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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
二十九話「その手を伸ばす、奥底へと」

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これからを考える

「なかなかのものだな。自分の腕で練習したのか」


「はい。誰かにやるのはこれが初めてですね」


「それは光栄だ。なかなか上手にできているぞ」


奏の誉め言葉に康太は顔を綻ばせながら奏の腕に傷跡がないことを確認して少し安堵していた。


これが初めての他人からの血液採取であったために、奏の肌に傷を残そうものならいろいろと問題になると思っていたのである。


やはり素人がこのようなことをやるべきではないなと思いながら康太は使用した針を片づけて、血の入った容器を観察していた。


「こうしてみると基本的に血は誰のものでも変わらないんですね」


「そうか?私のそれと神加のそれではおそらく全然違っていると思うぞ?少なくとも神加のものは私のよりは健康的だろうからな」


奏の血液は赤黒い。外見的には神加のそれとほとんど同じように見えた。少なくとも外見的特徴から血糖値が高いなどの情報を読み取ることはできない。


この赤黒さを見ているとウィルを彷彿とさせるのは仕方のないことだろうかと、康太は少し目を細める。


「これだけしっかりと採血ができるなら、看護師などにもなれるかもしれんな。そういったことは目指さんのか?」


「俺はそういうのにはなれませんよ。それにまだ何になりたいのかもはっきりしないんですから」


康太はまだ高校生だ。だがもうすでに高校生であるといういい方もできる。


そろそろ将来何になりたいのかを本格的に考え始める時期になり始めているのも事実である。


「何になりたいかというよりは何をしたいかというべきだろうな。康太、お前が今後、何をしたいのか、どのようなことをしたいのか。そしてどのようなことをしたくないのか、考えてみるといいだろう。まだ難しいかもしれんがな」


「はい。わかりました。といっても、イメージできないっていうのが正直なところなんですよね・・・」


魔術師として依頼は受けたことがあっても、一般人として仕事をしたことがない康太にとって、一般人の働くということがイメージできないというのが正直なところだった。


具体的にどのようにすることが働くということなのか、一般人はどのようにして働くのか、どうしても魔術師としての視点が働いてしまうために想像することが難しくなってしまっているのである。


「働くといっても大したことではない。任されたことをやり遂げる、そういう意味ではお前が今やっていることとそう変わりはない。見つけるべきなのはお前自身がどのようなことを仕事にしたいかだ」


「・・・仕事にしたいか・・・」


「そうだ。誰かを助けたいのか、物を売りたいのか、物を作りたいのか、そういったことによっても仕事内容は大きく変わる」


「・・・そういうのがない人はどうすればいいんでしょうか」


「逆を考えればいい。お前自身が何をしたくないのか、そういった視点から自分がやりたくない仕事を消していって消去法で選ぶのも一つの方法だ」


やりたいこと、やりたくないこと。


それは康太自身にしかわからないことだ。どんなことをするのに向いているのか、向いていないのか、やりたいのかやりたくないのか。


今までの経験を鑑みてそういったことを考えるのだろうが、康太はまだそこまで多くの経験をしたわけではない。


だが奏の仕事を手伝ったことで、いくつかやってみたいこと、やりたいこと、やっていて楽しかったことは思い浮かぶ。


「なんかの企画とか、計画とか、そういうのは考えてて楽しかったと思います。この間の奏さんの企画をちょっと考えた時の話ですけど」


「あぁあれか。あれなら会議で通ったからそのまま実現するぞ」


「本当ですか!っとまぁ・・・そういうのを考えるのは楽しかったと思います。一回しかやったことがないのでまだはっきりとはしませんが」


「そうか・・・ふむ・・・では康太、ちょっと考えてみてほしいことがあるんだが、頭の片隅にでも入れておいてくれるか?」


「はい、何をするんです?」


「ふむ、実は都市開発の一環なんだが、今度駅前にショッピングモールというか、大規模な複合商業施設を作ることになってな、私の会社の店舗も出店しようと思うんだが、何を出店するべきか意見が欲しい」


奏はそういって康太に資料を渡してくる。そこには駅前に作られる商業施設の完成図のようなものと見取り図が描かれていた。


そして奏の会社の店舗が出店する場所には印がつけられている。奏の会社は三店舗ほど出店するらしい。


「今後その場所を使い続けられるように継続して利益を上げたいと思ってるのだが、そのあたりはほかの店との兼ね合いもある。調整はしているんだが、お前ならどのような店を入れる?」


奏の店舗が出店されるのは一階部分と三階部分だった。素人考えの康太がどのような意見を出せるか分かったものではないが、とりあえず考えてみることにする。


「一階部分には気軽に立ち寄れるように、立ち食い系の食べ物屋さんとかがいいんじゃないですかね?クレープとかそういう類の。三階部分は・・・周りの店にもよりますけど服とか靴とかそういう店でしょうか」


「・・・うちの会社にそういうものがあるという前提で話をしているな」


「すいません、あると思って」


「まぁあるが・・・なるほど、参考にしておこう」


手広くやっている奏の会社だからそういうこともやっているだろうなという康太の予想は見事的中していた。


康太の意見が実現するかどうかは、今はまだわからない。























学校というものは朝から夕方まで、基本的に学校の中で缶詰めになることが多い。だがその中でも一部例外がある。


テストや行事といった事柄があると、たいてい午前中で終わったり、あるいは学校の外に出て行ったりと、学校内での活動だけに限定されるというわけではない。


康太たちの高校は九月に一度実力試験を挟む。魔術師である康太たちも同じように学校の中でテストを受ける羽目になっていた。


実力試験ということもあって今までやった範囲内という大雑把な範囲設定に康太たちは苦しみながらも、何とかテストを乗り切っていた。


「うえぇ・・・テスト滅びろ・・・学校とかマジなくなればいいのに」


テストが終わった後、康太と文は午前中で終わったためにそのまま家路につこうとしていた。


九月ということでまだまだ暑い中、二人の全身からは汗が滴っている。


「あんたがいうとすごく不吉に聞こえるからやめてくれない?実際壊せるから怖いのよね」


「いやそうは言うけどさ、学校丸ごと全部壊すっていうとなかなかの作業になるぞ?一日でいけるかどうか」


「一日でいけるって時点でおかしいけどね・・・まぁいいわ。今日はどうするの?」


「店に戻って修業する・・・あぁそうだ。神加と奏さんから血をもらったから回収しに来ないか?ついでに俺の血も用意しておくけど」


「あぁ、そうね。じゃあちょっと寄らせてもらおうかしら。神加ちゃんは注射の時泣かなかったの?」


「神加は姉さんが血をとったからな。麻酔もどきをしてくれたおかげで痛くはなかったらしい」


康太がやっていたらおそらく痛くて泣いていただろうなと康太は苦笑していた。奏相手には何とかできたものの、奏は大人だったから我慢してくれただけの話だ。


子供相手にやるには少々康太の採血は荒っぽいところが目立つのだろう。


「神加ちゃんももう帰ってるかしらね?」


「そうだな、大体昼過ぎくらいには終わってるからな。もしかしたらばったり会うかも」


「ちょうどいいから神加ちゃんで実験させてもらえるかしら?あの子が近くに居たほうがいろいろと助かるし」


「いいぞ。危なくないのか?」


「危なくはないわ。ただ協力してほしいだけよ」


痛みもなく危険もないというのであれば康太が断る理由はない。


文の役に立てるとなれば神加も断ることはしないだろう。


「そういえば神加ちゃんで思い出したけど、あの子って近くの小学校に通ってるのよね?」


「そうだぞ。ちょっと歩くけどな」


子供にとってはそれなりの距離に思えるかもしれないが、康太たちにとってはそこまで大した距離ではない。


とはいえ神加にとってはいい運動になるだろう。毎日の歩行、あるいは走行によって体力の向上も望める。


「小学校を卒業したら中学でしょ?この辺りにあったかしら?」


「隣駅の中学に通うことになるだろうって前に話してたな。たぶんチャリ通になるんじゃないか?」


「・・・そういえば神加ちゃんって自転車乗れるの?」


「・・・どうだろ・・・そういえば自転車に乗せてやったことはないな・・・今度練習させてみるか」


神加はまだ小学校一年生だ。事情が事情なだけに自転車に乗ることができるのかもわからなかったためにそのあたりはやってみないことには分らないというのが正直なところである。


康太が自転車に乗れるようになったのも確か小学校低学年の頃だった。あの時父に練習を手伝ってもらったのを覚えている。


今度は自分が手伝ってやるべきかなと康太は自転車の練習をする神加を想像しながらも、現在の神加の身のこなしを思い出して目を細める。


「たぶんだけど神加はすぐに自転車に乗れるようになると思うんだよなぁ」


「どうして?」


「いや、すごくバランス感覚がいいんだよな。空中をもうすでに駆け回ってるし。たぶん体幹がすごくいいんだと思うけど」


「あぁ、そういえばあんたの真似して空中飛び回ってるもんね・・・いろいろと子供離れしちゃってるけど」


「我が弟弟子ながらなかなかどうして、才能にあふれているぜ」


康太としては神加が立派に育っていくのはうれしいのだろう。才能に満ち溢れた神加がどんどん成長していくのは康太にとっては一種の娯楽のようになっているようだった。


「そういえば神加ちゃんは泳げるの?」


「泳げたぞ?この間海に行って普通に泳いで・・・いやあれは精霊たちに助けてもらってたのかな・・・?」


自分たちが普通にできることを神加ができるのかどうかを一つ一つ考えていくが、これらを神加にできるようにするにしても神加の中にいる精霊たちが助けている可能性も否定できないのだ。


神加の精霊たちが過保護でなければよかったのだが、神加自身の技術を高めるためには練習も必要だろう。


「しまったな、夏休みにしっかりと練習させてやればよかった」


「まぁまだ時間はたくさんあるし、いいんじゃない?それこそ後で手伝ってあげたら?」


「子供用の自転車買ってこないとな。今度の休みにでも行ってくるか」


どんな自転車がいいかななどと考えながら、康太と文は店に戻る。まだ神加は帰ってきていないようだった。


誤字報告を五件分受けたので二回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

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