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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
二十九話「その手を伸ばす、奥底へと」

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血をとるために

『注射針?一応取り扱っているぞ』


「マジですか」


『正確には注射針というよりは点滴の時に使う用の針とそれ用のチューブの類だな。なんだ、そんなものが欲しいのか?』


点滴に用いられるのは専用の針と、針を刺した後、体内に残される筒状のプラスチックでできたストローのようなものである。


奏が言っているのはこの二つだ。専用の医療器具も奏の会社は商品として扱っているらしかった。


「えぇ、ちょっと適度に血を吸い取るのに使いたくて」


血を吸い取りたいというわけのわからない要望に奏は首をかしげるが、それでも一応欲しがっているのであれば用意するのはやぶさかでもなかった。


『いつ頃使う?あと何本ほしい?』


「そうですね・・・とりあえず十本ください。使う時期は・・・まぁ早めがいいです」


『わかった。在庫を確認する。あれば明日までには用意できる。少し待っていなさい』


お願いしますと康太は一度電話を切った。


「あるのね。さすがは奏さんの会社というべきかしら」


「あの人の会社は何でもやってるイメージだな。医療用具もやってるってことはほかにもいろいろ持ってる可能性があるぞ」


「使用用途が誰かを治すためとは程遠いけどな・・・血を吸い取りたいとか吸血鬼かよ」


「確かに言葉だけ聞くと吸血鬼みたいだな。俺ニンニク大好きだけど」


文面だけを見れば確かにまるで吸血鬼のような所業だが、これにも立派な理由があるのだ。これに関しては康太は何も悪くない。


「でもこれでお前の噂がまた一つ追加だな。夜な夜な血を求める的な」


「完全に吸血鬼じゃん。血を吸ってどうするんだよ、飲むんだったらもうちょっと美味しいのがいいんだけど」


「人によっては美味しく感じるんじゃないの?青汁とかと同じなんじゃない?」


「いやあれはまずいからもう一杯なんだろ?」


どうでもいいやり取りをしていると奏からの電話が康太の携帯に届く。


「はいもしもし八篠です」


『康太か、在庫があった、明日にでも取りに来なさい』


「了解です。すいません急にこんなお願いしちゃって」


『構わん。役に立てて何よりだが・・・血を吸い取って何をするんだ?』


「実験をするんです」


『・・・そうか、ほどほどにな?この間久々に協会に行ったが、お前の良い噂を全く聞かなかった。暴れるなとは言わんが、もう少しうまくやりなさい』


「あはは・・・すいません。でも悪評もたっていればそれだけ利用できます。良くも悪くも名は知られていますから」


『お前というやつは・・・そういうところを利用するところは小百合とはまったく似なかったな』


「師匠はそういうことは気にもしないでしょう。俺の場合は師匠ほどの実力がないので小細工をしているだけですよ」


小細工というには康太のやり方は少々えげつないが、そのことを奏は知らなかった。


そのため、生き残るために康太なりの努力をしているのだなという受け取り方をしていた。


実際は悪評を利用して協会の内政にまで関与し始めているわけだが、そのあたりは知らぬが仏というべきだろうか。


『とにかく、早めに使いたいということであれば早めに来なさい。いつでも使えるようにしておいてやろう。だが血はどのように使うのだ?まさか飲むわけでもないだろう?』


「えぇ、とりあえず適当な容器にでも入れておこうかと」


『保存期間は?』


「えっと・・・文、血って採取してからどれくらいで使う?」


「可能なら採取したらすぐにでも使いたいわね。でもまぁ時間経過でどう変化するかも知りたいから一週間くらい保管するものもあるかも」


「一週間くらい保存するみたいです」


『・・・ふむ・・・血の採取量はどの程度だ?』


「えっと・・・ペットボトルの蓋の半分くらいです」


康太の説明に奏は実際にペットボトルの蓋に液体でも注いでいるのか、電話の向こう側で少々無言になっていた。


そして『あぁこの程度か』という独り言が聞こえてきた後、小さくため息をついて何やら調べ始める。


『うちの商品におあつらえ向きのものがある。少々用途的には違うが、まぁいいだろう。それも一緒に明日用意しよう。十個でいいか?』


「ありがとうございます。料金はいくらくらいですか?」


『そうだな・・・容器込みで二千円でいいぞ』


「安!そんなんで利益出るんですか?」


『利益が出るかはさておき、まぁ日ごろの礼だと思え。それじゃあ明日待っているぞ』


二千円では運搬費で赤字になりそうなものだが、そのあたりは奏だ、うまく大量に注文を受けることで賄っているのだろうと考えながら、康太は奏との通話を終わらせる。


あの人の会社は本当に何でもあるんだなと、ある意味感動すら覚えながら道具の方は何とかなったと文と倉敷に親指を立てて見せる。


「よし、あとは血を抜き取れるだけの技術だな」


「そのあたりはどうするの?やっぱり真理さんに聞くの?」


「それが一番だな・・・よし、帰ったら姉さんに聞いてみる」


康太の周りで一番人体に詳しいのは真理だ。彼女に聞くのが一番だろうと康太はとりあえず店に帰ったら真理に話をしようと考えていた。
























「というわけで姉さん、安全に血をうまくとる方法を教えてください」


「また唐突ですね・・・鼻の穴に指でも乱暴に突っ込めば安全かつ簡単に血は取れると思いますが」


なんとも簡単かつ実践的な方法を教えてくれた真理だが、そういう方法で血を取りたいわけではないのだ。


確かに鼻血であれば簡単に出せるし、なおかつ簡単に止められるかもしれないが、そういうことではないのである。


「鼻血レベルよりもう少し量が欲しいんですよね。このくらいの量なんですけど」


そういって康太はペットボトルの蓋に水を入れて見せる。


それを見て真理はふむとつぶやきながら頭をひねる。


「確かに鼻血で出すには少々量が多いでしょうか・・・察するに、何か実験に使いたいといったところですか?察するに文さんの魔術のお手伝いですかね?」


「さすが姉さん話が早い。その通りです。とりあえず五人分、老若男女問わず集めるつもりです」


血と聞いて即座に実験という方向に頭が行くあたりさすがは真理というべきだろうか。康太の行動理念をよくわかっている。


康太は基本的に自分のために何かをするということが少ない。修業によって自ら努力はする。


依頼を受けて何かをするということはあっても、自分から何かをするということが極端に少ない。


それは康太がまだ魔術師としての欲求ともいうべきものが一つしかないことに起因する。


まだ魔術師として未熟な康太は、魔術師としてこのようにしたいという欲求が少なすぎるために自分のための行動が少なくなってしまうのである。


「なるほど・・・ですが康太君が自分で血を取りに行かないということは・・・可能な限り傷は少なく、身内から採取したいといったところでしょうか」


「まぁそういうことです。戦って集めてもいいんでしょうけど、それだと無駄に喧嘩を売ることになりますから、穏便にやろうかと。奏さんのところで注射針?点滴用の針?があるらしいのでそれを注文しました」


「ふむ、ようやく私に話をした理由がわかりました。私にその針の刺し方を聞きたいのですね?」


ようやく話の流れを理解できたのか、真理はうなずき、康太はその通りですと返事をする。


康太から与えられる限られた情報から必要なものを取り出して状況を判断できる真理に康太はありがたさを感じながら、とりあえず話を先に進めることにした。


「とりあえずあれですよね?血管に針を刺せばいいんですよね?」


「間違ってはいませんが・・・そうですね・・・私も点滴用の針は使ったことがないのですが・・・とりあえず私が普段使っているものを使ってみましょうか」


そういって真理は自分の魔術師道具の中から針を取り出す。


普段からして針を持っているのかと康太は少しだけ驚いたが、その針にも種類があることに気付く。


「私が普段一番使うのはこの針です。注射用のものなので康太君が使う点滴用のものとは少々異なりますが、基本的には同じものです」


「これを血管に刺すと」


「そうです。血管の中でも静脈と呼ばれる血管に刺します。実際にやってみるのが一番ですが・・・康太君、今まで索敵で人体を索敵したことは?」


「何回か。肉体超過を使った時に調べたことがあります」


康太が魔術を習得するとき、索敵の魔術はたまに役に立つことがある。特に魔術の失敗や成功などを確認する際に索敵の魔術は重宝した。


そしてそれは肉体超過の時も同じだった。自分の肉体の状態を客観的に判断するのに、自分の肉体に索敵をかけたことがある。


「ではその時、自分の血管の状態を調べてみましたか?」


「いいえ。その時は筋肉を調べてました」


「ではよい機会です。自分の腕の血管を調べてみてください。たぶん今の康太君でも頭が情報量についていけなくなるはずです」


多少経験を積み、索敵の精度が上がってきている状態でも、情報量が多すぎてしまうという警告をしながら、真理は康太の腕をつかむ。


康太は真理に言われた通りに自分の腕を索敵する。特に血管を中心に。


最初は大きな血管を探し、少しずつ細い血管にも意識を巡らせていく。


探せば探すほど枝分かれした血管とその状態、血液の流れに、徐々に康太の処理能力がついていかなくなり、やがて脳がその処理能力を超え、康太の頭に痛みを伝えた。


「っつ・・・血管ってこんなにあるんですか」


「えぇ。私も最初驚きました。腕だけに限定しても集中して索敵すると恐ろしい量の血管が張り巡らされているのですよ」

半端な処理能力では索敵しきれないような細かな血管。それが常に稼働し、さらにはそこを通る血液が情報量を増やし続けているため脳の処理が追い付かなくなってしまうのである。


「ですが今回は注射針レベルのものを入れるということもあって、別にそこまで細かいものを見る必要はありません。ですがそれだけ血管があり、傷つければ面倒なことになるということは理解できたと思われます。そこで、針を通す血管を意識してみましょう。これです」


そういって真理は康太の腕をつかんだ状態で関節部分にある血管と思わしき部分に触れて指に力を込めていた。


よく予防注射や採血などをする際に用いられる部分であると康太も理解できていた。


一番わかりやすく、簡単に刺せる場所であるという。


土曜日なので二回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

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