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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
二十九話「その手を伸ばす、奥底へと」

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えげつない

「あれ?先輩ら何してるんすか?」


康太たちの会話に割り込んできたのは一年生魔術師トール・オールこと船越だった。部活の途中で飲み物を買いに来たらしく、何かのユニフォームを着ている。


「話し合いだよ。打ち合わせって言ったほうがいいかな。船越君は?」


「見ての通り、飲み物を買いに来たっす。先輩らってよくこうやって話してますけど、何話してるんすか?」


どうやら船越も康太たちが定期的にこの場で話をしていることは気づいてはいたようだ。人よけの結界を張っていれば、魔術師であれば気づくなというほうが無理なのだろう。


実戦経験の少ない魔術師でもその程度の感性は持ち合わせているようだった。


「基本的にはここでは互いのスケジュールとか、今自分たちが何をやっているのかとかを話し合ってるな。協力してる魔術師とはそういう連絡を密にとりあうのも大事だぞ」


「船越君はどうなの?佐々木ちゃんとは仲良くやれてるわけ?」


船越は同級生の佐々木と一緒に行動し、魔術協会での仕事を時折受けるような話をしていた。


実際そのようにしているのだろう。以前のような関係ではなく、しっかりと協力関係を結べているのであればよいのだがと文は少しばかり心配していた。


「えぇ・・・まぁそれなりに・・・あいつはあいつでいろいろと仕事できますし、俺はまだまだで」


どうやら実際に依頼にかかわることで自分の視野の狭さを実感することができているようだった。


以前のような自信に満ち溢れた傲慢なふるまいではなく、自分の立ち位置を知ってうまく立ち回ろうとしているそぶりが見られる。


彼は彼で一学期を過ごし、夏休みを終えていろいろと成長しているようだった。


「そういえば先輩、なんか協会の方で先輩の・・・文句っていうか、抗議文みたいなの見ましたよ。何やったんですか?」


「いやいや、大したことはしてない。被害者の精霊術師から情報をもらおうとしただけだ。ちょっと強引なやり方で」


「ふぅん・・・俺の周りの人らも結構気にしてましたよ。とうとうやったかとか・・・あと、『理不尽の象徴』とか言ってる人もいましたよ」


船越の言葉に、文は目を細めて康太の方に視線を向ける。いったい何をしたのかと思いながらも、船越の言った理不尽の象徴という単語が強く印象に残っていた。


「康太、あんた随分な言われようだけどいいの?」


「いいんじゃないのか?誰に何を言われようと知ったことじゃない。言いたい奴には言わせとけって」


「・・・あの人の弟子だから何となくひどいあだ名付けられるとは思ってたけど・・・『理不尽の象徴』とは・・・またなんとも」


『破壊の権化』の弟子が『理不尽の象徴』というあだ名をつけられているという事実。文としては笑うべきなのかあきれるべきなのか迷ってしまっていた。


小百合こそ理不尽の象徴と言われるにふさわしい魔術師であると思うのだが、彼女の場合破壊行動が多すぎてそれ以外の項目があまり印象に残らないのかもわからない。


大破壊を繰り返す彼女と、理不尽な行動や戦闘能力を見せつけることの多い康太。どちらが理不尽の象徴にふさわしいかは議論するべきだろうが、それをこの場で議論したところで意味はない。


結局それを決めるのは文たちではなく、当事者の康太でもなく、第三者なのだ。


「ところで先輩、最近協会内でちょくちょく精霊術師の姿を見るようになったんですけど・・・あれって先輩が関わってるんですか?」


精霊術師が協会内で見かけられるようになった。おそらく協会内における精霊術師に対する差別意識が少なからず改善されている結果なのだろう。


まだその数は少ないのかもしれないが、今後精霊術師が当たり前に協会内に顔を出すこともできるようになるかもわからない。


「関わっているかどうかはさておき発端であるのは間違いないな。精霊術師との関係性の向上は協会の課題でもあったし」


「精霊術師なんて別にいいんじゃないですか?改善したって役に立ちます?」


一般的な魔術師の感性をしている船越からすれば、精霊術師の実力がそこまで高いとは思えないのだろう。


だが倉敷という仲間がいる康太と文からすれば、その言葉は明らかに的外れなものであるといわざるを得なかった。


「まぁ、一般的な精霊術師たちはそこまでの実力はもっていないだろうな。でも時々えげつない能力を持ってるやつがいるんだよ」


「そういう人を発掘するのも必要なことだし、それに精霊術師は魔術師に比べて数が多いわ。人員の確保っていう意味でも関係を改善しておいて損はないのよ。その分いろいろと問題も生まれるでしょうけど、その問題すら発生しない状態よりはマシよ」


全ての素質を持ち合わせている魔術師に対して、素質のいずれかが欠損した精霊術師の数はそれなりに多い。


そういった人員を今後確保していき、協会の人間として活用していくことができれば、さらに協会としては使える人員が増えることになる。


さらに言えば協会の所有する術式を提供することで、精霊術師たち一人一人の実力向上にもつながる。

今のままを続けるよりはよほど建設的な内容といえるだろう。


無論文の言ったように問題は多く発生するだろう。だがこれも文が言ったように、問題が発生すらしないような関係よりはずっと良いのだ。


精霊術師との関係改善を課題にしていた協会の上層部、特に支部長からすればこの始まりは望んでいたものといえる。


その方法としてはあまり正しくないものなのかもしれないが、こういう始まりこそが一番重要なのだ。多少強引でもこのような方法をとれたのは僥倖というべきだろう。


「お前ら何やってるんだ?後輩いじめか?」


そんな話をしているときにやってきたのは噂の精霊術師倉敷だった。


康太と文が話しているのを見つけたら、見慣れない一年生らしき人物と話をしているのを見て気になってやってきたのだ。


普段康太と文が話をしているときに第三者が入ってくることは基本ないために、もしかしたらいじめの現場かと少し焦ったというのもある。


「お、倉敷ちょうどいいところに。船越君、こいつがさっき言ったえげつない実力を持った精霊術師だ」


「・・・この人が?」


「え?いきなりなんだよ。俺の話してたのか?」


「お前の話っていうか、精霊術師の話をしてたんだよ。あぁそういえば紹介してなかったな。こいつ一年生魔術師の船越君。船越君、こいつはさっき話題に出たえげつない精霊術師倉敷だ」


「えげつない魔術師にえげつない精霊術師とか言われたくないわ。つーかなんで精霊術師の話になってるんだ?」


話についていけない倉敷はこの場で一番話が通じそうな文に話を振る。話を端折りまくる康太と、話したことすらない一年生にはさまれれば、文に助け舟を求めてしまうのも無理のない話だろう。


「船越君が協会で活動してて、精霊術師を少し見かけるようになったからそういう話になったのよ。この前のこいつの一件で精霊術師との関係改善が話題に上がってね。それであんたの話もしたわけ」


「あぁそういうことか。てか八篠、お前酷い書かれようだったぞ。あれいいのか?」


どうやら倉敷も支部長からの非難声明を見たらしい。酷い書かれようといわれても康太自身はその非難声明を見ていないのだ。


見る必要というか、見る理由がないため、ほとんど言伝でしかその内容を知らないのである。


「そこまで酷いのか?一回俺も見てみようかな」


「見てねえのかよ!非難声明の意味皆無じゃねえか。っていうか、いいのかよあれ」


「別に?ていうかむしろ俺が支部長に出せっていったものだからな。内容はさておき非難声明文自体は気にしないぞ」


「・・・何やったのかは知らないけど・・・あの被害者の精霊術師にそんなひどいことしたのか?」


同じ精霊術師である倉敷からすれば気になるところはそこのようだった。


精霊術師である倉敷としては、いくら精霊術師である自分に良くしてくれるといっても、康太は魔術師だ。


やはり何かがあれば精霊術師である自分にもそのような非道な行為をするのではないかと、心の隅で考えてしまうのだ。


康太がそういうことをするタイプではないと倉敷も理解はしているが、長年の精霊術師としての経験がそういったことを考えさせてしまうのである。


「俺がやったのは意識が戻らない精霊術師の記憶を読んだってだけだよ。ついでに治療をしてもらった。それだけ」


「・・・拷問とかしてないのか?」


「意識のない相手に拷問してどうするんだよ。そんなことしてないっての。ってかお前勘違いしてるけどさ、俺別に拷問が好きなわけじゃないからな?」


「・・・え?」


「・・・お前とは一度しっかり話し合わないといけないみたいだよなぁ倉敷君?」


康太は別に拷問が好きなわけではない。奏に拷問の技術を教わりはしたが、それはあくまで情報収集に必要だから覚えただけの話だ。


康太がアリスのように記憶を読む魔術を覚えていたらそもそも拷問なんて真似はしないだろう。


相手の記憶を視覚的に見ることのできる魔術は、康太とは相性的に良いのだが、問題はその術式を誰から教わるか、誰で練習するかという点になる。


さすがにかなり重要度の高い魔術であるためになかなか簡単に教えてはもらえないだろうと康太は考えていた。


「実際康太は必要な情報を集める時しか拷問はしないしね・・・いいんじゃない?必要な手段であればそれをするってだけなんだし。協会だって似たようなことはしてるわよ。康太みたいに外傷だけで済むのはましなほうでしょ」


「そうなのか?」


「魔術や薬物で情報を収集すれば少なからず後遺症は残る。康太のそれもある程度傷は残るかもしれないけど、運動機能に支障を与えるようなことは・・・まぁ戦闘の時にはしてるか・・・」


康太の場合、殺さないように拷問の時だけは比較的痛みだけを与えられる行為に限っている。


そのため腕や足を切断するようなことはしないため、拷問で運動機能を損なうような行為はしない。


戦闘時は相手の手や足を斬り落とすくらいのことは平気でするが、戦闘の時は仕方がないとあきらめてもらうほかない。


「とにかく、こいつは必要だからやってるだけよ。別に好きじゃない・・・好きじゃないわよね?」


「文さんまでなんで自信が持てないんですかね。勘弁してくれよ、拷問とか好きじゃないから。別に血とか相手の悲鳴とか好きでも何でもないから」


「えー・・・それにしては喜々としてやってないか?」


「やってない。俺は普通の男子高校生なんだよ。拷問とか好きでも何でもないんだよ」


普通の男子高校生であるという点に関してはその場にいる全員が否定したいところだが、これ以上康太を追い詰めると何をするかわからないため口には出さなかった。


魔術師にも精霊術師にもそれなりの良心があったというべきだろうか。


日曜日なので二回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

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