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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
二十九話「その手を伸ばす、奥底へと」

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見えるもの、感じるもの

「おぉ・・・ここまでとは・・・なかなかどうして・・・思っていたよりもずっと強力だな」


アリスが驚き、同時に感心しているその姿が康太は少し意外だった。


小百合の技術がそれほどすごいというイメージが持てなかったのも事実だが、使ったのが遠隔動作という自身も使える魔術だったのが大きな理由の一つだろう。


「そんなにすごいのか?」


「あぁ。魔術に対して魔術で干渉しているという点が私とは少し異なるところだが、魔術に与える干渉力としては私と同じかそれ以上だろう。これほどの力があれば相手の魔術的な防御など意味をなさないのではないか?」


魔力に干渉して魔術を破壊する。そんなことが本当にできるのであれば確かに障壁などの魔術的な防御は意味をなさなくなる。


小百合はもともと破壊に秀でた魔術師ではあるが、この技術があるからこそのことなのかもしれないと康太は考えていた。


「いや、そううまい話はない。これは高い集中力がいるから連発できん。高い威力の一撃であればまだ集中もできるが、手数で押しているときはどうしても集中力がもたん。どこかでぼろが出る」


「ふむ・・・そのあたりも私と違うところか・・・惜しいな。これほどの干渉能力は私も初めて見る。私以外ではこれほどの技術を持つ者はいなかった」


「壊すことしかできん技術だ。褒められたところでな・・・」


「そういうな。サユリの得意分野ではないか。望むにせよ望まぬにせよ、自らが勝ち取った技術を誇らずしてなんとする。自身の努力によって、才能によって得たものなのだから誇らないのは嘘というものだ」


アリスの言葉に小百合は反論したい気持ちがあるのだろうが、反論の文句が思いつかないのか不機嫌そうな顔をしながら顔を背けてため息をつく。


言いたいことがあるのに言い返せないというもどかしさが小百合に苛立ちを与えているようだった。


小百合自身不満がある言い分なのに、なぜか言い返せない重さがある。事実小百合もその言葉が正しいということを理解しているのだ。


だが理解していても納得できるかは別問題。特に小百合の場合はそういったことが多いため、このような反応をせざるを得ないのだ。


「でもさっきみたいなことができるなら、本当に相手の防御なんて完全無視ですね。この技術があればアマネさんにも勝てたんじゃないですか?」


「あいつは私の攻撃が自分の防御を破ってくる前提で防御を張っている。一つ二つの壁を破ったところであいつは無数の壁を展開する。言っただろう、私のこれは手数を増やすとぼろが出るんだ」


「この干渉技術というものはな、魔術によって干渉の仕方が異なるのだ。方陣術で少し法則を変えると波長や魔力の量が変化するのと同じく、少し変えるだけで干渉の方式というか、やり方というか、そういったものが変わってくる」


「そういうのはどうやって判断するんだ?」


「んー・・・これも説明が難しいのだが、何となくわかるというのが正直なところだの。悪く言えば説明ができん」


「えー・・・アリスでも説明できないのか」


「うむ・・・本当に何となくとしか言いようがないのだ。そうだな・・・」


本来ならばアリスも説明したいところなのだが、うまく説明できないことに悔しそうな表情をしながらあたりを見渡す。


すると近くにあったペットボトルを手に取って康太に向けて軽く投げる。


「ん・・・なんだ?」


難なくそれを受け取った康太だが、アリスはうんうんとうなずいてから康太が手に取ったペットボトルを指さす。


「コータ、お前は今私が投げたペットボトルを受け取ったな?」


「あぁ・・・そうだけど。あれ?落としたほうがよかったか?」


「いやそうではない。コータよ、お前はどうして今そのペットボトルをキャッチできたのだ?」


「え?そりゃできるだろ」


「なぜだ?物理学をすべて理解しているわけでもないお前が、ペットボトルが描く放物線を瞬時に計算して、キャッチするその位置を把握し、体を動かしたのか?」


「いやそんな面倒なことできないっての。別にそんなことしなくたって感覚でわかるだろ」


「そう!そうなのだ!そういうことなのだ!長いことこの技術を使っていると、理屈よりも感覚が優先されてくる。最初は一つ一つ考えていたことが、当たり前になってくる。お前が今ペットボトルをキャッチしたように、私たちも何となくの感覚でこれらを操っているのだ」


アリスの言いたいことは納得できる。そういうことを言いたいのだと理解もできる。だがどうにも腑に落ちない何かが康太の中で渦巻いていた。


何というか、残念な気持ちとでもいえばよいのだろうか、アリスならばもっとしっかりした説明があると思っていただけに少し落胆していた。


「なんかさ、もうちょっとなんかないのかよ」


「そういうな。魔術師というのは一般人に比べて感覚が拡大化されている。その拡大された感覚は人によって違う。見えているものと見えていないもの、感じ取れているものと感じ取れないもの、他者に説明しようと思ったら言語が足りな過ぎる。必要な情報を伝達するには言葉というのはあまりに不便なのだ」


「それは何となくわかる気がする。言葉で説明しようと思っても限度があるからな」


不可思議な存在を体の中に入れている康太としても、その言葉には強く賛同できた。もう少し分かりやすい言葉があればよいのだがと思いながらも、説明できないだろうとあきらめている節もあるのだ。


「とまぁそういうこともあって、この技術は教えようとして教えられるものではないのだ。とはいえ、指導できないこともないのも事実だ」


「ほほう。教えられないのに指導はできるとは。矛盾しているように思えるけども」


教えることと指導することは何か違うのだろうかと康太は首をかしげるが、アリスは腕を組んだ状態で悩むように頭をひねり出す。


「実際、これは教えているとはいいがたい方法だ。少なくともこの方法を私は教えるとは言いたくない」


「で?その方法は?」


「単純なことだ。自然にそれらを身につけたのであれば、才能以外で何とかできる努力は今までの経験をすべてトレースすることだ。特別な才能を必要としないのなら、その方法で習得できる」


「トレースって・・・簡単に言うけどかなり難しいよな?一から十まで真似しろってことか?」


「もちろん魔術的なことに限定するが・・・疑似的に再現するだけでも効果があるのではと私は考えている。とはいえ、立証できたことはない」


立証するためには何人もの人間にアリスの経験を一から十まで追体験させなければいけないのだ。


そんなことをして、いったい何人の人生を棒に振るか分かったものではないのだ。そう易々と実行には移せないのだろう。


「そういう意味ではコータたちの修業は基本的にサユリの修業の内容をトレースしているわけだから、三人の中の誰かがこの技術をいつの間にか習得できていても不思議はないわけだ。試しにやってみるか?」


アリスは先ほどと同じように炎の球体を空中に展開する。康太はそれを見て近くにあるナイフを手に取ると先ほど小百合がやったように遠隔動作で炎の球体を斬る。


だが炎の球体は一瞬揺らめいただけで、先ほどの小百合の一撃のように両断されることもなく、消えることもなくその場にあり続けていた。


「ダメだな・・・普通に消えない」


「あぁ、普通は消えんのだ。サユリが先ほどやったのは割と高度な技術だったということだの」


先ほど小百合が斬った炎と違ってそのまま残り続けている目の前の炎に、康太は何が違うのだろうかと悩んでいた。


小百合は特に変わったことをやったようには見えなかった。やはり何か独特の技術や方法があるのだろうかと考える。


そして先ほどの小百合の言葉を思い出す。この魔術は邪魔だ。消したい。そういう考えを抱いた状態で斬る。


康太は目の前の炎が何らかの障害、防壁であると考え、強く破壊したいと考えることにした。


そしてもう一度遠隔動作の魔術を発動し、炎の球体を斬る。


だがやはり結果は変わらなかった。考えを変えるだけで可能になるほど簡単な技術ではないらしい。


「ダメだな。まだ俺にはできないみたいだ」


「そう気を落とすな。これができるものは限られているといっただろう?何らかの条件を満たさないとそういった感覚も生まれないものなのだろうな」


「んー・・・魔術師の視覚の延長線みたいなものか」


「単純に言えばそういうことだ。目や耳、肌で感じる以外にも所謂第六感のようなものもある。お前たちの勘や、殺気などを感じる能力も、魔術師として、魔力を操ることによって新たに生まれた感覚といっていいだろう」


康太や小百合が身に着けている殺気や視線を感じ取る能力や、独特の勘が、魔術師の視覚と同系統のものだった可能性があることを知って康太は目を見開く。


魔力という普通の人間が扱わないものを扱うからこそ新たに目覚めた感覚。そういう意味では確かに第六感と言えなくもないのかもわからない。


「・・・そういうことだったのか。じゃあ普通の人間が俺らと同じような近接戦の訓練とかをしてもそういう感覚は身につかないのか?」


「絶対に身につかんとは言わん。特殊な条件下でそういった才能を開花させるものだっているだろう。だが魔術師や精霊術師はそういった感覚が目覚めやすいのは間違いない」


普段から魔力という普通の人間が感じ取れないものを感じ取っているため、普通の人間と違って当たり前なのだ。


そういう意味では魔術師という存在は普通の人間とは少し違う生き物と言えなくもないのかもわからない。


「干渉か・・・文ならできるかな?」


「どうだろうな・・・フミは技術的な魔術師だ。感覚でものを覚えると同時に理屈で物事を進めるタイプ、そういったことを理解できても不思議はないが・・・」


この場にいない文のことを考えて、康太は頭をひねる。実際に内容を理解してもそれを実践できるとは思えなかった。


周囲のマナや魔力に干渉して相手の魔術の結果を変化させる。いうのは簡単だが実際にそれをやるのは至難の業だろう。


小百合の場合は斬撃などにその技術の一端を乗せる形で振るい、相手の魔術に干渉しているのだろう。


だが複数の魔術に干渉するためには、それぞれ別々で干渉しなければいけない。手数が求められる場合、小百合は多用できないからこそそこまで目立っていなかったのかもわからない。


アリスのように高い処理能力を持っていれば、複数の魔術の制御権をすべて奪うこともできたのだろうが、それができる人間はごくまれだろう。



























小百合とアリスに新しい技術、というか知識を教わった康太は自分の中でできる技術を今一度考えていた。


康太が使える技術の中で、戦闘でもなんとか使えるようになってきたのが障壁などの防御系魔術を破ることのできる壁破りだ。


この技術は障壁の弱い部分を突くことによって、障壁そのものを突き破るという技術である。


ある意味これも、先ほどアリスが言った魔術師だからこそ産まれた感覚を元に使われている技術だ。


相手の弱いところを感じ取る感性。これもある意味魔術への干渉と言えなくはないが、これは魔力やマナ的な干渉ではなく物理的な、強引な干渉だ。


これでは物理的な魔術に対しては対応できても、現象的な魔術に対応することができない。


康太の弱点の一つでもある広範囲における現象系攻撃への対処、これができないと康太はいずれ相手に主導権を握られることになってしまうだろう。


康太はアリスに頼んで目の前に炎の球体を作ってもらい、その炎を観察していた。


障壁に対して弱い部分を見つけられた時のように、この炎にも何かしらの弱点とでもいうべき部分が見つけられるのではないかと考えたのである。


魔術である以上、魔力とマナによって発生していることは間違いない。そして、人が作り出している以上、必ず強い場所と弱い場所といった力の偏りができるはず。


アリスほどの実力者が作り出した魔術だ。そういったものが極力ないようにしているだろうが、何かを見つけられるのではないかと康太は炎を見つめ続けた。


「お兄ちゃん、何してるの?」


「んー・・・ちょっと修業の一環でな、魔術そのものに何かないかって見てるところ」


座った状態で炎の球体を見つめ続けている康太の後ろから乗りかかるように神加がやってくる。

康太と同じように炎を見つめ、その炎を観察する。だが神加は目の前に炎があって、康太がいったい何を観察しているのかが理解できなかった。


「火の玉の何を見てるの?」


「んーとな、魔術を使うとさ、大体力の偏りとかができるだろ?そういうのを見つけられないかなと思って」


「力の、かたより?」


神加にはまだ理解できない言葉だったかと康太は言葉を直そうと頭の中で言葉を思い浮かべていく。


小学一年生にもわかるように伝えなければいけないために、言葉は選ぶべきだなと康太は眉をひそめた。


「神加は粘土で何かを作ったことはあるか?」


「あるよ」


「その時に、どうしてもでこぼこになっちゃうことないか?」


「ある。ヘラとか使ってるのにうまくいかないの」


「そういうのが魔術にもあるんだ。綺麗にしようとしても、どうしてもでこぼこになっちゃったり、変な形になることがある。それを見つけようとしてるんだよ」


神加にもわかるように実体験などから話をすると、神加もそれを理解したのか目の前にある炎を観察し始める。


「でもこの火、すごくきれいだよ?」


「そうなんだよなぁ・・・アリスが作ったからなぁ・・・さすがに俺でもわかる雑な部分なんて・・・」


ないだろうといいかけて康太は自分の上に乗っている神加に意識を向ける。


今神加は綺麗だといった。それは炎が綺麗なのか、それとも炎の力の形が綺麗なのか、どちらなのかと迷った。


もし後者だとしたら、神加はすでにそういったものを見る目を持っているということになる。


精霊を見る目と一緒に、神加は康太では見えないものが多く見えているということになるだろう。


「なぁ神加、これはどうだ?」


康太は適当に自分の掌の上に炎の弾丸を作り出す。威力も精度も全く考えていない、本当にただ作っただけの炎の弾だ。


「あんまり綺麗じゃないかも・・・変な形してる」


「どんな形だ?」


「えっと・・・こんな形」


神加は障壁を使って見えたそれを造形し始める。


そこに作り出されたのは円錐、かつ先端が丸みを帯びた、弾丸のような形だった。


康太のイメージとでもいうべきか、炎の弾丸を常にイメージして使っているためか、この炎の弾丸は球体としての性質よりも弾丸としての性質を強く持ち合わせているのかもわからない。


自分自身でよく観察しても、そのような力の形になっているようには見えない。


やはり神加は康太たちには見えていないものを見ているのだ。それがどのレベルの話なのかまではわからないが、少なくとも力の形まではっきりとわかる程度には見えている。


「すごいな神加は、そういうのまで見えるのか」


「えへへ・・・お兄ちゃんは見えないの?」


「あぁ、俺にはただの火の球体にしか見えない」


自分で作っておきながらそのあたりがわからないのだ、康太はそういったものを見る感覚がまだ目覚めていないのだろう。


だが方向性は間違っていないように思える。力の強弱がわかれば、相手の攻撃をよけきることができなくてもダメージを軽減することは可能だ。


引き続きこうして観察を続けようと、康太は神加にも魔術を発動してもらってその感覚を掴もうと集中していた。


誤字報告を十件分受けたので三回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

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