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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
二十八話「対話をするもの、行使するもの」

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今はまだわからなくとも

「やめろビー、わざわざ争い事を増やす必要もなかろう」


「・・・それもそうだな。それでは失礼します、彼らの治療をよろしくお願いしますね」


康太は杖を軽く払うと精霊術師たちが寝ている部屋から退出する。康太たちがいなくなるのを確認すると、魔術師はその場に崩れるように膝をついた。


「お前にしては珍しく突っかかったな。思うところでもあったか?」


「んー?まぁ今回は自分が悪いことをしてるって自覚はあるからな。多少ヒール役を演じてみたって感じ?特に支部長が俺をちゃんと非難できるように印象付けたかったっていうのが大きいかな」


今回康太がこういった非人道的な行動をとったことによって、支部長は康太を公然と非難することができる。


そして精霊術師のために、支部の中で危険人物扱いされている康太を非難したという事実を理由に、支部長、ひいては協会そのもののに対する精霊術師たちの印象改善を図るというのが今回の行動の副産物でもある。


一番の目的はもちろん情報を得るためだが、それ以外にもいくつも得られるものがあるというのは大きい。


特に今後精霊術師との連携は必須になってくると康太は考えていた。倉敷のように魔術師よりも強い精霊術師を活発にさせることで、その認識を周囲に与え、常識のようにすることもできるだろう。


「なかなかどうして、お前もいろいろと考えているのだの。そんなことまで考える必要があるとも思えんが」


「早いところ情報が欲しかったっていうのも理由の一つだぞ?一石二鳥でいいじゃんか」


「それでビーの評判が下がるわけだが」


「今更だよ。明らかに恐ろしい奴扱いされてるんだから悪評の一つや二つが増えたところで差し支えない」


もともと康太の印象が協会内であまり良くないということもあって、今回はこういうことができた。


これでこれを実行したのが文などであれば信じられなかったかもしれないが、康太がこれをやったということでその噂はすぐに広まるだろう。


支部長が康太に対する非難声明でも出せばさらに確実なものになる。


「ビーよ、あまり敵を作りすぎるなよ?お前の師匠のようになっても知らんぞ?」


「大丈夫だよ、師匠と違ってちゃんとそれなりに味方は作ってるから。敵だらけって状況にはならん・・・と思う」


「自信がないあたりが何とも言えんな・・・お前ももう少しまともな魔術師になればよかったものを」


「師匠の弟子って時点で俺にまともな魔術師としての可能性はほとんどなかったよ。そういう意味じゃ必然だな」


「お前の兄弟子を見習え。あ奴はまともな魔術師として行動しているだろうに」


「姉さんはそれだけ頑張ったんだよ。俺までそんな風にはなれなかったってだけ。シノには姉さんみたいないい魔術師になってもらう」


「反面教師か・・・そうなれるとよいがの」


康太と違って神加は素質面では非常に優秀だ。そして周りの育成体制とでもいえばいいか、神加には多くを教えてくれる存在がいる。


きっと康太の反省を元に、神加はまともな魔術師になってくれるだろう。


そういう意味では康太も周りにたくさんいろんなことを教えてくれる人間がいたのだが、そのあたりはご愛嬌というものである。


「必要とあらばシノの面倒ごとは全部俺が始末をつける勢いだよ。そうすればあいつは真っ当な道に行ける」


「修羅の道だの。いったい何人の魔術師を葬り去ることになるのか」


「さぁな。俺の身内に手を出した瞬間がそいつの最期だ。それは決定事項だよ」


「・・・そうか」


康太の言葉に対してアリスは少し思うところがあった。


復讐。


康太が今目的にしているそれを、アリスは否定することができずにいた。無論、長く生きているアリスからすればそれが無意味であることは理解している。


だがそれはあくまで客観的に見た場合の話だ。アリスだって幸彦の死に対して何も感じていないわけではない。


単純に、幸彦の行動に報いてやりたいとは思う。幸彦を殺した相手のことを恨んでいないといえばうそになる。


だがそれでも、康太がその復讐をなすということに納得はできていなかった。


こんな若い魔術師がそのようなことを決める。その事実こそがアリスの心配の一つだった。


康太の体の中にいるデビットがそうさせているのか、それとも康太自身の意思なのか、アリスには判断ができない。


「ビー、一つアドバイスをしておくぞ」


「なんだ?」


「・・・世の中に偶然というものはない。ありとあらゆるものが必然的にそうなるものだ」


「なんだいきなり。どういうことだ?」


「今はわからなくとも覚えておけ。そうなった時、それは必ず意味がある。必ず理由がある。そういうことだ」


決して忘れるなよとアリスは付け足して康太を睨む。


一体どういう意味なのかは分からなかったが、康太はとりあえずアリスの言葉を強く記憶した。


いずれわかるという、その時が来るまで。


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