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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
二十九話「その手を伸ばす、奥底へと」

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血を抜き精度を高める

「あったあった、はいよ。こっちが神加の血でこっちが奏さんの血な」


康太は店の冷蔵庫の中にしまってあった二人の血を入れた容器を取り出すと文に渡す。


そこに入っている血は両方とも赤黒く、どちらがどちらだといわれなければわからない。容器にラベルとそのラベルに名前が書いてあるためにわかりやすくなっているが、これがなければ本当に見分けがつかなかっただろう。


「奏さんと神加ちゃんのか・・・あんたのはまだなのよね?」


「あぁ、今から採血するからちょっと待っててくれ。ちゃちゃっと抜いちゃうから」


康太はそういいながら奏から買った針と容器を取り出して採血の準備をしている。


文としてはどのような採血方法でも構わないのだが、針を使っているということもあって少し気がかりだった。


「そういう針を使ってる時って、すごくばい菌に気をつけてる印象があるけど、ちゃんと殺菌消毒とかしてるの?」


「アルコール消毒くらいはしてるよ。店にそういうのは結構あるからな。使わせてもらってる」


小百合の店には訓練の関係から普通の応急処置用の道具は一通り置いてある。包帯や消毒用具、ガーゼや松葉杖も置いてあるくらいだ。


そういった道具の中に消毒用のアルコールももちろんある。それを使って注射を刺す前に必ず腕の部分を消毒くらいはする。


「あんたの血は少し多めにもらってもいいかしら?何回かテストしてもらいたいし」


「いいぞ。どれくらいほしい?」


「この容器二つ分くらいかしら。最近の健康状態は良好?」


「おう、体はばっちりだ。気にするようなことはないぞ」


「なら何よりよ。それじゃお願いね。手伝うことはある?」


血を抜くときの手伝いというとあまり思いつかないが、あるとすれば康太が針を抜くときに血を操ってほしいくらいである。


だが文が血を操ることができるかは少々微妙なところだ。水属性の魔術は文の得意とするところではあるだろうが、倉敷ほどではない。


そもそも文が血を操るほどの精密な水の扱いができるという印象がないために頼めるものなのかと康太は首をかしげていた。


「文って血の操作はできるのか?」


「んー・・・正直あんまり得意じゃないわね。普通に水分として操ることはできるけど、それ以上のことはできないわ」


「そうか・・・それじゃあちょっと難しいか」


「止血してほしかったの?」


「似たようなもんだ。まぁ俺が止められるからそれでもいいけど」


そういって康太は自分の腕に針を刺し、容器を取り出して針からあふれてくる血を容器の中に器用に入れていく。


容器二つ分の血が集まると、康太は炸裂障壁を用いて針の中に極小の壁を作り血の流れをふさいだ。


そしてその様子を見ていた文は康太の障壁技術が微細な部分にまで至っていることに気付いて感心する。


「へぇ・・・そんな小さな障壁を張れるようになったのね」


「結構コツが必要だったけどな。これだけ小さいと逆に効率悪いよ。まぁ用途なんてこの程度だからいいんだけどさ」


魔術における効率というのはその規模や出力によって別になっている場合が多い。出力が高いものならばそれ専用の術式が、出力が低いのならそれ専用の術式がそれぞれあるのだ。


エンジンなどと同じで、高い出力を出すためにはそれ相応の大きく複雑なエンジンが必要で、低い出力であれば小さく単純なもので済むということである。


康太が使う炸裂障壁はもともとそれなりの大きさの障壁を張るための術式だ。それを操作して強引に極小の障壁を展開している。


康太の言うように効率としてはあまり良くないのである。


「そういうことができるなら、相手の血管の中に障壁を作るとか、相手の臓器の中に障壁を作るとかもできるんじゃないの?」


「んー・・・姉さんはできるだろうけど俺じゃ無理だな。体の空洞の中にピンポイントで作るってことだろ?俺じゃまず無理だ。体の構造をしっかりわかってないとできないし、何より俺は障壁系の魔術ってそこまで得意じゃないし」


障壁の魔術はどこにでも展開できるというわけではない。もともとその場所に物体があった場合は展開できないし、仮にできたとしても非常にもろいものになる。


術式によっては何かに固定するような形で展開できる障壁もあるが、康太が所有している炸裂障壁は固体が何もない場所にしか展開できないようなものだった。


「それに相手が動き続けてる状態で相手の体内の空洞に障壁を作るって並大抵のことじゃないぞ?」


「小百合さんでも無理かしらね?」


「師匠がそんな面倒くさい発動の仕方をするとは思えないな。姉さんはやるかもしれないけど・・・どっちにしろ俺には無理」


康太は自分の腕に刺さっていた針を引き抜くと、即座に腕を押さえて止血する。


多少なりとも血を抜いたために貧血でも起きるかと思ったがそういったことは一切起きなかった。


この程度の出血ならば何も問題はないのだなと康太は自分の体内の血液量を把握しながらしっかりと腕を押さえ、身体能力強化を施して自己治癒能力を高めていく。


「ありがとうね、これで実験がはかどるわ」


「そりゃよかった。完成しそうなのか?」


「その前段階までは進めるわ。問題はもう少し精度を高めたいってところなのよ。確実なものにしないとね」


文が何を目的としているのかは知らないが、康太からすれば文の努力が実ることを強く願っていた。

それがどのような内容なのかはまだわからなくてもいいと、そう考えながら。


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