった存在になってしまった、そういった存在に近づいてしまったという点である。


「えっと・・・つまり精霊よりもすごい存在に俺がなったと?」


「そうだが、お前の体にはまだ人間としての性質も残っているように見えた。つまりお前は半分人、半分神の状態になったといえる。所謂デミゴット、半人半神というやつだな」


アリスが見たことのある存在が、本当に神だったとしたらそういうことになるのだろう。もしアリスが見たことのある存在が悪魔であったなら、康太は半分悪魔になったということである。


つまりアリスの名づけの問題だ。半分悪魔というよりは半分神様というほうがいくらか聞こえはいいのだろう。


「アリス、聞いてもいいか?」


「おそらく元には戻れんぞ?」


「・・・さっそく答えてくれてありがとう・・・なんで戻れないのか聞いていいか?」


「お前が焼肉に行ったとして、焼けた肉をもう一度生肉にすることができるか?」


「・・・めっちゃわかりにくいけどわかりやすいたとえだな・・・」


「生身の人間がやけどをしたというのであれば、もちろん治すこともできたのだろう。だがお前の場合はすでにお前という存在そのものがその状態に馴染んでしまっている。その状態こそが、お前にとって正しい姿となってしまったのだ。もう治す以前の問題だ」


半人半神、聞こえはいいかもしれない。だがこうなってしまってはどうすることもできないと考えたところで、康太はふと思う。


そもそもこの体のデメリットとはいったい何だろうかと。


今の時点では何の不都合もない。むしろやや体が軽いくらいである。


別にどこかが痛むというわけでもなく、どこかがおかしいということもない。腕は二本あるし、足も二本ある。目も見えているし、何より耳も聞こえている。


「なぁアリス、この体ってなんか不都合あるのか?」


「・・・わからん!」


アリスがこうも堂々と匙を投げる姿を見るのは初めてだった。そんなに胸を張って言うことだろうかと康太は眉を顰めるが、そんな康太を見て気の毒に思ったのか申し訳なく思ったのか、アリスは頬を掻きながらばつが悪そうにする。


「仕方がないだろう。私だってこんな状態を見るのは初めてなのだ。奴らが何を目的としていたのかは知らんが、お前はやつらにとっての成功体になったのかもしれんぞ?」


成功体。その言葉を聞いて康太は思い出す。そもそもあの方陣術は神加を捕まえていたものだったと。

それを思い出した康太は自分と一緒に連れてこられた神加の方に駆け出す。


土曜日なので二回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

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