スパーキング
康太が目を開けた瞬間、目の前に映ったのは足元にある壊れた方陣術だった。
すでに光を失い、康太の目にもわかるほどに壊れてしまっている。本来ならばどのような術だったのか。それは康太がどのような変化をしたかによってわかるのだろうが、康太は今自分がどのような状態になっているのかを理解することができなかった。
先ほどの光景。先ほどの言葉、デビットが言ったあの言葉が康太の頭の中に残っていた。
「しっかりしなさい!康太!」
「・・・ふ・・・み?」
「よかった、気が付いた」
「まだ気を抜くな!体は安定しておらんのだ!コータ、そこから動くでないぞ!」
切羽詰まった声を上げているアリスに対して、康太は疑問符を浮かべてしまっていた。
いったい何を言っているのかと思いアリスの方を振り返ろうとした瞬間、その体の変化に気付いていた。
康太の体は電撃を纏っていた。それだけならばまだ今までと変わりはない。だが康太の体そのものがどこかおかしいことに気付いていた。
今までならば、どんなに電撃を纏っても、それは康太の体そのものが放つものだった。
だが今の康太は違う。体が電撃へと変化しているかのようだった。
かろうじて人の体をとどめているが、その体が明らかに人のそれではなくなっていることに康太は驚き、戸惑っていた。
「なんじゃこりゃぁぁぁああ!ど、どどどうなってんのこれ!」
康太の動揺に影響を受けたのか、康太の体から発せられる電撃が激しく明滅する。電撃の放たれる場所も次々と変化していた。
頭、腕、足、腹、肩、背中、まるで康太の中で何かが暴れているかのように電撃が動き回り部屋を照らす。
「落ち着けコータ!お前はお前だ!ただちょっとイルミネーションのようになっているにすぎん!」
「イルミネーションって・・・こんな飾りつけクリスマスでも遠慮したいぞ?エレクトリカルパレードでももっと自重してるって」
アリスが妙なたとえを出したからか、それともそこまで大したことではないと認識したのか、康太は徐々に平静を取り戻していく。
「とにかく落ち着け。冷静になれ、深呼吸をしろ」
「お、オーケー。落ち着けー落ち着けー・・・ビークール」
「ビーだけに?」
「余計なことを言うなフミ・・・だが安定してきた・・・もう少しだ」
アリスがいったい何をしているのか康太はわからなかったが、体の電撃が収まってきていることに気付いていた。
そして電撃そのものになっていた体が、少しずつ人間の体へと変貌していく。
数分をかけて康太の体は電撃を止め、元の人間の体に戻っていた。そしてアリスは康太の体を何度も触り、問題がないことを悟ったのかその場に倒れこむ。
「お、おいアリス?大丈夫か?」
「大丈夫なものか・・・!急いでやってきたと思ったらいきなりこんなことになって、心臓がはじけ飛ぶかと思ったわ・・・!」
「ごめんねアリス、私もこんなことになるとは思ってなくて・・・」
「いやその前に説明してくれ。いったい俺はどうなってたんだ?なんであんなスパーキングなことになってたんだ?」
康太の疑問に文もアリスも答えることはできないようだった。部屋にやってきたら康太がこの状況に近くなっていたために、明確な説明はできない。
だが原因ははっきりしている。康太の足元にある破壊された方陣術だ。これが原因であることはまず間違いない。
「お前がこれを破壊した結果といえるだろう。どういう術式がどういう暴発をしたのかは知らんが、少なくともまったく面白くない効果だったのだろうよ」
アリスはゆっくりと体を起こしながら再び康太の体を触る。問題なく触れられているということに安堵しながら、康太を念動力で浮かせる。
「ミカを連れて戻るぞ。早いところ本格的に調べなければならん」
「え?ちょちょちょ、ちょっと待った、こいつらはどうするんだよ?神加を攫おうとしたんだぞ?」
「協会の連中に任せておけ。フミ、そのあたりの引継ぎは任せる。私はこいつらをまず解析せねばならん」
「あー・・・お手柔らかにね・・・あと康太」
「ん?なんだ?」
「・・・心配させないで・・・お願いだから」
「・・・ごめん」
無茶をしたつもりはなかった。康太からすれば神加を助けて方陣術を破壊するだけのはずだった。
だがそれがこの様である。アリスがいなければ一体どうなっていたのかわからないが、少なくとも康太は自分の行動のせいで文に心配をかけたのだ。
自分では特に何の問題もない行動でも、周りに迷惑をかけたのであればそれは自分が悪い。康太はそのことをよくわかっていた。
「ほら行くぞ!お前の体の隅から隅まで調べ上げてやる!」
「ちょっとアリスさん?めっちゃ怒ってますよね?」
「当たり前だ!お前がこのような状態になるなど誰が予想するか!文にすら見せたことのないところまで調べ上げてやるから覚悟しておけ!」
「マジか!文!文さん!助けて!お婿に行けなくなる!」
「・・・ちゃんともらってあげるから行ってらっしゃい」
念動力で強制的に連れ去られる康太を見送りながら、文はわずかに顔を赤くする。そして同時に強く安堵の息を吐いていた。




