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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
五話「修業と連休のさなかに」
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悪酔い

康太が風呂から上がると、リビングに当たる一階の光景は一変していた。


先程まで夕食が並んでいたテーブルの上には酒が並び、恐らく近くのコンビニで買ってきたのだろうつまみの類が散乱している。


そしてその酒を飲みながらつまみをむさぼっている小百合と恐らくはそれに付き合わされたのだろう真理がテーブルに突っ伏していた。


「・・・なんなのこれは」


「あ、ようやく来た・・・何とかしてよあれ・・・あんたの所の師匠酔って手が付けられないのよ・・・真理さんも止めようとしたけど・・・」


時間は少し遡り康太が風呂から上がる少し前、小百合はせっかく別荘に来ているのだから酒でも飲もうかという気分になったのだ。


幸いにして食材を購入した時に幾つか酒を用意してきている。ついでに購入したつまみ類なども出して軽く酒盛りをすることにしたのだ。


明日商談を控えているという事もあってそこまで深酒をするつもりもなかったのだがこの時に酒を飲もうとしたのがいけなかった。


小百合はもともと酒はそこまで強くないのだ。いや正確に言えば酔いが回る代わりに延々と飲み続けるタイプなのである。


それを止めようとした真理は小百合に強引に酒を飲まされダウン、止めようとすれば飲まされるという状況から小百合を止めるものはいなくなってしまったのだ。


「姉さんで止められないなら俺にだって止められないって。そもそもなんで酒飲んでんだよあの人」


「なんかご飯食べたはいいけどこのまま眠る気にはならないって・・・さすがにあれは」


「おいお前ら、何コソコソ話している。どうせならこっちで話せ」


目を付けられ話しかけられた瞬間康太と文は身を強張らせる。


やばい、巻き込まれる。


小百合の酔った時のことなど知らないが康太と文のあってないような第六感は今この状況が危険であると警鐘を鳴らしていた。


そしてその予感は概ね正しい。


「え・・・えっと、俺らは酒は飲めないんで・・・その」


「別に飲めとは言っていない、ほら座れ」


「そ・・・その・・・真理さんを介抱したほうがいいかなって・・・思ったり」


「こいつはそんな軟なやつじゃない、いいから座れ」


拒否権が与えられていない。そう気づくのに時間はかからなかった。むしろこの場で無理に逃げ出したりこれ以上拒否しようものなら更に面倒なことになりかねない。


康太と文は互いに視線を交わし、もはや逃げられないという事を悟り小百合に促されるままに席に着く。


互いに何とかして逃げたい、あるいはこの状況を何とか潜り抜けたいと考えてはいるものの、目の前にいるのは魔術師デブリス・クラリスだ。酔っているとはいえ未熟な自分たちが何とかできるとは思えなかった。


「まったく、そこまで警戒する必要もないだろうが。相変わらずお前らは失礼な奴だ」


「いやその・・・師匠が酔ってるところって初めて見たんで、ちょっと萎縮してます」


康太の言葉に文は同意の意志を示すべく何度も頷いている。康太は小百合が酔ったところを見るのは初めてだ。


絡み酒になるのかそれともただ単に楽しく酒を飲むのかまだ全く分からない。先程真理が止めようとして無理矢理酒を飲まされたという事は絡み酒に近いのだろうか。どちらにしろこの状態の小百合の近くにいていい予感は全くしない。


「大したことはない、酔ってると言ってもほんの少しだ・・・そもそも私はそこまで酒に弱いというわけではないぞ?」


「へぇ・・・そうなんですか・・・」


「それはすごいですね・・・」


康太と文は同時に近くでダウンしている真理の方に視線を向ける。ほんの少し酔っているだけの人間が無理矢理他人に酒を飲ませるようなことをするだろうか。


まだ康太たちが学生という事もあって自粛してくれているようだがその均衡がいつ崩れるかもわかったものではない。可能な限り早くこの場から離脱したかった。


「お前達がこうして並んでいるとはな・・・何でこんなことになったんだか」


「えっと・・・なんか問題でもある感じですか?」


「お前達が仲がいいことは何も問題はない・・・むしろ問題はエアリスの方だ・・・あいつが妙なことを思いついたせいでこんなことになっているんだまったく・・・」


妙なこと


それは康太と文は知らないことだが、文の師匠であるエアリスは文の教育の一環として康太と戦わせて魔術師としてまだ必要なものがあると気づかせた。それで話しが済めばよかったのだが文はどういうわけか小百合の弟子である康太と交流を持ってしまったのだ。


師匠同士が犬猿の仲であるというのに弟子同士が仲良くなってしまっているというこの事実、小百合としては若干不満な点もあるのだろう。


一度認めてしまったからには今さらその関係を止めるというつもりはないようだがそれでも腑に落ちないところはあるらしい。


「エアリスさんってそんなに変な人なんですか?何度かお世話になりましたけどいい人でしたよ?」


「お前はあいつの本性を知らないからそんなことが言えるんだ・・・あいつは嫌なやつだぞ?少なくとも私より数倍嫌なやつだ」


小百合よりも数倍嫌なやつという表現は非常にわかりにくく、同時にわかりやすい。


つまり本性は小百合よりもひどいという事だ。これが彼女の過大評価でない限りエアリスは康太たちに対しては非常に穏やかに接してくれているという事だろう。


「これもいい機会だ。あいつがどんなことをやってきたかお前らに教えてやろう」


「え?」


「・・・げ・・・」


この瞬間この話題を振ったことを康太は後悔していた。そしてその後小百合が酔いつぶれるまでの数時間にわたり小百合のエアリスに対する愚痴が続くことになる。


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