提案、そして
「・・・神加ちゃん遅いわね」
「そうか?ってそうか、もう十六時か・・・友達と遊んでるんかね?」
話をしながら待っていると、いつの間にかすでに日は傾きかけている。といってもまだ九月ということもあってまだ日は高い。
だが小学校一年生が帰ってこない時間としては少々遅いように思えた。
だが子供の頃、友達と遊んで帰ればこのくらいになっていたことを康太は思い出す。そう考えると別に不思議なことはないのだが、神加は遅くとも十五時程度には帰ってきていた。よほど楽しく遊んでいるのか、あるいは何かがあったのか。
熱中症などにかかっていなければよいのだがと思いながらも康太は少しだけ心配になっていた。
「大丈夫かしら?魔術師だからってあの子まだ小一よ?」
「学校に行ってるときはウィルも一緒だから大丈夫だと思うけど・・・どうだろうな・・・とはいえ人目がつくところじゃウィルも動かないし・・・」
神加が学校に行くとき、ウィルは分裂して神加のランドセルになっている。赤黒いランドセルということもあって色合い的にはあまりよろしくないが、少なくとも最低限の護衛にはなる。
そろそろ携帯電話を持たせてもよいのかもしれないなと思いながら、康太は店の前まで顔を出す。
「文って携帯電話どれくらいにもってた?」
「私は中学に上がるときね。康太は?」
「俺もそれくらいだったと思う。まだ持たせるには早いかな?」
「どうでしょうね・・・あの子の場合は特別だから早い段階で子供携帯くらいはもたせてもいい気がするけど・・・」
神加がただの魔術師だったのならそこまで気にする必要はなかったのだろうが、神加は体質的に特別だ。
誰かに狙われるといったこともあり得るかもしれないため、多少気を配ってやってもいいのかもしれないと康太と文は考えていた。
「ちょっとそのあたり師匠と話してくるわ。たぶん断らないとは思うけど」
「今小百合さんってどこにいるのよ」
「ここにいないってことは下だろ?いなくてもアリスに聞いてくるよ。あいつなら間違いなくいるだろうし」
店番が誰もいない状態で地下に行くという、店としてあり得ないこの状況に少しあきれながらも、康太は地下に向かう。
すると康太が地下にやってきたことに気付いたのか、アリスがベッドで横になりながら康太の方に視線を向けた。
「おぉコータ。やっと降りてきたか」
「おっすアリス。師匠は?」
「あ奴なら仕入れに行っておるぞ。帰ってくるのは今日の夜になるそうだ」
仕入れ。おそらくは商品の入荷に行ったのだろう。だがそれにしても事前に連絡の一つもよこしてほしいところである。
店に誰もいない状況を放置しているのはあまり良くない。
アリスにそのあたりを頼んだのかもしれないが、アリスがその通りに動いてくれる保証などないのだ。
「またあの人は勝手に動いて・・・こっちの都合ガン無視だな・・・どこに仕入れに行くって言ってたか?」
「いや、特には聞いていないな」
「そっか。神加はまだ帰ってないよな?」
「お前たちが見ていないのであれば私も見ていないが・・・今何時だ?」
「もう十六時だ。ちょっと遅くて気になっててな」
「子供というのは遊び盛りだ。時間を忘れて駆け回っていても不思議はあるまい。それだけあれが普通の子供に近づいてきたということだろうて」
アリスの言うように、神加が普通の子供に近づいてきたからこそ楽しく遊ぶということができているということでもある。
それは良いことだ。素直に喜ぶべきことだ。
子供は遊ぶもので、時間を忘れて遊ぶことができるというのはどれだけ尊いことであるか、康太は理解していた。
「アリス、神加に子供携帯的なものを持たせようと思うんだけど、どう思う?」
「うむ、良いのではないか?ウィルがついているとはいえある程度連絡が取れて困ることはないだろう。こうしてお前たちに心配をかけるのであれば、一言連絡をするくらいのことを覚えさせるのもまた必要なことだろう」
「そうだな。わかった、師匠にもそう伝えるわ。甘やかしすぎるなとか過保護すぎだとか言われそうだけど」
小百合にとって神加がどのような立ち位置なのかはさておいて、少なくとも最低限の連絡手段は与えておいたほうがいい。
今後何か連絡を取りたいときも、電話で一言二言で済むこともある。携帯電話を持たせることは悪いことではないと康太もアリスも考えていた。
「そういえばフミが来ているようだの」
「そうそう、血を回収に来ててな、神加がいれば協力してもらおうと思ってたらしくて」
康太とアリスがそんなことを話していると、一階の方から鬼気迫る声が聞こえてくる。
「康太!上に来て!」
文の声だった。その声が切迫しているということから、緊急事態であると察した康太はアリスとの会話を切り上げて全速力で一階部分に駆け上がる。




