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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
五話「修業と連休のさなかに」

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酔いと反応

「あーもう・・・ようやくつぶれてくれたわ・・・」


「なんか聞いていいのか悪いのかよくわからない話をされたな・・・ていうか酷いなこの状況」


康太と文はつぶれた二人を近くのソファに寝かせた後散乱したテーブルの片づけを行っていた。


途中から小百合もだいぶ語りに熱が入っていたのか酒をこぼしたりつまみをこぼしたりとなかなかに散らかっている。


本当にエアリスのことが嫌いなのだなと思う反面、それだけエアリスのことを知っているのだなという風にも思った。


「ていうか師匠と小百合さんってかなり長い付き合いみたいね・・・いったい何時頃から知ってるんだか・・・」


「姉さんなら知ってるかもしれないけどな・・・軽く十年前の話されたときはびっくりしたよ・・・」


愚痴の中には小百合の学生時代の話も混じっていた。そしてその中にもエアリスの暴挙というか非道というか、そう言った内容の話が混じっていたのである。


小百合とエアリスは実は幼馴染なのではないかと思えるほどに長い時間を過ごしているというのがわかる。


もっともかなり昔から犬猿の仲であることに変わりはないようだったが。


「ていうか真理さんって一応二十歳超えてるわよね?完全に酔ってるけど」


「たぶん・・・大学生ってことしか知らないからなぁ・・・超えてると思いたい」


法に縛られない魔術師といえどさすがに未成年での飲酒は推奨できない。小百合が飲ませたという事は一応二十歳は超えているだろうがそれでもその状況を間近で見ていた文からすれば危険な飲ませ方だった。


思い切り組み付いてビンごと口に放り込んだのだ。無理やり飲ませるとはまさにあのことを言うのだろう。常識が欠如しているにもほどがある。


時折唸りながら手を伸ばしたりしているところを見ると苦しいのだろうか。定期的にペットボトルに水を入れて口に運ぶとゆっくりとではあるが飲んでいる。意識がもうろうとしている状況ではあるが一応問題はないらしい。


「魔術の中にアルコールの分解を早めるような魔術はないのか?こういう時に一発で効くような奴」


「ずいぶんピンポイントな魔術ね・・・まぁ臓器の性能を高めるっていう意味では強化魔術に属することになるのかな?でも私そんなの使えないわよ」


お酒なんて飲んだことないしと言いながら文はテーブルに散乱しているごみをまとめながら小さくため息をつく。


魔術というのは当然練習しなければ使えるようにはならない。そして康太のいうアルコールの分解を早めるような魔術を修得するにはアルコールを飲んだ人間が実験体として必要になるのである。


使用者自身が成人して酒の類を飲むことができるのであれば話は早かったが生憎二人とも酒など飲めない歳だ。大人に協力を頼めればいいのだろうが、自分の魔術を覚えるために他人の協力が必要というのは非常に面倒である。


康太が暗示の魔術の練習に手間取っているのも同じ理由である。他人の協力、あるいは対象が必要な魔術というのは練習自体が難しいのだ。


「でもさすがにこの状況の姉さんを放っておけないって・・・何とかできないか?」


「なんとかって言ってもねぇ・・・とにかく水を飲ませるのが一番よ。血中アルコール濃度を下げれば少しは気分もよくなると思うけど」


「水か・・・お前の魔術で何とか」


「ならないわよ。魔術はそんなに便利なものでもないし、普通に対応できるならその方がいいの。さっさと水汲んできなさい」


文のいう通り魔術というのは何でもできるわけでもないしそこまで便利なものではない。


傷を負うといった一時的な欠損にも似たものなら自己治癒能力を高めれば話は済む。だが体内に入った成分だけを除去するというのははっきり言って面倒極まるのだ。


方法がないわけではない。先程康太が言ったような人間の持つ臓器の機能を高めるような魔術を扱えば比較的早くアルコール特有の不快感からは脱することができるだろう。


だがそれだって人間の機能の中の一つだ。結局必要なものを体の中からかき集める。そして必要なものの中には水分も含まれる。結局のところ水を飲ませた方が早く回復するのだ。もちろん飲ませ過ぎは逆効果だが。


「姉さん、分かりますか?水ですよ」


「うぅぅぅ・・・ぁ・・・」


真理の体を支えながらまるで介護のように水を飲ませると、真理はゆっくりとその水を飲み始めていた。


あんな飲みかたをすればあのようにもなるなと文は呆れていたが、今回は真理の失態ではなく小百合が原因だ。本当にこの人は不憫な人だなと思いながら文はゴミをまとめてテーブルを布巾で拭いていた。


「ていうかあんた真理さんばっかりじゃなくて小百合さんも介抱してあげたら?あっちもつぶれてるんだし」


「あ?師匠はなんか気持ちよさそうに寝てるじゃんか。介抱する必要ないだろ」


康太の視線の先には薄く笑みを浮かべながら頬を赤く染め、すやすやと気持ちよさそうに笑っている小百合がいる。


真理とは正反対の状況に呆れるほかなかったが、確かにあの様子なら介抱はいらないように思える。


「・・・前から思ってたけどあんたたちって師匠に対して妙に辛辣じゃない・・・?」


「そうか?まぁお前の所よりはそうかもしれないけど、これくらい普通だろ?」

普通じゃないわよと言いながら文は濡れたタオルを真理の額に乗せる。冷えたタオルが熱されている真理の体から熱を奪っていく。心地いいのか真理は間延びした声を出しながらゆっくりと寝息をつき始めていた。


















人間というのは同じように酒を飲んでも全く違う反応をするものだ。個人によって酒に対する耐性の有無も強弱も違うために、そう言う結果になるのは半ば必然ではある。


それは小百合と真理を見ても明らかだった。


ゴールデンウィーク二日目。今日の朝食当番は本来真理のはずだったのだが、彼女は今絶賛二日酔い中で最悪の体調だったため一時的に康太が朝食を作っていた。


まさに最悪の体調を絵にかいたような表情と顔色をしており、水を飲みながらも何とか体調を戻そうと奮闘しているようだがさすがの彼女も絶不調の状態でまともに行動できるほどの胆力はないのかテーブルに突っ伏した状態で妙なうなりを上げている。


そんな不調を明らかに表面に出している真理に対して、無理やり飲ませ徹底的につぶれるまで飲んでいた小百合はというと、ほとんどなんでもなかったかのようにコーヒーを飲みながら優雅な朝食を摂っている。


絶不調の真理と違いこちらはまったくもっていつも通り、むしろいつもより機嫌がいいくらいだ。


酒を飲んだ次の日の反応は人にもよるがここまで露骨な違いも珍しい。


「あんだけ飲んでたのに全然平気なんですね、師匠」


「それほど飲んでもいないだろう。むしろ少し飲んだだけでこんな風になるこいつが軟弱なだけだ。いつもはこうじゃなかったはずだが・・・」


「・・・ひょっとしてほぼ不意打ちみたいな形で無理やり飲ませたからじゃないですか?」


「・・・なるほど、その可能性はあるかもしれんな」


昨夜、真理はほぼ無理矢理の形で小百合に酒を飲まされていた。しかも止めようとした瞬間に組み付かれて何の予告もなしにだ。


「もしかしたら姉さんって酒弱いのかな?普段は魔術で対応してるとか?」


「あー・・・もしかしたらあるかもね」


昨夜何とはなしに話していたアルコールを分解する魔術。正確に言えば臓器の機能を向上させてアルコール分の分解を早めたり、水を飲むことで体内のアルコール濃度を薄めるという効果を高めるという魔術である。


真理がそれを使えたとしても、ほぼノータイムで無理やりに酒を飲まされれば魔術を発動できるだけのタイミングもなかったかもしれない。


酒に酔って集中もできない状態になってしまっただろう、魔術を使う上で集中は必須だ。その集中ができない状況になった時点で真理は何もできないただの女子大生になってしまったのだ。運が悪いとしか言いようがない。


今日の朝食はトーストに目玉焼き、そしてベーコンとサラダ、そしてヨーグルトという洋食テイストのものだった。


ぶっちゃけてしまえば簡単に作れるからという理由で康太がこれにしたのである。


「姉さん、大丈夫ですか?何か欲しいものありますか?」


「だい・・・じょうぶですよ・・・ただ・・・水をいただけると・・・」


「わかりました、ちょっと待っててください」


先程まで飲んでいた水が無くなっていたことに気付き、康太は即座にペットボトルに水を入れると真理の元へと持ってくる。彼女はそれを一気飲みして少しでも体調を元に戻そうと試みているようだった。


昨夜の状態に比べればましになったと言えるだろうが、相変わらずその顔色は悪いままだ。無理に酒を飲むとこういうことになるのだなと康太と文は酒の怖さを実感していた。


「ていうか師匠も、無理矢理酒飲ませるとかやることがえぐすぎです。ちょっとは自重してください」


「あれしきの酒でつぶれるのが悪い。もう少し鍛えたほうがいいぞ」


「鍛える以前の問題です。姉さんがもし急性アルコール中毒にでもなったらどうするんですか」


康太の非難の目と抗議の言葉に小百合は小さくため息を吐きながらコーヒーの入ったカップを傾ける。


今までは真理への暴虐も許されていた、というよりそれを非難する者がいなかったが今はもう一人の弟子がいるのだ。


しかも弟子同士で結託している分片方になにか非道を働けばもう片方の弟子が文句を言ってくる。


弟子同士でのコミュニティが成立している分、互いが互いをかばい合っているのだ。


自分のために師匠に物申してくれているという事実に真理は水を飲みながら強く感動していた。ようやく自分のために怒ってくれる人が現れたのだと。


二日酔いでグロッキー状態の彼女には、自分のために師匠に対して文句を言ってくれている康太がまるで神か仏のように見えていた。


今まで自分をかばってくれる人などいなかったためにこういう人物の存在は非常にありがたい。康太が小百合の弟子になってくれてよかったと真理は心の底から思っていた。


「もうこれから姉さんに無理矢理酒を飲ませるようなことはしないでくださいね?こんな状態じゃまともに動けませんよ」


「そこまでひどくもないだろう。あと一時間もすれば戻ってくる。今までもそうだったからな」


「今までもこんなことやってたんですか?師匠・・・もう少し常識ってものをわきまえてくださいよ・・・」


「毎度毎度学習しないこいつが悪い。師匠に酌をされたら受け取るのが弟子だろう?」


「文の話を聞く限り少なくともお酌したとかそう言うレベルじゃなかったと思いますけど?」


師匠である小百合の暴挙と暴論に一歩も引かず康太は抗議を続けている。兄弟子をかばえるのはこの場では自分だけなのだ。今まで自分をかばってもらった代わりに自分も真理をかばわなければと康太は小百合に注意を続ける。


もっともこの注意が有効であるかはわかったものではないが。


幸か不幸か、小百合の言う通り一時間もすると真理の体調は徐々にではあるが元に戻ってきていた。


魔術を使ったのかどうかは定かではないが、顔色も意識のレベルもだいぶましになってきている。


朝食を食べて少しでも体調を元に戻すべく努力しているようだったが、実際どこまで体調を戻すことができたのかは不明である。


「姉さん、無理しない方がいいですよ?」


皿を洗いながら康太は真理の体調を気遣っていた。まだ体調は完全には戻っていないのだ。そんな状態で動くのはまだ無理なのではないかと思えるほどである。

特に先程までのグロッキーっぷりを見ているからこそそう思えてならなかった。


「大丈夫ですよ。それにしてもごめんなさい、朝食当番代わってもらってしまって」


「いいんですよ、文も手伝ってくれましたし」


「そうだったんですか・・・ありがとうございます文さん」


「いいえ、にしても災難でしたね・・・いつもあの人あんな感じなんですか?」


いつもあんな感じですよと真理が苦笑しながら返すと文は非常に複雑そうな表情をしていた。


いつもあんな状態の師匠に付き合わされているのかと、弟子二人が不憫になってしまったのである。


文は訓練の時の小百合しか知らない。普段の状態に近い小百合というのがどういう人間であるかを知らないのだ。


魔術師として、つまりデブリス・クラリスとしての彼女の行動というか悪行はいくつか耳に届いている。


その素行に比べれば訓練の時の彼女は非常に熱心な指導を見せてくれていると思っていたのだ。それはつまり本気になりすぎて殺す気でやってきているという事でもあるのだが、文はむしろその姿勢を好意的にとらえていた。


だが普段の、日常に近い状態の小百合の一面を見たことでその評価は一変する。熱心すぎる指導はただ単に八つ当たりやストレス解消のそれに近いのではないかとさえ思えてしまうのである。


「真理さん、私でよければ力になりますよ?微々たるものですけど・・・」


テーブルの片づけを終えた文が布巾を持って台所にやってくるが、康太と真理は一瞬互いの顔を合わせた後で苦笑してしまう。


その顔はどこか諦めたような表情だった。


「ありがとうございます。そのお気持ちだけで十分です。貴女まで巻き込まれることはありません」


「そうそう、お前はエアリスさんの弟子なんだから、気にすることないって」


「でも・・・昨日のあれはさすがに・・・」


一応同盟関係を築いている康太と日頃世話になっている真理が窮地、とは言わないまでも辛い思いをしているのであれば何とかしてやりたいと思うのが人情というものだ。


だが実際問題康太と真理は小百合の弟子で、文はエアリスの弟子だ。互いに友好関係を持っているとはいえあくまで他の師弟関係に口を出すわけにもいかないのである。


家族間の問題に似ているが、それぞれの師弟関係には暗黙の了解のようなものが存在しているのだ。


そこに一応は部外者である文が口を出すわけにはいかないのである。もっともそんな細かいことを小百合がいちいち気にするとも思えなかったが。


何よりも康太と真理は文が巻き込まれることを危惧したのだ。今文はエアリスからその身柄を預かっている形になる。これで小百合が暴走して何かやらかしたらエアリスに合わせる顔がない。


文を小百合の毒牙に晒すわけにはいかないという点において康太と真理の考えは一時的にだが一致していた。


「考えてもみろ、仮にお前が何か言ったところで師匠が何か影響を受けると思うか?」


「それは・・・」


いくらそういう状況を想像したところで小百合が折れるような未来は想像できなかった。傍若無人を絵にかいたような人間である小百合が部外者で何よりエアリスの弟子である文が何か言ったところで素直に聞き入れてくれるとも思えなかったのである。


「そう言う事です。師匠の暴挙は慣れたものですから、文さんは気にしなくていいんですよ。師匠の相手は私と康太君でやりますから」


「まぁあれだ、もし俺と姉さんの両方がダウンした時は介抱なりなんなり頼むと思うからその時は助けてくれ」


康太にとっては真理が、真理にとっては康太が自分を助けかばってくれる存在なのだ。もしその両者が倒れた場合かばってくれる人も助けてくれる人もいなくなる。


その時は文の力を借りる。そんな時が来ないことを祈るがいつかそんな日が来るだろうなと二人は確信していた。


なにせ小百合の事だ、一体どんな面倒事や暴虐を働くかわかったものではない。

そしてその矛先が二人同時に向けられないとも限らないのだ。ある程度保険を打っておいて損はないのである。


「お前ら、弟子同士で交流を持つのはいいことだがもう少し私に聞こえないように話そうとは思わないのか?」


こうして話をしている間、小百合はテーブルでコーヒーを飲みながら商品のチェックを行っている。先程の会話も完全に聞かれていただろう。二人の弟子は全くそんなこと意に介していないようだったが。


「隠すような内容でもないから大丈夫ですよ」


「そうですよ、聞こえても聞こえなくても師匠の反応は変わらないでしょ?」


「・・・まぁそれはそうだが・・・」


ある意味信頼の表れなのだろうが、こういう反応をしているから弟子に対する風当たりが強くなるのではないだろうかと文はほんの少しだけ思っていた。


その考えが正しいかどうかは全く不明である。


土曜日、そしてブックマーク件数が800件超えたので三回分投稿


今日から自分は夏休み!ちょっとだけ予約投稿しますので反応が遅れるかもしれませんがどうかご容赦ください


これからもお楽しみいただければ幸いです

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