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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
二十九話「その手を伸ばす、奥底へと」

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糸の先に

一階部分にやってくると、文は店の部分に出ていた。康太が何事かと文のもとに駆け寄ると、文の足元には小さな赤黒い物体があった。


血ではない。わずかに揺れるそれがウィルであると気付くのに少々時間がかかってしまった。それほどにウィルの体は小さくなっていた。


「ウィル!?どうした!?なんでこんなに小さくなってんだ!?っていうか・・・神加はどうした!?」


少々分厚いランドセル程度の体積を有していたはずのウィルが手のひらサイズにまで小さくなってしまっていることに康太は驚きを隠せなかった。


そして康太に遅れてアリスと、分裂したウィルの片割れがやってくる。ウィルの片割れが小さくなってしまったウィルを取り込むと、ウィルは震えだし、状況を理解したのか大きなバッテンマークを作り出し、この状況が危険であるということを表そうとしていた。


この動きだけで、神加に何か危険があったということは康太も文も即座に理解できた。


「神加に何かあったんだな!攫われたか!それとも襲われたか!」


「落ち着きなさい康太、ウィル、神加と別れた場所まで案内できる?」


文がウィルにそういうと、ウィルは自らの体を康太と文に触れさせる。すると何やら細いひも状のものがウィルから出ていることに気付く。


おそらく襲われた場所からここに来るまで、ウィルは自分の体を極細のひも状に変え、道しるべとしていたようだった。


「行くぞ文!神加が変質者に!」


「この場合心配するのは神加ちゃんにするべきかしら・・・それとも変質者の方かしら」


「間違いなく神加の方だろ!か弱い女の子だぞ!アリス店番頼んだ!」


文としては神加のことをか弱いと呼んでいいかは微妙なところだった。もし命の危険に瀕した場合、神加の体内にいる精霊たちが一斉に行動を開始することだろう。


まず間違いなくその変質者は無傷では済まない。最悪魔術の存在が露見しかねないため、記憶消去、あるいは廃人にしなければいけないだろう。


神加を襲うなんて何とおろかなことをしたものかと文は考えていたが、同時に恐ろしくもあった。


康太はウィルをカバン状に姿を変えさせてから背負い、文とともに駆け出す。


ウィルの糸をたどりながら急いでいると、文は康太の横に並んでその危惧を話し出した。


「ねぇ康太・・・その変質者・・・魔術師かしら」


「・・・可能性は否定できないな。もともと神加はどっかの魔術師チームに拉致されてた、神加の才能を知って攫った可能性も否定できない・・・大量に精霊を宿しているようなやつだからな」


「・・・万が一・・・神加ちゃんに危険が迫ってた場合・・・どうする?」


文の言葉が康太の耳に届き、そして康太がその言葉を正確に理解した瞬間、康太の纏う空気が変わる。

日常において決して出てくることのない、強い殺意と敵意。見るものが見たらその場で康太から逃げようとするほどの強い殺気を前に、文は目を細めた。


「決まってる・・・俺の身内に手を出したんだ・・・!ただじゃ済まさない・・・!」


わかっていたことだ。わかりきっていたことだ。幸彦の死を超えてから、康太は敵に対しての容赦のなさが一切なくなったと、倉敷から聞いていた。


文だって身内が手を出されれば怒る。だが康太の怒りは文のそれをはるかに超える。今こうして現場に向かっているときであればまだいいだろうが実際に敵を目の前にした時、理性を保っていられるか微妙なところだった。


今でもすでに電撃が出かけているのだ。周りの人間に見られていないのが幸いというべきだろう。


康太と文が現場にたどり着くと、そこにはウィルの中に納まっていたノートや筆箱の類が散乱してしまっていた。ウィルの大きさもだいぶ戻ってきてはいるが、まだ最大の大きさにはなっていない。


「ウィル、攫った連中か、神加をまだ追えるな?」


ウィルは形を変えて腕を作り出すと親指を立てる。神加の体か衣服に自分の体を縫い付けていたのだろうか、糸状のものであるために気付かれにくいようだが、まだ追跡はできるようである。


急いで散乱している道具を拾い集め、康太と文は駆け出す。


だがいくら走ってもそれらしい影は見えない。ウィルが康太たちの店にたどり着く時間を鑑みても、見えてもおかしくないが、よくよく考えれば相手が車であれば追跡できなくても無理はないかもしれない。


さすがに無謀かと考えた時、ウィルの糸が途中で途切れ、ウィルの体積が最大に限りなく近づいていた。


「糸が途切れたってことは・・・この辺りでばれたってことか」


「厄介ね・・・これじゃあ」


追跡ができないといいかけた時、文は口元に手を当てて考え出す。どうしたものかと考えた時、なるべくまだ使いたくなかった手段ではあるが方法がないことはないのだ。


「くそ、においをたどればまだ何とか」


「康太、一度店に戻るわ。あんたはバイクを取りに行って」


「店に?なんで」


「いいから早く!ここからは時間勝負よ!」


文は康太に叫ぶと、康太は自分たちの拠点にバイクを取りに走る。文は店に走り、神加を探すための準備に取り掛かろうとしていた。


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