破壊し破壊する
康太が噴出の魔術とウィルの翼を使って高速移動する中、倉敷は空中に水の道を作り、サニーを抱えた状態で滑走していた。
精霊術師でありながら、水を扱う術師でありながら空を飛ぶ。いや、飛んでいるわけではないが、多少重量が増えてもお構いなしに滑走できるその出力。馬鹿にできるものではないなとサニーは倉敷の評価を改めていた。
康太と行動を共にしているだけはあるのだなと考えながら、先行している康太の方に目を向ける。
「ねぇ!ブライトビーはどうするつもりなのかしら!?道を作るって言ってたけど!」
「さあ!?俺もあいつの行動を全部読めるわけじゃありませんから!でもたいていろくな手段じゃないですよ!たぶん派手にぶっ壊すんじゃないですか!?」
ここにいたのが文であれば康太の行動を読むこともできただろう。康太の攻撃手段のほとんどを把握し、ほとんどの行動基準を理解している文ならば先を読んで康太のフォローをしていたかもしれない。
だがこの場に文はいない。倉敷は康太がいったいどのような手段をとるのかは理解できなかったが、何となくわかっていた。
あの康太が道を作るといったのだ。倉敷が口にしたように、ろくでもない手段で作られた、荒れ果てた道なのだろう。
「あいつの動きに合わせて突っ込みます!舌噛まないでくださいよ!」
「わかってる!お願い!」
サニーの叫びが倉敷の耳に届いた瞬間、康太の体から何かが射出される。
暗くて見えにくいが、それはわずかに炎を噴出させて目的の建物へと向かって行く。
「始めたな・・・何する気だ?」
射出された物体の数は四つ。誘導されるかのように建物へと向かって行くそれが建物に着弾した瞬間、衝撃とともに建物の一部が大きく破壊される。
二階部分に三発、一階部分に一発、それぞれ建物の屋根や壁を強力な衝撃で破壊し、建物の外観を大きく変えていた。
「あぁやった・・・いつも以上にやったな・・・行きます!」
康太は穴をあけた段階ですでに突っ込んでいる。倉敷は空いた穴の位置を確認し、その場所めがけて一気に滑走していく。
「中に敵がいたら俺が押し流します。フォロー頼みます!」
「任せて!牽制はする!」
倉敷とサニーが突っ込んだ二階の建物の一部屋の中には、魔術師が一人、今まさに魔術師装束を着ようとしているところだった。
完全に不意を突いた。倉敷はここが攻撃のチャンスだと考え、滑走した状態のまま魔術師めがけてボードを叩きつける。
苦悶の声が聞こえた瞬間、倉敷は水を操って魔術師の喉の奥まで水で満たしていき、強制的に気絶させる。
「あと三人、一気に行きますよ」
「ちょっと待って、相手の動きを確認したほうが」
「それより早くあと一人は削りたいです、二階にいるのはあと三人、徒党を組まれるよりも先に倒さないと!」
倉敷は建物の構造と人数の配置を思い出し、即座に行動を開始する。魔力の消費を一時的にでも度外視し、大量の水を作り出して建物の中、そして外から二階部分に一気に水を流していく。
「いた!階段近くの部屋に二人!もう片方の部屋に一人!」
流し込んだ水の中に取り込んだ魔術師の存在を疑似的に把握しながら、倉敷はそれらの魔術師を気絶させようとする。
だが一人の魔術師はとっさに倉敷の水を蒸発させ、脱出していた。
とっさの対応でありながらも、自分の体が火傷を負うことを厭わない行動に、倉敷はその魔術師が戦闘経験が豊富なタイプであると判断し気を引き締める。
「一人抜けられました!こっち来ます!」
「り、了解!撃ち抜く!」
サニーも自前の索敵で相手の位置を確認すると、黒い球体のようなものを大量に作りだした。
その球体は建物の外、あるいは扉の方へと飛翔していき、建物を迂回しながら水から脱出したばかりの魔術師めがけて襲い掛かる。
細かいルートの形成が可能な射撃系魔術。扱いはその分単純な射撃魔術よりも難しいだろう。だがサニーは当たり前のように操ることができていた。
「着弾の瞬間に水を退けて!そうすれば威力はある程度出る!」
「了解!ちなみにどれくらいの威力です?」
「体感だと、思い切り殴られたくらい!」
「オッケー!障壁が出たら俺が水で囲みます!隙見て射撃お願いします!」
壁や建物そのものを利用しての屋内戦。倉敷のように水を自由自在に操れる術師と、威力は低くとも複雑な射撃を得意とするサニーの相性は良かった。
索敵で姿を確認できていても、建物が邪魔になって攻撃ができない魔術師は一時的にとはいえ防戦一方になってしまう。
だが相手もこのままやられるつもりはないようだった。自分と倉敷達がいる場所を把握し、その一直線上で邪魔になっている壁を、念動力を使って強引に崩す。康太の攻撃で壁も脆くなっていたのだろう、壁は容易に崩れ、倉敷達は互いの姿を視認することができていた。
「あぁ、そうくると思ったよ」
倉敷の声が聞こえた瞬間、倉敷の体の近くから強力な圧力をかけられた水が襲い掛かる。
水圧カッターの術を放たれた魔術師はとっさに障壁を発動し、正面からの水圧カッターを防ぐも、倉敷が放った水の奔流は一つではなかった。
建物を大きく迂回し建物の外へといったん出てから威力をそのままに、建物の瓦礫などを取り込んだ水の龍が真横から魔術師を捕え、押し流す。
取り込んだ瓦礫に体を打ち付けられ、さらに水に押し流されて壁に勢い良く叩きつけられた魔術師はそのまま意識を喪失した。
「よし、二階にいた四人制圧終了。下の手伝いに行きましょう」
「・・・あっという間に終わったわね・・・っていうかすごいわねあなた。本当に精霊術師?」
「褒められてるって思っていいですよね?あいつらと一緒にいると自然とこうなるんですよ。さっさと下を手伝わないと・・って妙に静かだな・・・?」
倉敷達が戦闘を行った時間は一分から二分程度だ。派手な攻撃を連発したとはいえこれほどの時間で康太が一階にいる十人を殲滅できるとは思えなかった。
「サニーさん、下の様子どうなってます?」
「えっと、ちょっと待ってね・・・うわ・・・」
「・・・その反応でわかりました、行きましょう」
倉敷は足早に一階部分に向かうと、そこはまさしく地獄絵図となっていた。
廊下や部屋の中に飛び散った血痕、そして倒れこみ、苦痛にうめいている魔術師たち。中には腕や足を斬り落とされたり、へし折られたりしている者もいる。
あまりの痛みにもう動けないようだが、意識は保てているようだ。いや、意識を喪失できなかったのはある意味不幸だったのかもしれない。苦痛に対して脳が刺激され続けているのだから。
「酷い有様ね・・・」
「急ぎの仕事って感じ・・・ほとんど放置してるじゃんか・・・あいつもだいぶ荒っぽくしたなぁ・・・」
そんなことを倉敷とサニーが話していると、建物の壁が粉砕されて一人の魔術師が吹き飛ばされてくる。
そして粉砕された壁を通って鎧姿の魔術師、康太が現れた。
「おぉ、なんだトゥトゥ、早かったな」
「こっちのセリフだっての。なに、十人近くいたのに瞬殺したのかよ」
「ほとんど不意打ちしたからな。あけた穴の反対側から突入したからほとんどの人間がそっちに意識向けてて助かったよ」
どうやら康太は倉敷達とは違い、大きく空いた穴の反対側から突入したようだった。衝撃によって大きく空いた穴が全員の目を集中させているその瞬間に、康太は襲い掛かったのだ。
槍で、剣で、拳で。その場にいたほとんどの魔術師を叩き伏せ、ほとんど反撃も許さずに全滅させた。
本当にこいつは恐ろしいなと倉敷があきれる中、康太は近くでうめいている魔術師を見てため息をつく。
「ただ急いで倒したから詰めが甘くてな。トゥトゥ、悪いけど全員ちゃんと気絶させてくれるか?」
「了解。止血はどうすんだ?」
「焼く。死なれるとさすがに困るからな。こいつらにも情報は吐いてもらわないと」
そういって康太は腕や足を斬り落とした魔術師たちのもとに向かって傷口を焼いて強引に止血していく。
そのたびに建物中に悲鳴が響くが、康太は何も思っていないのかてきぱきと止血していっていた。
「倒した数は・・・十人・・・上の四人を合わせて十四人、あとは地下に一人か」
「そうだな。さっさと終わらせて外の四人と合流したいな。急げば援護くらいはできるかもだし」
土御門の予知によって外の四人も多少の戦闘を行うことはわかっている。そのため早いうちにここを片づけて外の援護に向かいたかった。
だがこの状況を見てサニーはわずかに顔をしかめていた。
ここまでする必要があるのだろうかと、そう思ってしまったのだ。
「あの・・・ブライトビー・・・ちょっといい?」
「話なら後にしてくれますか?今は時間が惜しいんです。わかりますよね?」
今は戦闘中、余計な無駄話をしている余裕はない。康太の反論を許さない物言いにサニーは従うほかなかった。
実際康太は相手を可能な限り生かした状態で無力化している。皆殺しにはしていないだけまだ情があると思うべきだろうか。
今は議論をするべきではないとサニーは自分に言い聞かせ、この惨状を見て見ぬふりすることにした。
「地下の構造は・・・調べてもらった通りだな。トゥトゥ、水攻めで行こう」
「そうくると思ったよ。ちょっと待ってろ」
倉敷は先ほど発生させた大量の水を操って一気に地下へと流し込んでいく。地下の空間がどの程度かは大まかにしか把握できていないが、大量の水で埋め尽くすのにそこまで時間は必要なかった。
「魔術師一人撃破、水でおぼれてるよ」
「精霊術師たちは?感知できたか?」
「部屋の一角にいるっぽいからそこは水に浸さないようにしてる。そこに紛れてる可能性もあるから気を抜くなよ?」
「わかってるよ。もし攻撃してきたら即行で気絶させる。それじゃあ水抜き頼む」
「へいへい。人使いの荒い奴だな」
「いつものことだろ?頼むよ」
倉敷はわかったわかったとあきれながらそういうと、地下に大量に入れた水を操って地上に出していく。
その時一緒に窒息させた魔術師も一緒に地上へと搬出していた。完全におぼれているらしく、ピクリとも動かない。
相手が地下にいる場合はこうやって倒す事ができるのが楽でいいなと、康太は水のなくなった地下を覗き込む。
日曜日なので二回分投稿
これからもお楽しみいただければ幸いです




